バイデンはなぜ大統領になれたのか、これから何をするのか(11月7日生放送)
孫崎享(評論家・元外務省国際情報局局長)
木下ちがや(政治社会学者、明治学院大学国際平和研究所研究員)
吉田俊実(東京工科大学名誉教授)
司会:山口一臣(「THE POWER NEWS」代表、元「週刊朝日」編集長)
孫崎
ゴアとブッシュの時はフロリダだけだったが、今回はいくつもの州。
今回はコロナや人種問題でアメリカの人々が参加意識を高め、郵便投票になって混乱を招いた。
今回の選挙の事前でトランプがこれほど追い上げることを予測したメディアはなかった。これだけ接戦になるとは。
7割ぐらい残ってた時に、その傾向がそのまま続くとトランプは290をとりそうだったが、それが一気にひっくり返った。それで陣営も受け入れがたいのではないか。
山口
投票率も高く、投票数も多かった。でもトランプ陣営は郵便投票は不正につながりやすい、開いてくるにつれてインチキだと言い出した。
木下
孫崎さんと同じで、作用と反作用というか、トランプが民主主義を棄損したというか。それで投票率が上がり民主主義が活性化した。民主主義には必要なのは戦い、活性化してよかったと思う。日本のように一強多弱でくるとそうはならない。沖縄が盛り上がるのは接戦だから。
メディアはそう外していないが、決定的例外はフロリダだった。キューバ系、反共の人たちを固めたのが勝因だった。でもそれ以上の波及効果はない。もしバイデンが勝ってたら早々に終わった。
前回は総得票数はクリントンが300万以上とっていた。4年前はどんどん票数が増えていった。どれくらいバイデンが総得票数を伸ばすかで僅差か大差かが見えてくる。
全体として投票予測が大きく外れたことはないと思う。
山口
日本の選挙から考えると開票に時間がかかると思うが。
吉田
フロリダ、キューバ移民がトランプを支えたという話を聞くと、日本も似てると思った。日本も反共がものすごく…アレルギーがある。キューバ移民がトランプを大統領にしても恩恵は受けない。日本もある時期から、いちばん自民党政権…恩恵を被らない、ネガティヴな作用を受ける人たちが自民党政権を支えている。そんなことを思い出す。戦後、冷戦構造があって、マッカーシズム…50年代のものがいまだに作用している。なぜなんだろうと思う。バイデンやサンダース、理想はいいけれど自分たちが割を食うという意識がアッパーミドルに強いと思う。
山口
アメリカが社会主義になることはないと思うけど。
孫崎
今回もサンダースは攻撃されたが。社会主義、共産主義だからと排除するのは、その人たちの論点を排除することになる。すべての人が健康保険をもつべきだ、というのに対抗するのは難しいから「社会主義」「共産主義」と排除する。これは典型的な論点外し。朝鮮戦争の時に政令で決めたりしたことをつつかれないために「共産主義者」のレッテルを貼った。
木下
社会主義共産主義の問題。民主党はリベラルと言われているが、冷戦以後、社会主義を標榜する人が出てきたことはなかったが、サンダースのような人が大統領選に手が届くところまでくることはなかった。そうした人がバイデンと政策協定を結ぶまでになったという変化はあると思う。
いずれにしてもバイデンは勝つだろうが、トランプが訴訟を仕掛けて混乱するだろうと予測されていた。でもそういう空気はあまり出てきていない。最高裁長官は保守派、リベラル派が死んでトランプに有利な判断をするんじゃないかと言われていたが言わなかった。差し止めも却下された。全部失敗してる。二つ要因があある。一つ、政権の司法チームは弁護士じゃない、バカしかいなくなった。一方バイデン側は訴訟担当のベテランを揃えてる。似たような事例があって、愛知でリコール運動が起きたが、ふたを開けたらナンバリングしてなくて受け取ってもらえなかった。トランプ政権がバカだったのが一つ。
もう一つ、最高裁長官、戦後は全部共和党が指名してきた。保守系だが、国民のことを考えなきゃいけないからバランスを取ろうとする。今回もそう。長官の特権は、ほかの8人と比べて必ず書ける特権がある。それを使ったんだと思う。さすがに最高裁もトランプの言いなりになったらバカだと思われる。国民的な権威を失ってはいけないとブレーキが働いた。司法戦略が機能せず、バイデンの集票が止まらずに来てる。
孫崎
居座ることはできないでしょう。
山口
じゃあバイデンになったらどうなるのか、孫崎さん教えてください。
孫崎
おおざっぱですが、今回の選挙は大きな意味合いをもっていた。
