誘発を引く確率の話
座学に見せかけたお遊びの記事です。
1.はじめに
遊戯王OCGのカードプールは年々強力になっており、先攻展開の盤面は過去に類を見ないレベルで強力になっています。
ここ最近は《カタパ》《ボムフェネクス》《アトランタル》等の先攻ワンキルも話題ですが、筆者は【スネークアイ】等の先攻展開もライフを8000取らないだけで、やってることはほとんどワンキルと同じだと考えてます。
上図は一例ですが、昨今の大会環境における先攻展開の盤面は、妨害数をほどほどにしてリソースを場と墓地に分散させる傾向があります。《結界波》や《拮抗》等の捲り札で盤面を返すだけなら不可能ではありませんが、それだけでは妨害とリソースのうち妨害だけしか剥がせず、次の相手のターンに残ったリソースで展開されてゲームエンドを迎えます。
そのため大会等では、手札誘発を使って相手の先攻展開を弱化することが替えのきかない有効戦術となっており、勝つためには最低限の手札誘発の引き込みが必須となる場面があります。
しかしながら、誰しも「誘発を引けない」という経験があると思います。昨今の大会環境はこれがゲームの勝敗を決する傾向が特に強く、引きが弱いことで圧倒的に不利なゲームを強いられる場面が存在します。
悔しい話ですが、こうなると対戦相手がミスをしない限りは一方的なゲームになる可能性が高いです。誰でも強いプレイヤーに勝つチャンスがあるというのは遊戯王の魅力ですが、それは頑張って研究してきたプレイヤーが理不尽に負ける可能性があることも意味しており、嫌気が差したプレイヤーが他のゲームに流れてしまうのもここ1,2年でとても多く見られます。
本記事の目的は「それでも遊戯王がしたい!」という方へ、筆者が改めて構築を見直して調べたり計算したりした内容の一部を共有し「最低限の誘発を引ける構築ってどんな感じなの?」という疑問に私なりに回答することになります。デッキを見たり組んだりするときの視点を養う助けになればいいなと思います。
2.計算の前に
まずここで言う「誘発を引けない」というのは本当に手札誘発を引けないわけではなく、正確には「先攻で誘発ばかり引いて初動の引きが弱い」かつ「後攻では初動ばかり引いて誘発の引きが弱い」という2つの事象が高い頻度で発生することを指します。
そのため本記事で注視するのは「バランスの良い初手5枚の引き込み」とし、上図の6種のうち赤で囲った「初手に手札誘発が2枚」を安定して引き込みつつ、0枚もしくは5枚の手札誘発の引き込みを避ける構築を目指します。
2枚の手札誘発を目指すのが最善かというと諸説ありますが、本記事では上のポストで行ったアンケートの結果から一般論として思考します。サンプルサイズは29と少ないですが、世論から大きく逸脱はしていないと思います。
加えて、本記事では202401環境から流行している「40枚デッキに《G》《うらら》《ヴェーラー》《泡影》の4種類の手札誘発を3枚ずつ合計12枚のセットを採用した構築」を思考のベースとし、この枚数をある程度前後させた場合及び手札誘発をサイドイン・アウトすることを想定して範囲について計算を行います。
計算は全てサラリーマンお馴染みの「Microsoft Excel」で行い、基本的には確率と期待値の計算結果を評価指標にして、追記予定のシミュレートでは正規分布の極大値を指標にします。
また、マスターデュエルをはじめとしたデジタルカードゲームの場合、確率の前提とゲームシステムに乖離がある可能性があります。
デジタルの場合、システムとして初動を初手に引き易くする等の調整はあって然るべきという話があったり、ドローのランダム性がどこまで再現されるorすべきなのかが不透明だったりします。この辺の話は本記事の趣旨から逸脱するため割愛しますが、本記事の計算はあくまで机上の計算であり、それがデジタルな場で再現される対象とは限らないと認識ください。
3.計算結果
大した計算してないので過程は割愛します。
とっとと計算結果に行きましょう。
3.1.誘発採用枚数
上図は40枚デッキに採用される手札誘発の枚数を3~23枚としたとき、初手5枚のドローで引き込む手札誘発の期待値と確率の早見表です。
初手の手札誘発の期待値は40枚デッキの場合、8枚採用のとき1枚、12枚採用のとき1.5枚、16枚採用のとき2枚と、4の倍数でキリが良くなっています。初手に引き込みたいカードの枚数に悩んだ際に指標に出来そうです。
