《ブルーエコノミー》という人類のイノベーション
2010年にグンター パウリ氏が著書『The Blue Economy』を発表して以来、持続可能な21世紀の経済を実現するコンセプトとして世界の注目を集めてきた「ブルーエコノミー」。いま社会全体がアフターコロナのあるべき世界を模索する中、「ブルーエコノミー」は、真に持続可能なビジネスを構築する上で避けることのできない、重要な考え方を私たちに与えてくれます。
DMNでは、2010年11月にグンター パウリ氏ご本人をゲストにお迎えして、「ブルーエコノミー」という概念と、世界の先駆的なケースを紹介していただくDMNスペシャルセミナーを開催しました。
「どのように革新し、富を作り出し、雇用を生み出すのかは自然そのものが教えてくれる。持続可能性は、グリーンに特化した建物や、廃棄に対するリサイクルプログラムなどでは、到底たどりつくことはできない。私たち人間が、経済システムを生態系(エコシステム)の機能と進化に基づいてデザインするときに、はじめて持続可能性に到達する。」と、パウリ氏は説きます。「ブルーはグリーンを超える。なぜならブルービジネスモデルは富や資本に頼らなくても実現できるし、自然の資源に頼ることもない。代わりに、自然の知恵を通してその過程が築かれるのだ。」
この概念を、実現するのは困難な理想主義であると考えるのは、旧来の固定概念にとらわれた見方にすぎないことが、「ブルーエコノミー」の萌芽と成長を示す多様なケースを知れば知るほど、わかってくるでしょう。
「ブルーエコノミー」実現するためのさまざまなケースをつぶさに見ながら、グンター・パウリ氏の熱い想いをぜひ間近に感じていただきたく、このDMNスペシャルセミナーを2回にわたってレポートいたします。環境と経済、テクノロジーと生命活動、デザインと生態系などをバランスさせる21世紀的センスを磨いていただく有意義な機会としてぜひお役立てください。
グンター・パウリ氏が語る《ブルーエコノミー》という人類のイノベーション【前編】
自然界から着想するテクノロジーとビジネスモデル
グンター・パウリ氏が語る
《ブルーエコノミー》という人類のイノベーション
自然界から着想するテクノロジーとビジネスモデル
グンター・パウリ氏The Global ZERI Network創立者・代表者
ブルーエコノミーとは
本日は、ブルーエコノミーについてお話しします。ブルーエコノミーは、成長、幸福、社会資本に関する事柄です。世界のニーズに応えるためには経済を成長させる必要があります。幸福感を醸成できない成長は、成長とは呼べません。我々がすべきことは、自分だけがリッチになることではなく、社会資本の充実を進めることです。それによってコミュニティ、地域社会、国などが恩恵を享受できるようにすべきです。
その際、新しい起業家精神が必要になります。MBAなどは必要ありません。私自身も起業家で、エコファクトリーである「ECOVER(エコベール)」を設立しました。屋根には芝生があり、すべて木造の工場です。1992年にバイオディーゼルを使っていました。社員は自転車通勤しています。ある日、イタリアのテレビ局が会社に取材に来たのですが「こんな場所で自転車通勤しているわけがない」と信じませんでした。朝6時半に、テレビのクルーたちは、物影に隠れて待ち伏せしました。雨の日だったのですが、皆、自転車で通勤していました。テレビクルーが「なぜ、自転車で通勤しているのか」と従業員に尋ねると「お金が出るから」という回答が返ってきました。従業員にメリットを提供すれば、それに応えてくれるわけです。
生産工程全体の見直し
私は、エコベールという洗剤を作り、有名メーカーと競合するようなビジネスモデルを作りあげていますが、広告は出していません。エコベールは、市場にあるスタンダードな製品よりも1000倍ほど生物分解性の高いものです。ところが、1993年にインドネシアに行ったところ、私たちの材料供給者が熱帯雨林を伐採している事実を目にしました。オラウータンの棲息地域を破壊しているのです。エコベールによってヨーロッパの河をきれいにしたつもりでしたが、その代わりにインドネシアの生物の棲息地域を破壊していました。そこで、ビジネスモデルを変更することにしました。
