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コ・デザイン:未来デザインのマインドセット・メソッド・テクニック[後編]

コ・デザイン:

未来デザインのマインドセット・メソッド・テクニック

前回に引き続き、リズ・サンダース氏による「コ・デザイン:未来デザインのマインドセット・メソッド・テクニック」の後編として、病院におけるコ・デザインの実際の事例と、Q&Aをレポートいたします。


Part.2

リズ・サンダースさんの講演(後編)

2014年12月17日(水)於インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター


病院の理想型を考える

今、申し上げた、作る、伝える、やってみせる、というモデルですが、これをさまざまなデザインのプロセスにあてはめていきます。そのようなプロジェクトの例をお話しします。

こちらはバックは標的といいますか、アーチェリーの的のような形になっています。その上に8年後に作られる病院の、一番、理想的なエクスペリアンスはどういうものか、ということが描かれています。

この真ん中にあるのは10種類の職種の15人が、これが一番病院のエクスペリアンスとして重要である、と合意したもので、的の外側にいくほど合意度が低くなっています。

というわけで、このグループは、ものを作る段階を経て、それがどういうことを意味するのか、を伝えることをやっています。


理想の病室を皆で考える

こちらにいるのは3名の看護師です。8年後に作られる病院の病室の理想的な姿は何か、それを考えるよう依頼されています。彼らにはフローをデザイン、つまり、情報のフロー、人のフロー、もののフローをデザインしてもらうように頼みました。

説明しやすいように言葉のリストをシールにして渡してありました。けれども、さすがに病院のプロだけあって、そういった説明なしに、仕事の流れを理解していました。言葉のシールを使わないで最終的にこういうものができあがりました。いろいろなアイデアがでました。いろいろなインスピレーションあふれる意見がでて、それらが建築チームにとって大きな糧となりました。


異なるニーズを引き出す

病院に関するプロジェクトはたくさんあります。私は実際に、建築会社の内部に入り、6年間に渡って、建築プロジェクトのコ・デザインのお手伝いをしていました。

こちらは、かつて心臓病を患っていた元患者に、どういった病室が理想的かを考えてもらうプロジェクトでした。最初から何をデザインするかがわかった状態でのコ・クリエーションでした。新しい病室を作ることになったのですが、今、病室に置かれていないものを持ち込んでよい形でのコ・クリエーションのプロジェクトでした。

このプロジェクトにおいては、患者、患者の家族、看護師、医師、その他の病院職員が、それぞれ別のグループで、同じマテリアルを使って意見を出し合いました。それぞれの職種で異なるニーズがあると踏まえてのことです。


マジックテープのアイテム

こちらは3Dのツールキットの一部です。これらの多くはマジックテープ状の表面で作られているので、ささっと組み立ててプロトタイプを作り、こういうのがあったら理想だな、というのを作って見せることができます。

この女性は第2型の糖尿病を持っている女性です。2分で糖尿病を管理するデバイスを作りました。彼女はこれをどのように使って、どう役立てるのか、延々20分以上説明してくれました。

これは、暗黙知を引き出す、とてもパワフルなツールになります。マジックテープのような表面のアイテムはいろいろな使い方ができます。

先程はデバイスのプロトタイプを作ってくれましたが、こちらのチームは抽象的な組織論の概念モデルを、同じくマジックテープのアイテムで作ってくれました。

というわけで、このマジックテープのツールは、個人のクリエイティビティも、集団のクリエイティビティも放つことができるのです。


3Dツール

こちらも3Dのさまざまなマテリアルです。先程あったマジックテープに加えて、ブロックやドールハウスの家具のようなものが一緒になっています。これは、未来の環境についてプロジェクトが進められている図です。

ブロックや人形というのは、フロントエンドのプロセスを探索するのにとても役立ちます。ただし、病室について調べているときには、病室ならではのアイテムを含んだ特別のツールキットを用意しました。人形、トイレ、シンクもあるのですが、その他多くのピースは取りようによっては何にでも取れるような形になっています。なぜ、どうとでもとれる形態がたくさん入っているかというと、それを看護師さんに自由に見立ててほしかったからです。


こちらの3人の看護師さんは、普段、違う病棟で働いている看護師さんですが、やってきて初めて作業に取りかかって、約12分でこれをコ・クリエイトしてくれました。

複数のチームにやってもらったのですが、いくつかの看護師チームから、「ナースステーションがひどい状態なので、それを見直して再設計するのはどうでしょうか」という声がでてきました。

このようなときに、いろいろなものに見立てられる形態が役に立つのです。当初、私たちは、この長方形のものは患者のベッドのつもりで用意しましたが、彼女たちは、大きな作業台に見立てました。先程とまったく同じツールキットを使って、ナースステーションの見直し作業もできたわけです。