上の表から12枚セットを採用した構築であれば85.06%の確率で「最低でも1枚は誘発を引く」ことが分かります。このときバランスの悪い手札の例として「誘発を1枚も引けない」及び「4枚以上が手札誘発である」を挙げると、それぞれの確率は14.94%(100回に15回)と2.23%(100回に2回)です。あくまで極論になりますが、これを単純に足して考えると、この構築は17.17%(100回に17回)の確率でバランスの悪い手札になるという計算になります。これはシングル戦6回に1回は「誘発を1枚も引けない」もしくは「4枚以上が手札誘発である」が発生することを意味しています。
上述した表を散布図にしたのが上図です。
まず13枚採用のとき「初手に誘発を1枚引く確率」と「初手に誘発を2枚引く確率」が同じになっていることが分かります。期待値で言えば12枚採用で十分1.5枚の誘発を引き込めるものの、その内訳は2枚引ける確率よりも1枚しか引けない確率の方が高く、プラスで1枚追加で誘発を採用して初めて1枚引く確率と2枚引く確率が同等になることになります。
これは誘発12枚セット採用の40枚構築が「初手に誘発を1枚だけ引きたいときの最大期待値の枚数」であることも指しています。ということは「初手に誘発を2枚引きたい」のであれば採用枚数を14枚かそれ以上に増やすべきでは?となり、上の散布図から「初手の誘発が2枚」の確率の最大値は16枚採用の場合であることが分かり、これが1つの理想的な誘発枚数の候補である様に思われます。
勿論リスクもあります。「初手5枚のうち4枚以上が手札誘発である確率」に目を移すと、誘発12枚採用のときは3.13%であるのに対し16枚採用のときは7.30%と、手札誘発を4枚追加しただけでバランスの悪い引きが起こる確率が倍以上に上がっていることが分かります。
上述の様に諸々の分析を進めるのですが、あまり長く話をしてもしょうがないので、期待値のみ見たときの私の感覚的な印象を当てた概略を以下に記載します。
デッキビルドの際に指標にして頂ければと思いますが、それだけでなくサイチェン前後の枚数の指標にもなるかと思います。深く考えずにサイチェンしてしまうと、サイドインしたいカードに目移りしてデッキの手札誘発のバランスを崩してしまう場面があるかもしれません。そういったミスでサイチェン後に無意識に手札事故を起こし易くしてしまうなんてことのない様に注意したいです。
3.2.デッキの枚数
次にメインデッキの枚数が40枚以外の場合について考えます。思考基準が「誘発12枚セットを採用した40枚構築」であるため、45~60枚の構築については本記事では割愛します。
上の表は40~43枚の構築で8~16枚の手札誘発を採用した場合の手札誘発の引き込みを示したものです。この場では2点に注目します。
1点目は12枚採用の40枚構築に1枚追加して41枚構築にする場合についてです。各種確率の変動幅は1%以下であるため「40枚でも41枚でも引き込みの確率に大きな差はない」という通説が一部界隈で知られている印象です(図青枠)。
が、表を見てみると追加したカードが手札誘発の場合は少し違うことが分かります(図緑枠)。「初手に誘発を1枚以上引き込む確率」が2%以上上昇しつつも「初手に誘発を1枚引く確率」は1%以上の減少が見られ、加えて「初手5枚のうち4枚以上が手札誘発である確率」の上昇は1%以下です。これは「初手に誘発を2枚引きたい」という目的であれば、40枚12枚セットの構築に1枚誘発を追加して41枚構築にした方が、大きなリスクも無く誘発の引き込みを少し増やせることを示します。これはこのnoteを読んだ人だけが知ることが出来るヒミツです。
まあ今後の環境は手札誘発が14~16枚が丸そうなので、使う機会は少ないと思いますが…。
2点目は「誘発13枚採用の40枚構築」と「誘発14枚採用の43枚構築」の比較です。この2つは両条件「初手に誘発を1枚引く確率」と「初手に誘発を2枚引く確率」が同じという特徴があります。比較すると誤差レベルではありますが「最低でも1枚は誘発を引く確率」の減少幅よりも「4枚以上が誘発である確率」の上昇幅の方が大きいことが分かり、デッキの枚数が増えることで総合的な引き込みのバランスが微妙に悪化する様子が分かります。たとえ引き込む誘発枚数の期待値が同じだとしても、計算上はデッキの枚数を増やすということが引き込みのバランスを崩す方向に作用すると言えます。
上記2点をまとめたのが以下になります。
不純物や2枚初動について試行錯誤した経験のあるプレイヤーには、馴染みのある内容かもしれませんね。
3.3.後攻1ターン目のデッキトップ
本記事の本質からは脱線しますが、手札誘発の引き込みを計算するなら、本来攻めの手数や捲り札の兼ね合いも考慮すべきです。これについては後述のシミュレートで触れるとして、本項では初手だけでなく後攻1ターン目のデッキトップについて計算した結果を紹介します。
