エンジニア不足に直面する日本社会
日本はデジタル分野の専門人材不足が深刻化する壁に直面しています。エンジニア不足に悩む声は無くなるどころか、増える一方です。なぜこのような状況に陥ってしまったのかを、少し検証してみよかと思います。
急速に拡大する人材不足
日本のデジタル分野の人材不足は年々深刻化しており、2030年には80万人もの不足が予測されています。これは単にデジタルサービスの提供にとどまらず、幅広い経済活動全般に重大な影響を与えると考えられます。
まず、デジタルサービスの需要に対応できないリスクが顕在化します。新型コロナウイルスのパンデミック以降、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しており、オンラインプラットフォーム、データ解析、人工知能(AI)、インターネット・オブ・シングス(IoT)などの先端技術を活用したサービスの需要が急増しています。しかし、これらのサービスを支えるITエンジニアやデータサイエンティストなどの専門人材が不足しているため、プロジェクトの遅延や品質の低下が避けられません。
さらに、デジタル化の遅れは競争力の低下を招きます。グローバル市場においては、デジタル技術の活用が企業の競争優位性を左右する重要な要素となっています。例えば、製造業ではスマートファクトリーの導入、金融業ではフィンテックの革新、医療分野ではテレメディスンの普及が進んでいます。これらの分野で遅れを取ることは、日本企業が国際競争力を失い、市場シェアを他国企業に奪われるリスクを高めます。
また、デジタル人材の不足は経済全体の成長を妨げる要因となります。経済産業省は、2030年にはデジタル分野での人材不足が80万人に達する可能性があり、これにより日本のGDPが毎年12兆円も減少する恐れがあると警告しています。この損失は2022年のGDPの2%以上に相当し、日本経済にとって甚大な影響を及ぼします。特に中小企業では、デジタル技術の導入が進まないことにより、生産性の向上や業務効率化が阻害され、企業全体の競争力が低下します。
このように、日本のデジタル分野における人材不足は、経済成長、競争力、サービス品質に深刻な影響を及ぼすリスクを孕んでおり、早急な対応が求められています。そのためにも、国内の人材育成に加え、オフショア開発の積極的な活用が重要となります。
教育システムの課題
日本は数学や科学の分野で高い成績を収めているものの、科学や工学のキャリアを目指す学生の割合が他国に比べて非常に低いです。この背景にはいくつかの深刻な問題があります。
まず、日本の教育システムにおけるSTEM教育の充実が不十分であることが挙げられます。日本の高校生は国際的な学力テストで高い成績を収めており、基礎的な学力は非常に高い水準にあります。しかし、これが直接的に科学や工学分野のキャリアに結びついていません。
これは、教育システムが学生の興味や能力を科学技術分野に向けるための環境を整備していないためです。
特にデジタルスキルを教える教師の不足が深刻な問題となっています。日本の教師の多くは、デジタル技術の急速な進化についていくための十分なトレーニングを受けておらず、最新の技術や教育方法を授業に取り入れることが困難です。スマートフォンアプリの実習や生成AIの現状など、社会に出て役に立つことが今の日本の教育の場では学習の機会が皆無です。
つまり、デジタルスキルを教えるカリキュラムが整備されていないため、教師自身が教える内容に自信を持てない状況が続いています。これにより、学生たちは必要なスキルを身につける機会を失っているのです。
さらに、教育リソースの欠如も大きな問題です。日本の多くの学校では、最新のデジタル機器やソフトウェアが不足しており、オンライン学習プラットフォームも十分に整備されていません。これにより、学生は実践的なデジタルスキルを学ぶ機会が限られてしまいます。例えば、プログラミングやデータ解析の授業を行うためのコンピュータやソフトウェアが不足している学校が多く、教育環境が整っていないために実践的なスキルを学ぶことが難しい状況です。安価な低スペックのタブレットを生徒に与えて満足している教育の場の責任は大きいのが現実です。