分野横断的な作業

こちらは、分野横断的なチームが分野横断的な作業をするということを学んだ、その状態を示しているブロックの並びです。最初は、それぞれの領域にいたのですが、そこからでてきて一緒になって同じものを作りました。また、両脇に山のようになっているのは、その結果、無駄でいらなくなったものです。また、この角のないテーブルを使っていることで、皆が同時進行で作業することができます。

体を動かす

こちらの写真は、ダンディ大学で教鞭をとっている人から送ってもらったものです。彼らは大学の学部の戦略的プランを、長い廊下にマップを作ることで考えています。体を動かしていると、クリエイティビティが喚起される、また、参加精神が喚起されることをうまく活用して、こういう作業にとりかかっています。将来について話をするときには、廊下の端まで歩いていって、そこに立ったまま、未来の時系列について話をするというわけです。

コ・クリエーションの環境

今、私が取りかかっているのは、コレクティブ・クリエイティビティを喚起するためのコ・クリエーションの環境作りです。まず、最初に縮小寸で自分たちのクリエイティブ・スペースを作ってもらいます。こちらが彼らが作ったクリエイティブ・スペースの中の様子です。このツールもいろいろなものに見えるものをパーツとして取り込んでいます。

フルスケールでやってもらうこともあります。この部屋のような所に集まって、部屋の端と端で、それぞれがクリエイティブな作業空間を作ってもらうというやり方です。

第一段階として、クリエイティビティを発揮するための空間について、お互いにアイデアを共有します。そうすることでクリエイティビティに対する考え方やスタイルをお互いに理解するわけです。

空の部屋に入ってもらいますが、それとは別に廊下に椅子やテーブルなどの家具、布、ラップなどいろいろなアイテムとして使えるようなものが用意されています。

その後、5人から7人くらいの男性チームと女性チーム、2チームそれぞれのグループに空間を作ってもらいました。女性ばかりのチームが一番重要視したのは雰囲気作り。男性ばかりのチームはテクノロジーに軸足が置かれていました。

実際にスペースを作った後、そのスペースの中で仕事をしてもらいました。作られた空間が、実際にうまく作られていたかどうかの報告をしてもらったのです。

伝える

伝えるということに関しても、段階によって大きく変わってきます。最初の段階ですと、何を作っているのか、何が必要かという説明的なことを伝えなければいけませんし、真ん中の段階ですと、それを提示するという意味での、伝えるという行為かもしれません。終盤に入ってきますと、自分が作ったものを売り込む、という意味での伝え方になることもあるでしょう。

伝えるということですが、その形の1つとしてはワークブック的な書き込み式のものが考えられます。もしくは、オープンエンド方式の調査票で、そこに小さなメイクキットが付いているようなもの。これも伝えることに使われます。

さまざまな作業の中でも、伝えてもらう、ということから始めることが多いです。というのも、対象者がもっとも慣れているやり方であることも理由の1つです。

それから伝えるというのは、何かものを作ってもらった後にお願いすることもよくあります。作ったものを一見してすぐにわかることが少なくて、抽象的な表現となっているため、説明してもらわないとわからないことがあるからです。


演じて合意する

こちらは、別の病院の例です。建築家チームと病院職員が病院の未来のビジョンを作り、それを文章に表しました。作ると伝えるという部分はできあがったのですが、できたのを読み上げるのではなく、演じるという形で表現することになりました。

このセッションは、10年続く病院建築プロジェクトの冒頭の部分でもたれました。あらゆるステークホルダーが一同に集まり、このような病院エクスペリエンスを提供することがこのプロジェクトの狙いなのだ、と合意を形成することができました。


人形で演じる

演じる、やってみせる、という要素が入ったプロジェクトに関しては、やってもらえるかどうかわからないので慎重な時期がありました。人形を使うというと、人形を使うこと自体が楽しいこともありますが、いろいろなことが引き出せます。人形を使うと第3者の参加もうながせます。患者の家族も参加してくれたりしました。

人形は小道具としてとてもパワフルで、夢や恐怖心を語ってもらうときによい手助けになります。それについては文化的背景も作用しているかもしれません。

こちらはスペインで行われたワークショップの様子です。人形もスペインの人形になっています。とてもうまくいきました。このワークショップでは、それぞれの人形にペルソナ、人格設定を行いました。その他に状況設定カードを用意して、それができた段階で、同僚を呼んできて、それぞれのペルソナになりきってもらい、状況に対応するシナリオをプレイアウトしてもらいました。このシナリオは、30分やってもやめないので、やめるようにお願いするほどでした。


