大麻取締法改正 経過の振り返り⑦「取りまとめに向けた議論2」
第7回検討会は、前回の意見を踏まえて修正されたとりまとめ案に対し、再度意見を聴く回となります。
それぞれの項目について麻薬対策課から変更点などの説明がありますが、前回の意見を取り入れました、という内容なので省略し、委員の意見をまとめていきます。
前回に引き続き、かなりバチバチにやりあっている印象です。
【検討会第7回 令和3年5月28日】
はじめに「大麻規制のあり方」についての意見です。なお、大麻に使用罪を適用することについては意見が対立したままですが、取りまとめ案では使用罪は必要とする内容で記述されています。
麻薬問題は国際問題であり、国際情勢、条約規制、求められている提言というものを反映してもらいたい。
使用罪の創設には反対。引用されている2020年の研究は対象に偏りがあり、これを大麻の健康被害と結論するのは妥当ではない。精神科医療施設の調査結果も要約が違う。大麻関連障害の患者の特徴として、仕事についている人が多く、学歴が高く、非常に社会的機能が高いということが浮き彫りになったという調査である。
検討会にとって重要なのは若年者の大麻乱用者が増えていることへの対応である。
若年者への対応についても考えなくてはいけないが、今は刑罰を問題にしている。刑罰以外の方法でお願いしたい。
大麻由来の成分も医薬品として使えるようにしましょうということは一貫している。その中で大麻の使用罪だけ他の薬物と違う規制にしましょうということなのか。社会復帰できるような仕組みづくりは全力で取り組むべきと思うが、大麻だけを特別視する理屈がわからない。
薬物を使用罪や少量の所持で罰することに関しては、国際機関は懐疑的な声明をたくさん出している。司法的な問題ではなく健康問題として支援しましょうという流れの中、使用罪を作り厳罰主義を加速させる必要はない。
本当に若者たちの間で大麻乱用が急増しているのか。全国住民調査によれば生涯経験率は30代が一番多くて2.7%、次に40代2.3%で、20代0.6%、10代0.4%。青少年を対象とした全国調査でも、2010年が0.3%、2018年が0.34%で、ほとんど横ばい。検挙される人が増えているだけではないか。
健康影響について、ダルク入所者を対象とした調査によれば、大麻が最も問題となったと答えた人は3.5%。多くはないが大麻が問題になった人がいることは事実。薬物関連問題の重症度の尺度でも、大麻は軽くない。
ゲートウェイドラッグについて引用されているデータは覚せい剤事犯者を対象とした調査で、実際には大麻を使ったけれども覚せい剤に行っていない人もいるので、この情報をもって大麻がゲートウェイドラッグだというのは根拠が乏しい。『The New England Journal of Medicine』では、大麻がゲートウェイドラッグだということを支持する知見はあるが、それだとアルコールやニコチンもゲートウェイドラッグに分類できると指摘されている。
使用罪については反対。使用罪を創設すれば検挙される人が増えるが、現状ほとんど保護観察がつかず野放しになっており、薬物問題の根本的な解決にならない。使用罪がないのは国際的な潮流。
この検討会は大麻から製造された医薬品の活用について、日本でも行うべきだろうということで始まったと理解している。成分規制にすることに対しては賛成で、麻向法で規制して大麻系医薬品が日本で使えるようになることは患者にとって朗報。使用罪について、所持に罰則があって使用に罰則がないのは理解しにくい。
使用罪がなければ、大麻系医薬品の乱用は処罰の対象になるが、娯楽目的で使用した場合には処罰の対象にならないという不合理な結果が生じる。
医薬品としての大麻使用には賛成で、産業用大麻の生産する人を増やしていくにはどうするかということも考えていくことが必要。使用罪については、国際的な流れとして刑罰ではない形の施策が望まれると国際条約にもあるが、そのように運用されることを願っている。
使用罪がない現状は、使っても大丈夫、安全なのだという誤解につながってしまう。医療用以外の乱用はダメなのだとはっきりさせたほうがいい。