加えて、日本の教育システム全体が、科学や工学のキャリアを目指す学生に対する支援が不足しています。多くの学生は、将来のキャリア選択において安定性を重視し、リスクを伴う科学技術分野を敬遠する傾向があります。これは、年功序列や終身雇用といった伝統的な雇用慣行が根強く残っているためです。また、STEM分野の教育が高額であることも一因です。多くの家庭では、教育費の負担が大きく、特に高額なSTEM分野の学費を支払うことが難しい状況にあります。
これらの要因が重なり合い、日本では科学や工学のキャリアを目指す学生の割合が低くなっています。日本が「2025年デジタルの崖」を乗り越えるためには、教育システムの抜本的な改革が必要です。具体的には、デジタルスキルを教える教師の育成、教育リソースの充実、そしてSTEM分野のキャリアを目指す学生に対する支援の強化が不可欠です。また、オフショア開発の活用による海外の優れた人材の導入も、効果的な解決策の一つとなり得ます。
経済効率の低さ
日本の企業はデジタル技術の導入が進んでおらず、デジタルアジリティのランキングで最下位となっています。これにはいくつかの要因が絡み合っています。
まず、大企業と中小企業の間に大きな「デジタルデバイド(デジタル格差)」が存在します。大企業は、総投資額の10%をソフトウェアに割り当てるなど、デジタル技術の導入に積極的です。これにより、業務効率の向上や新たなビジネスモデルの構築が進んでいます。しかし、従業員数300人以下の中小企業ではその比率がわずか4%にとどまっています。2017年に何らかのデジタル機器やソフトウェアに投資した中小企業は、わずか4社に1社という状況です。
中小企業のデジタル技術導入の遅れは、複数の要因によるものです。第一に、ITを導入できる人材の不足が挙げられます。経済産業省の調査によれば、中小企業がデジタル技術の利用を進めていない理由として、「ITを導入できる人材が不足している」という回答が最も多く43%に達しています。IT技術を理解し、効果的に活用できる人材が不足しているため、デジタル化の取り組みが進まないのです。
第二に、「IT導入の効果が不明確、または十分でない」という認識も問題です。この回答は40%と僅差で2位となっており、IT投資のリターンに対する疑念がデジタル化の阻害要因となっています。多くの中小企業は限られたリソースを効率的に使う必要があり、明確な効果が見えないIT投資には慎重にならざるを得ません。
第三に、資金不足がデジタル技術導入の大きな障壁となっています。中小企業は大企業に比べて資金力が弱く、高額なデジタル技術やソフトウェアの導入に踏み切ることが難しい状況です。これにより、最新の技術を取り入れることができず、競争力が低下しています。
さらに、日本全体で見てもデジタルアジリティの低さが目立ちます。デジタルアジリティとは、デジタル技術を活用して迅速かつ柔軟にビジネスを進める能力を指しますが、日本はこのランキングで63カ国中最下位となっています。これは、技術の導入速度や柔軟性が他国に比べて著しく低いことを示しています。例えば、アメリカや中国ではAIやビッグデータを活用した高度なデジタルビジネスが急速に普及しているのに対し、日本ではその進展が遅れています。
このような経済効率の低さは、日本企業全体の競争力を低下させる要因となっています。デジタル技術の導入が進まないことで、業務効率の改善や新しいビジネスモデルの構築が遅れ、市場での競争力を失うリスクが高まります。特にグローバル市場においては、デジタル技術を駆使した企業が競争優位を築いているため、日本企業がこのままでは国際競争に取り残される可能性が高いです。
この状況を打開するためには、国内のデジタル技術の導入を促進する施策が必要です。特に中小企業に対する支援が重要であり、デジタル技術の導入をサポートするための人材育成や資金援助が求められます。また、オフショア開発の活用により、海外の先進技術を取り入れることで、国内のデジタル化を加速させることができます。一方の枠組みとして、かつての町の電気屋さんのような、商店街の情報システム屋さんというような活性化策などで地域一体ででデジタル化を促進させる施策も必要になってくるでしょう。
労働市場の限界
日本のデジタル人材の給与は他国に比べて低く、優秀な人材を惹きつけるインセンティブが不足しています。この状況は、デジタル分野での人材流出を招く大きな要因となっています。
まず、日本のデジタル人材の給与水準は他国に比べて相対的に低いです。2021年の調査によると、日本のデジタル人材の平均年収は438万円であり、これは2019年から4%減少しています。この数値は日本の給与の中央値からも2%下回っており、特に優れたスキルを持つデジタル専門人材に対しても十分な報酬が提供されていないことを示しています。
