巡査長真行寺弘道 ワルキューレ:榎本憲男:警察小説として成り立っているからこそ

「巡査長真行寺弘道 ワルキューレ」(14/2021年)

次はコレかい!前作のブルーロータスとはガラリと違ったテーマで攻めてきたな。本シリーズは、警察小説としての事件は、あくまでもテーマを語るためのキッカケに過ぎないのね。事件を解決する流れの中で、読者に、半ば過剰なまでにテーマに関する情報や作者の思いを注ぎ込む手法、僕はハマりました。心地よいです。

今回は誘拐事件です。かなり怪しい誘拐事件です。何が目的なのか、全ての鍵はそこです。

で、今回のテーマです、「男と女」の問題。フェミニズムなんて言葉では表現できない、もっと根に近い思想、非常に大きくて難しい問題にストレートに切り込んでいます。本当に直球勝負。誘拐された少女は同性婚、女性の両親の家庭で育ちました。更に、育っただけではなく、人工授精で、過激な企みの下で産まれたりして。

作品内では、あくまでも事件を解明するために書かれているのでサラリと読めてしまいますが、冷静にその内容だと取り出すとハードなことばかりです。性別の議論の先にある、性別の「別」を破壊しようとする試み。そうすれば全ての問題は解決するのだろうが、そもそも、解決すれば良いことなのだろうか、という所まで話は過激に加速していきます。

警察小説として成り立っているからこそ出来る技です。世の中の「悪」という相対的な価値と戦う警察という現場がベースだからこそ、過激な議論も収まりが良いのかもしれません。次のテーマは何か、今から楽しみ楽しみ。

あと、後日談がただの後日談で終わらない最後の一ひねりに作者のエンタテインメント魂を感じました、熱いです。

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