ADCC男子77kg決勝 Kade Ruotolo VS Mica Galvao フィニッシュの解説
みなさんこんにちは、まごっとです。
先程女子の+60kgのトーナメントが終わりました。
全体的な感想は後ほど書くとして、その中でも一番衝撃的だったのはADCC男子77kgで誰もが圧倒的な優勝候補として挙げていたMica GalvaoがKade Ruotoloに一本負けしたことでしょう。
フィニッシュとしてはインサイドヒールでしたが、Mica Galvaoという強い順で上から数えてすぐに出てくるような選手があのような負け方をしたのは私としては衝撃でした。
今回のnoteでは、Mica Galvaoがどのようなミスをしたのかを解説していきます!!
まず、これはMicaのミスである
私のようなプロとは程遠い普通のグラップラーが言うのは非常に非常に恐縮ですが
これはまず、Mica Galvaoのミスである、というのは間違いないと思っています。
私の分からないレベルで心理的駆け引きは当然あったと思いますが
私が何回も見て研究した限り、Mica Galvaoがあえて自分から超不利な体勢に行っており
言ってしまえば「はい、どうぞ私の左足を極めてください」と差し出していた、と表現せざるを得ません。
言い換えれば、Micaレベルのトップ選手がこのような形で負けるのはそういう致命的なミスをしたからであり、致命的なミスをしなければこういう結果は当然起こらない、とも言えるでしょう。
とりあえずフィニッシュシーンを見てみる
まず、フィニッシュシーンはこちらです。
ちょっとアングル的に分かりづらいかもしれませんが、著作権的にセーフなのがこちらの投稿だけでした。笑
TwitterやYoutubeで「Kade Mica」で検索したらフルマッチが出てきたりしますが・・・。
ちょっとキャプチャして、細かく見てみましょう。
ちょっとXガードっぽい体勢からMicaが足を絡めています。
このとき、Micaの右足が下、左足がその上に重なっています。そして、左足は深く入っています。これは非常に重要なポイントです。
また、別映像を調べてみていただければわかりますが、Micaは自分の左足を自ら差し込みました。最初は絡めておらず、外に出ていました。
この自ら差し込んだ、ということが自ら詰みの体勢に結果的に行ったこととなりました。
その後、Kade RuotoloはMicaの左足を極めます。
このキャプチャ画像を見ていただければわかるように、インサイドヒールフックです。
その後、Micaは逃げることができずタップ。
フィニッシュとしてはこのような流れでしたが、具体的にどのような体勢を経てこうなったのでしょうか?
サドル(Honey Hole)のカウンター、Honey Stick
順を追って、どのような体勢を経てこのフィニッシュに至ったのか見てみましょう。
まず、最初はほぼサドルでした。Micaが少し有利でした。
このサドルは、リバースXからのサドルエントリーのときよくなりがちな体勢です。
これはバックサイドサドルと言って良いでしょう。ちなみに、バックサイドサドルは私が命名したもので、ワールドワイドで一般的ではありません。
ちょっと足は浅かったですが、ほぼこんな感じにまずなっていました。下がMica、上がKadeでした。左右の対象に関しても上記の画像と一致しています。
そこでMicaはちょっと極めるのに不十分だと思ったのかわかりませんが、驚きの行動に出ます。
左足を差し込みました。
これは概念的に考えると、何を意味するのでしょうか?
サドル(Honey Hole)のカウンターとして、Honey Stickというテクニックがあります。
サドルを取られたほうが、足を絡め返して自分の有利を取るテクニックなのですが、10th Planet系列の用語でHoney Stickと言われています。
というのも、サドルのことを10th PlanetではHoney Holeと言っていて、そのカウンターであるからその名前なのだと思われます。
上記の画像を見ると、サドルをかけていたのは左の選手でしたが、足を取り返し、右の選手が安全にかつ左の選手の右足を自由にすることができる体勢です。ちなみに、左の解説している選手はJordan Holyというそこそこ有名で強い選手です。
その右足を自分の逆サイドに持っていけば、上記のようにインサイドヒールも持っていけます。
これは一度かけてもらうとわかるのですが、かけられたほうは本当一切動けなくて、詰みの状況になります。
さて、このJordan Holyの解説動画で足がどうなっているかを整理してみましょう。
極めた選手がサドルで取られていた足:右足
極められた選手が外側からかけていた足(サドル取った相手の足に触れている足):左足
極められた選手がインサイドヒールで極められた足:右足(これは自分の左足の上にある)
となります。
Kade VS Micaの試合を見直してみる
さて、Kade VS Micaの試合に戻りましょう。
先程の画像を再掲します。
この状況を整理すると
Kadeがサドルで取られていた足:左足
Micaが外側からかけていた足(サドルを取ったMicaの足に触れている足):右足
Micaがインサイドヒールで極められた足:左足(これはMicaの右足の上にある)
というように、先程解説したHoney Stickのフィニッシュ動画の左右対称版にきれいになっています!!
複雑ですが、ちょっと脳内でこの上記の体勢をくるっとひっくり返してもらうと、Honey Stickの状況と一致します。
Micaは良かれと思って左足をズズっと差し込んだと思うですが、これは自ら完全詰みであるHoney Stickの状況に持っていくことであったのです。
おそらくMicaはバックサイド50/50っぽく圧力をかけて相手を倒して左足を極めようとしていたのかと予想します。
しかし、足の順番が違いました。
つまり、本来はMicaの左足の上に右足がある必要があって、それだとバックサイド50/50になったのですが、足の順番が違ったためにHoney Stickという超不利な体勢になってしまいました。
上記の画像だと、自分の右足が下、自分の左足が上となっており、相手の右足を極めようとしています。
Micaがやるのであれば、相手の左足を決めようとしているので、自分の左足が下、自分の右足が上、となるのが正しいバックサイド50/50です。
そうすることで、自分の足は安全に、相手の足を極めにいくことができます。
しかし、今回Micaはバックサイドサドルの状態のまま足の順番を間違えて足を差し込み、Honey Stickの献上し、私が初めて見たバックサイドHoney Stickからのインサイドヒールという結果になったのです。
概念で紐解く
私がたびたび書いているように、グラップリングは概念で紐解き、そして戦うものだと思っています。
今回のADCCの決勝戦という世界最高の試合の結果であっても、サドルやHoney Stick、バックサイド50/50という既存の概念で紐解き、理解することができます。
つまり、戦うときも概念を使えば「この行動、この体勢はどういうものを意味して、どちらに有利がもたらされるのか」という戦況の理解に繋がります。
戦況を理解し、適切な行動、つまり次の適切な概念を選び取るということは勝ちにつながることであり、それが強さになります。
また、Mica Galvaoという世界最強の選手でさえ、Mica自身の脳内はどうなっているかわからないにせよ、概念の選択を誤ることがありました。
当然、概念の選択という要素だけに留まらず、緊張、心理的駆け引き、疲れなど無数の要素が試合には影響します。
グラップリングは奥深いなと改めて思った試合でした。