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大麻取締法改正 経過の振り返り③ー2「再乱用防止と依存症対策」

 第3回検討会、続きです。

 麻薬対策課、法務省とのやり取りの後は、委員からの資料提出と説明です。発表する委員は国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦委員です。第2回検討会で発表した2名の委員と同じセンターの部長さんです。お題目は「再乱用防止~『需要低減』のための地域依存症支援~」です。
 要約します。

  • 全国の精神科医療施設1,600施設から集めたデータを見ると、薬物依存で治療を受けている人の半数が覚せい剤である。

  • 精神科で治療を受けている人はごくわずかで、大半は刑事施設で処遇されているが、刑事施設に入れば入るほど仕事や人から孤立し、薬物問題の重症度が増す傾向がある。

  • 覚せい剤取締法違反で服役している人たちは小児期に逆境的な体験をしている場合が多く、再犯を繰り返し社会から排除されてしまうのは、社会全体からの被害者という見方もできる。

  • 2012年から増加した危険ドラッグは、2014年にかけて規制が強化された結果、危険になり、命にかかわる症状がでるようになった。一般に規制を強化すると、市中に流通する薬物純度が高くなったり、有害性が増すことが知られている。

  • 取締りで供給を低減すると同時に、需要を低減する、薬物を欲しがる人を減らし、依存症治療・回復支援をすることが大事。危険ドラッグが手に入らなくなった今、若者は薬物と縁が切れたわけではなく、市販薬を使うようになっている。

  • 依存症治療を目的として、SMARPPという依存症集団療法のプログラムを実施している。従来の薬物依存症治療(医者が単に診察するだけ)よりも治療のドロップアウトが少なく、ダルク等の民間団体、自助グループにつながる人が多い。このプログラムで医者が薬物依存症患者とかかわることにより、医療者の薬物依存患者に対する苦手意識が軽減されている。

  • ハームリダクションという言葉を、有識者と言われる方が間違った説明をする。薬物問題が蔓延している欧米の国が泣く泣くやっている苦肉の策だと言っているが、これは誤解。ハームリダクションは薬物に関する保健政策や個別支援実践の倫理学であり、単に規制を追加して、犯罪者を増やせばそれでいいという問題ではない。

  • 提案として、一つ目は、治療・相談支援の場での守秘義務の徹底。本人や家族に回復のための社会資源に関する情報を伝えずにただ通報するのは、医療者として本務を果たしているとはいえない。

  • 二つ目は、麻薬中毒者制度の抜本的な見直し。事務局は、精神保健福祉法による措置入院とほぼ重複していると言っていたが、重複ではない。麻薬中毒者台帳にリストされると、刑事処分よりはるかに長期間監視・監督され、過剰な人権制限となっている。

  • 最後に、予防啓発のコンセプトを変えていく必要がある。保健政策であり、感染症などと同じ健康問題なわけだから、当事者や家族が嫌がるような啓発をするというのはおかしい。

 以上です。
 治療・支援の立場から、かなりはっきりと取締り偏重の現状に苦言を呈している内容でした。質疑応答に続きます。

  • 危険ドラッグは、規制をすればするほど危険なものが出てきたとのことだがそうではなく、供給側の最後のあがきで、あるものは何でも出してしまえというような状況だった。また、ハームリダクションは、HIV感染の拡大予防として始まり、もともと薬物対策のための対策ではなかった。日本では文字どおり害を減らすという捉え方で薬物政策の中で語られるが、世界的には、本質的には、HIV感染の拡大防止という中での話である。 > 松本委員:危険ドラッグに関しては、日本中の精神科医療機関から集まるデータを解析し、かつ自分自身もたくさんの患者を担当しながら確認してきたことで確信を持っている。官公庁が用意した情報を眺めて論じるのとは次元が違う。ハームリダクションに関しては歴史的な当初はそのとおりだが、今、国際ハームリダクション学会の議論はそこから離れている。HIV対策で培った人権意識がハームリダクションの専門家たちの中で広がりを見せている。

  • 危険ドラッグについて、指定薬物制度による1回目の規制は、供給サイドに対する規制で使用者に対する規制がなかった。2回目、使用者サイドへの罰則をつけた結果、ほとんどの問題が解決した。現在、規制薬物の使用罪で有罪になると、初犯はほとんど執行猶予となるが、前科がつく。前科がつくと社会復帰が難しい。大麻の場合には覚醒剤と同等の処分はいかがなものかと思うので、提案としては、大麻に使用罪をつくるが初犯の場合には前科がつかない処分に処す。そして、治療的な対応を義務づけるという考え方が必要。

  • 守秘義務について、薬物を再使用してしまった場合にそれを言えるということはとても大切である。使用罪について、覚せい剤と大麻が同じレールに乗るのはおかしい。本当に治療が必要なのか診断すべきであり、大麻については依存症という概念があるのかも疑問。予防啓発については、「ダメ。ゼッタイ。」など大麻の情報提供に偏りがある。産業用、医療用、規制されているTHCの大麻などを一つにせず、危ないものはこれだと伝えるべき。

  • 日本では規制薬物の使用や所持で逮捕された場合、ほとんど起訴され、初犯の場合は執行猶予がつき、前科がつくが、そのうち9%以下しか保護観察がつかず治療に結びついていない。再犯、再使用の背景となっており、大きな問題。起訴せず治療に向ける条件的起訴猶予を導入すべき。

  • 守秘義務について同意見。患者が正直に話せることが回復支援で重要であり、医療サイドも通報しないことで罪に問われる心配がないようガイドラインを定めるべき。教育現場でも同様。

  • ハームリダクションという言葉は様々な国で定義なく使われている。規制をやみくもに厳しくすればいいというものでも、弱くすればいいというものでもない。世界の潮流だからといって日本も追随するのは正しくない。

 第3回検討会、以上です。
 会の最後に法務省から「処遇プログラムは義務付けられていなくても面接指導は行っている」という補足説明がありましたが、だとしても治療などの支援は現状十分ではないということが共通認識であったと思います。また、逮捕者の社会復帰を考えた場合に、治療・支援者の守秘義務は通報よりも優先すべきという考えも多数のようです。
 「ハームリダクション」の解釈が委員により分かれていたのは私にとっては新たな発見でしたが、欧米で進む非犯罪化や非罰化への肯定・否定の立場の違いによるものかなと推測されました。
 そして、今回は覚せい剤メインで話が進みましたが、大麻についてはそもそも治療が必要なほどの依存症になるのか?というような発言もあり、今後大麻とその他の薬物をしっかり区別して検討されたかどうかは見ていきたいと思いました。

 第4回は「医療用大麻」がテーマのようです。今回の法改正で医療用大麻は合法化されず、CBD医薬品のみ施用が可能となったわけですが、どのような議論がなされたのでしょうか。
 

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