有害作用に関する情報については出典を加えて正確な情報を伝えるべき。医薬品として使っていくときにTHCがどれだけ含まれているかを見ていくことが重要で、詳細な検討を進める必要がある。産業用大麻についても、THCとの関連性を検討していかなければならない。
以上です。使用罪についての意見は平行線です。
賛成派は、大麻系医薬品の使用を規制するのだから違法薬物としての大麻の使用を規制しないのはおかしい、使用罪がないと使ってもいいと誤解させてしまう、というのが主な主張。
反対派は、使用罪ができると逮捕を恐れ相談や治療につながりにくくなる、他の薬物との比較では大麻は害が少ない、国際的な流れは厳罰化ではない、と主張しています。
わたしの印象ですが、賛成派は大麻系医薬品を処方できるようにするためにはどのような法改正が必要かを考えているのに対し、反対派は大麻事犯にはどのような処遇が必要かを考えています。
事務局である麻薬対策課としては、医薬品は容認しつつ取締りはしやすくしたいはずなので、麻向法に入れて統一的に取り扱えたほうがいいのでしょうが、今回の法改正で大麻と他の違法薬物の区別がさらに見えづらくなって、国民の理解が後退するのではないかという点は心配です。
規制のあり方については、「害があるから規制を緩める必要はない」と「他の薬物と比べれば害が少ないのでそれに合った規制にすべき」で対立していますが、数が多いほうが採用されるわけですので当面前者が有利でしょう。しかし今回は委員の反対があった中での「厳罰化」であり、疑問が残ります。
続いて「社会復帰支援を柱とする薬物乱用者に対する再乱用防止対策」についての意見です。
麻薬中毒者制度は廃止の方向ということでよいのか。あっさり話が通って驚いた。
麻薬中毒者相談員の存続について、名称を変えてもよいので残す方法を考えてもらいたい。
麻薬中毒者という言葉が法律から消えることは大歓迎。依存症者、依存者という形に変える方向で検討してもらいたい。
薬物乱用は、違法薬物だけではなく処方箋医薬品や市販薬の乱用に留意する必要がある。複数の医師を回って処方薬をもらうことは規制できないのか。 > 多剤処方の診療報酬の減算や、長期処方ができなくなってきているなど前進している。処方権を法的に制限すると治療がやりづらくなる。今臨床の現場で問題なのは10代の市販薬の乱用。
市販薬の乱用について実態を把握したデータがなく、早急にエビデンスを出していく必要がある。また、保護観察がつかない執行猶予者や起訴猶予になる人に対してどんな治療ニーズがあるのかを診断する必要がある。
現在の薬物受刑者の保護観察期間は短く、専門的処遇を行う機関を確保できない。薬物再乱用防止プログラムを実施できる期間を確保する仕組みの整備が重要。
大麻の有害性と治療・回復支援は分けて考えるべきで、使用罪を作って逮捕されることが支援のきっかけになるという道筋は違う。病気ではない人に治療を提供することになりかねない。大麻関連の問題で精神科受診した患者は他の薬物に比べ依存症と診断される割合が顕著に低い。
地域での支援体制の充実について、再犯者だけでなく、薬物の問題に困っている人、未成年の使用者や親だったりが相談できる場所を拡充していくことがより必要。
大麻使用で処罰対象になることは更生の機会につながるのではないか。捕まることが治療・構成のきっかけになり二次予防につながるのではないか。 > 当事者でもそのように言う人はいるが、刑を執行した方がいいのか、地域の中で治療した方がいいのかという評価を現状行えておらず、依存症が進んでいるかにかかわらず全員捕まるという同じ処遇になっている。
薬物乱用で捕まった人が専門医にきちんと診断され、更生プログラムを受けられる機会になればよい。使用罪がないことで逃げられるというのは社会としてよくない。
薬物依存症の治療で一番難しいのは依存そのものの治療ではなく犯罪化されていることにより治療アクセスが悪いということ。使用罪が作られればアクセスはさらに悪くなる。
「社会復帰支援を柱とする薬物乱用者に対する再乱用防止対策」は覚せい剤のことが書かれているが、大麻だけで治療が必要な人はすごく少ないことを前提とすると、全部ひっくるめて今後の方向性を書くのはすごく乱暴。大麻についてどういう再犯防止策や社会復帰支援策がとれるか書いた方がいい。
ダルクにつながっている人は本当にごく一部。保護観察がつかない人がどんな支援ニーズがあるか明らかにしたうえで考えていくことが急務。
