大麻取締法改正 経過の振り返り⑥「取りまとめに向けた議論」
検討会第6回のテーマは「とりまとめに向けた議論」です。いよいよ意見をまとめる段階です。
前回、これまでの検討会における委員発言を事務局がまとめ、検討課題を4つに整理していました。「大麻取締法のあり方」「再乱用防止、社会復帰支援等」「医療用麻薬及び向精神薬」「情報提供、普及啓発」です。これについてそれぞれ議論がなされるようです。
【検討会第6回 令和3年5月14日】
はじめに一つ目の検討課題「大麻取締法のあり方」についてです。麻薬対策課から、これまでの検討会での説明と意見をまとめた「とりまとめ素案」が示され、その中で、今後の方向性として以下のように取りまとめてどうかと説明がありました。
①大麻規制の在り方について
大麻規制は部位規制から成分に着目した規制にすべき。併せて、THCとCBDという成分で区分けをしたうえで輸入等を可能とする。
大麻由来成分を利用した医薬品は、麻向法の流通管理の仕組みを導入する前提で使用が可能とするよう見直すべき。THCについては、医薬品として効能効果が認められ厚生労働大臣が承認したものは認める。濃度基準については将来的な課題。
使用罪がないことによって大麻を使用している人が2割いること、「麻酔い」が確認されなかったことを踏まえ、他の薬物と同様に使用罪を導入することについてはどう考えるべきか。
②普及啓発の強化
若年者の大麻事犯が増加し続けていることに対して、大麻の乱用については①開始時期が早いほど、②使用量が多いほど、③乱用期間が長いほど依存症になるリスクが高まることなど、大麻の有害性に関する正確な情報をまとめて、SNSを活用した分かりやすい広報啓発活動に取り組むべき。
また、大麻については、医薬品、産業用、乱用されているものを区別して情報提供していくべき。
③産業用大麻の取扱い
合理的でない規制の見直しや指導の弾力化を行うべき。都道府県ごとの免許基準を統一すべき。
ちょっと使用罪や「正確な情報」が規制よりの印象を受けますが、これに対して委員から発言があります。
成分に着目した規制とし、大麻由来の成分を用いた医薬品の使用を認め、産業用大麻の栽培は合理的なものは認める。一方で、マリファナの乱用については毅然として対応する、メリハリのついた規制とすべき。
成分に着目して麻向法で規制すると、大麻取締法に残るのは植物としての大麻だけになるのか。 > 麻向法で大麻を規制すれば、大麻取締法は「大麻栽培法」になる。その法形式が良いのか今後議論いただきたい。
現在大麻の種子は規制されていないが、栽培の検挙者が増加しており、規制するべき。
国内で流通しているCBDオイルからTHCは検出されなかったという報告があったが、検出の閾値(最低値)が不明である。世界保健機構は0.3%以下は許容する指針を提示しているが、THCを規制しつつも許容される条件、上限値も議論されるべき。
麻向法の免許制度だと、大麻系医薬品を施用するのは麻薬施用者免許取得者になると思うが、向精神薬のように医師や医療機関の登録のあるものだけが取り扱えることにすべき。
免許基準の統一だけではなく、厳格化や、国の免許とするような内容を入れてほしい。
治療・回復支援という観点から、使用罪創設によるデメリットや問題点にも言及した。最初の1回を防ぐため規制するだけでなく、既に問題を生じた人の社会復帰にどのように影響するかも併せて議論すべき。
使用罪について、受動喫煙者が逮捕されないことが必要。また、抑止効果だけに着目して規制するのはいかがなものか。
使用罪がないことによって大麻を使用している人が2割いたとの記述があるが、検挙された人は氷山の一角であり、その人たちだけの情報で判断するべきではない。使用経験がある人が160万人、過去1年間でも9万人と推定される中、使用者の状況を精査したうえで考えていく必要がある。
使用罪を規定されることで相談しにくい環境が生まれる。使用罪より、正確な情報提供、普及啓発をしていかないと犯罪者が増えていくだけ。
使用について何らかの規制をすべき。使用罪には前科をつけないということで何とかならないか。
使用罪について、実態としては所持罪で検挙してきたと理解している。使用罪がないことの意味を誤って捉えられることは問題で、使ってはダメだということをメッセージとして打ち出すことには意味がある。
