フラペチーノと絆創膏が出会うまで
心地の良い春の気温に、雲ひとつない冬の快晴。
季節の変わり目をこれほど感じる瞬間があるだろうか。
今の一番の悩みは雑誌の置き場が見当たらないことだ。
非常にお気楽なもんで今の悩みはこれ一つという、良いんだか悪いんだかの生活を送っている。
季節の変わり目ということで、心機一転部屋の模様替えをした。
新しい棚が導入されたのだが、部屋のテイストにも合い非常に気に入っている。この棚は黒のアイアンで枠が作られ、暗めの木板が上下にあるアメカジ風の簡素な二段構造である。この棚の一階に雑誌を置いてやろうと考えた。
単純に思いついたものであったが、雑誌との相性は抜群だ。
海外のカフェのようなオシャレさが僕の部屋に加わり、これだけで白ごはんが3杯はいける程の仕上がりだった。
この棚の登場により、一番の悩みであった雑誌の置き場が解決された。
僕は悩みを抱えないストレスフリーの人間になった。
これまた良いんだか悪いんだか。
しかし人生はそう上手くいかないようで、すぐに悩みができてしまった。
それは雑誌が自立しないことだ。
親のすねかじりが言うなと思うかもしれないが、僕は自分に優しく人には厳しい男なので許してほしい。
僕の部屋に新風を吹き込んだ棚は枠が鉄のアイアンでできているだけで、棚の横に板は無い。雑誌のように自立しない本を立てるには、サイドに安定した板があり、ブックスタンドと挟み込んで立たせるのが一般的だろう。
しかし今回はこの策は使えない。
両サイドをブックスタンドで挟む力技にでたが、雑誌の自立のしなさが勝ち、ブックスタンド達は床になぎ倒された。
そこでファイルボックス雑誌を入れて、雑誌の背が見えるようにしようと考えた。
小さくなんともしょうもないが、これは僕が解決すべき一番の悩みだったため、すぐに作業に取り掛かった。
まずはファイルボックスを求め、2000円を握りしめて隣の駅まで30分かけて歩いた。
ついでに父に頼まれた絆創膏も買いに。
僕はよく理由もなく隣駅の駅ビルによく行くのだ。
「毎日30分のウォーキングでガンのリスクが9割減る」という記事を見たのがきっかけだ。
不老不死を企む僕にとって、その記事の見出しは魅力的だった。
隣駅に着き、目当てのものを求めて無印良品に直行した。
たくさんの商品に惹きつけられながらも誘惑に負けず、ボックスコーナーにたどり着いた。しかし目当てのファイルボックスはあったものの、棚に合う黒色ではなかった。きっと「落胆」と言う言葉はこういうときのために用意されているのだろう。出番を失った2000円たちからも落胆の雰囲気が伝わってくる。「こりゃ、またATM行きだわ」とお金たちは思っているのだろうかと考えているうちに、いつの間にか足は本屋に向かって進んでいた。
やっぱり本屋は落ち着く。何も努力せずともインテリの称号を得た気がするからだ。自分の興味のままに本を立ち読みした。デザインや自己啓発本、世界遺産検定の本とジャンルは様々である。
本屋を出た僕の手には、取ってのない紙袋に身をまとったファッション誌があった。悩みの根源である雑誌を買ってしまったのだ。自立しないあいつを。でも表紙がかっこいいから雑誌を許してやることにした。
ショーウィンドウに映った自分を見ると、珍しく髪がいい感じになっていることに加え、片手に紙袋。
気分はさながらフランスパンを買いに行ったオシャレな人である。
気分がいい僕は余ったお金で絆創膏とスタバでキャラメルフラペチーノを買うことにした。
休日のお昼だったこともあり、店はかなり混んでいた。
スタバの店員さんには毎回感動させられる。あんなにも爽やかな笑顔で臨機応変に対応できるなんてすごいなと思う。
居酒屋バイトを2ヶ月で挫折した僕にはなおさら。
ついに僕の番が来た。
いつも通り、必殺技「キャラメルフラペチーノのグランデで」を繰り出す。
この技はメニュー表を見ずとも、もちろんHPが少なくても出せるのですぐに発動してしまう。
持ち帰りであることを伝えると店員さんから「良かったら今度はお店でのんびりしていってくださいね!本を読んでらっしゃる方も多いですよ!」と声をかけられた。
絶対マニュアルにはないその言葉に感動させられてしまった。
気分が2段階も3段階も上がって店を出た僕は、誰にも見られないようにひっそりとスタバの紙袋に100均で買った絆創膏を入れた。
フラペチーノも初めて絆創膏と出会ったと思う。
レジ袋が廃止されたおかげで、商品たちはまさかの出会いが増えただろう。
そんなことを考えながら30分かけて家まで歩いて帰った。
帰ってきた僕に父が2つ隣の駅まで歩かないかと誘ってきた。
僕は不老不死に近づいているのかもしれない。