大麻取締法改正 経過の振り返り⑧「取りまとめ」
大麻等の薬物対策のあり方検討会、いよいよ最終回です。
【検討会第8回 令和3年6月11日】
第8回は取りまとめを行うということで、前回からの変更点に限って意見を述べる機会がありました。発言は前回欠席した委員1名からだけで、使用罪への賛成意見でした。
使用罪をあえて設けないことは、使用や、さらには所持までもが許された行為だという間違ったメッセージになる。偏見が増えるという懸念は、所持罪でも同じで、偏見を避けるために違法な行為を合法化しろというのは本末転倒。国際的な潮流として回復支援を重視する傾向であるのはそのとおりだが、処罰をなくしているわけではない。海外に追随しなければならないわけでもない。
この意見は多数派としてすでに盛り込まれているので、とりまとめ案の修正はありません。最後にそれぞれ委員が発言し、会議は終了となりました。
規制薬物に対する対策は、医療、司法、福祉、教育、報道が連携して対応することが効果的である。薬物依存の治療体制、刑事手続きの中で治療につなげる制度、福祉的な手当て、適切な薬物教育や報道が重要。
医療用大麻についての知識を有している委員、依存症支援の当事者など他にも呼べる委員がいたのではないか。日本は生涯経験率が低く薬物使用者が少ないため声が届かない中で、難治性てんかん薬が治験に向かう可能性が見えたことは喜ばしい。
今後も一次予防に力を入れるべきと思うが、「ダメ。ゼッタイ。」に続く新たなスローガンや社会復帰に向けた支援が必要な時代になっているのではないか。取締り一辺倒ではない、教育、啓発、司法を巻き込んだ薬物対策をお願いしたい。
厳罰化だけでは薬物問題の根本的な解決にはならない。保護観察のつかない執行猶予者や起訴猶予者に治療や支援が届くよう、当事者の意見も聴いて対策を練っていただきたい。薬物依存症に対する基本法も必要ではないか。
大麻系医薬品が患者の手元に届くことを期待している。麻向法で規制されることのメリット、デメリットも議論されればよかった。今後THC濃度基準の議論が必要。
国際的な潮流について、嗜好目的の使用合法化は2か国のみで、日本が追随しなければならない理由はない。日本では一次予防が効果を上げてきたが、二次予防を必要とする人を増やさないためにも努力を怠るわけにはいかない。「ダメ。ゼッタイ。」については、誤解曲解があるならばそれを正すのが筋である。
エピディオレックスのような実際に医薬品として認められているものが患者に早く届くようなシステム構築は非常に重要。THCの濃度をどう考えるかということは慎重な議論が必要で、産業用でも同様。大麻の成分についての基礎研究ができるような仕組みの導入など、大麻の評価の妥当性を明確にできるよう国内のデータを集積していく必要がある。また、規制のみではなく、使用リスクに応じたスケジュール規制のようなものも必要になってきている。
時代遅れになっていた大麻取締法を現在の状況にあったものに変えていくという方向性が示された。部位規制から成分規制へ、大麻由来の医薬品の施用ができるようにすることは重要な点。THCの乱用防止はしっかり手立てを講じる必要がある。
使用罪には反対だが、大麻由来の医薬品に関してはどんどん進めるべきで、研究が進んでいくことを期待している。検討会では、薬物の問題を抱えている方の治療や回復支援に直接携わっている人の声をもう少し聴くべきだった。長く依存症治療の現場に身を置いているが、大麻の問題を抱えてくる患者は少なく、特に健康被害が見当たらない。健康被害より刑罰が上回っている。大麻で捕まって社会復帰できなくなるのは大きな損失。治療につなげるためにも薬物関連の犯罪は必要最小限にすべき。「ダメ。ゼッタイ。」を批判してきたが、薬物乱用教育はリスクの低い子のリスクをさらに下げて、リスクの高い子たちを分断するプロモーションになっている。検討が必要である。
委員の意見でとりまとめに記載されなかったものもある。すべてとは言わないが原則記載してもらいたかった。実際に事務を行う都道府県の意見を反映させることも必要。長期的には、薬物5法は一つにまとめて国際的な規制に併せていくことも検討してもらいたい。
世界の潮流というが、日本は生涯経験率がケタ違いに少なく、これを維持するのが重要。一次、二次、三次予防の順番を間違えずにやっていくことが基本。二次予防が弱かったことは事実で議論が必要だが、薬物依存者への回復支援が世界の潮流であってもらいたい。大麻の害は覚せい剤やヘロインに比べれば危険度は低いが、だからこそゲートウェイになる。世界も日本もつかまらない薬物にシフトしている。なお、麻薬中毒者制度の廃止が明確に打ち出されたことはうれしかった。
最後に座長があいさつし、半年にわたる検討会は閉会しました。
報告書は厚生労働省のサイトに掲載されています。(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189913_00001.html)
最も議論が交わされた使用罪は、麻向法のものがそのまま大麻にも適用され、刑期も他の薬物に併せて重くなりました。今回の各委員の最終コメントを見ていくと、使用罪に賛成など一次予防を重視する厳罰化推進派と、使用罪に反対で二次予防を重視する厳罰化慎重派の数には大きな違いはなく、半数近くの委員はどちらでもなく、大麻系医薬品の施用には賛成ですという立場であるように感じました。
そもそも、THCを麻薬とし、大麻系医薬品の規制を麻向法に入れ込むという手法をとったことがこの結論に至る最大の原因と思うのですが、その方向性がそれほど議論されないまま既定路線になったことは残念です。
ただ、医薬品の合法化により国内でも大麻の研究が進むと思われます。それら国内の知見が蓄積され、今後、「大麻等の薬物」について検討するのではなく、「大麻」について検討・評価されることを期待したいです。