さらに、他国との比較においても、日本のデジタル人材の給与は低水準に留まっています。例えば、アメリカやヨーロッパ諸国では、デジタルスキルを持つ人材に対して高額な報酬が支払われており、これが人材を惹きつける大きな要因となっています。日本では、同様のスキルを持つ人材に対する給与が低いため、優秀なデジタル人材が海外へ流出する傾向が強まっています。
また、日本の労働市場における年功序列と終身雇用の文化も、デジタル人材にとって魅力を欠く要因となっています。多くの企業では、職能よりも年功序列を重視するため、若くて優れたスキルを持つデジタル人材が十分に評価されず、昇進や昇給の機会が限られています。このため、特に若年層のデジタル人材は、より高い報酬とキャリアの成長機会を求めて海外に移るケースが増えています。
デジタル分野での人材の海外流出は、国内の技術革新や経済成長に対する深刻な影響を及ぼします。優れたデジタル人材が海外に流出することで、日本国内でのデジタルプロジェクトの推進が難しくなり、企業の競争力が低下します。特に、AIやビッグデータ解析、IoTなどの先進技術を活用したプロジェクトは、高度な専門知識を必要とするため、人材流出がプロジェクトの遅延や品質低下を招くリスクがあります。
この問題を解決するためには、以下のような施策が求められます。
給与水準の引き上げ:
デジタル人材の給与を他国と同等、またはそれ以上に引き上げることで、優秀な人材を惹きつけ、流出を防ぐことが重要です。これには、企業がデジタルスキルに対する評価を見直し、適正な報酬を提供することが必要です。
柔軟な労働環境の提供:
年功序列や終身雇用にとらわれず、能力主義に基づいた評価制度を導入することで、若くて優れたデジタル人材が活躍できる環境を整備することが重要です。また、リモートワークやフレックスタイム制度など、柔軟な働き方を推進することも効果的です。
教育とトレーニングの強化:
デジタルスキルの向上を目的とした教育プログラムやトレーニングを強化し、既存の労働者が最新の技術に適応できるよう支援することが必要です。これにより、国内での人材育成が進み、デジタル分野での人材不足を解消できます。
海外人材の積極的な活用:
オフショア開発や外国人専門人材の招聘を積極的に行うことで、国内の人材不足を補うことができます。特別なビザ制度を活用し、海外から優れたデジタル人材を呼び込むことで、日本のデジタル技術の発展を支えることが可能です。
このような対策を講じることで、日本のデジタル分野での人材流出を防ぎ、国内のデジタル技術の発展と経済成長を支えることができます
展望
展望は改めて場を設けて詳細にまとめてみようかと思っておりますが、
下記のようなイメージを抱いております。
オフショア開発の推奨:
オフショア開発を活用することで、日本企業は海外の豊富なIT人材を活用し、高品質なソフトウェア開発を実現できます。特に、インドやベトナムなどのIT人材が豊富な国々との協力は、日本のデジタル技術の向上に寄与します。
コスト効率の向上:
海外のIT人材を活用することで、コスト効率を大幅に向上させることができます。特に、労働コストが比較的低い国々と提携することで、日本国内での開発費用を削減できます。
技術革新の促進:
海外の先進技術を取り入れることで、日本のデジタル技術の水準を向上させることができます。これにより、国内の技術革新を加速させ、新たなビジネスチャンスを創出できます。
グローバルネットワークの構築:
海外のIT企業との連携を強化することで、グローバルなネットワークを構築できます。これにより、最新の技術情報や市場動向を迅速に把握し、ビジネス戦略を柔軟に適応させることが可能になります。
結論
日本がデジタル人材不足の壁を乗り越えるためには、国内のIT人材育成だけでなく、オフショア開発などグローバルの力を活用する戦略が不可欠です。政府と企業は協力して、海外との連携を強化し、グローバルな視点でデジタル技術の発展を推進する必要があります。これにより、日本の経済成長を支え、デジタル技術のリーダーシップを確立することが期待されます。
株式会社DIVERT 代表取締役 高野久
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