05_Secret_Collapse

「君」の目覚め すぐに気が付く自分

君さえいなければ、どれだけ空虚な生を繰り返していたことだろう?


きっと誰も求めず、誰からも好かれようなどと考えはせず、

薄暗い、窓のない小さな部屋で永遠と過ごしていたいと思っただろう。


ここは彼女の構築したセキュリティ・エリア
時おり外敵は発生するが、それでも居心地は悪くない

ここは彼女の構築したセキュリティ・エリア
時おり外敵は発生するが、それでも居心地は悪くない


---ガサガサ。


それよりも不可解なのは、こうして距離を保ったままでいようと思う、彼女に対してでさえ、
僕はしかし、関係性を悪化させてはならないと考えていることだ。

恐れているのか?彼女との関係次第で、この比較的快適な空間を利用できなくなってしまうことについて。
勿論それもあるのだろうが、それ以上の、目前の利己心を越えた何かが、
自分を動かしているように思えてならなかった。

八方美人でいたいのだろうか、自分。

同意なき想いは成就せず。

例え仮に片方が情けを掛け、もう片方に合わせたとして、
彼らを待ち構えているのは破局、だと思う。


「どうしても、好きになってしまったの」


「・・・」

ミシ、ミシ。

薄闇の中、僕を抱擁する同胞が一匹。

性別的に「彼女」の代名詞で表せる、この同胞---胴体が紺色なのでそう呼ぶこととする---「紺色」から、ひと通りの求愛行動を受けた後の言葉。

想定外だった。僕がこの世へ久々に産み落とされ、出会う数々の同胞の中で少し、気が合うと分かって行動を共にすることが増えた。
ただし飽くまで協力関係に留まる範疇、今夜も「狩り」を終えて戦利品を頂戴すべく。


獲物を得た近隣の安全地帯で、瓦礫とアルコールと上空の月明かりとに囲まれながらの、なんともならない話に花を咲かせる、その程度に終わる会合の筈だったのだ、僕としては。

「ごめんなさい。その気持ちには応えられない」

崩壊寸前な自分の六肢を、手足と翅を、それでも彼女の中で息絶えまいとして慎重に動かし、僕の言葉で力の緩んだ紺色の拘束を、少しずつ解いてゆく。


急に近づけすぎた距離。

訂正、近づいてきたのは紺色の方からで、
そして確かに何度か、共に夜を明かしたのは事実だ。

もしかしたら、一度一度の生を大事にする方で、
紺色としては、もう十分だと判断した上で、この距離なのかもしれない。
だが、僕としては急すぎる---を、適正にしたかった。


「・・・あはは、そうだよね」スル、スル。

言いながら、自らも僕への求愛体勢をゆるゆると解き、
手は後ろに、下半身は体育座りの格好で腰を下ろす、紺色。
つま先と手の指が砂にさらされ、ゆっくりと沈み込んでゆく。


***


生れ落ち、生き、死に、そしてまた生まれ、を繰り返す毎週の中で、
あなたなら何を「生き甲斐」とするだろうか。


愛に生きる?
夢があって、その実現のために生きる?

もしくは、その両方?


色々あると思うけど、この問題を考えたとき。

僕の心が真っ先に発声したのは

「怒り」

その三音だった。


対象を強く思うことは愛と変わらないかもしれないし、それを滅ぼしてやりたい、
めちゃくちゃにしてやりたい、と思う心は、
夢であったり目標であったり、
そんな言葉で表せるのかもしれない。

僕は紺色のことを憎んでもいないし、紺色に対して何かしたいとも思っていない。
これは、紺色にとってはある種もっとも絶望的な表明なのかもしれない---

いっそのこと、憎まれたり嫌われたりしていた方が、
「僕」が「私」を意識しているという点では、ずっとマシ---

などと己惚れたことを、心の内側に隠しておきながら。


「うん、、ごめん」事態が泥沼になる前に、白黒つけておきたかった。
こちらが曖昧な反応を示して、あとになって惨事を招くのは被りたかった、保身。

紺色が僕から見て、好みではなかったから?
いや、少なくとも「美形」であった。
今まで見てきた同胞には様々な「対象外」が存在したが、
彼女はそうではなかった。


・・・惚れる程タイプかどうかは、分からない。
いや、分かっている、そうであるなら、こちらから好意を表明していたと思う。
今の自分の感情は「無」であった。
紺色から求められ、行為を受け入れ、・・・そうした経緯があって尚、
何も感じることが出来なかった。

生命として欠落しているのだろうか?
戦利品のアルコールが効いているせい?お酒はその手の欲求を間違いなく減衰させる。

・・・とにかく。


「今の僕は、誰も好きになることができないんだ」
すっかり解けて距離も離れた紺色に対して、半分真実の半分嘘を告げる僕。
「だれかを好きになるという感情が、生まれない」

「・・・・・・」
じっと見つめる紺色。
アルコールが入っていたからか、そのほかにも僕は色々と、
何やら弁明のような発言を色々としていた気がした。

紺色はそれを、相槌を打ちながらきちんと聞いていてくれた。そして最後に一言、


「まあ、分かっていましたよ」と寂しそうに言った。彼女は笑っていた。

.
.
.
身支度を終え、夜の更けないうちにココを発つ自分。


手を振る紺色を尻目に、僕は永遠に結ばれることのない、
最愛の「君」のもとへと航路を定め、半壊した躰を駆った。


『fly out lost』


緋継
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緋継
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オリジナル鈍色思いSF・ファンタジー
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マイピク限定オリジナル鈍色思いファンタジー倒錯恋愛SF・ファンタジー歴史
基本設計 もう少しまともなのを別サイトにのせます
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