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【12.07 帰り道】
目があった彼女は、足を引きずっていた。
イエメン料理をお腹いっぱい食べた帰り道。物乞いの少女がついてきた。
“ちんちゃん”という、中国人を小馬鹿にした呼びかけを何度か発して、それ以外のことは何も言わなかった。
無視したり、ノーといってみたり、あげない姿勢を示したけれど、中々諦めない。
私の方が身体が大きくて、こちらは大人が4人だ。それなのに、小さな彼女が発する執念に、反射的に怖いと思う。早く大通りまで出たくて、どんどんと早足になる。
そういえば、レストランでもらったガムがあった。たぶん食べないだろうし渡してしまおうか、とよぎる。渡したら、物乞いへの肯定になるのでは、とも思う。
満たされたお腹のまま歩き続ける。彼女が最後に食べたごはんは、なんだったんだろう。
私たちのあいだを、往復する言葉がない。
“ちんちゃん”とかけられた声は、こちらに届くことなく、むなしく地面におちた。私は、彼女の名前すらきけない。
できるだけ目をあわせないように交差点を渡る。振り返った時にはもう、少女はいなくなっていた。ガムは渡せないまま、まだ私のかばんの中にある。
レストランをでたとき、彼女はこちらが分かるように足を引きずってみせた。200mほど一緒に歩いて、あれがパフォーマンスだったことがわかる。彼女を“かしこく”したものは、いったいなんなんだろう。
国籍も年齢もちがった。でも性別は同じだった。置かれた状況は、きっと私の想像力の範囲を超えている。それでも、4人と1人だったかもしれないけれど、私たちはたしかに、あの暗い夜道を一緒に歩いた。
*写真は道端のサボテン。だれかが育てているのやも。
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自分のきもちの備忘録とジブチのことについて、ゆるゆると発信するnoteです。