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未来の人

世代的にはずれているのだが、ケムール人の造形に心を奪われていて、いつかソフビを手に入れたいと思っていた。出かけようと思えば近くに玩具店はあるし、出かけなくてもオンラインで気軽に注文できる。いつでも購入できる環境であるにも関わらず、その想いはずっと放置されたままになっていた。そして、ケムール人そのものの存在をすっかり忘れてしまい、数年が経過。
先日、同僚と何気ない会話を交わしている時に、特撮の話題になった。ヒーローものやアニメをほぼ体験していない僕は、話の内容についていけなかったのだが、その会話の中でケムール人の存在を思い出したのだ。僕はケムール熱が冷めぬうちに、すぐさまソフビを手に入れ、本棚にこそっと飾って浮かれた。レアになって価格が高騰しているのではないかという懸念もあったが、ディテールにこだわらなければ、新品、中古を問わずそこらに売っていた。
ようやく入手したケムール人を眺めていて疑問に思ったのだが、そもそも、こいつは一体何者なんだろうか? その他にも、ケムール人と同様にデザインに惹かれてピグモン、ギガス、ブースカなども購入したのだが、ウルトラマンにとってこの怪獣たちが敵なのか味方なのかも分からない。もっといえば、一話を通してウルトラマンを観たことがない。断片的にちらっと観た程度で、そのわずかな記憶の欠片も消滅しかけている。そのような話を友人に伝えると不思議がられた。幼少期の思い出や憧れであるとか、なにかしらの特別な動機がないだなんて信じられないと。確かに思い入れがないといえばないが、造形に魅了されただけの衝動ではだめなのか。上記にあげた怪獣がどんな特性をもっているのか知らないし、購入のタイミングで名前を知ることもある。見た目だけでチョイスしているので、怪獣と怪人の中にたべっ子どうぶつのシロクマがしれっと紛れ込んでいたりもする。戦隊ものを観て育った友人は、僕がセンターのポジションにケムール人を配置していることも、どうやら気に入らないみたいだ。目立つポジションにヒーローが不在である現象に違和感があり、歯痒いのだ。
「お前みたいなもんは、ウルトラマンの活動時間も知らんのやろがい」
「3分や」
「それは知っとんのか」
「ソフビはマニアだけのもんじゃないんじゃいっ!」
内心は、当たって安堵していた。タイマーといえば、3分(=カップ麺)だ。それ以外に思いつかない。改めて考えると、重労働ではないか。3分で敵を張り倒さなければならないのだ。過酷すぎるブラックな労働環境に動揺してしまったが、悟られないように冷静を装い、ケムール人推しを貫いた。
「俺にとってのヒーローはケムール人や」
素性を知りもしないくせに妙な意地だけで友人を黙らせたが、数日後にはウニドグマがセンターを奪っていた。
なんか、パンクっぽくてカッコいい。
その程度の理由である。

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