【名曲】ウイングス「Medicine Jar」
皆さん、こんにちは。てんていと申します。
今回紹介したい名曲は、ポール・マッカートニーがビートルズ解散後に結成したバンド「ウイングス」の4thアルバム『Venus and Mars』から「Medicine Jar」になります。
こちらのアルバム、ジャケットに映っている黄色の球と赤色の球は、まさしく「金星と火星」。洗練されたデザインに、一見するだけでも興味をそそられます。
本noteでは、こちらの『Venus and Mars』について解説するとともに、私がこのアルバムの中で特に好きな曲である「Medicine Jar」について紹介します。
それでは、どうぞ~。
■アルバム解説
-『Venus and Mars』について
『Venus and Mars』の前作にあたるのが、大ヒットを記録した『Band On the Run』です。
表題曲「Band On the Run」や「Jet」を筆頭に名曲が並んでおり、隙のない仕上がりです。この時のバンドメンバーは、ポール・マッカートニー、彼の妻のリンダ・マッカートニー、ギタリストのデニー・レインの3人。
『Band On the Run』の大ヒットを受けて、その余韻を残しつつリリースされたのが『Venus and Mars』です。
『Band On the Run』では、ポール・マッカートニー、リンダ・マッカートニー、デニー・レインの3人がバンドメンバーでしたが、『Venus and Mars』ではこの3人に加えて、新たにギタリストのジミー・マカロックが参加しています。
これにより、デニー・レインとジミー・マカロックのツインギター編成になりました。とは言っても、ハードロックのような「いかつい」ロックになるということはありません。このアルバムは、取っつきやすいポップスもあれば王道のロックもあるという、あくまでバンド全体の力関係が統一されたようなサウンドになっています。まあ要は、ツインギターではあるけれども、そこまで「ギターギター」はしていないということです。
なお、このジミー・マカロックの加入による影響が顕著に出ている曲の一つが、今回私が紹介したい「Medicine Jar」になるわけですが、その辺りの解説は後ほど行うことにして、まずは『Venus and Mars』の収録曲について軽くおさらいすることにします。
-収録曲を軽くおさらい
『Venus and Mars』の聴きどころは何と言ってもA面2曲目の「Rock Show」でしょう。1曲目の表題曲「Venus and Mars」から繋がるような構成となっており、「Venus and Mars」の穏やかな雰囲気から一転、「Rock Show」では、まるでアルバムという名の「ショー」の開幕を告げるかのような力強さがみなぎっています。
「Venus and Mars」から「Rock Show」の流れ。私は日が沈んで夜になる情景を思い浮かべます。空には宵の明星が輝き、ショーが幕を開けます。「Venus and Mars」では、ショーが始まる前の静けさ、緊張感の高まりを感じます。日が沈んでやや暗くなる中、椅子に座りショーが始まるのを緊張の中で待つ自分。そんな緊張は、続く「Rock Show」で一気に解放され、ウイングスによる最高の「ロックショー」がスタートします。
さて、ショー開幕を告げてから暫く時をまたいでやって来るのが「You Gave Me the Answer」です。この曲はビートリッシュな落ち着いたポップスで、ビートルズ時代のポールの曲を彷彿とさせます。それは例えば『The Beatles』(通称「ホワイトアルバム」)の「Honey Pie」のように。
この曲を聴いて思い浮かべるのは、まさしく日曜日の午後。安らぎの家で紅茶を飲んでいるかのような温かさが感じられます。恋人と午後のひと時を過ごす何でもない幸せの時間。いつもなら見逃してしまいそうな小さな幸せを思い出させてくれる、そんな曲です。
次の曲は「Magneto and Titanium Man」。こちらもビートルズ風味なポップスです。シンセサイザーを使っているので、サウンド的にはそれっぽさはないのですが、曲だけを聴けばいかにもビートルズっぽいメロディーにビートルズっぽいコーラスが乗っています。なお、タイトルもそうですが歌詞も独特で、何となくシュールな世界観を演出しています。
『Band On the Run』の大ヒットを受けて心に余裕が生まれたのか、ポールの作曲にはややリラックスした雰囲気が感じられます。それはこの曲だけでなく、アルバム全体を通してです。ポールが自分のやりたいことをやりたいように表現している、そんな印象を受けます。
続いてB面。アコースティックな「Venus and Mars (Reprise)」を挟んで「Spirits of Ancient Egypt」。「Venus and Mars (Reprise)」は1曲目の「Venus and Mars」の歌詞を変えており、やや違ったアレンジになっています。
続く「Spirits of Ancient Egypt」。
