シン・西早稲田汽缶室の進捗_0226
あおぞら益虫倶楽部とは国籍・性別・人数一切不明の音楽ユニットである。
覆面音楽ユニットという存在は、一度は音楽活動を志したことのある少年ならみな持っているロマンだと思っている。ダフト・パンクみたいな物理ヘルメットのカッコよさには今でも憧れるものがある。メンバー全員が同じオオカミのマスクで登場することで見せる「結束力の強さ」を感じさせるMAN WITH A MISSIONの出で立ちも良い。全員がホラー映画に出てくるようなキャラクターのマスクで現れてハードな演奏もこなすslipknotの「正体を探ってはいけない」と思わせる感じも好きだ。
ミュージシャンで同様のロマンを感じる「正体の隠し方」といえばド派手なメーキャップだ。ロック界の超・大御所となったKISSはそのメイクと衣装、そしてステージ上の仕掛けの数々で観客を魅了した。そのKISSと同じ手法で以て90年代のキッズたちを熱狂させたマリリン・マンソンを忘れてはいけない。事実、私はアルバム「アンチクライスト・スーパースター」発表時期の彼の大ファンであった。ステージで時折みせる自傷行為や激しいパフォーマンス、そしてスキャンダラスな言動と事件。彼はロックスターが持つべきすべての輝きを自身のグロテスクな立ち居振る舞いで表現しようとしていた。有名女優の名前と有名殺人鬼の苗字を掛け合わせたネーミングも非常に良かった。
あおぞら益虫倶楽部は現時点で誰にもその素性が知られていない、という意味で覆面音楽ユニットと呼ぶにふさわしい。インターネットの情報拡散力はエンターテイメントからミステリアスさを奪ってしまった。映像作品でも音楽作品でも「知らない・分からない」ことを“ひっそりと”楽しむ文化は、無数の考察動画に駆逐されかかっている。自身の活動をアンダーグラウンドでも行わないという方法で、あおぞら益虫俱楽部はそのミステリアスさを守ってきた。シン・西早稲田汽缶室でそのパフォーマンスが見れるのは私の至上の喜びだが、秘匿性が失われてしまうことは大きな悲しみでもある。しかし、彼/彼女/彼らはその出演をOKしてくれた。
ここで新しい情報が入った。
あおぞら益虫倶楽部のプロフィールを紹介する。
メンバー：
井西 栄人（いにし えいと）
サクリファイ 据銛（さくりふぁい すえもり）
以上がFAXで届いた全文である。私はここからあおぞら益虫倶楽部の素顔を垣間見るヒントを得た。
まずは「井西 栄人（いにし えいと）」という名前。ここからまず連想されるのは「イニシエーション=通過儀礼」だ。通過儀礼が存在するということはその先に目指すべき何かがあると言うことである。その目的地とは一体どこなのであろうか。ここでもう一つのヒントがある。（おそらく男性であろう）彼の名前に含まれている。「いにしえ＝過去」という言葉に注目してほしい。これから進むべき場所にたどり着くにあたり、過去に学ばないといけない。これはそういうメッセージ。井西と言う苗字は何を意味しているのであろうか。井戸は人々の生活の象徴で、日が落ちていく西というのは休息を暗示している。そしてそこに「人」の繁「栄」がある。古（いにしえ）の人類は日が暮れたら休息するしかなかった。ただ体力や英気を養うだけでなく次の世代を作っていく人としての営みがあった。スマホを捨て、インターネットを遮断し、電力への依存から脱却しなければ人類は次のステージに進めないという警鐘を彼は鳴らしている。
もうひとりのメンバー、「サクリファイ 据銛（さくりふぁい すえもり）」は何者なのか。サクリファイとは犠牲や生贄を意味する。据銛という名前から狩猟によって獲得された動物が生贄になる様を想像するのは容易い。しかし二段・三段の仕掛けがきっとある。そう、据・銛という文字を分解して考えるのを忘れてはいけない。手・居・金・舌……ここで注目すべきは「居」という漢字の成り立ちだ。固い兜の上に腰を下ろす人の姿が「居」の起源と言われる。この兜は一体誰のものだったのか。自身の兜であればそれは休息を意味するが、敵将の兜であった場合はどうだろう？そういった命をやり取りするような場で身振り・手振りを駆使して言葉巧みに語り、金を手にしてきた人物がこのサクリファイ 据銛なのだ。
私は少々語りすぎてしまった。本来であればこのような考察こそ、誰にも明かさず、自分の中にとどめ、時間をかけて熟成させていくのが「ミステリアスさの楽しみ方」であったはずなのに。私自身もインターネットに深く毒された俗物なのだ。だからこそ彼らの“教義”に強く惹かれるのかもしれない。とにかく私たちは次のステージに向かう準備をしなければいけない。そのためにも2月28日、私と一緒に「あおぞら益虫倶楽部」のパフォーマンスを見届けよう。そして、大事なことをもう一度伝えておこう。
あおぞら益虫倶楽部とは国籍・性別・人数一切不明の音楽ユニットである。