夜の国のクーパー:伊坂幸太郎:やっぱ、伊坂だよね。
「夜の国のクーパー」(79/2022年)
何の話なのか、分からないモヤモヤからスタートして、この結末でしょ、これは伊坂じゃなきゃ味わえないよね。スピード感とか、大どんでん返しとか、超絶叙述系とか、リアル社会派とか、伏線回収フェスティバルとか、そういう流れから一線を画している至高感、伊坂じゃないと楽しめないこの特別な感じ。
物語の舞台は架空の世界みたいだ。猫が人間の話すことを完全に理解しているが、人間は猫が言葉を理解していることを知らない。そんな描写に挟まれて、妻の不倫に打ちひしがれたしがない公務員が出て来る、その彼は猫と会話してしまう、ミステリアス。
架空の世界の猫が住んでいた国は、他国に侵略され支配下におかれてしまった。残虐な占領政策に動揺する市民たち。その中で、その国に伝わるクーパーの伝説が俄かに注目を浴び始める。
読み終わった後なので、上記の内容を理解できますけど、読んでいる最中は霧の中、いや濃霧の真っ只中にいる気分です。この話の本筋はどこなのか、猫か、敵国か、クーパーか、それともサラリーマンなのか、フワフワでドキドキ、伊坂マジックに身を委ねるしかない。
そう、伊坂作品ならば委ねられるんです、その絶対的な信頼感があるからこそ成立する読書の醍醐味。
そして、この結末、というかオチには、もう笑ってしまいました。このトリックというよりも「罠」には参りました。そうさ、そうなんだ。悲しくも残酷な「政治」を描きつつ、このワールドに連れて行ってくれる伊坂、やっぱ伊坂だよね。