こちらは珍しく、ギタリストのデニー・レインがボーカルを取っています。この記事を書くにあたって改めて聴き直しましたが、この曲、ベースラインがカッコいいですね。アルバムを通して聴くと気付けないことでも、1曲だけ取り出して聴くと新たな発見があるのかも知れません。
次の曲は、来ました「Medicine Jar」! 聴くたびに思うのですが、「Spirits of Ancient Egypt」からの「Medicine Jar」の流れが好きなんですよね。
前曲「Spirits of Ancient Egypt」では若干のロック味を感じますが、こちらの「Medicine Jar」ではギターの主張が激しく、さらにロック色が強まっています。この曲では、新たに加入したジミー・マカロックがボーカルを取ります。なお「Medicine Jar」については後ほど改めて解説します。
さて、「Listen To What the Man Said」を挟み、アルバムの盛り上がりは「Treat Her Gently - Lonely Old People」で最高潮を迎えます。2つの曲を行ったり来たりする構成は見事ですが、それ以上にメロディーラインが美しいです。ポールの優しい歌唱に癒されつつ、ショーはまもなく終わりを迎えます。これこそが隠れた名曲なのかも知れません。
アルバムの最後は「Crossroads」というインストルメンタル曲が飾り、ショーは大団円を迎えます。これにてウイングスによる一大「ロックショー」は幕を閉じ、我々は拍手喝采、スタンディングオベーションというわけですね。
以上が『Venus and Mars』の収録曲になります。全曲トークとまではいかないまでも、アルバムの聴きどころはこのような感じです。
さて、いよいよ「Medicine Jar」の解説に移ります。
■隠れた名曲「Medicine Jar」
私がこのアルバムで特に好きな曲が「Medicine Jar」になります。音源を再掲します。
第一に、先ほど上で書きましたが「Spirits of Ancient Egypt」からの「Medicine Jar」の流れが好きですね。「Spirits of Ancient Egypt」のミステリアスな雰囲気に包まれつつ、ベースラインに引っ張られながら曲を聴き終えると、今度はロック全開の「Mdicine Jar」です。
* * *
曲の始まりは分厚いギターです。デニー・レインとジミー・マカロックのツインギターがここぞとばかりに主張してきます。ここにもジミー・マカロック加入の影響が表れています。そこからリズム隊がドンと入ってきて、ベースとドラムが重厚なリズムを打ち出す中、バスドラムがドコドコと聴き手の耳を引っ張っていきます。素晴らしいイントロです。
そして歌が始まると「What's wrong with you?」とジミー・マカロックのボーカルが入ってきます。「I wish I knew」と歌う彼の歌唱は決して上手いというわけではないですが、素朴な印象を受けます。後ろではギターがジャカジャカ鳴っており、ハードロックっぽさも感じます。そして決め台詞の「in the medicine jar」。コーラスも乗ってボーカルを盛り上げています。
束の間、ギターソロに突入します。ここでもツインギターが重厚なハーモニーを奏でています。その間、ここでもドラムがドコドコと鳴って雰囲気を引っ張っています。この曲の神髄はバスドラムにあるというのが私の持論です。
ギターソロは終わり、再びジミー・マカロックのボーカル。やはり決め台詞は「in the medicine jar」です。コーラスも盛り上がっていき、ギターもそれに呼応するかのようです。曲の盛り上がりは最高潮を迎えつつフェードアウトします。
* * *
たったこれだけの曲と言えばこれだけなのですが、私はこのアルバムの中で「Rock Show」に並ぶくらいに好きな曲です。
ちなみに「Medicine Jar」はライブバージョンもあり、『Wings Over America』というライブ盤で聴くことができます(4曲目です)。こちらも疾走感があって、原曲とは異なる良さがあります。合わせてどうぞ。
ライブの方は、よりギターソロがカッコいいような気がします。YouTubeでも原曲バージョンよりライブバージョンの方が再生回数が多いので、ライブの方が人気があるのでしょうか。
とにかく、私が思うに「Medecine Jar」は良い曲です。聴いたことがない方は是非アルバム『Venus and Mars』を通して聴いてもらうとともに、収録曲の中でも「Medecine Jar」を特にご贔屓にして欲しいものです。
■おわりに
私は初めて『Venus and Mars』を通して聴いた時に「Medicine Jar」と出会い、この曲の溢れ出る疾走感に興奮したものです。
この記事を書くにあたって、アルバムとともに「Medicine Jar」を聴き直したのですが、やはり良い曲は何度聴いても良いものです。この曲を聴いたことがない方は、騙されたと思ってぜひ聴いていただきたい。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
良き音楽との出会いがあらんことを。