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「ミスト(2007)」 は極限状態における行動様式のシュミレーションとなる

ミスト (原題 The Mist)  
監督・脚本 Frank Darabont (ショーシャンクの空にの監督)
原作はスティーブンキング Stephen King

あらすじ:
深い霧に包まれた街で巻き起こる怪異と,徐々に秩序を失う人々が描かれる。(Wikipedia)

感想:
「原因不明の霧が建物を多い, 外の様子が全く把握できない状況に突然放り込まれた人々はどういう行動をとるのか. 」

"密室"は使い古された舞台の一つ. SAW, Cubeといった有名な映画はもちろん, サスペンス小説の世界でも最も登場頻度の高い設定.  
従来の密室達が"目覚めたら寒々としたトイレにいた"とか"不気味な立方体の中にいた"という物々しいものばかりだったのに対して, 日常生活の代名詞であるスーパーマーケットを舞台にした点がミストの特徴かなと思った. 「偶然放り込まれた閉空間」「生活感溢れる場所が悲劇の舞台に変わる」とか,なんとなく木下半太の悪夢のエレベーターを思い出した.  

ジム「ハリウッドやニューヨークで知られた画家かもしれないが, 俺たちより偉いわけじゃない. 大卒のあんたがビビったからっておれをなめるな.」

弁護士「この街に税金を払う私にあんたは陰口を叩いている.
田舎者は結束力が強い.」

強い不安を抱える人は, 普段と違う言動をとる. ある人はそれが現実逃避的な行動になり(後のハティの自殺), 別の人はそれが他者への攻撃になる. 上の二つのセリフは, 完全に後者だと思う. その場に全く関係ない事柄を根拠に(学歴, 出身, 過去の裁判の勝敗など), 相手を貶し物事を決めている. 喧嘩するカップルが, 一度忘れ去った過去のことを蒸し返して武装するのと全く同じ構造だと思う.

オーリー
「(危険なのに何故 外に出ることに固執するのか, という言葉に対し)
異常な状況の中で, これは解決できそうな問題だからだ.」

ダン「恐怖にさらされると人はどんなことでもする.
"解決策"を示す人物に見境もなく従ってしまう.」

人は常に"解決策"を求める.恐怖に晒されているときは特に.
WWⅠ敗戦と恐慌を背景にナチスが誕生したこと, 逃げ戸惑うことしか出来ない状況で "神に許しを請い, 生贄を捧げればよい"というシンプルな策を提示したキリスト教信者(ミセスカーモディ)が最終的に大衆の支持を集めたこと. この二つは似たような原理なのかもしれない.
 ミストはここを徹底的に描いた精神分析的映画だと思う.  


 虫が大量に襲ってきた時, このカーモディだけ偶然襲われなかったことが彼女の信仰心をより一層確信に近づけていて面白い演出だと思った. つまり彼女の頭の中で"信仰→神に許される存在→虫が胸に止まっても襲われなかった→これは普段の信仰のおかげ"というストーリーが強化されたわけで, 主人公にとってもともと厄介な彼女がよりパワーアップしたエピソードだった. ジェサップ二等兵のリンチシーンには物凄い絶望感がある...  

 あと, 主人公たちと意思を共有し, 危険を顧みず隣の薬局まで行ったジムが, 壮絶な体験をして帰ってくると, すぐにカーモディの支持者になったのは面白いと思った. カーモディを支持する大衆だけでなく, 主人公に近い人が, "解決策"に飛びつくようになるまでの変化を見せてくれる.

最後に:
ミストは, パニック物のパッケージを被りながら, 社会的, 政治的, 精神分析的示唆に富んだサスペンス映画だった.  安易な二項対立と正解の提示を避け, 細部まで非常に思慮深く作られている. 結末は賛否両論であり, 批判的な声も多いが(きちんとしていると思った批判→https://marsconnector.com/entertainment/cinema/the-mist.html), それもまた名作の宿命かもしれない. どちらにせよ, 深くて意地悪な後印象を観客に与える映画だと思う.


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