フルスウィング[中編]

小学校最後の夏休み。ちょっとした騒動が起きた。
地元の縄張り(クワガタ、カブトムシなどが採れる山)をヤンキー中学生に占領された僕らは、Kくんを中心に同級生七~八人で集まり、撃退作戦を練っていた。体格がひと回り違うヤンキーでも、みんなで一斉に襲いかかれば勝てるのではないか。アホな男子が道端に集まり、机上の空論を繰り広げた。次第に僕たちは妙なテンションに陥り、中学生どころか、相手が誰であろうと倒せる気になっていく。意思は疎通され、興奮状態は絶頂に達する。あとはヤンキーが現れるのを待つだけだ。
ここで僕はただならぬ不安に襲われる。悪戯好きなKくん。実は僕だけを残して、みんなで一斉に逃げるのでは? Kくんならやりかねないが、防御策を思案する間もなくヤンキーが現れた。
しかし、僕が懐疑していたこととは真逆の現象が起こり、Kくんを残して、みんなが脱兎の如く一斉に逃げ去ったのだ。
Kくんを除く同級生たちは、ヤンキーの鋭い眼光に耐え切れず、友情・努力・勝利を道端にぽいっと放り捨て、裏切る。ついさっきまであんなに盛り上がっていたのに、仲間を置き去りにして逃げるだなんて薄情なやつらだ。 僕は同級生たちが逃げた行方を睨みつけながら、ヤンキーから数歩離れた微妙な距離に位置していた。
Kくんはヤンキーに打ちのめされ、惨敗した。唇から真っ赤な血飛沫がほとばしり、痛々しい。Kくんはヤンキーにどんなに殴られても眼を反らすことなく、最後まで反抗的な態度を貫いた。
ヤンキーが去ったあと、Kくんが「お前だけは逃げなかったな」と嬉しそうに呟いた。
「お、おう。あたりめーよ」と虚勢を張り絆の固さを強調したが、恐怖で足がすくんで逃げ遅れたことは黙っておいた。

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