持続可能性
ゼロエミッションが、日本でもスタンダードな考え方になってきていると思います。現在、ゼロエミッションの原則が、ブルーエコノミーという形でリブランディングされているのです。これはすべて「持続可能性」という言葉につきます。持続可能性は、すべての人類の基本的ニーズに応える能力とも言えます。人類だけではなく、それ以外に少なくとも1億の種と共存しており、それらの生物の基本的ニーズにも応えていく必要があります。しかしながら、我々は、とても賢すぎるために、誰も必要としないものを生み出します。原子力廃棄物や海に流出する原油などです。
雇用を生むイノベーション
私は、グリーンエコノミーといわれる業界に30年前から参画しています。残念ながらグリーンエコノミーは補助金、税金に依拠しています。太陽光発電は、人類が月面着陸するために50年前に考えられたイノベーションです。それから、50年経過していますが、市場競争力があるとは言えません。
グリーンエコノミーの世界では商品はより高価になります。つまり、グリーン商品が補助金や税金や消費者の財布に頼っていれば、それが主流になることはありません。私がブルーエコノミーで提唱しているのは、よりよいイノベーションをすることです。イノベーションによって、より多くのキャッシュを生み出せます。それで多くの雇用を生み出し、社会資本を生み出します。そのキーポイントは起業家を刺激することです。このようなことをブルーエコノミーと呼んでいます。宇宙からの地球は青いですし、空も海も青いのです。
重力というエネルギー
質問です。無料で入る、最も存在するエネルギー資源は何でしょうか。太陽ですか。間違いです。重力です。どうして、重力のことは忘れてしまうのでしょう。太陽は一日の半分しか出ていませんが、重力はいつも働いています。例外はありません。重力をエネルギー資源に使うという戦略的イニシアティブが必要だと思います。
持続不可能な消費をやめる
今年1年間で、清涼飲料水など3000億本のボトルが廃棄物になります。本当は600年先まで使えるボトルです。キャップは2000年先まで使えます。それだけの耐用年数があるものを、すぐに捨ててしまうのはおかしいでしょう。もっとよい使い方ができるはずです。
カミソリは男性も女性も使いますが、そのおかげで年間10万トンのチタニウムを廃棄しています。きれいな肌をキープするためですが、あまり賢い方法とは言えません。
今年廃棄されるバッテリーの数は400億個で、その25%が煙を検出する火災報知器に使用されています。このビルにも多くの火災報知器がありますが、半年に1回捨てられています。使い切っているかどうかは関係なく交換されています。
コーヒーが気候変動の原因
コーヒーは、我々が知る限り、もっとも汚染率の高いものです。というのも、コーヒー豆の0.2%を利用して、他の部分は廃棄しているからです。廃棄した部分が腐ってメタンガスを出しますから、気候変動の原因となります。コーヒーを飲むことが気候変動につながるとは、誰も思わないでしょうが、そういうつながりを理解していないこと自体が問題です。紅茶を飲むから大丈夫と思わないでください。紅茶の使用率は0.1%で、コーヒーよりも悪いのです。
ベジタリアンの皆様には動物愛護の点で敬意を表しますが、残念ながら日本で食べているキノコの90%が、オーク材を使うことで作られています。キノコを食べるたびにオーク林を伐採していることになります。我々の消費や生産の仕方が、持続不可能であることを知らないことが問題です。このようなケースはいくらでもあり、何時間でも話せるほどです。
物理学が道となる
我々にはイノベーションが必要です。もっとも注力すべきは、物理学の法則に従ったイノベーションです。重力の法則には例外がありません。私がビジネスを進める際には、精緻に予測可能である物理学をベースにします。化学に依拠する場合はケースによります。化学においては触媒を用いるケースが多いのですが、触媒には毒性が強いものが多くあります。生物学においてはすべてが例外です。生物学のすべては進化を続けているからです。たとえば、タツノオトシゴはひとつの例外ですが、それは男性が子供を産むからです。
