見出し画像

【ライヴレポート】Tim Christensen 「HONEYBURST 20TH ANNIVERSARY JAPAN TOUR 2024」- Umeda Club Quattro(2024.9.11 wed)

まさかの来日公演が実現した。昨年9月に傑作『Alter Echo』のジャパンツアーでDizzy Mizz Lizzyとして来日した際にティム・クリステンセンは「HONEYBURST 20th ANNIVERSARY TOUR」の日本での開催について歯切れの悪い回答をしていた。本国での大規模なサマーツアーが発表されると、もはや日本公演をねじ込む隙はIRON MAIDENやSAMMY HAGARなどの強豪がひしめく9月しかない状況だった。それでもなんとか来日が決まった要因は、Dizzy Mizz Lizzyの来日公演の大成功で日本に対する自信をさらに深めたことが大きいと見ている。お馴染みの聖地クラブチッタ川崎の2日間に加えて大阪、さらには名古屋まで公演があるのはソロでの人気を踏まえるとかなり挑戦的だと言える。満員札止めにはならないまでも、なんとか形になるくらいの客入りを目指して過去最大のサポート活動に取り組む必要がある。壁は高いほうが乗り越えた時の喜びは大きいとは言うものの果たして……。

今回のジャパンツアーは昨年とは逆で西からスタートする。終わる気配のない酷暑が続く大阪に到着して友人と合流。お薦めのカレー店でのランチは暑さと緊張で減退していた食欲に関係なくおかわりまで完食できる美味しさであった。駅に戻って話題のジョジョの奇妙な冒険をモチーフにしたパブリックアートを見てスタンドパワーも注入しつつ、DMLも昨年訪れた榎木神社にてジャパンツアーの成功を祈願した。神頼みの効果も侮れない。会場となる梅田クラブクアトロはDMLでもソロでも初となるが、ビルの1階に貼り出された公演告知ポスターを見て、やはり夢ではなかったのだ!とようやく実感が沸いてきた。物販の先行販売は16:30からということで、それまでは友人たちと近場のカフェで暑さを凌ぎながらライヴへの期待を高めていった。

会場での掲示

平日にも関わらず数十人が会場の階段に並んでグッズの先行販売を待っていたので今回のグッズも前評判は高いのだろう。『ハニーバースト』のジャケットの柄と同じベージュのTシャツ(4500円)と黒地に女性の目元が描かれたツアー用デザインのTシャツ(4500円)、さらに『ハニーバースト』柄はスウェットシャツ(6500円)もある。本国だと裏起毛の冬仕様なのだが薄手の秋仕様は使い勝手が良くありがたい。いつも人気の高いトートバック(3500円)も同様の柄である。厚手の生地で持ち手もしっかりした縄状のせいかマリントートと呼ばれているらしい。全体的に価格が相場より1000円以上は安いのも来日ラッシュで懐が寂しいライヴ好きたちには助かる。CDの販売も行われていたが、『ハニーバースト』柄のソフトコースターが特典として付くとなると買わざるを得ない。グッズは2点以上、CDなら『ハニーバースト』20th記念盤を買うとライヴ後のサイン会への参加抽選券が貰える。ちなみに昨年のDMLの時はコロナ禍での警戒体制から変則的なサイン会となってしまい、急遽ツアー途中の大阪公演から参加者全員に三角クジが配られた形だった。

いよいよ開場の18:00となり緊張と期待が入り交じりつつ入場。ステージは横幅もそこそこあり、フロアからの前から後ろにかけて2段階の高低差がそこそこある。後方でも十分な視界を確保できそうなので構造としては好印象だ。運良く確保できた最前列の下手側で会場のBGMを確認するとシカゴのポストロックバンド重鎮であるTORTOISだった。数曲が続いたので『TNT』アルバム全体を流しているようだ。DMLでは日本が誇るポストロックバンドMONOのアルバム『Nowhere Now Here』が丸ごと流されていたが、ティムのソロの音楽性を考えると今回は少しミスマッチな印象まある。ステージにはバックドロップやスクリーン、20年前のツアーでも使用された独特の丸型ライトなどはなく至ってシンプル。コストや規模の関係で本国との差があるのは仕方ない。ダミーのギターアンプの上にはティムの愛犬GEOの人形も確認できた。気になった客入りは緩めではあるものの全体的に十分埋まっているように見えたのでホッと胸を撫で下ろした。来日の多い時期の平日で約600人規模が埋められるのは大したものだ。

