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大麻取締法改正 経過の振り返り②ー1「大麻を取り巻く環境と健康への影響」
第2回検討会の議題は「大麻を取り巻く環境と健康への影響」です。毎回2時間の検討会、なかなかのボリュームなんですが、国内の議論がどこまで到達しているのか、各界の有識者の最新の見解はどうなのかがわかるので、勉強になりますね。
そしてこの検討会は、委員発言が匿名になるのですが、第1回検討会では会場にいた記者が内緒で録音し、その内容を委員が特定できる形でツイッター(当時)にあげてしまうという事件が発生したとのことです。さらに、検討会会場は非公開のはずなのに、会場の周囲に一般の人が集結し活動が行われ、その中での開催となっています。
緊張感が増す第2回、見ていきたいと思います。
【検討会第2回 令和3年2月25日】
今回も冒頭で麻薬対策課から53ページもある資料(!)で大麻の有害性などについての説明がありました。
直近の大麻事犯の検挙は30歳未満が57%、そのうち20歳未満は23%で、若者の割合が非常に高まっている。なお、検挙数の増加は取締りの強化によるものではなく、大麻の使用者が増えているため。
現在のTHCの規制は、大麻由来なら大麻取締法の部位規制で、化学合成されたTHCなら麻向法で規制している。刑罰は、大麻取締法が5年以下の懲役、麻向法は7年以下で、同じ物質でも差がある。
THCの有害作用について、精神作用は急性のものでは不安感、恐怖感、猜疑心、パニック発作、短期記憶の障害、慢性のものでは、精神依存の形成、統合失調症・うつ病の発症リスク増加の危険性、認知機能・記憶等の障害。さらに若年期からの使用ではリスクが増加する。
身体作用は、急性のものでは眠気、知覚の変容があり、これにより自動車運転への影響、運動失調と判断能力の障害を引き起こす危険性がある。慢性のものでは精神・身体依存形成、精神・記憶・認知機能障害を引き起こす危険性。これはWHOの文献でも言われている。
国際的な大麻の規制状況について、医療目的での大麻使用はかなりの国で合法になっている一方、日本、アメリカ(連邦法)、ロシア、インド、スウェーデンでは違法。嗜好目的は、合法なのはカナダとウルグアイだけで、アメリカは各州で合法化しているところがあるが国としては違法。なお、非犯罪化(刑事罰を科さない)という政策をとっている国は、イタリア、スペイン、ポルトガルなど11か国。
嗜好用大麻が合法化されたカナダでも、18歳の年齢制限など細かな規制がある。令和2年11月現在15の州と3つの地域で嗜好用大麻が合法化されたアメリカでは、それらの州で交通事故発生率の増加、救急搬送の増加、違法栽培の増加などがみられる。
前回委員から発言のあった2016年のJAMAの報告書では、「大麻の使用がいくつかの物質使用障害(※)のリスクの増加と関連している」と結論づけており、アルコールで2.7倍、その他の薬物で2.6倍となる。※使用障害とは、ある物質の使用で問題が発生しているのに使用を続けてしまうこと
2019年のJAMAの報告書では、「大麻を使用する青年の高い有病率は、大麻に起因するうつ病と自殺傾向を発症する可能性のある多数の若者を生み出す」と結論付けている。そのほか国内の研究では、「長期間の大麻の使用や高濃度THC含有製品の使用が大麻による依存症の発症に関連し ている可能性がある」「大麻使用の影響には個人差がある可能性が高い」といったものがある。
犯罪白書では、「大麻はゲートウェイドラッグと言われ、使用者がより効果の強い薬物の使用に移行していくおそれが高い薬物で、覚せい剤検挙者の約半数が大麻使用の経験を有し、そのうちの約半分は、20歳未満で大麻の使用を開始したという結果がある。」と記載されている。
医薬品への利用と有用性に関する報告について、THCは幻覚作用が非常に強く、精神異常発現作用や認知機能障害作用を有するため、医薬品としての単独利用は困難とされている。CBDは、THCの有害作用に対する拮抗作用や抗てんかん作用を有するとの報告があり、抗てんかん薬として一部医薬品利用されている。国内では現在大麻の医療利用はできないが、モルヒネや覚せい剤原料などの麻薬は医薬品として認められている。
大麻から製造された医薬品として、エピディオレックスのほか、サティベックスや、合成THCによるマリノール、セサメットなどがある。アメリカではエピディオレックスが合法、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダは医療目的の大麻使用が全て合法。
刑事罰について、日本の刑罰論は「刑罰は犯罪結果に対する応報であり、犯罪予防の効果も期待できるから正当化される」という相対的応報刑論をとっている。予防効果が発生するということを積極的に承認する理論となっている。