ですから、私は物理学をベースにするべきだと思います。私にとってのイノベーションは、複数のキャッシュフローを生み出すものです。新しいものはリスクがあります。リスクを削減するためにも、予測可能であり、より多くのキャッシュを生み出すビジネスモデルでなければなりません。
コーヒーでキノコを作る
コーヒー豆は、オーク材と同じような機能を持っています。コーヒー豆からの廃棄物を使って、キノコを供給できます。キノコを栽培した後のコーヒー豆の廃棄物にはカフェインは入っておらず、アミノ酸が豊富になっています。それらは飼料として家畜に与えられます。コーヒー豆はそのまま飼料になりませんから、この方法は有効です。
これだけでコーヒー豆、キノコ、飼料という3つの収益源を確保できます。気候変動は起きません。これこそがブルーエコノミーのビジネスモデルです。我々は、このビジネスモデルを使って、多くの都市で会社を興しました。これで雇用が生まれます。それほど難しいことではなく、やると決心することが大切です。
チタンの代わりにシルク
カミソリに使うチタンの代わりにシルクを使うことができます。シルクをのばしてナノサイズにしますとスティールより固い素材になります。クモが糸を口から回しながら出すのと同じように、シルクを紡ぎ出していくとアミノ酸がない素材になります。そのようなシルクの素材は、すでに外科手術の縫合糸として、また、神経細胞を再生する際に使用されています。
チタニウム10万トンをシルク10万トンで代用すれば、伐採による乾燥地の荒廃を防ぐことができます。カイコは10万トンのシルクを作る際に多くのフンを出しますから、それで土壌が肥沃になります。カミソリを使うことによって森林化を促すことになるのです。この素材は、チタンの約半分のコストですから、価格競争力があります。
ブラジルにおけるスピルリーナ
スピルリーナ藻類は、とても体によくて高価なものでしたが、現在、ブラジルではキロあたり0.5ドルで作っています。世界の卸価格はキロ当たり32ドルですが、我々はコストを1/64にしてブラジルで作っています。だから、子供にとても安く配ることができ、その資金をブラジル政府が支出しています。1日に1グラム、スピルリーナを摂取すれば栄養不足から脱出できます。子供は、学校でスピルリーナをもらって帰り、それを使ってお母さんがクッキーを作ります。
すでに大量のスピルリーナを確保できるようになっており、輸出も考えられましたが、それはしていません。私たちの哲学は、全生物の基本的ニーズに応えることですから、その余剰分でバイオ燃料を作っています。藻から脂質を抜き取ってバイオ燃料を作ることができます。残りは膜部分ですが、それをポリエステルに加工して、化粧品業界で使うバイオケミカル成分としています。それによって余剰分を輸出するよりも、多くのキャッシュを得ることができます。スピルリーナを食糧、燃料、バイオケミカルにすることで、結果的に国内の化粧品業界の競争優位性を高めています。
ブラジルの博士コース
ブラジルにはCO2から藻までを研究する、7つの博士コースがあります。その博士コースを修了した1人が、バイオ燃料、ポリエステル、膜の研究をしました。このような博士が、10年後には100人生まれるでしょう。藻類の分野においては、最大規模の頭脳をブラジルが手にするでしょう。そのとき、エタノールと同じようなことが起きます。
40年前、ブラジルはエタノールと関係ありませんでしたが、現在、エタノールで世界をリードする立場にあります。世界有数の自動車メーカーが、エタノールエンジンについてはブラジル人エンジニアに頼っている状況です。それによってカーボンクレジットを手に入れることもできます。
グンター・パウリ氏が語る《ブルーエコノミー》という人類のイノベーション【後編】
自然界から着想するテクノロジーとビジネスモデル
グンター・パウリ氏が語る
《ブルーエコノミー》という人類のイノベーション
