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大麻取締法改正 経過の振り返り②ー2「大麻を取り巻く環境と健康への影響」

 第2回検討会、続きです。
 麻薬対策課の説明、質疑応答に続き、2名の委員から資料を用いた説明がなされます。

 1人目は船田正彦委員、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部依存性薬物研究室長さんです(肩書の長さよ…!)。この研究所では、精神疾患や発達障害の病因を明らかにするため、心理・社会・生物学的な視点から国際的にもトップクラスの研究を行っています、とのことです。

 資料の題目は「大麻等の取扱いの変化による社会環境への影響ー米国での状況についてー」です。説明の概要は以下のとおりです。

  • 大麻に含まれる代表的な成分にはTHCとCBDがある。大麻を喫煙してその感覚についてインタビューすると、「高揚感」「好ましい効果」「お金を払って買うだけの価値がある」が高いスコアとなる一方、CBDの経口摂取ではそういったスコアは低いため、これらの感覚はTHCからきているといえる。

  • THCを長期間使った場合、精神依存、身体依存に陥るリスクがあり、THC濃度が高い製品ではリスクが高くなる。また、諸外国の報告の中で、学習・記憶、判断力などの認知機能の低下に影響があることが明らかとなっている。CBDは、アメリカでエピディオレックスが医薬品として使用され、難治性のてんかんが治療の対象となっているなど一部で利用価値が認められてきている。

  • 嗜好用大麻について、アメリカでは40%を超える生涯経験率から、規制ルールを変更して嗜好品として使用していくほうが現実的ではないかという流れがある。連邦法ではスケジュールⅠの規制物質だが、15の州とワシントンDC、その他自治区で嗜好用大麻の使用が認められている状況。

  • 合法化されたコロラド州とカリフォルニア州のルールを見ると、21歳未満への販売や車の運転は禁止、その他購入量の制限や喫煙場所の制限などがある。カリフォルニアでは税収を若者の薬物乱用の治療や予防に使っていくこととなっているが、合法化の目的として重要な点は「未成年の大麻入手機会を減らす」ということ。

  • コロラド州では合法化された後、大麻の使用率は増加し、若者の使用率は減っていない(増えてもいない)。社会問題として、交通事故で亡くなった人からTHC成分が検出されるケースと大麻関連の救急搬送が増えている。救急搬送で特に深刻なのは0~5歳の搬送数が増加していることで、大麻成分が含まれるチョコやグミの誤食が原因。また、関連犯罪は合法化後もなくならず、ライセンスなしでの販売、違法栽培がみられる。ワシントン州でも同様である。

  • 近年流通している大麻の性質が変わってきている。アメリカ薬物取締局のデータによれば、乾燥大麻のTHC濃度が高まってきており、2018年には15.6%と非常に高くなっている。国内では2010年に11.2%というデータがあり、当時のアメリカの数字に近い。また、THCだけを抽出することが容易になっており、大麻ワックス、リキッドのような製品の流通が増加している。

  • 米国疾病管理予防センターのホームページには、「大麻は安全だから合法化されたのではない」と明示されている。社会に与える影響は調べていく必要がある。

 船田委員からの説明は以上です。

 2人目の説明者は嶋根卓也委員、国立研究開発法人(中略)心理社会研究室長さんです。1人目の委員と同じ法人の方で、研究室違いですね。こちらの題目は「薬物使用の疫学:大麻を中心に」で、概要は以下のとおりです。

  • 国内唯一の薬物使用に関する全国調査「薬物使用に関する全国住民調査」の1995年から2019年までの結果を紹介する(2019年調査時の対象者はランダムに抽出した15歳~64歳までの一般住民7,000名で有効回答3,945名、うち大麻使用経験あり66名)。

  • 薬物の種類別の生涯経験率は、1995年から2015年まで有機溶剤(シンナー)が最も高かったが、2017年以降は大麻が最も高くなっている。大麻使用経験者は男性の比率が高く、年代では30代、40代が多い。大麻使用者は飲酒の頻度が高く、毎日飲酒するのは22.7%で、大麻使用経験なしで毎日飲酒する人10.8%の2倍以上。

  • 大麻使用に対する考えを見ると、使用経験ありの人は、「大麻を使うことは個人の自由」19.7%、「使うべきではない」47.0%、「どんなことがあっても使うべきではない」21.2%であった。使用経験なしの人は「個人の自由」1.9%、「使うべきではない」17.5%、「どんなことがあっても使うべきではない」72.4%である。(調査からの情報はここまで)

