開店3分前の既視感

2016年11月16日。

その日は午後から仕事で、午前中に夕飯の支度をしてしまおうと、
近所のスーパーに向かった。

スーパーの入り口に着いたのは8時57分。開店の3分前だった。
ボンヤリと9時を待ちながら、この光景には既視感があると気がついた。

当時30歳そこそこだった僕は、うつで3ヶ月の自宅療養中。
自宅療養と言われても処方薬を飲んだらもう何もすることはなく、
また、何をする気も起こらず、昼夜の別なく酒を飲んでは
時間をやり過ごしていた。

アルコール依存性の診断を受けたのは34歳の秋だったから、
酒を飲むこと自体が自分の病気だという認識はまだなかった。

唯一の問題は酒を買いに行く時間、つまり「世間体」だった。
当時住んでいた家からはコンビニは遠く、スーパーが比較的近くにあった。

スーパーの開店は午前10時。時間になってから行けば良いものを、
僕は毎回、開店の3分前には店の前にいた。
郊外のベッドタウンの午前10時は人もまばらで
比較的閑散としていたとはいえ、出来るだけ人目につかず、
1分でも早く家に戻りたかった。

どうせ毎日買いに行くのなら、まとめて買いだめをすれば
よさそうなものだが、あればあるだけ飲んでしまうのだし、
そうなると身体にも財布にもダメージが大きい。
「節酒」というには度が過ぎたチェーンドランカーだが、
それでも酒を飲み続けるための「ペース配分」だけは間違えない
ようにしていたようだ・・・。


・・・開店前のスーパーの前に、あの時の寒々とした気持ちが蘇る。
あのまま、アルコールの底無し沼に飲み込まれても、
何も不思議ではなかった。

実際にその後の僕は処方薬を酒のつまみにするようになり、
薬物+アルコールの二重依存性状態になり昏睡。

そこから立ち直るきっかけなど、どこを探しても見つかりそうに
なかったのだ。

それが今、午前中に夕飯を作り、午後から仕事に出かけ、
時間があればジョギングに行く生活。

いわゆる「責任世代の大人」とはかけ離れた暮らしだが、
薬とアルコールで自分が誰かも分からなくなって死んでしまう
よりは、随分と幸せなことだと思う。

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