個性的なサウンドセレクトと受け継がれたレーベルロゴ。Armada Musicを支え続ける名レーベル Captivating Soundsを振り返る Trance Classic Archives 08
DJ NECOです。いつも記事を読んでいただきありがとうございます。
本日は不定期で投稿しているトランスの名曲と共に当時のシーンや音源と共に振り返える記事シリーズの最新作を公開しております。
今回からはもうすぐ活動20周年を迎えるArmada Music初期を支えたレーベル群を毎月1回、5回に渡ってピックアップする予定です。
Armada Musicはオランダを拠点に2003年に設立された当時インディペンデントのレコード会社で2023年の現在ではトランスを主軸にハウス、テクノ、EDM、チルアウトからダンスポップまで多くのヒット曲を世に送り出している巨大なダンスミュージックの総本山へと成長を遂げています。
現在でもスーパースターDJとして大活躍中のArmin Van Buurenを含む3人のメンバーによって創設されたArmada Musicも今年で活動20週年を迎えるのでオフィシャルでも大々的にキャンペーンが行われそうですね。
そんなArmadaですが、設立当初からこの辺りの音をかなり熱心に追っていた筆者が設立当時の2003年の代表曲と20年ほど前に同グループを支えた5つのレーベルにスポットを当て、紹介していこうと思います。
第1弾はArmada Music設立と同時に他社から移籍してきたCaptivating Sounds (以下Captivating)というレーベルをピックアップ。
Captivating Soundsとは
元々はワーナーグループ内で2000年に発足したダンスミュージック専門レーベルの1つですね。00年前後のワーナーは当時ダンスミュージックやヨーロッパで流行していたトランスミュージックの市場開拓に熱心で当時大人気だったトランス、特にUKとオランダの話題作を中心としたリリース / ライセンスを事業として行っていました。
UKで展開されていたCode Blueというレーベルもワーナー関連だったのですが、当時は各国ごとにライセンスしてレコードやCDの生産を行っていた為に一部のリリースは共通していましたね。
ワーナー時代のCaptivatingはヨーロッパのダンスチャートでヒットした作品のライセンスやトランスポップ的な作品のリリースが多めで、既にヒットした作品に新たなRemixを収録して販売することもありました。この時代のトランスを熱心に追っていた人にとっては大ヒットした曲を後発で手に入れるのに役に立ったり、比較的コマーシャルなトランスをリリースしていたレーベルという印象かもしれませんね。
Armin Van BuurenもサイドプロジェクトGaiaのファーストシングル "4 Elements"とTiestoとのコラボプロジェクトMajor Leagueでのトラック "Wonder?"をCaptivatingから2000年にリリースしていました。
Captivatingは後にArmadaグループに編入することになるのですが、それ以前から縁のあったレーベルと言えるでしょう。
また、Above & BeyondのメンバーTony McGuinnessが元ワーナーのマーケティング担当であったこともあって、Above & BeyondとJustin SuissaによるユニットOceanlabの初期3作は本レーベルからリリースされていましたね。
初代Captivating Soundsからリリースされた伝説的なボーカルトランスヒット"Clear Blue Water"が特に有名なリリースですね。彼らの2ndシングル"Sky Falls Down"も名作で、そちらはArmin Van BuurenもRemixを手掛けていました。
Captivatingの話に戻りますが、初代Captivatingは2000年から2003年頃まで活動を続けていて、3年の間に70タイトル近いリリースを行っています。
現在は流通がデジタル主体に移行しているので同一レーベルから毎週新曲がリリースされるという事も珍しくないのですが、当時はレコードとCDが主体だったので月2タイトル近いリリーススケジュールはメジャー系ならではかもしれませんね。
また、ちょうどこの2003年頃はデジタル音源の販売が今ほど普及する前でもありましたので多くのリリースがレコードでしか販売されておらず、特に後半のリリースは聴く手段が限られていますね。
トランスマニアの間では未だに人気の高いこの辺りのリリース。いつかバックカタログをワーナーやArmada Musicが復刻してくれると嬉しいのですが・・・
Armada Musicから再スタートとなったCaptivating
2003年にArmada Musicが設立されるとCaptivatingもArmadaグループへと編入。レーベルブランドが移行されました。理由を正式には語られている文章は無かったのですが、当時多くのレコード会社がトランス市場からの撤退や規模縮小を選択していたのでその影響はあったのかもしれませんね。
あるいはもともとCaptivatingで働いていたコアメンバーがそのままArmadaへと移籍したのかもしれません。その辺りの経由がいつか語られることを願っています。
編入に伴い、Armada移籍後のCaptivatingは型番をCaptivating Sound Armada (CVSA)と変更。カタログナンバーも001から再スタートされています。
今回の記事でピックアップしている曲はいずれもこのCVSA初期にリリースされたもので、いずれもArmada初期の代表的な曲となっています。
詳しいレビューは後述しておりますが、まずは先に現在Captivatingがどうなっているのか紹介させて頂きますね。
現在のCaptivating
