415 環境再生型農業
はじめに
環境にやさしい農業として今、注目を集めているのが、環境再生型農業と呼ばれるものです。環境保全型農業とも呼びますが、耕したり肥料を与えたり、農薬を用いたりするのではなく、農業の持つ物質循環機能を活かして安全で美味しい野菜を作る方法です。
雑草を刈り取ったものを粉砕してその場にまいたり、水や栄養分等の循環を生かして生産するため、大量に同じ規格や形にそろえた野菜を生産するようなことはできません。そのため、生産過程では多様な野菜を周辺の生育状況などを気にして作付けし、その環境にゆだねて育てますので逆に収穫まではそのまま放置ですので手間は省けます。しかし、販売する方法をしっかり準備しなければ農業で生計は立てることはできません。
今日の教育コラムでは、環境にやさしいこの農業について少しお話してみたいと思います。
学校でも実践する価値あり
SDGsなどといって、持続可能な社会について学校では学びます。また、食育や社会科や理科などの一環として農業体験や作物を育て収穫し、食すなどといった学習活動を展開する学校は全国に多数存在します。
そこで、そうした多くの学校において学校菜園での栽培の実態を見てみると綺麗に耕し、苗や種をまいて育てる一般的な農業のを体験する方法が多くとられています。
そこで、提案したいのが環境再生型農業を取り入れた環境にやさしく手間の省ける農業を展開する手法です。様々な野菜や果物などを近くで栽培できますし、何より肥料や除草剤、水をあげたり雑草を取ったりする手間が省けます。上手くいけば、多くの昆虫や生物が寄り付きますので観察園としても機能します。そして何より、有機栽培された野菜は、安全ですし味も野菜本来のうまさがあると言われています。
どこにフォーカスするか
学校教育においてカリキュラムマネジメントする際に、重要な視点としてどこのフォーカスするかという点があります。例えば、そのフォーカスしている内容を学校目標と呼んだり、教育目標と呼んだりします。
農業においても同様で、農薬の利用や環境負荷を押さえつつ、物質の循環性にフォーカスした場合を循環型農業と呼び、地球温暖化防止や生物多様性の維持にフォーカスした場合を環境再生型農業と呼ぶ場合があります。
いずれにしても循環型農業も環境再生型農業も大きなテーマとして環境にかなりコミットしていることが重要な点です。
中途半端な取り組みではなく、持続可能な社会や地球環境を目指す上でかなり積極的に流通の原理や経済的な側面に向ける視線を弱めているとも言えます。つまり、強める部分をある部分を弱めることでさらに強調しているということです。ではその様子をメリットとデメリットという視点で見てみましょう。
メリットとデメリット
それぞれについて、4点ずつその内容をまとめると次のようになります。
①メリット
・持続可能性が高まる
・消費者と生産者の安全性が高まる
・SDGsへの貢献によりブランドイメージ向上につながる
・交付金や補助金を受けられる
②デメリット
・生産が安定するまでに時間を要する
・病害虫による被害のリスクが高まる
・初期投資が必要になる
・専門的知識の取得にリソースが必要
環境再生型農業を今すぐ始めようとしても、経済的に自立できる状態に持っていくまでに時間が掛かります。
ですから多くの農家の方が行っているのは、現在の本業における農法を維持しながら、環境再生型農業を同時に進めることで生産が安定するまでの時間をつくりだしています。
環境への配慮および持続可能性を重視する上で、一般的な化学肥料や化学合成農薬などを用いることはできません。もともと生態系の中にいる害虫を取り除いてくれる生き物たちを利用したり、自然由来の肥料を用いる必要があります。するとそうした生き物たちが寄り付くような環境を作らなければいけません。
こうしたいくつもの新たな手法を取り入れ、その土地の気候や環境に適応させ、生産体系や生産量を安定させられるまでには、数年を要することもあります。
教育のブランド力の向上
SDGsに取り組んでいるという実績を教育のブランド力につなげようという動きは、ここ数年より一層高まっています。
しかし、その多くの場合においてゴミ拾いや資源回収、リサイクル商品の使用、CO2の排出削減など、学校の運営上の工夫や教育活動の本のごく一部として行っているものが多いです。
そうした学校こそ、環境再生型農業を取り入れた菜園づくりやそこでの活動を取り入れてみることを提案したいです。リソースの確保は難しいですが、環境とのつながりを調べたり、実践したりする中で収穫の喜びや生態系の回復や維持に直接かかわることのできる体験型の学習が展開できます。
また、そうした中で化学肥料や農薬に対する正しい知識なども身につくでしょうし、公害問題や環境問題への意識も高まっていくでしょう。
結果としてSDGsを重要視しているというブランド力の向上と学習の機会の向上が望めると思うのです。