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短編映画『Curve(カーブ)』出産か?堕胎か?考察

ティム・イーガン監督、10分の短編映画『curve』
日本では一年前にSNSで流行りましたね。
未見の方はまず本編の視聴をどうぞ!ホラーです。苦手な方は注意。


知るきっかけは都市ボーイズさんの映画紹介動画なので、そちらも

放送作家のお二人、映画のツボを抑えつつも面白くいじられる。他の映画紹介動画もお薦めです!
動画やコメントでは、謎の場所は子宮の比喩であり「出産?堕胎?」が考察焦点でしたね。その中で光るはやせ氏の解釈、是非お聞きを。
以上紹介終わり。

映画の個人的感想は…  

痛い。逃げたい。 

それ以上言う事ある?(開き直り)

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では考察開始。私は出産説をとります。

①状況考察

・場所=子宮
・女性=子供

なら、周囲は羊水で満ちる筈だが水の気配はなし。
つまり?今は臨月で破水し、胎児が子宮に残り、母親がいきむ陣痛状態。

・海=羊水
・波の大音量=破水

それまでは、水が湛えられ女性はぷかぷか浮いていた…と推察。
あれダムっぽくもあるじゃないですか。今までダムが満水、今は放水状態。

②設定考察

さて、人は誕生を二度経験するのを御存知でしょうか?
一度目。母の子宮で育成され出産。人間として物理的新生。
二度目。母の庇護で育成され巣立。大人として精神的新生。

これは二度目の誕生。
だから、女性に自我が存在する。

そして現在は陣痛状態、タイミングは成人間近。
子供だから庇護の胎から出るのは恐怖だが、大人として庇護の胎から出たいとも決起の時期。
そのジレンマを描いた物語。

一度目の誕生は大人の手でヘソの緒が切られるが、二度目の誕生は子供の手で切る。もう大人の手を借りないと自立意志を証明してこそ、大人。
だから、女性はネックレス(ヘソの緒)を自分でちぎる。

・ネックレス=ヘソの緒

それが \出荷よー/ じゃなかった、母子決別の合図。

…以上、アウトラインはこう見ています。
骨子は述べたので、読むのはここまで充分です!
ここまでお読み下さりありがとうございました。

③無粋に詳細を詰めます。

まだおつきあい下さる?やったぜ。
では、ひとつひとつ謎を詰めましょう。

気になったのですが、女性の右薬指のみ最初から血で穢れている。
つまり、彼女の血ではない可能性もある。
そして、徐々に両手が血塗れになる中でも、右薬指ばかり見る。時には中指とニチャアしてうわぁ。
「何か意味が?…これにちなんで?」と思った情報が

『右薬指はキリスト教で正義の象徴

その右薬指が、彼女のとも誰のとも知れぬ血で、穢れている。
…つまり彼女の正義は穢れている。彼女は誰かを酷く傷つけるような人間。
しかし、自分の穢さと向き合えるようなれてこそ、大人。
だから、女性は何度も右薬指を見る。

・血塗れの右薬指=穢れた正義


えー、さて。ここまで大人と連呼しましたが、具体的に大人って何?
何ができれば大人でしょう?
そんなの法律的成人年齢をとうに越してても解らんわ!

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と言いたいが、こちらもキリスト教に倣います。
おそらく、キリスト教で一番推奨される事を実行できるのが大人です。
そう。人を愛する事。自己犠牲愛です。

しかし?「愛する、救う、助ける」と口にするのは容易いが、実行は困難。
\ 誰だってそうだ俺だってそうだ(開き直り)/

日常では、時に人に甘え、時に人に攻撃的。
…知らずに右薬指を穢れさせる毎日。
危機的状況では、指一本動かすのも躊躇う臆病。
他者どころか自分すら救えず、いたずらに動いて傷つけるばかりの無能。
それが、今、あの場所にいる女性の姿。
暴かれた血塗れの本性

…当然そんな姿は認めたくない、見たくない、痛すぎるわけですよ!
だから、前半の女性はずっと薄目。
※逆に後半の女性はしっかり目を開ける

・前半は薄目=現実逃避モード
・後半はぱっちり=覚悟完了モード

そんな痛い現実から守ってくれてきた…暢気にぷかぷか浮いた心地でいられた庇護の胎から出るのは、恐怖。
だから、子宮にへばりつく、母に縋りつく。

しかし、そもそもこの状況を作ったのは誰か?
凄まじい角度で『そんな甘えを殺しにきてる』子宮の持ち主。母です。

人を愛するには、自分を有効に使うには、まず自分のスペックを把握せねばならない。
どれだけ自分が使えるか、人を救える人間か?
どれだけ自分が使えないか、人を傷つけるケダモノか?
効率的観点・安全管理面から当然の作業ですね!

