戦跡巡礼 連合赤軍・あさま山荘への道を辿る 1
未だ世間がコロナで騒ぎ出す前の2019年晩秋。
僕は連合赤軍とその前身組織である革命左派(日本共産党(革命左派)神奈川県委員会)と共産主義者同盟赤軍派のベース(アジト)跡を辿る旅に参加した。
連合赤軍とその前身組織による一連の事件を記録するために集まっている会があり、毎月例会を開いていて、たまに大規模な集会も開催している。そのメンバーにより「慰霊の旅」として行われた、「戦跡巡り」だ。
メンバーには、事件の当事者である元・革命左派や赤軍派の闘士もいる。当事者が50年近く前のことを思い出しながら案内してくれるのだから、かなり臨場感がある。
今回の旅は、あさま山荘事件直近の陰惨なリンチ事件が起きた群馬県方面ではなく、それより以前に彼らが設置していた奥多摩、山梨のベース跡を中心に周る。
連合赤軍として一般に有名なのは、雪山の小屋での軍事訓練と、「総括」の名のもとに行われたつるし上げとリンチだが、それより以前のリンチが顕在化していない時期に宿泊・訓練・学習をしていたベースだ。
だから、元メンバーの一人が言うには、青春の一ページを彩る楽しい思い出の方が多いのだそうだ。
朝8時ころ、新宿駅西口のロータリーに集合する。
僕は車を提供するので、当時住んでいた千葉の自宅を早朝に出発して、余裕をもって到着していた。
車を路駐させて待っていると、アラブ系の顔立ちをした女性に京王プラザホテルへの生き方を英語で尋ねられる。僕はいわゆる「道聞かれ顔」らしく、特に外国人によく道を聞かれる。仕事上、英会話が必須なので、ここ数年でブロークンだが意思疎通はできる程度に英語がしゃべれるようになっていて、あまり慌てずに済む。
スマホで地図を示しながら道案内していると、会のメンバーが集まり始めた。
この日は僕のコンパクトカーのほかに、もう一台のミニバンが加わることになっていた。
参加者は9人か10人で、それぞれに分乗して青梅街道を西へ向かう。
この日は気持ちのいい秋晴れで、しばらく西へと走ると、奥多摩の山並みがはっきりと見えてきた。
「そういえば、僕は青梅街道を新宿から青梅まで歩いたことがありますよ」
十数年前に、僕は「かち歩き」というイベントに参加したことを思い出した。
「えー?ずいぶん距離があるだろう」
元・革命左派の闘士だった男性が言う。
「45キロだったかな。食事は禁止で歩き通すんです。でも楽しかったですよ」
そんな話をしているうちに、懐かしい青梅を過ぎ、いよいよ奥多摩の山間へと入る。青梅線や多摩川に沿ってくねくねと登る道を進み、やがて奥多摩湖の水面が見えてきた。
奥多摩湖に沿った狭い道をさらに進み、東京都と山梨県の境に着く。そこから雲取山への登山道の入り口に続く駐車場に着いた。
ここから先は、しばらく歩きだ。
雲取山方面への登山道とは別に、川沿いの集落へつながる道を十人ほどの男がゾロゾロと行く。
集落を過ぎると、今度は廃集落がある。
廃集落の、獣道と化した道を歩く、歩く。
廃集落の斜面を過ぎると、鬱蒼とした山林に突入。
川のせせらぎが心地よい。
落ち葉でフカフカした道を15分ほど歩いて、ベース跡に着いた。
ここが、革命左派が山に初めて設置した「小袖ベース」。
この簡易な橋の向こうが小袖ベースのあった斜面。
渓流が東京都と山梨県の境になっている。向こうが東京都、手前が山梨県。
昭和40年代当時、この斜面には廃バンガローがいくつか建っていたのを革命左派の永田洋子さんや坂口博さんが拝借し、拠点とした。
当時、革命左派は栃木県真岡市の塚田銃砲店から猟銃を奪取。念願の銃を手に入れたは良いが、逃走の過程で数名のメンバーが逮捕(そのうち一人は、コロナ対応で全国的に有名になった東京都医師会長・尾崎治夫氏の兄)。
逮捕されたメンバーから芋づる式に捜査の手が伸びつつあり、彼らは大慌てで北海道へと逃れる。真冬の北海道での過酷な潜伏生活も限界に近づき、永田洋子さん達が活路を見出したのが山岳ベースだった。
捜査網を気にしながら、息をひそめて都市に紛れ込むのはあまりに危険で、アパートの近隣住民に怪しまれないように会話もできず、トイレにも行けない。革命のための銃の訓練も出来ない。これでは戦いの前に、精神が参ってしまうだろう。
金策やアジト設定のため、北海道を離れて上京した永田さん、坂口さんは、赤軍派とも接触しながらシンパの家を転々とし、山に活路を見出すために雲取山へ。
そこで、山小屋の主人から「小袖に廃バンガローがある」と情報を手に入れたらしい。
そして、宿泊に適した廃バンガローだけでなく、洞窟もあった。
この洞窟は銃の射撃訓練に活用された。
今回、旅に参加している元闘士も、この洞窟で射撃訓練に参加していた。
「音が響きそうですね」
「それが、そうでもないんだよ。外にはほとんど聞こえなかった」
「過激派が銃を撃ったから、立入禁止にされちゃったんですか」
「いや、この洞窟は迷路みたいになっていて、僕たちが壊滅した後、洞窟探検に入った人が事故を起こしたらしいよ。それで立入禁止」
迷路のような洞窟で迷うなんて、考えただけで恐ろしい。
「僕たちが洞窟の中で火を焚いたら、あの山の上から煙が出てきたよ」
三次元に広がる空間になっているようだ。
「当時はハイカーがこの辺をよく通ってたんだ。だから、バンガロー跡は見つかるかもしれないとなって、もっと奥の炭焼き小屋跡に移動した」
今回は、その炭焼き小屋があった場所までは時間の関係で省略。
「北海道で息をひそめる日々だったから、ここは天国のように感じた。射撃訓練も楽しかった。僕は結局、猟銃しか撃たなかったけど、今思えば拳銃を撃っておけばよかったな」
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