以上です。大麻の葉、花穂などの部位規制からCBDやTHCなどの成分規制に移行すること、それに合わせて免許や流通の規制について麻向法を参考にすることには特に反対がないようです。一方で、使用罪についてはかなり意見の対立があります。
使用罪は、法改正の結果を見れば、大麻の取り締まりが麻向法へ移行したため自動的に使用罪がついた、逆に言えば大麻だけ使用罪なしとはされなかったわけですが、意見が割れているこの状況からどうまとまったのでしょうか。また、刑期なども麻向法で規制する他の薬物と同様となった結果厳罰化となりましたが、これもまだ議論されていません。
続いて「再乱用防止、社会復帰支援」についての説明です。今後の方向性については以下のとおり説明されました。
①再乱用防止対策、社会復帰支援策のあり方
必要なものとして、刑事司法関係機関での社会復帰につなげる指導・支援、居住地域にかかわらず適切な治療や支援を受けられる医療機関・相談拠点の整備、地域社会における本人・家族等への支援体制の充実・正確な情報提供。
②麻薬中毒者制度のあり方等
制度の実態がないため見直すべき。また、医師の届出義務と守秘義務の関係が明確になるよう周知すべき。
これに対して委員から意見が出されます。
依存症治療は安心安全な治療環境が必要で、刑務所や保護観察所などの司法機関では治療にならない。刑務所に入れば入るほどまたつかまりやすくなるというデータがある。
社会での居場所のなさ、孤立、希望のなさが薬物をやめるという選択肢を取りづらくする。一次予防が大事というが、依存症者などの少数の者が切り捨てられ、規制ありきの議論がなされることを危惧している。
違法薬物が入手できなければ市販薬や処方薬、となる。何かを使わないではいられない状況なのであり、違法薬物の供給を断つだけでは限界がある。
再犯率は66%で、再乱用防止がうまくいっていない。人とのかかわり方、個別的な支援、生活の支援が重要と思う。支援する側の偏見も、よくなっていけばと感じる。
覚せい剤事犯者の受刑回数が増えるとともに仕事を失うとか家族との関係が悪化するとか社会的な問題が増えていくことが研究から明らかとなっている。地域での支援、社会での受け止めが大事。
前科をつけないという意見もあったが、治療や処遇を条件として起訴しないような制度を設けるべき。一部執行猶予や全部実刑になる前に、処遇に結びつけていく仕組みを考えることが必要。
「ダメ。ゼッタイ。」だけでは絶対ダメ。一次予防は必要だが、日本は二次予防が弱い。医療だけではなく、更生施設、回復支援施設、民間の活動・グループなどへの支援・育成が必要。
薬物依存症患者が増えているが、大麻の乱用によるものではなく、啓発が進んだから治療につながる人が増えているのであり、誤解されないようにすべき。
依存症患者が増えたことについては、支援する医療機関が増えた、受け皿が増えたと評価すべき。
薬物依存症患者は覚せい剤が一番多いが、二番目は睡眠薬や抗不安薬などの処方薬、三番目は一般用医薬品である。医薬品の乱用や依存に対する支援も考える必要がある。
麻薬中毒者制度について、治療・相談支援の場では守秘義務を優先できることとして見直すべき。
麻薬中毒者制度の廃止は英断と思うが、麻薬中毒者支援員については残すべき。
麻薬中毒者制度の廃止に賛成。薬物依存症の治療に特効薬はないが、医療共有体制に係る取組みの継続と、質の検討・充実が重要。
以上です。日本は薬物の経験率が諸外国に比べ非常に低く、一次予防、手を出させないということについては評価できるものの、一度捕まった人へのケアが弱く、今後はそちらに力を入れていくべき、というのが多くの委員の意見のようです。
大麻への依存については話題にあがりませんが、何かに依存しないではいられない人が、大麻について厳罰化した場合に他の薬物に流れていく可能性も考えられ、その意味では注目すべき論点です。
そして、形骸化している麻薬中毒者制度については廃止し、医師の通報についても守秘義務を優先することで安心して治療を受けられるようにすべき、ということも一致した見解のようです。
続いて、「医療用麻薬及び向精神薬」「情報提供、普及啓発」については2つまとめて説明されました。
①麻薬の流通管理、適正使用