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自己愛の色眼鏡を捨て、真正面から向き会えば、大抵見えるのはケダモノ。
だが、どれだけ自分がケダモノか悟れば、そういう自分を二度と出さまいと戒められる。対策を考えようと賢くなる。

徐々に女性は躊躇せず、這い上がり動作がスピーディーになります。
…傷つきながら自己把握する内に、痛みに慣れる。
痛みと引きかえに人を救済する動作を身に着ける。
自己犠牲愛エリート…エリート?…の身体に鍛錬される

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はいっ!ここまで読んでお疲れでしょう?
一休みいれて下さい。ここまで読んで下さっただけで御の字!
しかしもうちょっと続くんじゃ、〆があるんじゃよ。
……いいですか?唐突に続きますよ。

女性は対面の壁に目をやる余裕も生まれる。
…客観的・大局的視点を身に着ける。
血手形「M」の軌跡に、絶叫と落下音に、気づく。
…これは先人も母も通った道。大人への洗礼だと気付かされる。

「自らを削った血の軌跡が、救済の翼になる」と、認識する。

・血文字M=翼の形(描かれる場所は背中部分にあたる)

妊娠時は自ら血肉を削り養分として、子に与え。
出産時は痛みながら身を裂き、子を産む。
そんな自己犠牲愛の体現たる

・血文字M=Mother=母

「その母の如く、自分も大人になる」決意表明を皆したと、理解する。

子供のままでいるか大人になるか?
愛されたい子供の欲望が自然なら。愛したい大人の欲望も自然。
子供が大人になるのは、生存課程のひとつ。

このまま留まっても母体も胎児も傷むだけ。それは母にも自分にも不幸。
臨月を迎えれば赤子が胎から出るのは自然。それが母にも自分にも幸福。

…だから、自分の意志で落ちる。

そうやって全の流れを把握してこそ、全の幸福の為に我儘な自分を殺せてこそ、人(自他問わず)の救済に自らの血を流し生命を賭けてこそ、大人。
そこまで理解できたから、女性は立位困難のカーブにも立てた。
…「救済の力を、自立の力を、得た」と証明し。

「それでも痛い。ここにいたい」最期の未練の血手形を遺し、落ちた。
「母の如く、自分も大人になる」決意表明を凛と遺し、飛んだ。



……と推察します。
思い返せば、女性は這い上がる動作前に必ず「右薬指を見る→右手で胸をこする」。実は胸のネックレスは十字架付であり、命を賭けた動作をするにあたり、神に母に『見ていて。自力で上手くできるよう加護を』と祈ったのでないでしょうか?
母の子宮に縋りながらも。
縋るは子宮ではない。信じるは、神の母の、示した道…と。

そして、その道を手にし子宮を出る。
そして、いつかできる自分の子にネックレスをかけてやる。

大いなる子宮の持ち主となる。

・ネックレス=ヘソの緒=神の母の道。連綿と繋がれる自己犠牲愛の道

子宮でのできごとは…
出たくない我儘で子供な彼女にとっては堕胎。
出ようと決意した大人な彼女にとっては出産。

そして女性は都市ボーイズはやせ氏の仰る通りうんことも言える。
「自分は汚いと自覚=うんこ」このままじゃ本体も腹を壊すから何が何でも出さなきゃという……

はい。
はいじゃないが。

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④残った点を詰めます。

・左足は壁方面に折り曲がる=「留まりたい」
・右足は穴方面に投げ出され=「落ちなければ」

女性は最初から最期まで、恐怖と決意のねじれた<カーブ>の思い

・頭を殴られた痕=母親から「右薬指が血塗れ」の指摘

そろそろ巣立つ時間だから起きろ目覚めろ現実見ようと殴られた…
初手に母親に何らかの形で「右薬指が血塗れ」と指摘された。
自分は綺麗な正義と思ってたのに穢い加害者と気づかされ、頭を殴られたような衝撃。

・雷鳴と雨=母親から「出ろ」の叱責

出なければと解っていても、子宮にへばりつこう母に縋ろうとしてしまう手を離せるよう、何らかの形で母親が鬼になり促してくれた。
彼女が落ちても、なお降り続けるのは、涙雨。
母親も愛しい我が子との決別は辛い。
母親も最初から最期まで、愛と哀切のねじれた<カーブ>の思い。

子宮の働きの一つと見るなら、オキシトシン分泌(母親の体から分泌されるホルモン。出産時の陣痛促進薬)。

ちなみに、ギリシャ・ローマ時代から「雷鳴に打たれる」とは神の祝福を現す事象とのこと。



以上考察終了。読破お疲れ様でした。

……え?このプロットをホラーでやる意味?
いつまでも甘えたがる子供にとって、自立はかくも恐怖。
子供時代死亡を告げる\ビターン/の着床音よ。
そして子にあそこまで超鋭角度になれる、子の為にあそこまで超鋭角度になれる、母という存在こそホラー。底知れない。
しかし自分も母になれば底も知れる。\ビターン/着床音は底を知った音でもある。

…つまり、着床し子供の彼女は死亡。
…つまり、母親の彼女が新生。
…つまり、彼女の子宮に命が着床
着床の瞬間、彼女は母となり子を宿した。

あの子宮の子が、あの子宮の主に。

子は母に。死は生に。決別の絶望は妊娠の歓喜に。恐怖劇は祝福劇に。
どこまでもねじれる<カーブ>構造。
不思議不思議。
だが、そも、出産とは生命の神秘。摩訶不思議ホラー。

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ふっひー。しゃぶりつくし甲斐のある。
考察内容の正否はともかく楽しめた。謎のちりばめ具合が絶妙!
しゃぶれなかったのはこれまた最初から血塗れの右靴か…
右靴が血塗れ・左靴が白なんですよ。
解釈できた方がいらっしゃったら公表して頂きたい!
改めて、ここまで読んで下さりありがとうございました。

さあ、これでもう再見してもコワクナイ…
いや、あの擦れた指は、何度見てもあーっあーっとなる。

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