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続・大麻取締法改正 経過の振り返り②「大麻規制検討小委員会」

 第1回は「医療ニーズへの対応」、「薬物乱用への対応」ということで、主に麻向法への移行など、法改正の大枠について審議されました。
 第2回、続きを見ていきます。

【令和4年6月29日 第2回「大麻規制検討小委員会」】

委員会第二回の議題は
(1)「大麻の適切な利用の推進」
(2)「適切な栽培及び管理の徹底」
(3)「議題のまとめ」
です。

○議題(1)「大麻の適切な利用の推進」
 はじめに、大麻事犯の現状について麻薬対策課から説明がありました。

  • 乾燥大麻の密輸が減少し液体大麻の密輸が増加している。

  • SNSを使って密売している。

  • 所持に関する証拠が不十分な場合、使用罪の適用がないために検挙することができないことがある。

 続いて国立医薬品食品衛生研究所の花尻委員から、カンナビノイドの化学的性質について説明がありました。大麻という植物や成分についての説明は、書籍「カンナビノイドの化学」や「大麻大全」と同じですので、審議に影響ありそうなTHCに関する部分をまとめます。

  • ラットでの動物実験では、THCAを経口摂取した場合THCには変換されないとの研究結果がある。(※大麻草にはもともとTHCAの形で存在しており加熱などでTHCとなります)

  • CBDは加熱などにより一部THCに変化するという論文がある一方、市販の電子タバコデバイスではTHCが生成されなかったという査読前論文もある。

  • CBDは胃液など酸性条件下で一部THCに変換するが、経口摂取した場合の実験ではTHCは検出されなかった。世界保健機構のレビューでもCBDの経口投与でTHCの作用をもたらす証拠はないとされている。

  • アメリカの産業用大麻(ヘンプ)のTHC濃度基準は0.3%。欧州では0.2%だが0.3%に改められる見通し。

  • カンナビノイドを分析するには、大麻草のどの部分を採取してどのように調べるかを考える必要がある。

 さらに麻薬対策課から大麻由来製品の使用と使用の立証についての説明です。

  • 受動喫煙と能動喫煙の識別は、尿中のTHC代謝物の濃度により区別が可能。尿検査については、ガスクロマトグラフ質量分析など、実施可能な試験方法を導入すべき。

  • CBDの摂取からTHC代謝物が検出されることは否定的で、検出された場合は製品にTHCが混入していたと考えられる。

  • 製品中のTHC残留基準は公表する必要があり、それに基づいて事業者の責任で基準適合性を担保する仕組みにする必要がある。

  • 経口摂取製品のTHCの残留基準としては、EUの食品安全委員会の摂取許容量がある。1マイクログラム/㎏とされており、参考にできる。尿検査に影響を与えない残留限度値を設定すべきである。

  • CBDに意図的に酸及び熱を加えてTHCに変換することは製造罪違反にあたる。必要な対応をすべき。

  • THCをブタンガスで抽出した大麻濃縮物「ブタンハニーオイル」は濃縮することで何らかの効果が得られるかもしれない。しかし、低濃度THC品種で行う場合相当の量が必要で、現実的ではない。

  • カンナビノイドは未解明の物質も多く、摂取でTHCを生成する可能性のある物質について引き続き調査研究を進めるべき。

 ここまでの説明について質疑応答がなされます。

  • 検査方法として、尿検査だけでなく唾液検査もあると聞くがどうか。 > 情報収集して紹介する。

  • THC濃度が何%で精神症状が生じるかについて、欧米の知見があると思うが、日本人のデータはあるか。 > 国内では知見が無い。欧米の知見の中でも人種別のデータというものは把握していない。

  • 市場に出回っているCBD製品で、アルコールに溶かしたものを見つけた。CBDの配合による変化については研究されているか。 > アルコール中でCBDが変化したというデータはない。

 最初の議題については以上です。ここでTHC濃度基準について説明があったほか、CBDなど他のカンナビノイドからTHCへの変化についてが議論されました。

○議題(2)「適切な栽培及び管理の徹底」
 大麻栽培農家の大森氏が参考人として出席し説明がありました。書籍「日本人のための大麻の教科書」と重複する部分が多く、そこは割愛します。

