運転者 読書感想文
私の苗字は「北川」。
幼い頃から、生まれ育った家庭に不満があり、親から受け継ぎたくなくとも、受け継いだものを変えようとするところがあった。
たとえば、苗字も「北川」ではなく「喜多川」という漢字を使用していた。
役所や銀行に出すような書類以外、学校のテストやポイントカードなんかでは「喜多川」と名乗っていたのだ。
受け継ぎたくない。しかし、今の自分には変えられない現状。
という思い込みからか、大胆に全く異なる名前、芸名や、ハンドルネームのようなものを名乗るわけでもなく。
読み方は同じだが、漢字が違う苗字を名乗っていた。
「北の川よりも、喜びが多い川の方が縁起も良い感じがするしね。」と。
世にも奇妙な物語「運転者」
仕事も家庭もあまりいい状況ではなく、常に不機嫌な保険会社勤務の中年男性が、
たまたま拾った、世にも奇妙なタクシー。
料金は既に支払われていて、メーター金額が減っていく方式である。
そのタクシードライバーは、乗客の運を好転させる場所へ連れて行く者「運転者」だという。
中年男性は、そんな奇妙なタクシー運転者と出会い、今までの人生で凝り固まっていた固定概念が崩れ、少しづつ生きる上での考え方、価値観が変わってゆく。
そして、男性の人生も不思議な縁で紡がれてゆくのだが。
運を引き寄せるには、
「いつも上機嫌」「損得ではなく興味を持つ」
とタクシー運転者は助言している。
そして、どんなことが起こったとしても、
「むしろ良かったんじゃないか」
と思える心が大切だと。
この物語の中で巻き起こることは、決してファンタジーではない。
何気ない会話の一致や、不思議な巡り合わせ。
私もかつて、そのような世界を信じ、ワクワクと日々過ごしていた時期があった。
たとえ他者から見たら辛く厳しそうな状況でも、悲観することは全くなく、
「いつも上機嫌」「興味津々」「むしろ良かったんじゃないか」
それがインドで踊りすぎて一文無しになり、世界の路上で絵を売りながら旅をしていた、あの頃だ。
あれから6年の歳月が経つ。
結婚式から逃げ出して、母子家庭の道を歩む。
本と煙草と珈琲が大好きだった独身時代だが、ここ数年は、家事育児仕事に追われ、読書をする気力も無かった。
また、
あまりにも、シンクロ二ティや不思議なご縁、会話の一致が多すぎて、逆に何もかもが信じられなくなっていた。
誰かが真似しているだけなんじゃないか?
みんな自分の利益のために、仕方なく人に尽くしているんじゃないか?
とにかく、マイナス思考か続き、ワクワクの方法すら忘れてしまっていた。
そして、ようやく最近。
子供の授乳期が終わり、寝る前に趣味の読書を楽しめるようになってきたときに出会った本。
「運転者」
その昔は、好きな作家や話題の本などを好んで読んでいたが、今は、Kindle Unlimitedで推薦される書籍をなんとなく選んで読んでいる。
本を読み終えると、私のところにも「運転者」が来てくれたような気分になった。
私もいつの間にか、主人公の男性のように不機嫌、疑心暗鬼が当たり前となってしまった日常を生きていたのだが、忘れかけていたポジティブ思考を少し思い出せた気がする。
感動し、もう一度、本の表紙を見る。
著者「喜多川奏」
私が、かつて使用していた苗字と同じ著者名であり、名前は子供が産まれる前に候補として考えていた名前。
やっぱり、この本は私にとっての「運転者」なのかもしれない。
そんな風に、不思議で奇妙な偶然の一致、つながりを、また、素直に信じて、楽しめる心を思い出させてくれた物語。