【連載】日本のストリートボール史 vol.6

- 新たな仲間とライバル達の登場編 -
※個人の記憶を奔放に綴った内容ですので、事実と異なる点もきっとありますがご容赦下さい。

まずは埼玉。SPORTS AUTHORITY主催の「3on3 HOOP TOURNING 03」の”審判バイト”で日銭を稼いでいたAJとCOHEY。埼玉エリアの大会に行った際に、可能性を感じた2人の選手に声を掛けていました。それがMATSUとHIDE。

大学日本一やインカレMVP、海外でのプロ経験など、輝かしいキャリアを持った初期メンバー3人の次に加わったのは、全くのノンキャリア、埼玉奥地の不良達でした。ただし正メンバーというよりは、まだ準メンバーであり、パフォーマンス要員といった扱いでしたね。しかしMATSUとHIDEは、その実直で熱意溢れる姿勢により、スタッフ陣も含めてすぐに厚い信頼を獲得したのでした。

次は千葉。千葉バジャースに所属していた岩佐潤(JUN)を「夏にタダで沖縄いけるよ」と、まだ具体的な日程も決まっていない状態でAJが勧誘。とりあえず一回練習だけでも来てみてとおびき出し、そのまま引きずり込んで行きました。

最初はチームと微妙な距離感があったJUN。でも掲げる大きな目標や、練習時の熱量に触れて、”タダで沖縄”以上の魅力を感じたのか、毎回練習に参加するようになり、すぐに主力メンバーの一人となっていましたね。

ある日の練習。少し遅れて体育館に着くと、見慣れない男が参加していました。大声で乱暴に指示を出し、プレーでも存在感でもコート上を支配している様子。AJはタメ口、CHRISとCOHEYは敬語。一体何者なのかとAJに尋ねると、”アツシ。帰ってきたんだよ”。

AJと同様に、LAの大学に留学していて、少し前に帰国。どこでバスケをやろうか所属先を探している状態でした。そんな彼にも我々のパワーワード”タダで沖縄”は効いたようで、常にでかい態度ながらも練習に来るようになりました。

AJ、CHRIS、COHEY、JUN、ATSUSHI、MATSU、HIDE。徐々に賑やかになっていった東高円寺での練習。ここまで発掘や勧誘によって増えていきましたが、例外が訪れます。6月のトライアウトはまだ2週間ほど先の頃。

”大手町に来て”

平日の昼間に呼び出され、千代田線大手町駅の改札にはAJ、CHRIS、COHEYの3人がいました。向かった先は現在はもう無くなってしまった「神田橋公園バスケットボールコート」です。

”一人だけのトライアウトをやる”

ちゃんと説明してくれないのが彼らの特徴。よく意味の分からないまま10分ほど待つと、駅側からではなく、ホームレスの荷物が置いてある川沿いの方向から何者かが現れました。

ドューラグにヘアバンド、そこから何本もはみ出ている編み込んだ髪、そして4XLであろうTシャツに膝下まであるバスパン、おまけにドラム缶みたいに大きな黄色いラジカセを背負った100%の不審人物です。

右手にボールを持っていたので、トライアウトの挑戦者だとすぐに分かりましたが、FEB側とその人物の間にはヒリヒリとした只ならぬ緊張感が漂っていましたね。余計な会話は一切なく、すぐにハンドリングやシュートの実技が始まりました。無言で真剣な眼差しの3人。

そして1on1や2on2を軽くやってトライアウトは終了。コートの4人の雰囲気を眺めていると、どうやら合格したようです。そうしてやっと笑顔が見れたその人物。

“ユーローって言います。さっき福岡から来ました”

AJ・COHEYと同じ出身地で、年齢も同じ。元々地元で繋がりのあったAJに、FEBの噂を聞いて連絡してきたそうです。90年代から福岡のストリートでプレーし腕を磨いてきた生粋のストリートボーラー。

子供の頃から超エリートであったCOHEYに、大きな尊敬と一方的なライバル心を抱き続けてきたというU-LAWが、この日、同じチームに所属することになりました。人生何が起こるか分かりませんね。

またもや起きた突飛な展開に、こちらは戸惑うばかりでしたが、何はともあれ

”一緒に頑張ろう”

そして基本的な疑問、今日から住むところはあるのか尋ねると、”大丈夫”。

東京に知人がいるのかなと特に気に留めていませんでしたが、後々聞いてみると、着の身着のまま羽田空港に降り立って、トライアウトまで時間があったので、品川駅の通路でボールパフォーマンスをしていたところ、食い入る様に見ていた女性がいたので、思わず声を掛けて、なんとそのまま居候させてもらうことになったそうです。
そして適度な距離感とお互いの夢を語り合う良好な人間関係を築いていたとのことでした。

そんな色々ミラクルを起こす九州男児も加わり、3人から8人へと一気に増殖したFAR EAST BALLERS。人が集まることで練習も内容が濃くなり、少しずつ”チーム感”も出てきましたね。

そしていよいよ、第一回目となるトライアウトの日がやって来るのでした。

つづく

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