ツアーグッズ

予定通り19:00に暗転するとすぐに拍手からの手拍子が起こり『ハニーバースト』の振り子時計のようなテンポの「Intro」に導かれてメンバーが定位置につく。アルバム完全再現はやはりライヴ冒頭からだった。ティムはお気に入りのサイケバンドUNCLE ACID & THE DEADBEATSの『Mind Control』のTシャツを着て愛器ハミングバードを抱えている。曲名の通りあまりにも自然に「Surfing the Surface」が滑り込んできて徐々に会場の空気がベージュに染まっていく。次の軽快でほのぼのとした「Lost and Found」ではもう一段階くらい空気の色が濃くなってきた。

一息ついて「コンニチワ、オオサカ!」とティムが挨拶。「『ハニーバースト』の20周年記念だからアルバム全部演奏するよ!」と告げると拍手と歓声が起こる。ギターを懐かしの白黒のリッケンバッカーに持ち替えると準備運動はここまでだと言わんばかりにローリング・ストーンズ的なロックナンバーの「Jump the Gun」で一気に加速していく。DMLでも来日したキーボードのアナスが手拍子しながら観客を煽り、途中ではタンバリンも叩きながらさらに盛り上げる。DMLのライヴでも見られた光景だ。ソロデビューからティムと組んでいる盟友ラースは綺麗なミントグリーンのfanoブランドのギターを白黒のテレキャスターに持ち替えコーラスもしっかりこなす。ここまでのサウンドはとてもクリアで分離が抜群によく、どの楽器もアルバムのイメージ通りにしっかりと響いてくる。しかし気になるのがティムの歌。音程こそ外さないが伸びがなく少し艶がなく枯れている印象。冒頭だけならいいのだが果たしてどこまで調子を上げてこれるのか。ここで早くも超人気曲「Whispering at the Top of My Lungs」がドラマティックに展開する。通常ならラストやアンコールが定位置な曲なので勿体ないなと感じてしまうほどだ。ラースのスライドバーを使ったギタープレイやアナスのキーボード(下段がMellotron、上段がMoog Synthesizerと思われる)の見事な二刀流も曲の再現度を高めていて素晴らしかった。ここが序盤のハイライトなのは明白だった。

次の「Lay Down Your Arms」はキーボードのアナスの操作する同期音源から始まるがアルバム通りの再現に強い拘りを感じる。ラースの飛び道具E-BOWやワウペダルの使い方も非常に上手い。本国では一番有名とも言える「Right Next to the Right One」は大合唱こそ起こらなかったが口ずさむファンは多かった。ソロはかつてのようにキーボードやピアニカではなくギターだったがサウンドメイクが見事にハマっていたので感心した。