  • 無毒化したトチギシロを栽培しているが、盗難は一度もない。

  • 栃木県で栽培農家は10戸に満たない。

  • 平成28年に他県で栽培者が違法大麻を所持した件があってから、大変厳しく取締りがされている。後継者育成もやってはいけないことになっている。

 続いて麻薬対策課から、大麻草の栽培規制と栽培管理についての説明です。

  • 令和3年時点で栽培免許所持者は27名。栽培面積は7ha。免許は都道府県の自治事務だが、かなり目的を絞り込んで免許を付与している状況。

  • 大麻草の主要生産国はフランス、中国、イギリス。医療用途ではイギリスがトップ。欧米では車の内装など様々な製品に使われている。

  • 食品等の最終製品で許容されるTHC濃度について、ドイツでは飲料で0.005ミリグラム/㎏、オイルで5ミリグラム/㎏とされている。

  • イギリスでは産業用大麻の栽培場所に規制はなく、通常の野菜と同じ。一方医療用は非常に厳しい規制がある。

  • アメリカでは産業用はTHCが0.3%以下とされており、麻薬取締局で収穫前に検査を行っている。

  • 日本で栽培している品種について、総THCの平均値は花穂で1.071%、葉で0.645%。

 質疑応答です。

  • THCとCBDの含量に関連性はあるか。 > 相関はない。

  • トチギシロのCBD含量はどうか。 > バラバラな数字。

  • 出荷する際に何か制約はあるか。 > 栃木県では制約はないが、全国的にもそうなればいいと思っている。

  • 免許基準は都道府県が定めているが、統一基準を明確に決めた方がいいのではないか。 > 統一的な基準を作っていくことが必要。

 以上、産業用大麻についての議論がなされました。これについては、麻薬対策課の説明も緩和方向の内容となっています。

○議題(3)「議題のまとめ」
 麻薬対策課から、これまでの論点の整理として説明がありました。主に、課題とされたものについてまとめます。

  • エピディオレックスのような医薬品以外にもCBDを含む製品が輸入・販売されている状況にある。成分規制となった場合、CBD製品の中からTHCが微量に検出される事例があり、安全な製品の流通・確保が課題。

  • 使用罪がない状況では、所持が確認できない場合に立件できない。

  • 尿中のTHC代謝物について、受動喫煙やCBD製品に混入した場合についての知見を深めていく必要がある。

  • 大麻由来製品中のTHC残留基準値は公表していく必要がある。事業者の責任で基準適合性を自己担保できる仕組みとしてはどうか。THC残留限度値はEUの例を紹介したが、より一層の安全性を見込んだ量で設定していく。

  • THCに変換される物質に対する研究も進めていき、取締りの実効性を確保できるように対応すべき。

  • 大麻の栽培者数は激減しており、国内需要は中国等からの輸入に頼っている状況。

  • 免許は都道府県知事が与えており、繊維や種子の採取に目的が限定されている。THC含有量の基準もない。欧米は0.3%や0.2%の上限値が定められ、基準を満たしたものは栽培管理が緩和されている。

  • バイオプラスチックや建材など大麻由来の新たな製品群が生産されており、大麻草の応用範囲が広がっている。新たな需要に対応した産業目的にも利用を広げてはどうか。その場合流出の防止や安全性の確保は課題。

 これを踏まえ、麻薬対策課は検討すべき論点として以下を挙げています。

  • 栽培の目的・用途に新たな産業用途を追加すべき。医薬品原料用途も認めるべき。

  • THC含有量に関する基準を設定してはどうか。

  • 栽培管理基準の明確化、統一的な基準が必要。

  • THC含有量が少ない品種については、栽培管理規制を緩和していく。種の管理についてはさらに知見を収集していく。

 質疑応答です。

  • エピディオレックスのような抗てんかん薬が承認された場合、使用罪から患者を守る方策が必要ではないか。 > 仮にエピディオレックスが承認された場合、モルヒネなどの麻薬製剤と同様の扱いになる。医療の中で適切に使われているということで患者を守っていくことになる。

  • 栽培や流通管理について、海外では密売や乱用目的の盗難は発生しているのか。 > 情報がないが、密輸される乾燥大麻のTHC含量は高く、産業用から置き換えられているものではないと思う。

  • THC残留値の基準適合性について、事業者による自己担保のチェック体制について考えはあるか。 > 買い上げ調査を行っていく。

  • 流通管理は国が関与していく必要があるのではないか。 > 自治体と協議していく。

  • 免許権限は都道府県から国に移管するか、できなければ免許基準を明確に示すべき。また、栽培だけでなく研究のための免許についても整理すべき。 > 医薬品用途については国で免許を与える仕組みにせざるを得ない。栽培品種の管理は行政の農政部局と厚労部局が連携する仕組みを全国的に作らなければならない。

  • CBDには薬理作用があり、医薬品以外の製品をどんどん作っていいものではない。 > 製品を医薬品とするのかそうでない食品等とするのかの判断はいずれ求められる。しかし、コエンザイムQ10などは医薬品であり食品でもあるという状況で、必ずしも薬効があるから全てが医薬品になるということではない。

  • CBDを酸や熱で加工処理することでTHCが作れるということだと、CBDそのものが麻薬原料という取扱いにならないのか。 > 次回以降論点整理する。

  • 今後新たな産業利用を念頭に置いた目的が追加されるのであれば、医薬品原料用としても栽培できるようにしてほしい。

 以上です。次回はここまでの議論について取りまとめの方向性を示すようです。

 検討会に比べ、小委員会は議論というよりも事務局提案を認めるか否かについて意見を述べる、という位置づけなのでしょうか。麻薬対策課の、医療用と産業用は緩和するがTHCは厳格に規制し、CBD製品を含め取締りをしやすくする、という提案がそのまま通っていく雰囲気ですね。そもそも開会前から「(3)議論のまとめ」として資料を作ってしまっているのはどういうことなのでしょう…。
 個人的に注目していたCBD製品中のTHC残留基準値については、事務局からEUの例が示されるとともに、「より一層の安全を見込んだ量で設定していく。」と提案され、委員からは何も意見・指摘がありませんでした。結果としてドイツの例よりは緩い基準となったようですが、基準値の妥当性については議論の場がないのでしょうか(なおドイツは2024年4月に嗜好用大麻が合法化されています)。
 関連する論点として、CBDを加工してTHCにすることについての規制や、精神作用がある他のカンナビノイドの規制についても、麻薬対策課としてはこの機会に仕組みを作りたいという考えのようです。
 基本的な方向性は最初から決まっている感のある小委員会ですが、使用罪や量刑については全会一致ではないはずで、どう処理されるのか、最後まで見ていきたいと思います。

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