  • 警察庁のデータをみると、検挙された人が大麻の危険性を軽視する理由として挙げるのは多い順に、「合法な国がある」「依存性がない(弱い)」「酒やタバコより害がない(少ない)」となっている。依存性については、全米薬物使用調査から分析すると、大麻の使用開始年齢が13~18歳の場合、成人以降に使い始めた人に比べ依存症になるリスクが約5~7倍高くなる。また、使用頻度が増えるとリスクも増える。

  • 「飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識調査・実態調査」によると、国内の青少年の状況は、男子女子ともに大麻の生涯経験率が増加している(2014年男子0.24%女子0.10%が、2018年男子0.43%女子0.25%)。使用経験がある生徒は「学校で孤立」「家庭では大人不在」「大麻を使っている人が身近にいる」などの特徴がある。

  • 予防啓発は10代に対する情報発信が大事で、若者や大麻使用者の視点を取り入れることが重要。大麻の健康被害ばかりを強調するのではなく、医療分野での活用も含めて、事実をエビデンスベースで伝えていくことが大事。

  • 問題提起として、国内の大麻使用者の薬物依存の重症度、背景にある問題、再犯の関係性などについての研究が十分にできていない。医療や司法で実施される依存プログラムは覚せい剤使用者を想定しており大麻使用者にフィットしていない。特に未成年者に対する予防や支援を充実させていくべきである。

 嶋根委員からの説明は以上です。続いて2人の説明に対して質疑応答がなされます。

  • 薬物使用の生涯経験率が上がった理由はなにか。 > 20代、30代において大麻使用を肯定する考え、少しなら構わないと考える人が増加傾向にあること。また、インターネットで検索すればアメリカ、カナダで売られている製品の紹介などにアクセスでき、その影響は少なからずある。

  • 大麻草のTHC含有量が増えているということだが、強いものをつくろうとしているのか。 > THCを多く含む大麻の栽培法が公開されているほか、世界各国で大麻の品評会が開かれており、濃度が高いものは高値で取引されている。流通するすべての大麻のTHC濃度が上がっているわけではないが、濃度の高い大麻が流通している状況。 > アメリカ麻薬取締局のデータによると2000年ぐらいまでは3~4%で推移していたが、その後急激に含有量が増えてきた印象。

  • 生涯経験率は日本が極端に低いが、理由は分かっているか。 > 日本には法を遵守する国民性があるといわれたりはするが、実証的に示した研究はない。なお、日本は諸外国に比べて自分の薬物使用の経験を正直に答えにくい状況があるため、生涯経験率1.8%は最低値で、真の値はもっと高いはず。また、ヨーロッパは薬物を使う人の権利を尊重し、使うかどうかは個人が決めることという考え方があるため、薬物使用についても答えやすいのではないか。

  • 若者に対する情報発信は、具体的にどのような形が効果的か。 > それを検討していく必要があると思って問題提起した。10代の方に入ってもらいながら考えていくことが大事。

 第2回の検討会はこのような状況でした。「健康への影響」というテーマでしたが、基本的には「健康への悪影響」になっていて、CBDの効果などは軽く触れられたものの、やや偏りを感じました。
 それにしてもすさまじい情報量ですが、各委員はこれを当日初見で説明され、話し合いをさせられるのでしょうか。いくつか中身のなさそうな発言もあって、委員の質もいろいろだな、なんて思いながら読んでいたのですが、専門外の情報をこれだけ詰め込まれてすぐ反応しろというのも無理があるのか、と考えなおしました。
 委員の反応についてまとめてみると、量刑のあり方は方向性決まらずな一方、若者の大麻使用は抑えたいという点では一致、という雰囲気でしょうか。嶋根委員の「若者はインターネットから手軽に情報を得られるのだからダメ。ゼッタイ。ではなく客観的な証拠に基づいた情報で啓発すべき」(意訳)という発言には大いにうなづけました。
 ただ国内の研究が乏しいのは残念なところで、アメリカやカナダの研究成果や現状を肌感をもって発言できる委員が欲しいなあとはやはり思ってしまいます。また、欧米の情報ばかりでタイや韓国など、アジアの動きが出てこないのもなぜなのでしょう。

 さて次回、第3回の検討会は再乱用の防止がテーマになるようです。欧米ではハームリダクションの考えから非常に重要とされる論点。読んでいきます。

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