以上です。
麻薬中毒者制度の廃止については一致していますが、意見は反映されなかったようで、麻向法58条の2(医師による中毒者の届出)などは今回改正されていません。
また、現在のトピックスとして、市販薬の乱用が挙げられました。違法薬物の乱用が減っても市販薬に移動したのでは意味がないわけで、2次予防、薬物依存への治療、支援の強化、保護観察制度の改善が必要ということも一致しています。
そしてここでも大麻の使用罪の議論になりました。治療の現場では使用罪はデメリットのほうが大きいとの主張です。覚せい剤は依存によるダメージが大きい一方で、大麻は逮捕されることによる社会的な制裁のダメージが大きいという違いがありますが、共通認識にはなっていませんね。社会復帰支援を論じる場合には、薬物ごとの違いを明確にする必要があると思われますが、薬物全体としてとりまとめ案を作ろうとしている時点で無理があるのかもしれません。
最後に「医療用麻薬及び向精神薬の規制」、「普及啓発及び情報提供」についてです。
早期発見、早期治療、二次予防のニュアンスも入れるということはありがたいが、犯罪化すれば早期発見早期治療が難しくなるのは常識。日本で「ダメ。ゼッタイ。」をやると、リスクの高い精神疾患やトラウマを抱えた人が取り残され、人々を分断する啓発になる。脅し教育が効かないことはエビデンスが出ている。
成分規制ということで、今後THCが規制されるのかもしれないが、THCだけが駄目だとなってしまうと、医療用麻薬としてTHCが入っている成分を使いたい患者が減ってしまうことを危惧している。
教育では薬物の怖さを伝えてほしいということが教育者に多くあるが、薬物に手を出す子どもの背景や困っている真の部分について話をしたときに理解いただけることもある。いろいろな角度から正確な情報を提示することが必要。
知識伝達型の予防教育では行動が変わらないという論文がある。問題解決能力などソーシャルスキルに関連したアプローチが有効である。若者には若者の価値観や考えがあるので、若年層の視点を取り入れていくことが大事で、大人だけで考えるべきではない。
薬物の適正な使用方法とは何なのかを合わせて啓発していくことが一次予防。「ダメ。ゼッタイ。」だけではなくて、適正使用の教育も必要。
薬物乱用防止教育を受けた人へのアンケート調査をみると、役に立ったという人は多いが、1割くらいが役に立っていないとしている。その人たちの特徴は、自尊心が低い、リストカットを繰り返したり飲酒喫煙を始めているという中高生が多い。つまり、リスクの高い子たちには全然効いていない。リスクの高い子たちが相談できる環境、コミュニティを作るにはどのような啓発をしたらいいのか考えていただきたい。
「正しい」知識ではなく、「正確な」知識を伝えるという表現にすべき。伝え方についても、若者が自分たちで考えられるようにするにはどうしたらよいかという手立てを模索していくべき。
「ダメ。ゼッタイ。」はインパクトを持ってきた。それに対して二次予防サイドからの弊害的な意見も強くなっているわけで、一次と二次の関係性は相互に尊重しながら阻害しないようにやっていく方策を考えていく必要がある。
以上です。
危険性だけではない正確な情報提供、リスクの高い人を排除しない啓発、「ダメ。ゼッタイ。」の見直し、が主な意見です。
手を出させない一次予防、社会復帰させる二次予防、この区別については議論されていますが、ここでも薬物全体でくくっています。
そもそもこの検討会、「大麻等の薬物対策のあり方検討会」なのですが、大麻取締法の改正を念頭に置いているなら「大麻規制のあり方検討会」にすべきだったのではないでしょうか。薬物全体としての社会復帰支援、啓発が混ざっているせいで、議論もとりまとめ案もあいまいになってしまっている気がします。
最後に座長から、平行線の使用罪の議論について発言があり、終了となりました。
大麻の使用罪については原案に賛同する人が一定数いた一方、3名の委員から反対の意見があった。
この検討会は審議会ではないので、どのような観点から賛成、反対なのかを国民に分かりやすく示し、議論のための選択肢を提供するものである。
反対意見についてもまとめに反映し提示していくことが責務である。