【インタビュー翻訳&解説】Marilyn Mansonとコロンバイン銃乱射事件について
この記事では、映画「Bowling for Columbine」劇中での、マイケル・ムーア監督によるマリリン・マンソンへのインタビューを翻訳し、少しだけ解説をしていきます。
同映画は、1999年にアメリカのコロンバイン高校で起きた銃乱射事件を起点に、アメリカの銃問題を取り扱った2002年公開のドキュメンタリー映画です。(日本公開は2003年。)
銃乱射事件を起こした少年2人が、マンソンのファンであったという報道により、メディアによるマンソン叩きが始まります。(ちなみに少年らがマンソンのファンだったという報道は後に誤りだったことが明らかになります。)
銃乱射事件から2年後、コロンバイン高校のあるコロラド州リトルトンに程近いデンバーにて、マンソンがライブを行う事になりました。宗教団体はマンソンに対して抗議集会を行い、その様子がインタビュー動画にも映っています。
マンソンの過激な音楽や派手なファッションしか知らない方は、インタビューにおける彼の語り口や、その内容から溢れる知性に少し驚かれるかもしれません。
1.インタビュー本編の翻訳
When I was a kid growing up, music was the escape. That's the only thing that had no judgments. You know, you put on a record and it's not gonna yell at you for dressing the way you do. It's gonna make you feel better about it.
マンソン:子供の頃、音楽は逃げ道だった。音楽だけは決めつけをしない。レコードは俺が着ている服について文句を言ったりしない。むしろ肯定してくれる。
Some will be so brash to ask if we believe that all who hear manson tomorrow night will go out and commit violent acts. The answer is no, but does everybody who watches a Lexus ad go and buy a Lexus?No, but a few do.
抗議集会の男性:「明日の夜、マンソンの音楽を聴いた人間が全員暴力行為に走るとでも思っているのか?」と我々に聞く者がいます。我々はそうは考えてはいません。
ですが、果たしてレクサスの車の広告を見た人全員がレクサスを買うでしょうか?
全員は買いませんが、何人かは買うでしょう。
I definitely can see why they would pick me, because I think it's easy to throw my face on a TV. Because I'm, in the end, the poster boy for fear, because I represent what everyone's afraid of, because I do and say what I want.
マンソン:何故俺が悪者として選ばれたのか分かるよ。俺を悪しきものとしてテレビに出しておけば簡単だからだ。結局のところ、俺には恐怖のイメージがついてるんだ。
俺は皆が恐れるものを象徴してるし、言いたいことも言うからな。
Marilyn Manson can walk into our town and promote hate, violence, suicide, death, drug use and Columbine like behavior, I can say, not without a fight, you can't.
抗議集会の男性:マンソンがこの街に来て暴力や自殺、ドラッグやコロンバインのような大量殺人を促すのなら、私はこう言う。「戦いを覚悟しろ」と。
The two byproducts of that whole tragedy were violence on entertainment, and gun control. And how perfect that was the two things that we're going to talk about with the upcoming election, and also then we forgot about Monica Lewinsky we forget about, the president was shooting bombs overseas.
Yet, I'm a bad guy, because I've sang some rock and roll songs, and who has a bigger influence, the president or Marilyn Manson?
I'd like to thank me, but I'm gonna go with the president.
マンソン:あの悲惨な事件には副産物が2つある。エンターテインメントにおける暴力と、銃規制の問題だ。そしてこの2つは次期の大統領選挙の争点と完璧に重なる。
しかも皆忘れてるんだ。モニカ・ルインスキーのこと(ビル・クリントン元大統領の不倫相手)や、大統領がよその国を爆撃してることを。
だけど、あくまでも悪者になるのは俺なんだ。それは俺がロックを歌ってるから。でも俺と大統領、影響力はどっちが強い?俺は大統領の比じゃない。
Do you know that the day Columbine happened,the United states dropped more bombs on Kosovo than any other time during that war?
マイケル・ムーア:コロンバイン銃乱射事件の日、米軍がコソボで最大の爆撃を行ったのは知ってる?
I do know that. I think that's really ironic you know, that nobody said well maybe the president had an influence on this violent behavior,because it's,that's not the way the media wants to take it and spit and turn it into fear, because then you're watching television, you're watching the news, you're being pumped full of fear, there's floods, there's AIDS, there's murder, cut to commercial, buy the Acura, buy the Colgate, if you have bad breath, they're not going to talk to you, if you got pimples, the girl's not
going to fuck you, and it's just this, it's a campaign of fear and consumption.
And that's what I think, that it's all based on is the whole idea that, keep everyone afraid, and they'll consume. And that's that's really as simple as it can be boiled out.
マンソン:もちろん知ってる。まったく皮肉だよな。
「大統領が暴力行為を助長してる」とは誰も言わない。なぜならそれはメディアの望んでる恐怖の生産法じゃないからな。
人は毎日テレビのニュースを見て、恐怖を詰め込まれる。洪水に、エイズに、殺人事件なんかのニュースが流れる。パッとCMに切り替わって、Acura(車)を買え、Colgate(歯磨き粉)を買え、息が臭いと嫌われるぞ、ニキビ面だと女の子とヤレないぞ、と言われる。
まるで恐怖と消費の一大キャンペーンだ。米国経済の基盤はそれだと思う。
恐怖をばら撒いておけば、誰もが消費する。突き詰めればそういう事だと思う。
If you were to talk directly to the to the kids at Columbine and the people in that community, what would what would you say to them if they were hearing now?
マイケル・ムーア:コロンバインの生徒やあの街の人々に話すとしたら何と言う?
I wouldn't say a single word to them. I would listen to what they have to say. And that's what no one did.
マンソン:何も言わない。黙って彼らの話を聞く。誰もそうしなかった。
2.ちょっと解説
このインタビューが収録された映画のタイトルは「Bowling for Columbine」でした。
このタイトルをつけた理由の1つが、「犯人の少年たちは事件当日の朝ボウリングをしていた。マンソンが彼らに悪影響を及ぼしたというのなら、ボウリングにも悪影響があるはずだろ」というマイケル・ムーアなりの皮肉であったそうです。
インタビュー中にもある通り、「大統領のコソボ爆撃が暴力を助長している」と主張するメディアは当然のことながら皆無。メディアはコロンバインのような青少年の暴力行為の原因を色々と並べたて、その中でも暴力的サブカルチャーのシンボルとして、マンソンはスケープゴート(生贄)にされたのでしょう。
コロンバイン事件以前にも、マンソンの音楽やライブパフォーマンスの過激さに対して顔をしかめる大人はいたと思いますが、それが事件によって一気に火が付いた感じでしょうか。
まあ、自分の子どもがこんな音楽を聞いてたら心配してしまう親心も分からなくはないですが…。あとはキリスト教徒にとっての「Antichrist」がどれ程ショッキングなのかというのは、キリスト教徒でない者にはかなり想像しづらいところがあります。
個人的に、彼の音楽はベスト盤を聞いたことがあるくらいだったのですが、この映画をみて彼に対して抱いていたイメージがひっくり返りまして、とてつもなく頭の良い、良心的な大人なんだなと思うようになりました。「アメリカの銃問題」というテーマこそ重いですが、そこはやっぱりマイケル・ムーア監督なので、ユーモアたっぷりの仕上がりで万人にお勧めできる映画です。「Bowling for Columbine」、良かったら、「外出自粛の間に見る映画リスト」にでも加えていただけると幸いです。
*タイトル画像
http://www.rogerebert.com/reviews/bowling-for-columbine-2002
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