「ここでレコードをひっくり返してサイド2だよ」と手振りを交えてティムが伝えると爽快感が溢れる「Isolation Here I Come」が始まる。The Damn Crystals時代もティムを支えてきたドラムのイェスパーがアルバム通りにカウベルを使っているのがまた嬉しい。ソロはラースがE-BOWで気持ちのいい伸びやかなフレーズを響かせた。ラストから0.1秒もタイミングがズレることなく次の「No Easy Key」に繋げる展開は全員の息がピッタリで圧巻。深いエコーのかかったティムの声が幻想的に響き渡り、ラースのコーラスもまた美しく重なってくる。後半に一気にヘヴィになる振り幅の大きな展開がたまらない。一転してまた静かに「Close the Door」が始まる。盛り上がる部分ではティムは声が苦しそうだったのでまだ不安が残ったままだ。「Don't Leave Me but Leave Me Alone」も間髪いれずに続いたが、中央で向かい合って演奏するラースとツアー初参加となるベースのイェンスの間からティムが割って入ってくるようなフォーメーションがあって面白かった。これは誰の発案かわからないがツアーを重ねるうちに自然発生した気もする。テンポアップした終盤ではティムとラースのコーラスの掛け合いが囁き合いから叫び合いに変わっていき、さらにキーボードのサンプリングクワイアの音が重なる。そして最後のラースのギターから放たれるソロは意図的に音程を外すような壊れ気味の表現をしていて思わず唸ってしまった。ここまでで一番ダイナミックな展開に大きなカタルシスを得た。

さらに「Intro」でも使われたフレーズから「Tonight I'm Fine」を演奏。アルバムの最後に相応しくすっかりお別れの雰囲気だが、ドラムが入る前のシュルルルーという効果音をアナスがしっかり入れてくれたので思わず天を仰いだ。あれがあるとないとではだいぶ印象が変わる。ティムが最後の最後の一音をハーモニクスに変えたアレンジも印象的でセンスが良すぎて変な笑いが出そうになった。「まだこのアルバムにはボーナストラックがあるんだよ。」と「How Far You Go」も披露。前の曲の終盤でラースとイェスパーはステージを静かに降りたのだが、残ったベースとキーボードが入るアレンジも一味違ってとても良かった。スイート過ぎて本編から一旦外したが、やはり勿体ないのでボーナストラックとして入れたという逸話もある。ここでハニーバーストのアルバム完全再現が終了。5人がいろいろと演奏を工夫してアルバムにできるだけ近いサウンドを実現した努力がひしひしと伝わってきたし、ライヴならではの効果的かつやりすぎない攻めのアレンジも随所に見られて大いなる感動を呼び起こした。まさに百選欄間のプロフェッショナルな集団の成せる技といえるだろう。

開演前のステージ

「僕らはもう少し曲の用意があるんだけど。みんなも準備はできているよね。」とティムが話して、1stの名曲「Love Is a Matter of…」からベストヒットセレクションのパートが始まった。ギターのエフェクトやグロッケンシュピール、メロトロンまでサウンドの再現度の高さに対してここでも驚きを隠せない。3rdのリードトラックだった「Superior」も少し意外と言っては失礼だがイントロで大きな歓声が上がるほどに人気だ。ラストのファルセットでの「You~」と歌うアレンジも面白いし、曲が終わってから「Wohoo~Wohoo~」と軽くふざけるのもティムのお茶目な一面が出ていて微笑ましかった。DMLの幻の3rdアルバムに入る予定だった「Prime Time」もイントロの短いSEを省かなかったのは拘りの強さや曲への愛情を感じて嬉しい限り。アルバムを聴き込んでいるファンは余計に楽しめるようなサービス精神でもある。ティムの声にはまた深いエコーがかかって悲壮感が増幅していたが、2番から入るキーボードのキラキラしたフレーズの主張がやけ強くベタな感じが出ていたのには苦笑いしてしまった。

ラースのワウペダルを使ったパーカッシブなギターからハードな「Get the Fuck Out of My Mind」が始まる。ティムは敢えてメインリフは弾かなかったので少し物足りなさはあった。アルバムよりテンポが速くサビは大合唱となって大いに盛り上がる。曲の終わりからティムマニアにはお待ちかねのジャムパートに突入。ティムの小刻みなリフワークにアナスのノイジーかつスペーシーなキーボードが絡んで変化をつけながら展開していく。一瞬たりとも目と耳が離せない緊迫感に手に汗を握る。5人の磨き抜かれた技とセンスがぶつかり合いなからも見事に調和していく様子は圧巻であった。終盤でティムはThe White Stripesの有名曲「Seven Nation Army」に似たフレーズを繰り返していたがもちろん今日のフィーリングから無意識に出たものだろう。かつてDMLのライヴでは意図して演奏したこともあったようだ。ティムのピックスクラッチを交えたDJプレイのような風変わりな演奏からヘヴィな「Screaming at The Top of My Lungs」へとなだれ込む。ライヴ専用の曲だけあってメタルバンドのライヴのような激しい盛り上がりをみせた。

