テスラーの法則:なぜUXはこれ以上シンプルにできないのか?
DMN Design Management Report #038
テスラーの法則:なぜUXはこれ以上シンプルにできないのか?
複雑性保存の法則
アーリアン・インドラクシュ Aryan Indraksh
デザインに関するトップライター。エクスペディア社のグローバルUXデザイナー。
UXデザインでは常に「いかにシンプルにするか」が主要な議題となりますが、今回はUXの「単純化」の落とし穴と、排除できない複雑性について、エクスペディア社のグローバルUXデザイナーで、デザインに関する数多くの記事を書いている、アーリアン・インドラクシュ氏によるMediumの記事をご紹介いたします。
Tesler’s Law. This is why you cannot make UX any simpler.
Law of conservation of complexity
これまで、私たちはさまざまなUXの原則を取り上げてきましたが、ユーザーの体験に関する主要な議題はただひとつ、「ユーザーの生活をできるだけシンプルにすること」でした。しかし「これはある程度までしかできない」と言ったらどうでしょう。それを超えると「単純化しすぎ」という落とし穴に陥ります。
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テスラーとは誰か?
皆さんはこのコピー・ペーストという強力な機能が、私たちのデバイスに搭載されていたことを覚えていますか? ラリー・テスラーは、アップル、ゼロックス、アマゾン、ヤフーなどで活躍し、初期のグラフィカル・インターフェースで重要な役割を果たした共同開発者です。
(ラリー・テスラー氏)
彼はコンピュータサイエンティストでありながら、人間とコンピュータのインタラクションを専門とし、まさにこの「複雑さの保存の法則」を私たちに与えてくれたのです。尊敬します!
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テスラーの法則とは?
簡単に言えば、エネルギー保存の法則ととてもよく似ています。エネルギーは増やすことも減らすこともできず、あるシステムから別のシステムに移動することしかできないことはご存知でしょう。それと同じように、複雑さも保存されます。
すべてのアプリケーションには、取り除くことも隠すこともできない複雑さが内在しています。そのため、製品開発やユーザーとのインタラクションの中で、複雑さに対処する必要があります。
今、私たちは、減らすことのできない複雑さがある程度あることを知っています。そこで問題となるのは、この複雑さを誰が処理するかということです。ユーザーなのか、製品なのか、どちらかを想定しなければなりません。
(クレジット-ショッピファイUXチーム)
テスラーは、ユーザーが実行しようとしているタスクに時間を割く代わりに、エンジニアがアプリケーションの複雑さを減らすために余分に時間を費やすべきだと主張しています。
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シンプリシティのパラドックス
生活をシンプルにしたいと思うのは自然なことです。私たちは誰もが、製品がシンプルであることを望んでいます。でもそれと同時に、さまざまなオプション機能や、他の性能も犠牲にしたくはありません。
さて、これはやっかいな状況です。両方を手に入れることはできません。シンプルさと複雑さを両立させることはできないのです。
ユーザーにクールな機能をすべて提供してしまうと、製品は複雑になり、もはやシンプルではなくなってしまいます。
このような場合は、どうすればよいのでしょうか?
ドン・ノーマンは著書『複雑さと共に暮らす:デザインの挑戦(Living with complexity)』の中で、「シンプルさの本当の意味は、より良い概念モデルを持つことだ」と説明しています。
概念モデルとは、何かがどのように機能するかについて、人が持つ基本的な信念の構造のことです。
概念モデルは、他の複雑なものを整理して理解するのに役立ちます。例えば、デバイス上のファイルやフォルダなどがその良い例です。それは私たちの概念モデルに合っています。
(Windows)
これらのファイルやフォルダーは、私たちのデバイスには存在するわけではありません。でもこれがないと、いろんな場所に保存することになるかもしれません。
複雑かどうかは、見る人の意識の中にある - ドン・ノーマン
初めてPhotoshopを使ってイラストを編集・作成する場合、初心者にとってはかなり複雑だと感じられるでしょう。しかし、プロにとっては、どんな仕事でも素早くこなすために、あらゆるオプションが必要になります。このような強力な機能が提供されなければ、プロの人達の生活はシンプルどころか、より複雑にすることになるでしょう。
ですから、概念モデルを理解することは、あなたが製品を作ろうとしているユーザーにとっても重要になります。
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なぜUXを複雑にしたのか?
ここまでテスラーの法則について多くの話をしてきましたが、さらに深く理解するために、今すぐ事例を見たいと思われているでしょう。
私がエクスペディアというオンライン旅行プラットフォームで働いていたときの経験を一つ紹介しましょう。
旅行者の生活をシンプルにするために、旅行者がフライトの出発地と目的地を入力し始めたとき、バックグランドで、ユーザーが検索ボタンをクリックする前に結果を取得するAPIを走らせました。
検索ボタンをクリックした瞬間に、待ち時間なしで検索結果が表示されるのです。驚いたのは、これにより検索結果のページからの離脱率が高くなってしまったことです。
(エクスペディアのアプリ)
深く分析した結果、待ち時間がほとんどなかったため、旅行者はシステムが最適な結果を得るために何もしていないと思っていることがわかりました。
実際には、エクスペディアのアプリケーションを信用してもらうために、人為的に2秒の遅延を加えました。これは彼らの期待に応えるものでした。UXを向上させるために、ここに複雑さを加える必要があったのです。
ユーザーにとって、物事は常に、驚くほどシンプルである必要はありません。
同じように、銀行のアプリケーションでは、顧客は、ほんの一瞬で送金されることは期待していません。すべてを自動化し、驚くほどにシンプルにしてしまうと、顧客があなたの銀行を信用しなくなる危険があります。
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緊急時の複雑さ
コックピットに経験豊富なパイロットがいなくてもいいように、飛行機を完全に自動化したらどうなるでしょう?
事故が起こって、パイロットが飛行機をコントロールして安全に着陸させなければならなくなった場面を想像してみてください。長期間、飛行機を操縦する訓練をしていない上、しかもシステムは完全に自動化されているこのような状況で、パイロットはパニックに陥るでしょう。
(ヒューストンリバー)
だからこそ、故障が起こったときのために、ここに複雑さを加えて、パイロットが日々のフライト中に定期的に介入しなければならないようにするのです。
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「見た目のシンプルさ」対「操作の複雑さ」
物事をシンプルにするのが最近の傾向として、我々はミニマリズムに移行しています。しかし、ミニマリズムをシンプルなものと誤解してはいけません。
見た目のシンプルさは、使うときのシンプルさ、つまり操作のシンプルさとは全く異なる。可視化されたコントロールやディスプレイの数が増えると、見た目のシンプルさは低下する。 - ノーマン
顧客にとってより重要なのは、操作のシンプルさです。タスクを終わらせることが目的です。見た目のシンプルさのために、必要な操作や機能を取り除くことは、操作の複雑さを増やすことになります。
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さらに知りたい方には
UX Crash Course: Chapter 1
参照:
Shopify UX blogs
Living with complexity — Don Norman
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この記事は、2021年3月に公開されました。英文はMediumで閲覧できます。
● Tesler’s Law. This is why you cannot make UX any simpler.
https://uxdesign.cc/teslers-law-this-is-why-you-cannot-make-ux-any-simpler-d4c0706686a5
関連リンク:
REMOTE DESIGN WEEK
https://remotedesignweek.com
Peter Merholz Official Site
https://www.petermerholz.com
プレゼンテーションPDFダウンロード
http://tinyurl.com/atomicdesignteam
YouTube動画(限定公開)
https://www.youtube.com/watch?v=KSAu8CduuGQ&feature=youtu.be
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