自然界から着想するテクノロジーとビジネスモデル
グンター・パウリ氏The Global ZERI Network創立者・代表者
Part 2 ブルーエコノミーのさまざまなケーススタディ
新風力発電・ウィンドベルト
これからケーススタディを紹介しましょう。現代世界で最も素晴らしい発明の1つが、Shawn Frayne氏が発明した風力発電機「ウィンドベルト」。彼は、被災を受けたハイチにいたとき、どうしたら発電できるか、と考えていました。そのとき、風で揺れるテントを見ていてウィンドベルトという風力発電機を思いつきました。ウィンドベルトは、フレームの内側にプラスチック製のラインを張り、そのラインの両端に磁石を取り付けた構造になっています。風が吹くとラインが振動して、磁石がワイヤーコイルの中で動いて電気が発生するものです。このプロジェクトは電池業界の革命になるでしょう。
残念ながら、彼はアメリカでは資金調達ができず、香港に移りました。香港では3回プレゼンして、その場で会社の40%の資金調達ができました。アメリカの企業はグリーンバッテリーに投資しているので、ウィンドベルトに投資しませんでした。なぜなら、ウィンドベルトが普及するとバッテリーがいらなくなるからです。
温度差と声の圧力による発電
ここに携帯電話がありますが、真ん中にある白い箱状のものが発電システムです。この携帯電話を体に近づけると、この発電システムで発電します。体温は36度で、外気温はそれよりも低いです。気温差が3度以上あると、このデバイスで発電できますから、体に近づけておけば、常に携帯電話を待機状態にして充電できます。
電話がかかってくると電気を消費しますが、そのときには、ピエゾ・エレクトリック・ジェネレーターで発電できます。これは声の圧力で発電する小さなデバイスです。より高価なものは、聞くときの声の圧力でも発電することができます。
大手電気メーカーは、バッテリーで儲けています。それはニューグリーンバッテリーと呼ばれており、寿命が長いものです。業界としては、当面それで儲けたいと考えています。しかしながら、グリーンバッテリーといってもグリーンではありません。汚染が少なくなっているだけです。新しいイノベーションの導入が進まないのには、そのような理由があります。
送電塔の風力発電
送電塔は、風の影響を受けやすく、毎年いくつかは転倒しています。その送電塔の中心部に縦方向に3つのウィンドタービンを入れて発電することを考えました。発電だけではなく、それによって鉄塔の耐久性も高められます。このような発電できる送電塔を12000個設けることができれば、原子力発電所1基分に相当する電力を供給できます。このケースでは、建設期間は半年、コストはキロワット当たり50セント。原子力発電と比較すると設置期間は1/20、コストは1/8になります。インド政府は、この送電塔の風力発電を採用し、コンソーシアムを作って計画を進めています。
波を見つけて乗る戦略
ブルーエコノミーの戦略は、サーファーの戦略と同じです。サーファーは自分で波を作るのではなくて、よい波を見つけてサーフィンします。起業家も波を作る必要はなく、よい波のある場所を見つければいいのです。
中心部で変革が起こることはありません。中心部とは保守主義の中心であり、そこにパワーがあります。変革というのは、その人たちが力を失うことです。我々としては、中心部ではなく周辺部に行くように起業家に薦めます。渦巻きの中心にいると、あっという間に下のほうへ引き込まれます。周辺部分は波立っているかもしれませんが、その波に乗ることができるからです。
シロアリの巣を真似る
このシロアリが作った素晴らしい構造物を見てください。サバンナ地帯にあるシロアリの巣「蟻塚」です。この山のように盛り上がっている蟻塚は、気温を調整することができ、湿度も温度も年中ほぼ同じです。土でできており、その土は熱を吸収します。
蟻塚の地上に出ている部分は数メートルですが、地下には数十メートルのトンネルがあり、その下には地下水があります。暖かい空気が上方部に出て行くと、下の方が真空状態になり、湿った土によって冷やされた空気が蟻塚に入り涼しくなります。