Armada MusicにおけるCaptivatingブランドは今でも健在で今年で20年目を迎えています。Armadaグループ内で2003年から現在まで続いている他のレーベルでは当時新設されたA State Of TranceとCaptivating Soundsと同じく移籍だったArmindの3ブランドだけなはずなので、それを考えるとこのレーベルの貢献度はかなりのものですね。
健在とは書いたのですが、Captivating自体はArmadaグループに編入された時点で既に2代目。更にArmadaグループ内でレーベル再編が行われた2014年に更なるリスタートを迎えており、実際には現在のCaptivatingは3代目。今はArmada Captivatingという名前で活動を続けています。
新生CaptivatingとなったARCV001はDavid Gravellの”The Last OF Us"という曲。型番と略称も再び一新。また001から再スタートとなりました。
この頃のCaptivatingは2010年頃にリリースの中心だったTech TranceからBigroom系とのコンバートを狙った所謂Armada系Trance中心に移行しており、David以外ではHeatbeatやDRYM、Protoculture辺りのアーティストが活躍していました。
同レーベルからの当時のProtocultureのヒット作"Manticore"
2023年の現時点では200リリース以上がARCVから行われており、看板アーティストのBen Goldを筆頭に新たなヒットメーカー達も世に送り出し続けているなど新人発掘にも熱心なレーベルですね。
2022年のメガヒット"Same Sky Same Stars"はCaptivatingから
また、それらと並行して当時のトランスヒット作のNew Remixも本レーベルから多くが世に送りだされています。
近年ではSolarstoneの代表作"Seven Cities"の再ブレイクを筆頭にThe Space BrothersやDaren Tate, Lost Witness, Lange, Sunloungerなど往年の名アーティスト達の楽曲を復刻させてきました。
この辺りのやり方、ワーナー時代のレーベル運営にも近いのである意味では先祖返りしていると言えるのかもしれませんね。
Armada MusicにおけるCaptivating Soundの位置付け
次に初期のArmada MusicにおけるCaptivatingからリリースされる曲の基準についてもお話します。
当時のこのレーベル、サウンドやレーベルカラーについては「明確にこの路線でいく!」というような強い指針はそれほどなく、レーベルカラーを明確に示していた他のArmadaレーベルに比べても若干曖昧なところはありましたね。
採用されるアーティストも当時の若手からベテランまで層の幅は広かったですし、リリースされていた曲もテック系からプログレッシヴ、ダッチトランスの発展形、後にArmada系トランスと称されるような大箱向けのアッパーなProgressive Tranceの初期型など様々な曲がリリースされていました。
2004年にリリースされたStarsignのTaurus。Markus Schulz, Austin Leeds, Matthew Dekayによるスペシャルプロジェクト。特徴的なフレーズが耳に残る個性的なプログレッシヴハウスでした。パーティーの為のトラック!
こちらも2004年のCaptivatingからのプログレッシヴチューン。Jan Johnstonの曲をBenz & MDがRemixしたことで界隈ではかなり話題になりましたね!
当時のCaptivatingはリリース毎にジャンルも曲調も異なっていたので共通する部分は少ないのですが、強いて言えば当時のトランスシーンを振り返っても他にあまりないような曲や新しいトランスを率先してリリースしていましたね。とにかく新しいサウンドを追求しているような印象がありました。
2004年に筆者が衝撃を受けた1曲"Exit"もCaptivatingからのリリースでした。後に人気プロデューサーとなるVazim Zhukovの初期作。
当時のレコードの流通量や再プレスの頻度からしても人気や売り上げではArmindやASOTの方が高かったのは間違いない事実なのですが、常に新しいものを求めるDJ達からは熱烈な支持を獲得していたレーベルだったのは間違いないですね。
今回はそんなCaptivating Sound Armadaの20年前の初期作から本レーベルの魅力が溢れまくった3作をピックアップしました。
Danjo & Rob Styles - Aragon [CVSA 001]
新生Captivatingのリリース第1弾となった記念すべき作品は当時台頭してきていたのオランダの若手プロデューサーとDJのユニットDanjo & Rob Styles(後にDanjo & Stylesに改名) による"Aragon"という曲。
テックトランスムーブメントのまさに前夜といった時期にリリースされたファーストステップの本作。テック+トライバルでオランダらしいサウンドなのですが、方向性で言えば当時のSignumやKatanaのサウンドが近いと言えますね。
Tiestoが世界中のTiesto In Concertや世界各地のクラブでピークタイムにプレイしていた事で知られるEverlastの作者PrimerもDanjo & Rob Stylesのプロジェクト。
彼らはその後も同レーベルやBonzai系のProgrez、ID&T(後にHigh Contrast)など人気レーベルからリリースを重ねていましたね。
先にKatanaの話も出ましたが、次に紹介するのはArmada初期のテック系では外すことが出来ない1曲。Arminも当時めちゃくちゃヘビープレイしていました。