アンコールはまず「Falling to Pieces」。穏やかながらも哀しみが詰まった曲なのだが、この位置でやることで一筋の光も感じさせる魅力はより強くなっていた。終盤でイェスパーがリードして曲を一瞬止めたりまた再開したりというお遊びもバッチリと決まり、会場からは笑いも起きる。そしてティムがメンバーを1人づつ紹介すると全員で記念撮影をしてステージを降りた。今日のティムの調子からするとここでもう終わりかなと思ったが、再びアコースティックギターを抱えて1人で戻ってきた。日本でも人気の高い「Kings Garden」の弾き語りでしっとりと心地好く本日のライヴを締めくくってくれた。その後もアンコールを要求するというよりは感動と称賛の意味合いであろう拍手がいつまでも響いていた。今日のティムの歌は前半は調子が良くなく、進むにつれてだんだんと良くなってきたのだが、絶好調からは遠かった。全体を通して声の問題をどうリカバーするかという点で苦労していたように思うが、その際の高い技術や経験値を目の当たりにできたことはとても貴重であり、彼の一定のクオリティーは死守するという底力や意地のようなものが伝わってきたという意味も含めて感動した。DMLと違って歌によりスポットが当たるソロのスタイルではあるがバックのメンバーがフォローできる余地もまた大きく、それが結果的に初日からライヴが上手くいった要因だと思う。ソロでありながら一つのバンド単位で高いレベルで機能していることが証明された。

このツアーはアニヴァーサリー・ツアーと銘打たれている。20周年は非常におめでたい事なので祝うことには大いに同意したい。しかし実際にライヴを体験してみると特定の3人へのトリビュートの意味も持ち合わせているのではないかという予感は当たった。1人は『ハニーバースト』のアルバムジャケットのもととなったコラージュを作成したティムの父親でデザイナーであるダン・クリステンセン。嬉しいことに会場はその『ハニーバースト』のTシャツを着たファンで溢れていたし、公演ポスターではティムの顔が一体化している。もう1人はアルバム制作とリリース後のツアーにも参加してティムを支えたベースのニコライ・ムンク・ハンセン。今回のベースであるイェンスは彼の友人だったという事実は、ステージ上で出過ぎず黙々と演奏する姿が重なることからも納得ができた。この重要な2人はこの数年の間に残念ながら亡くなってしまっている。そして最後の1人は、様々な失意を引きずりながらも未来への希望を持って試行錯誤を繰り返し、この歴史的なマスターピースを作り上げた20代後半の若きティム・クリステンセンである。姿こそ見えないが、その3人も会場の後方で満面の笑みを浮かべながらアーティスト人生の絶頂期と言うに相応しいティムの貫禄のパフォーマンスを楽しんでいたと確信している。

◼️大阪公演セットリスト (約100分/20曲)

Intro
Surfing the Surface
Lost and Found
Jump the Gun
Whispering at the Top of My Lungs
Lay Down Your Arms
Right Next to the Right One
Isolation Here I Come
No Easy Key
Close the Door
Don't Leave Me but Leave Me Alone
Tonight I'm Fine
How Far You Go
--------------------------
Love Is a Matter of...
Superior
Prime Time
Get the Fuck Out of My Mind
Screaming at the Top of My Lungs
--------------------------
(Surprise Me )※演奏せず
Falling to Pieces
Kings Garden

セットリストのペーパー
公演フライヤー

いいなと思ったら応援しよう!

Dizzy Mizz Lizzy JP
よろしければサポートをお願いいたします!いただいたサポートはアーティストの活動支援費として使わせていただきます!