この蟻塚の構造を、学校の校舎に適用してみました。この校舎には煙突があって、暖かい空
気が上方に抜けて、下から外気が入ってきます。夏には、暖かい空気が上に抜け、下にある冷たい空気が入って気温が下がります。冬は、冷たい空気が地中で暖まって入ってきます。
30分に1回換気されますから、学習能力が上がります。今は、省エネのために建物を密閉状態にするおかげで、風邪が蔓延します。しかし、この校舎では、誰かがくしゃみしても、すぐに病原菌は外へ排出されます。また、この構造によってエネルギーを節約できます。
25年保証の新型給湯器
これは25年保証の給湯器です。日本の給湯器メーカーで25年保証を出しているところはありません。25年も耐久性がないからです。太陽光給湯器でも最長で5年保証くらいです。この給湯器は、コストは2割増しになりますが、25年保証なのです。暖かい空気が上にあがる物理の原理を利用しています。コロンビアで発明されました。現在、7万台普及しています。インドネシアのカリマンタンに工場があり、2つ目の工場はガーナにできます。従来品より耐久性があり品質が高いということで、これはイノベーションと言えるしょう。
渦巻きを利用した浄水器
次の事例は私のお気に入りで、渦巻きを利用しています。汚染された河が清らかになるのはどうしてか、というと水には素晴らしい機能があり、空気を出し入れすることができるからです。空気を水の中に取り込むときに好気性のバクテリアを刺激することになります。空気を外に出すときには逆に、嫌気性のバクテリアを刺激することになります。そのように空気を水の中に取り込んだり、出したりして水を浄化しているのが河なのです。水には渦巻きが発生しますが、それにも汚染を浄化する役割があります。それは流体力学に従っています。航空宇宙、F1レース、防衛業界、銃の弾丸においても流体力学を使います。
スウェーデンにいる友人が、河の浄水機能にヒントを得て、流体力学を用いた新たな浄水器を発明しました。内側にある卵のような形をした物体で渦巻きを作り出します。その力によって、内向きのエネルギーを作り出して、水の中に含まれている不純物を真ん中に凝縮します。それらの不純物をノズルから吸収して、汚染を除去する仕組みです。
そして、それ以外の水は、次のタンクへ移動して、同じことを繰り返します。結果としてフィルターを使わずして浄水できるのです。フィルターがないので膜が必要ありません。重力を使っていますのでポンプも不要です。この装置はすでに現実的に機能しており、アメリカのFDA(食品医薬品局)の承認審査も終わっています。
コーヒー豆のビジネスモデル
私は、チドというジンバブエの女の子を養女にしました。彼女は父を知りませんし、7歳のときに母を亡くしました。孤児です。7歳の若さで家族を養わなければなりませんでした。彼女は学校をあきらめてピーナッツを売っていました。12歳になったときに、キノコの栽培方法を私の財団経由で学びました。それから彼女は、その方法を使って「農業によって自給自足できる」とシングルマザーや孤児たちを説得して行動を起こしました。
実際、1年2ヶ月前に活動を開始して、コーヒー豆をアメリカに売っています。コーヒー豆を栽培し、今まで廃棄された部分を用いてキノコを栽培しています。これで食料の安全保障が保たれます。廃棄物を利用する段階で雇用を創出します。女性が雇用を確保して食料を手に入れれば、虐待に堪え忍ぶ必要もありません。虐待が止まればエイズも止められます。自分たちで食糧を生み出すというビジネスモデルが、好循環を生みます。競争力のあるビジネスモデルであり、継続性があります。
現在、コーヒー豆を販売したお金を使って、女性の能力開発、雇用促進を行っています。チドは現在、2500人の女性たちのトレーニングをしています。すべてのコーヒー豆が、同じような方法で使用されれば5000万人の雇用を生み出せます。その廃棄物でキノコを生産すれば、1600万トンの食料を生み出せます。それは世界の漁業収穫高の半分に及びます。紅茶、とうもろこしなどの廃棄物でも同様のことができます。使っていないものを有効活用するだけで、1億トンもの食料を作り出せるのです。それがブルーエコノミーです。2009年には、これと同じビジネスモデルを使って、コロンビアだけで104の会社を設立しました。