Katana - Tribak Shock (A13) [CVSA 003]
本作の制作者は1990年代前半から自身のレーベルJINXをスタートさせ、Mac ZimmsやSignum, Mark Normanを世に送り出すなど実績からテックトランスの始祖的な存在として称えられるKatana (Randy Katana)
Tribal Shock (A13)はKatanaによる00年代の代表的なヒット作の一つ。この時代のKatanaはIn SilenceやFancy Fair、Play It Loudなど多くのヒット作を手掛けていましたが、これらの曲はちょうどテックトランスが人気爆発していた頃にSpinnin’のテックトランスレーベルResetからリリースされていたのでKatana自身はArmadaよりもSpinnin’系のアーティストというイメージが強いですよね。
Tribal Shockはそれらのヒット作に先立ってリリースされており、ArminやTiesto, Paul Van Dyk, Markus Schulzらを筆頭に多くのトランスDJ達がプレイしたことで当時大ブレイクしました。
テクノのビートとトライバルでマッチョなグルーヴ、ソリッドなベースライン、トランスの高揚感を併せ持った本作はトランスともテクノとも形容し難い新しいサウンドとして受け入れられました。おそらくはこういう"他にはない感じ"こそがCaptivating Sound Armadaの"らしさ"だったのかもしれませんね。
Katanaの作品自体もこれ以降のヒット作は基本的に後のテックトランスのフォーマットで作られた曲が多かったですね。テックトランスシーン自体もは次第にトランス色が強めでブレイクがハンズアップ系の大きなものがメインストリームとなっていったので、それらがフォーマット化される前にリリースされたこの曲の作風は今聴いても当時を思えばやはり異色作だったと感じます。Katanaの鬼才ぶりがわかる1曲。
もう1曲、2003年のCaptivatingから紹介させて頂きます。先の2曲はアプローチ的がテック寄りでしたが、最後に紹介するのは正統派のユーロトランスでArmadaやASOTの方向性を位置づけたサウンドともいえます。
Octagen & Arizona - Starburst [CVSA 004]
"Starburst"はOctagen & Arizona (後のRe:LocateとThomas Bronzware)が2003年末にリリースした楽曲で、発売前にはラジオショーのASOTでも5度に渡ってプレイされた他、当時のヒット作とArmada初期の名作が多数収録されたArminによるMix MagのCD "Bigroom Trance"にも終盤に入っていました。
当時のArminを追っていたトランスファンなら一度は耳にしたことがあるであろう本作は先に紹介した2作とは全く方向性の違う底抜けに明るい幻想的なトランスで明け方やパーティー終盤に気持の良い感じのサウンドとなってます。
Amadaは当時からパーティーで踊るだけでなくリスニングでも楽しめる楽曲をリリースする点においても注力していたので、そういう背景もこの曲が支持を獲得した要因にはあったのだと思います。
設立から20年が経った今振り返ってみて、特に2000年代中期以降のトランスシーンはArmadaグループの躍進の時代だったと確信をもって言えるのですが、2003年頃を境にArminが主導した新たなヨーロッパ系トランスブーム、ASOTやArmada Musicが時代を切り開くために贈りだした初期の1曲がまさに本作であったり、以前に紹介したEnvioのリリースだったり、翌年のSolid Globeの"Sahara"などであったのかもしれませんね。
これらはそれだけ世界中の多くのTranceファンに支持をされた曲でもありました。この辺りの話はレーベルのA State Of Tranceの特集をする際にも話していく予定です。
まとめ
20年前のArmada Music特集はいかがでしたでしょうか?
個人的にかなり期待しているのはこれらの名曲の復刻が20周年という節目で復刻が行われることで、今のアーティスト達がどんなRemixを手掛けてくれるのか?というのは本当にワクワクしています。
今回紹介しきれなかった曲、また2004年以降のCaptivating Sounds Armadaにも実に多くのお薦め曲があるのでそれらをプレイリスト化しました。今回紹介した曲を気に入ってくれた方は是非チェックしてみてください。
また、この辺りの曲も多くプレイされ続けているTrance & Progressive Classicsのパーティーに"One and Only"がありますので、パーティーで聴きたいという方はこちらも是非!
"One and Only"は当時から活躍されていたYODAさんやTokunagaさんをレジテントにゲストDJと共に年1~2回くらいのペースで開催してきました。
2015年にスタートしており、2020年に行う予定だった5周年が開催できなかったこともあって今年の5月に8周年パーティーを盛大に行います。
日程は2023年5月26日金曜日の夜。場所は東京の吉祥寺にあるClub SEATAです。フルラインナップとスペシャルゲストも近日発表致しますが、特に当時からのトランスファンにとっては嬉しい発表になるのではないかと思いますのでご期待ください!
また、本記事を面白いと感じていだけたら"スキ"やフォロー、またSNSやパーティーで私を見かけた際に声をかけて頂けると嬉しいです。
それが原動力になりますので。それでは来月のArmada20周年第二弾も来月公開予定なのでどうぞお楽しみに!!
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