大麻に使用罪がないことについては、国際条約において規制を求められていないこと、受動喫煙、大麻栽培者の「麻酔い」などを挙げた国会答弁があるが、令和元年の調査では、大麻栽培では栽培者から大麻成分は検出されなかった。警察庁が大麻検挙者を対象に行った調査によれば、大麻に使用罪がないことを知っていた人の割合は74.8%。それが大麻を使用する理由、きっかけとなったという人が5.7%、大麻の使用に対するハードルが下がったという人が15.3%であった。
大麻栽培者は昔3万7,313名いたが、最近では35名。栽培目的は、地元の祭事、神事、献上品等で、成熟した茎から使われているので、これについて規制をすることは考えていない。まちおこしと言って免許を受け、自分が大麻を使っていたという不正事案もあるので、免許の基準をどう考えるかは課題。
以上、規制する側の本領発揮ということなのか、第一回の資料と比べ、これでもかという勢いで大麻の有害性についての説明がありました。
この説明に対して委員から質問、コメントが述べられます。
輸入されたCBD製品の成分の証明書はどこが作ったもので、THCの検出限界はどうなっているか。 > 成分分析表や証明書は外国の検査機関のもので、国内では検査していない。検出限界はそれぞれ検査機関で設定したもので国内に基準はない。
大麻由来のTHCは大麻取締法、化学合成されたTHCは麻向法で規制されるということだが、どうしてこうなったのか。すべて麻向法でくくればよいのではないか。 > 大麻取締法が制定されたのは1948年で、THCという成分が判明したのは1960年代だが、それを受けた法改正がなされていないため。
乾燥大麻を医療用として許可しているのはG7ではドイツ、イタリア、カナダとのことだが他の国はあるか。また、非犯罪化とはどういう意味か。 > 医療用として乾燥大麻を許可している国として他にオランダがある。非犯罪化とは、取締りはしないが犯罪ではあるということ。(この回答は誤っており後から指摘されます。)
大麻で逮捕された人は孤立化したり、依存が進むことがある。コロラド等の報告に、合法化で医療にアクセスしやすい状況ができたとある。INCBという団体も、薬物の厳罰化というものが条約にはなく厳罰していく義務はないと強調している。違法の国、厳罰化されているという国でそれがうまくいっているというデータはあるのか。 > 確認します。
解禁といわれているカナダでも細かな規制があるということを認識しなければならない。非犯罪化という考えもあるが、罰則による抑止力のことも考慮しなければならない。処罰により起こることを抑止し、起こってしまった場合にはケアをしていくという考えで進めるべき。
非犯罪化とは、厳密には犯罪の構成要件から外すことを言う。犯罪だが刑罰を科さないということであれば非刑罰化である。これを調べたうえでリスト化すべきである。そして質問として、THCは大麻由来と化学合成で刑が異なるが、例えば尿検査で出たとしてどちら由来かわかるのか。 > 体内から出たものは同じであるので区別はつきにくい。
カナダの規制では、若者が使った場合の罰則はあるのか。大麻を使うことを罪として罰するということであれば、治療をセットで議論しないといけない。また、検挙された人で使用罪がないことが使う理由になったというのは5%で、ハードルが下がったという人が15%というのは意外と低いと感じた。 > カナダの規制については確認します。
カナダの合法化で、若者の使用率はどうなったのか。合法化されたオンタリオ州の事例では長期的には変わらなかったようだが。 > 確認します。
成人に対して大麻の使用罪を設けている国はあるのか。 > 所持と使用という規制体系で構成しているのは日本が主で、諸外国ではそういった事例はあまりない。
厚生労働省として、使用罪を作れば使用者数はどうなると考えているか。 > 大麻取締法には使用罪がないと紹介させていただいたまでで、お答えする準備がない。
先ほど質問のあった件、カナダの規制では若者への使用罪はない。所持罪はあり、罰金や社会奉仕命令が科される。また、刑罰による抑止の件だが、抑止効果があるかどうかだけで刑罰を決めているのではない。そうしないと刑がどんどん重くなってしまうおそれがあり、刑罰の目的と、刑罰の抑止効果をどう考えるかということは必ずしも一致していないことに注意が必要。
委員からの発言を見ると、刑罰による抑止効果をどう捉えるかという点では肯定、否定、疑問、など考えが分かれているようです。また、使用罪は日本独自のものであるということも委員の質問により明確になり、興味深いです。
法改正の結果としては厳罰化され、使用罪も適用、となったわけですが、この後どういう議論がなされたのでしょうか。
さて、麻薬対策課の資料のあとでは、委員提出の資料についての説明が続きます。
長くなったので分けます。