100のビジネスモデル
私の提案は、実現可能なものです。本日は10のモデルを紹介しましたが、さらに90のモデルがあります。私は、本田宗一郎氏から複数の知恵をいただきました。その中でも一番感銘を受けた言葉は「現実逃避するために夢を見る人もいる。現実を永遠に変えたいために夢を見る人もいる」というものです。
ブルーエコノミーの背景にある考え方にふれれば、皆さんも現実を変えていくことができます。今年の2月以降、毎週、インターネット上で新しいビジネスモデルを紹介しています。2012年1月までには、すべてのビジネスモデルをオープンソースで紹介します。また、ダイヤモンド社から『ブルーエコノミー』という書籍が発売されます。
「ブルーエコノミーに変えよう」
100個のイノベーションで、10年間に、1億人の雇用をつくる
(ダイヤモンド社刊)
Q&A
Q:最も豊富な無料のエネルギー資源は重力ということですが、その使い方について教えてください。
パウリ:重力だけでセミナーができるぐらい使い方はたくさんあります。ひとつはビルにおいて、重力を活用する方法です。このビルは52階ですが、多くのスティールの梁があり、それらの梁がビルを支えるために動いています。その梁のスティールのつなぎ目に水晶を入れて、発電することが可能です。梁に挟まれた水晶が押されることによって発電します。マイクと同様の原理です。未来都市のエネルギーは、このような重力の力によって生み出されるでしょう。クリスタルが世界中で必要になりますが、それをシルクで代用することが可能です。ナノサイズにしたシルクで発電できます。ビルではなく一戸建てでも、同じような発電方法が可能で、6000ワットぐらいは賄えるはずです。太陽光発電でなく、より創造的なエネルギー創出を考えるべきだと思います。まず必要なのは、本田宗一郎氏や松下幸之助氏のような創造的なエンジニアを育てることでしょう。
Q:モビリティについては、ブルーエコノミーではどのように考えていますか。
パウリ:まず、自動車のない世界を考えることでしょう。かなりの数のアイデアがあります。飛行船も効率的な輸送手段ではないでしょうか。また、現在の内燃機関エンジン以外のものを考えるべきでしょう。また、エンジン内での燃焼を完全にすれば汚染にはなりません。先ほどの渦巻きを利用した浄水器のようなものを考えてもいいでしょう。エンジン形状に縛られずに考えれば、いろいろなアイデアが生まれます。
<参考ウェブサイト>
●ZERI
http://www.zeri.org
●ゼリ・ジャパン(ZERI JAPAN)
https://www.zeri.jp
●ブルーエコノミー
https://www.theblueeconomy.org
(文責:DMN/編集部)
GUEST PROFILE
グンター・パウリ氏 Gunter Pauli
「ゼロエミッション」の提唱者。The Global ZERI Network創立者・代表者。1956ベルギー生まれ。聖イグナチオ大学経済学部卒業。91年、ゼロエミッションの考え方を導入した石鹸工場をベルギーに建設。その活動が世界の注目を集め、94年には国連大学学長顧問としてゼロエミッション理念の提唱を主導し、研究構想の実現に尽力。94-97年、国連大学(東京)学長顧問。世界経済フォーラムにおいて「21世紀のリーダー」の一人に選出される。
「ブルーエコノミー」はこれまでの活動の成果がすべて結実した壮大にして実現可能性のきわめて高い構想であり、世界各地の研究機関や企業とのネットワークを通じて、バイオミメティックス(生物模倣)などの生態系に学ぶ多様な科学技術/イノベーションのケースをデータベース化して、世界中の新たな起業を導くために献身的な活動を続けている。
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