引越し
引越しをした。
ワンルーム6畳、洗濯機を置く場所なし、トイレ風呂併設、風通り悪し、ベランダは天井が水漏れ、下階の部屋が異臭を放つ、換気扇が機能しない。そう言った部屋からの脱出である。もともと、所属する研究室の事情で地元から東京へ急遽転居することが決まり、だらだらとして居たのもあって引越しの1ヶ月前に内見もせずテキトーに決めた部屋だった。別段、生活に困っている訳でもなかったが、予算を用意するのも面倒臭く、勝手も分からなかったため、部屋の惨状には実際に東京に住み始めたその日に気付き、酷く驚いたものだった。
引越しの動機は精神的な事情で、何も考えずに机を2つ買ったら部屋の半分ほどが埋まり、そんな所で毎日寝泊りしている内に徐々に心を腐らせてしまったのである。脳味噌の腐敗を自覚するや否や「引っ越すぜ!!!」と(研究室で)叫び、その場で不動産屋に内見を申込み、次の日にでも来てくれと言われ、意気揚々と部屋漁りに参戦したのだった。そして、不動産屋の体育系と言うべき雰囲気に若干酔い潰れながら、その日の内に部屋を決め、半月ほどをジクジクと耐え忍び、今、私達は文化的な生活を手に入れたのである。
ニッコニコしながら新しい部屋を行ったり来たりする。机2台を悠々と飲み込んで見せた居室は、私達の生活を優しく歓迎したものの、いざその中央で深呼吸なんぞしたところで間抜けをいくつか見つけた。第一に、カーテンを買い忘れていた。もちろん、勢いで部屋を決めた訳だから、ここの周辺にどんな店がありどんな店がないかなど分からない。「あらあら」と余裕を取り繕い周辺の店を調べると、生活雑貨を取り揃えている店が数件確認できた。自分の日頃の行いに感謝しながらお気に入りのBIRKENSTOCKを履き、ステップでもする心持ちで件の店を廻って行った。買い物を済ませ、暑さに少し辟易しながら部屋に帰り、戦利品を机の上に並べる。紫のペン、ハンガー、電池、たこ焼き、アクエリアス。満足した。相変わらず、大きな窓は容赦無く太陽光を部屋に招き入れている。また店に戻るのが面倒臭い。仕方がないので、通販で黒のカーテンとレースカーテンを注文した。どうしよう、私達、裸族なんだけど。
第二に、ネット回線の引越し手続きを忘れて居た。インターネットは仕事をする上でも暇潰す上でも重要である。にも関わらず、すっかり脳味噌から抜け落ちて居た。いつもそこにある平穏は、その大切さを忘れられがちである。焦って契約元に引越し手続きをすると、開通が約2週間後になるとのことだった。2週間。幸い、外で仕事をするためにモバイルルータを持っている。ところで、私は就寝時、ラジオなんかを流す習慣がある。どうやら、Youtubeを高画質で流しっぱなしにしてしまって居たらしい。モバイルルータの液晶には、7GBと表示されている。契約内容は、三日で10GBである。そして、今日はその初日である。
第三に、エアコンが点かなかった。何を主張しているのかは分からないが、電源とタイマーとそれぞれ書かれた横で、赤と緑のLEDが点滅している。その周期は1秒よりも少し短いくらいで、合わせて腰を振るにはあまり向いて居ない。初め、リモコンの電池が切れて居るだけだと考えた。幸い、先ほど電池を購入して居た。再度、日頃の行いに感謝しつつ、新しい電池と古いものを交換し、エアコンに向けながら電源ボタンを押した。一回。反応がない。一回。反応がない。長押し。反応がない。二度押し。反応がない。暑い。仕方がないので、通販で扇風機を注文した。これまでファンが回る円形のよく見る扇風機しか買ったことがなかったため、折角ならばと縦長のオフィスとかに置いてそうなものを購入した。暑い。裸族でよかった。
今日通販で購入したものは、明日に全て届くらしい。それまでに暑さで干からびなければいいが。アクエリアス(2L)を買ってよかった。たこ焼きが美味しい。取り敢えず暑いので脱ぎます。
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