上の表は黄色い箇所が「初手の手札誘発が○枚になる確率」を示し、青い箇所が「そのときのデッキトップが手札誘発である確率」を示しています。赤い箇所は「それらを総じて、手札誘発が○枚かつデッキトップが手札誘発である」という総合的な数を示しています。
まず、手札誘発の採用枚数が8枚、12枚、16枚と4枚ずつ増えることで「デッキトップが手札誘発である確率」が20%、30%、40%と10%ずつ増加していることが分かります。これは初手に手札誘発をバランス良く引き込める構築は「デッキトップが手札誘発である可能性」も高くなるという性質を持つことを示しています。
これについても細かな分析は置いておいて、数字から性質を読み取るだけに留めます。本記事では上図の赤枠の部分に注目してください。40枚デッキに11~13枚の手札誘発を採用した場合1、2枚の手札誘発を高い確率で引き込める計算になりますが、「デッキトップが手札誘発である確率」も25~35%という高い値になっていることが分かります。
つまり、構築が上手くいって2枚程の手札誘発を安定して引き込めたとしても、シングル戦3,4回に1回はデッキトップが手札誘発になる計算になり、結果として盤面を捲って逆転するための難度が高くなる可能性が示唆されます。これは「手札誘発の打ちどころを間違えた際のリスクが上がる」ということも意味しています。
まとめると下記の様なことです。
闇雲に手札誘発の枚数を増やすことが、後攻のゲームを有利にするわけではありません。どんな後攻のゲームをしたいのか、しっかりと自分のイメージにマッチした構築にしたいです。
3.4.参考文献
だらだらと長文を書きましたが、カードゲームにおける確率の計算なんてのはありふれた話です。過去に色々な方が記事を執筆しています。
筆者もそこそこ読みましたが、中でも面白かったnoteを列挙します。手すきの際に目を通してみると新たな知見があるかもしれません。
畑違いですがこんな記事もありました。カードゲーマー皆、考えることは同じですね。
4.おわりに
本記事ではざっくりとした内容を改めて計算しただけなので、計算しなくても「言われてみれば確かにそうだな」といったところに着地したかと思います。
「へー」とか「俺は◯◯かなー」で終わるのではなく、読者様のうち誰か1人でもいいので、自身のデッキ構築やゲームメイクについてちょっと深掘りして考えてみようかな…という1つの機会になれば幸いです。
202404環境では誘発1枚で展開が止まることはほとんど無く、初手に2枚の誘発を引き込むことがゲームを成立させる為の1つの礼儀である様に思います。実際にデータをとったわけではないですが、2023.12頃まで40枚デッキにおける最低限の誠意となる誘発の基準枚数は12枚だったところ、半年経った2024.06現在は14枚程度の構築が少しずつ増えており、段々と誘発の需要が増えている印象です。認識を逐一アップデートする必要がある様に感じます。
尚、これだけ計算してますが筆者はザコです。
不幸自慢は誰も幸せになりませんが、5月の店舗予選では【天盃龍】が絡まないゲームでじゃんけん0-10。1000回に1回の確率であるハズの「初手誘発5枚」が2回発生しました。
はい。
心折れますが、
そんなこともあります。
つまりですね、
大切なのは
どんなに計算したり考察したりしても、
運の無いやつは勝てないし、
勝てないやつは弱いってことです。
はじめに述べた通り、昨今の大会環境は「最低限の手札誘発の引き込み」がゲームの勝敗を決する傾向が強いと思います。
運要素が絡むゲームだからこそ、それ以外の部分は手を抜かずらやれることは全部やりたいです。が、それでも無理なときは無理です。
これに納得いかないなら、現代の遊戯王からは一端離れて過去環境で遊んだり、他のカードゲームに手を出しても知見は広げられると思います。私はワンピースカードを買いました。
はい。
以上です。
今のところ記事はこれで終わりなんですが、
せっかくだしもっと掘り下げた話を追記しようかなと考えています。
環境まとめnoteも書いてるので公開がいつになるかは分かりませんが、「どの環境デッキが誘発の引き込み・貫通性能が高いかシミュレートしてデッキや誘発の性能を比較してみる」みたいなやつで、筆者が店舗戦に勝てなくてデッキ選びに迷走していた時期に自分用に調べたデータになります。机上論よりもリアルワールドのデータとかもあった方がいいよな…くらいの感覚の記事なので、過度な期待はしないでください。
他にも確率計算やシミュレートに使ったエクセルファイルとかも掲載するつもりです。
ちょっと書くのにどれくらい時間がかかるか分からないですが、本記事をスキして貰えれば追記したときに通知が行きます。べつにふぁぼが欲しいわけでもないのでそのうち思い出したらまた記事を見に来るとかでも全然OKです。
はい。
以上。