医療用麻薬について不適切な使用がなされないよう対策を講じながら適正使用の普及啓発を進めていくべき。医療用麻薬という名前についても適切な名称を検討すべき。流通については弾力的な運用が可能となるよう見直すべき。
②向精神薬の流通管理、適正使用
不正流通、不適切な使用のおそれが高いものは監視指導が行えるような枠組みを作るべき。
③普及啓発及び情報提供
大麻の有害性に関する正確な情報をとりまとめ、SNSなどを活用して広報啓発活動に取り組む必要がある。大麻について、医療用、産業用、乱用されているものを区別して情報提供するべき。薬物依存症という健康問題について、乱用は犯罪であることについて、認識を共有するための普及啓発活動を進め、社会復帰を目指す人を支援する社会を目指すべき。一次、二次、三次予防それぞれの目的を踏まえた普及啓発活動を進めるべき。
これに対する委員からの意見です。
大麻に使用罪を作らないと、医療用の大麻製剤の乱用は処罰されるが娯楽目的で大麻を用いても処罰の対象にならないという法律上の整合性の問題が出てくる。
再乱用する人は覚せい剤の代わりに処方薬を使う人がいるとの話があったが、麻向法上で規制される医療用麻薬を代わりに使うという事例はないと聞いている。医療用麻薬は厳しく規制されているので、向精神薬や市販薬が使われてしまうのではないか。海外のようにスケジュールⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳのような依存性によって分ける時代が来ているのではないか。
麻薬でも医療用とそれに該当しないものが混在している。麻薬という用語に負のイメージが伴う状況だが、医療用としては適切に利用することが必要。米国のスケジュール規制のような改編も必要ではないか。
向精神薬の流通管理を麻向法並みに厳しくするということと思うが、実際行政での監視指導はどう行われているのか。 > 立ち入り調査を定期的に行い、物の出入り、在庫管理について確認している。
「ダメ。ゼッタイ。」の話だが、一次予防のために二次、三次予防が犠牲になってはならない。薬物の問題を抱える人を忌避する感情が盛り上がり、排除が起きている。
「ダメ。ゼッタイ。」は中毒者ではなく始めていない人への呼びかけで、誤解、曲解があるのであればそれは違うと説得する必要がある。
「ダメ。ゼッタイ。」はよくないというのは、二次予防を阻害する、偏見を助長するからという主張がある。このキャッチコピーは浸透しており、相当の効果があった。うかつに論じるには難しい問題と感じる。
「ダメ。ゼッタイ。」の言葉がどうというわけではなく、キャッチコピーが独り歩きしており、依存症を社会で受け入れようということが浸透しない。標語が始まったころから時代は変わっており、歩調を合わせていく必要がある。
教育現場の予防教育についても考えていく必要がある。「ダメ。ゼッタイ。」を使わなくても一次予防はできるのではないか。アメリカの薬物乱用研究所によれば、恐怖を与えて手を出させない恐怖教育はあまり意味がない。若者の価値観に沿って、事実に基づいてやっていくことが必要。
今回の検討会委員に教育関係の方がいない。教育関係者の意見も必要と思う。
教員からは、薬物の怖さを教えてくださいというオーダーが多い。日本では怖さを与えて絶対使ってはいけないとしているが、臭い物に蓋をする形ではない、もっと正確な情報提供が必要。
以上です。薬物管理におけるスケジュール規制の導入が提案されています。
また、「ダメ。ゼッタイ。」については、意見が割れており、批判的な意見が多いようですが、2024年8月現在いまだに使われています。啓発についてはここが変わるかどうかが大きな節目になるような気すらしてきます。
そして委員に教育関係者がいないとの指摘。委員の構成は厚労省次第なのだと思いますが、検討会途中で意見を変える委員なんていないでしょうから、どれだけ多様な委員を適切に集められるかは大きなポイントだと思います。
ということで第6回検討会は以上です。取りまとめに向けて委員間の意見の応酬も熱いです。
第7回はこれらの意見を受けてブラッシュアップした取りまとめ案に再度意見してもらう感じでしょうか。大詰めですが、まとまっていない論点も多く、どんなふうに折り合いをつけてくるのでしょうか。