DO THE RIGHT THING

初投稿。
今年の年越しは映画鑑賞でした。
個人的に好きな映画ベスト10には入るであろうスパイク・リー監督によるDo The Right Thing。20代前半の頃から何度か観てはいるが、観る度に見え方が変わってきた。自分が年をとったのもあり、近年でも盛んに取り沙汰される人種問題をよく目にするからというのもあり、より奥深い見方ができる映画だなと再認識。 

舞台は1989年真夏、ニューヨークのブルックリン。黒人を中心として、イタリア系、ヒスパニック系、アジア系、ユダヤ系と様々な人種が入り乱れる街。そこで25年間ピザ屋を営むイタリア系のサルとその息子たち、配達係として働く黒人のムーキーを中心として物語が展開していく。小さな面倒事はありつつも、25年もの長い間、黒人相手に商売して、子供達の成長する姿を見守ってきたサル。彼のピザを食べて育ったって言う子だっている。サルはそれを誇りに思い、人種が違えど共生していけることを信じていただろう。ところがあるとき、バギン・アウトという黒人の青年がサルの店に黒人の写真が一枚も飾られていないことに難癖をつけて黒人の写真を飾るまで店をボイコットするぞ、と喚き出す。黒人の街で商売してるんだから黒人の写真を飾れ、と。当然、サルは断固として断るのだが、、、 

物語は最初から最後まで随所にPublic Enemy のFight The Powerが流れる。レディオラヒームという大男がデカいラジカセを持ち歩きながらいつでも流している。Hip Hopに携わる者として当然俺も大好きな曲なわけですが、最後の方に流れる同曲は何ともいえない皮肉に聞こえた。権力と闘え、というけれどそこには権力なんて存在していなくて、あそこに登場する黒人達は白人=敵と決めつけて暴動を起こしたのだった。いかにイタリア系の白人であろうとサルは権力者でもなければ人種差別主義者でもない。警察の不可抗力もしくは不当暴力に対しての怒りならまだわかるが、その矛先を一介のピザ屋に向けるのは全く筋が通っていない。 
 もちろんこの映画が公開された89年に日本で生まれて育った自分には人種差別の実情はわかるはずもないし、自分が知る以上に根深い差別の実態があるのだろうとは思う。が、この作品は90年にさしかかろうという時代。50〜60年代の公民権運動を経て、公民権法が設立されてから20数年後の時代。
作中で描かれている黒人達は現状に不満を抱きながらも何かを変える行動には移さず、のらりくらり暮らしている男たちばかりのように見える。これは監督スパイク・リーが意図して描いた警告であると感じた。彼らが金もなく、生きがいを見出せていないのは少なからず彼ら自身にも責任があるということ。それは、黒人であることを言い訳にして、キング牧師やマルコムXらの命を賭した活動を無駄にするなという嘆きとも怒りともとれる監督からのメッセージのように思う。そうなった背景には居住する地域や経済事情によって上に上がりたくても上がれない社会的制約もあっただろうし、まだまだ根深い差別も色濃く残っていたであろうことはわかるが、その現状に甘んじるなという思いが物語の最後にラジオDJが言う「選挙名簿に登録しろよ」と言う言葉に表れている気がする。 
 
 群衆はある一つのきっかけさえあれば日常の抑圧された負の感情を手近な対象にぶつける。少し飛躍はあると思うが、植民地時代に列強諸国が行った分割統治にもよく見てとれるように、権力者達は群衆のその性質をうまく利用して意図的に対立構造を作り出し、怒りや不満の矛先を支配者である自分達に向かないようにそむけさせる。自分達の遠く離れた見えない敵よりも近くの相手にぶつけがちなのは我々日本人だって身に覚えがあるでしょう。
誰々と誰々が対立してモメてるだのそんな話はどこの世界でもある話で俺の身近なところでもたまに耳に入ってきたりもする。俺がそんなときいつも思うことは、こんな近いところに敵はいないよ、と。
本当の敵はもっと遠くの高いところからほくそ笑んで俺たちを見下ろしてるよ、と思う訳です。近年盛んに言われるあらゆる「分断」や「差別」だって人々の目をそらすために仕組まれているものだとすら思っている。マス・メディアが分断や差別を口にすればそこに分断や差別が存在することになる。本来は存在していなかったかもしれない偏見を作り出すことだってできる。(もちろんマス・メディアも一枚岩ではないから全部が全部プロパガンダ的であるとは思っていない前提での話。)
横方向の文化闘争を作り出すことで上下の階級闘争をカモフラージュできる。それはグローバル経済が進んだ2025年においても同様で、ジェンダー、人種、移民等の多岐にわたる論争も巨大グローバル企業からの必要性に応じた要請によるところがあるとする見解を提唱する有識者もいる。
 何かに対して問題意識を持つことはとても大事なことだが、その問題の根底で動く大きな力や構造そのものは何なのか、自分も含めてより深く見る必要がある。もちろん誰々にどんな意図があって、、と断定することは難しく、ある意味危険なことでもあるが、例えばRage Against The Machineの曲にもあるように「Know Your Enemy」本来の敵は何か見誤るな、知性を持ち、表面だけを捉えずよーく考えた上で行動を選択することは大切だ。 
 
 映画の話からかなり離れてしまったけど、Do The Right Thingは現代においても実に様々な捉え方ができる映画。正直ハタチそこそこのとき観てもあまりピンと来なかった。なんかずっと揉めてるなぁ〜くらいで。こういった受け手によって全く表情を変える作品がとても好き。

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