コレクティブ・デザイニング

デザインする行為は、過去から脈々と今日まで続いていますが、人のために消費者のためにデザインするという行為でした。しかし、今日ではコ・デザインするという選択肢が生まれています。ユーザーとともにその他のステークホルダーとともにデザインするというやり方です。

コ・デザインの先の未来には、コレクティブ・デザイニング・・・皆で一緒に夢をみる、ということが待っているのではないか。そのとき、デザイナーの仕事はツールやマテリアルを作り、人々がデザインをするお手伝いをするファシリテーター役になっているのではないでしょうか。

Q&A

Q: テクノロジー中心のビジネスモデルでワークショップを行う際、どういうことに配慮すべきでしょうか。

A: まず、ユーザーが探索すべきは、テクノロジーそのものではなくて、エクスペリエンスです。どのような暮らしの中で、どういうふうにそれを使っているか、を軸とすべきです。そういった探索活動をしているところに、テクノロジーのチームに参加してもらい、どのようなエクスペリエンスをすべきかを一緒に考えてもらう。テクノロジーをどのように使って、どのようにエクスペリエンスを作るか、というところに焦点を合わせていくのがよいでしょう。

Q: ファシリテーター役には、どのような人間がよいのか教えてください。

A: まずはよき聞き役に徹することができる人。また、人は皆、クリエイティブで、たくさんよいアイデアを持っている、と心から信じている人がファシリテーターをすべきです。

Q: ワークショップ型の複数参加のやり方とワンオンワンのやり方があるが、どちらを使うべきでしょうか。

A: 理想的には1対1で始めて、その後にグループに移行するのがよいと思います。ただ、1対1はコストがかかる。データを集めても、その分析にコストがかかります。そこで、私は、まずはグループとして招集して、グループ活動をする前に、少しワンオンワン的なことをして、それをグループ内で共有してもらい、その後にグループ活動をしてもらいます。また、状況によっては実際にグループでやったほうが集合的ビジョンを得やすい場合もありますが、いずれにしても個人の声を吸い上げるのは大切なことです。

Q: ナースたちのコラージュがアーキテクトの糧になったとのことですが、具体的にはどう糧になったのですか。

A: たくさんのナースのチームに参加してもらって、それらのデータを全部分析した。建築チームは、たくさんのアイデアがあったが、その重要性の優先順位がわからなかった。最終的には何百というアイデアを抽出してはいたが、その中のトップ10を建築家チームに渡しました。患者サイドからでてきた一番の要望は「天国のようなベッド」でした。そこのところは建築家の手に及ばないことだった、というのはちょっと皮肉なことです。

Q: ワークショップでコ・デザインするときにはハイテンションになるが、その数日後になると、そのときのアイデアにがっかりすることがある。そうならないようにする方法はありますか。

A: 小さなワークショップをインタラクティブ型で何回も開催しながら、その中で慣らしていって、現実的に折り合いのつく成果物をだしていくのはどうでしょうか。そのようなやり方をすると、現実を加味した成果物が得られると思います。それから、空間作りをしてみてください。インスピレーションを喚起する場を作って、インスピレーションが枯れてきたときに、そこに入るようにするという手もあります。

Q: 医師などのスペシャリストに参加してもらうときのアドバイスをお願いします。

A: 1つの方法はセッションで一緒に動いてもらうこと。ただ、同じ言葉で、意思疎通してもらわなければなりません。エクスペリエンスの語彙で、エクスペリエンスのことを話してもらうのです。そうするとワークショップの雰囲気がガラッと変わる。後々、専門職としての意見を聞けばよいのです。

Q: 100のアイデアから10に絞るという話があったが、投票をするのでしょうか。

A: それぞれのグループで投票して、一番のアイデアを決めてもらうことが多い。また、私たちは、すべてのセッションの映像、音声を記録し、それらを元に分析して、会話の流れなどのプロトコルを追跡しています。それに関係者から、アイデアが新しいか陳腐であるか、などの意見を聞きます。

(文責:編集部)


関連リンク:

MakeTools社
https://maketools.com


GUEST PROFILE

リズ・サンダース Elizabeth B.N. Sanders

オハイオ州立大学デザイン学部准教授・Make Tools 社 社長
オハイオ州立大学で心理学の博士号を取得。共創やイノベーションにフォーカスしたデザインリサーチ分野の世界的第一人者として長年コ・デザインの研究・実践を行い、数多くの手法・技術・ツールをデザイン界とアカデミアに紹介。Apple, GE, P&G, Coca Cola など多くのリーディングカンパニーのコンサルも手掛ける。著書には「Convivial Toolbox」がある。


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