本質、グローバリズム推進。アメリカ企業は市場を求めて海外に出て格差が広がった。トップ50人の資産、1億6500万人と同じ。大変な社会格差、これに対する対応をどうするか、ひとつ、従来通りのグローバル企業中心の政策を行う。民主党はトップ50人の政党。ヒラリー、バイデンがやろうとしてること。低所得者はウォーレンとサンダース、負けた。工場をアメリカにという共和党、負けた。
民主党はそれほどひどいことをしないだろうと思うが、何をするかわからない人たちだと思う。バイデン選出の過程、決して優勢ではなかった。ウォーレン、サンダースに勝つチャンスがあった。しかしスーパーチューズデーで中道派といわれ勝つ可能性があったクロプシャー、ブティジェッジ。この3人に中道派が分かれていた。左派がウォーレン、サンダース。ところがスーパーチューズデーの前日に中道残り2人が降りてバイデンにいった。普通これはありえない。大統領になろうという人が。ところが実際に二人は降りてバイデン支持に回った。そこで中道が一本化、左は二人いたからバイデンが勝つ。バイデンの後ろには動かす人たちがいる。
ではバイデンは何をするか。バイデンを動かす金融資本、多国籍企業は海外に展開する。それぞれの国によって制度が違うと困るから均一化させる、グローバルスタンダード。でも各国には法律や裁判所がある。ということでTPPでグローバル企業が勝つ仕組みを作った。TPPは日本の国会や裁判所を放棄するようなものだが、このグループが後ろにいる。
日本でグローバル企業の利益確保する体制をとれと言ってくる。バイデンは戻ってくる。
もう一つ、軍産複合体。冷戦期は最先端の兵器を変えていけばいい。戦争しなくてもいいが、ベトナムの後、アメリカ軍はインフラを民間に渡した。軍産複合体は敵がいなくなって武器を新しくする構図がなくなったのでイランイラク北朝鮮を敵にした。でもこれらはアメリカと戦争できない。だから自分たちが出かけ、混乱を作って利益を得得る。そうした人たちがバイデンを支持している。有志連合への参加を一段と求め、極東で中国包囲網に入れと。日本の多くの国民はトランプはひどい、バイデンやさしそうと思うが、軍事産業や金融資本の論理でくる。
山口
日本にいろんなことを押し付けてくると。
孫崎
そう。ジャパンハンドラーが復活してくる。
山口
トランプは北朝鮮と仲良くしようとした。
孫崎
トランプは朝鮮戦争をやめさせようとしたが、軍産複合体は許さなかった。俺が大統領になる前は北朝鮮が攻撃しそうだったじゃないかと。バイデンの優しそうな顔に騙されてはいけない。
木下
村山富市みたいな感じ(笑)。選挙戦に勝つにはイメージがない人で良かった。ペンシルヴェニア出身というのも、そこで勝つという意味で大きかった。トランプに勝つという一点では妥当な選択だった。でも孫崎さんのおっしゃる通りで、帝国かそうじゃないか。トランプは帝国をやめてアメリカのことだけ考えますという政権だった。USAが第二次大戦以降自国の利益を抑え込みながらも世界に出ていった。トランプはそれをやめた。結果は平和。でもバイデンに戻っても元に戻るかと思うか、無理だと思う。冷戦崩壊以降のアメリカは。右派でいえばブキャナンのようなのが出て、それがトランプでドカンと出た。帝国としての維新の回復は無理じゃないか。
孫崎
そこが面白いテーマになる。客観的な情勢はそうだと思う。中国はGDPでアメリカを抜き、技術力、研究も上になってきてる。そういう時期に帝国をやめると落ち着くかといえばそこまで割り切ってないと思う。おっしゃる通りでできないけどできると信じてやる。そのために中国包囲網をやってる。5G、政治力と軍事力で。もう一回帝国になるのをやり直すんじゃないか。
木下
そういう可能性はあると思う。社会主義的な勢力と金持ちと両方バックにいる。
孫崎
確実に金融資本と軍産複合体に行く
でも社会主義のほうと手を切るわけにはいかないから、気候変動で手を打つ。石油資本は悪だと言い切った。そこで手を付けて、その他のグローバル資本と。政策協定は作ったが、これには中道派は一人も入ってない。中道派は反故にするつもり、選挙のために協定したがなった後は無視してやると思う。
木下
そういう意味では過渡期的な政権じゃないか。どうなっていくかは読めないが。共和党がどうなるか。そういう意味では民主主義がある意味活性化され、掘り起しができた。アメリカ政治がどうつかんでいくか、いろんなことが起きると思う。