alcohol
白状する。
僕はお酒が弱い。
けど、上手く飲み会を断る技術もない。
その結果、ズルズルと参加させられてしまう。
今だって、一軒目の一杯目なのに、頭が回らない。
もう冬だって言うのに、ジャケットを脱ぎたいくらいには暑い。そもそも、とりあえず生という文化に異議申し立てをしたい。生ビールなんて誰が好きなんだ。そんな奴は家で一人で呑んでいてほしい。
「ねえねえ、それ何杯目〜?」
僕の肩を叩いた手で彼女は枝豆をつまみ、美味しそうな顔をしてビールを勢いよく飲み干す。
「すみません!!生一つくださ〜い!!!!!」
よくもこんなまずいものを何杯も飲めるな、
この人は。そもそもこの妙に明るい雰囲気も
人が集まって雑音をたてて、何が楽しいんだ。
苦手だ。
「で、何杯目?」
『…一杯目ですけど…。』
「え?!笑笑 乾杯して、もう一時間くらい経ってない?!!泡ももうほぼないし、ぬるくて美味しくないんじゃないの?下げてもらお!!!!!気付かなくて、ごめんね!生でいいよね?
すいません!!!!
生もう一つ追加で〜!
あ、あとこれ、下げてもらえますか!」
大変なことだ。
ただでさえ美味しくないものが、
増えてしまった。
一ビール去って、また一ビール。
美味しくなって新登場じゃないんだ。
これほどまでに、昨今の止まらない値上げの影響を受けて、少なくなって欲しいと思ったことはない。
まずいまずい。
『もしかして、僕のですか?
僕はもう、飲み会の空気だけで満足なんで大丈夫ですよ。』
「そうやって、遠慮すんのやめな?お前の悪いとこ出てるよ!せっかく新年度の飲み会なんだからさ、これほどまでに仲の良い最愛の同期として一緒に盛り上げてこうよ?」
『いや……まぁ…はい。』
「お!!!!きた〜、やった〜、ありがとうございます〜!!ほら持って、、じゃあとりあえず、同期に乾杯!」
グラスをかち割りたいくらいだけど、グッと堪えて、仕方なくグラスをコツンと当てる。
全く嬉しくない乾杯だ。
無理矢理一口呑んだけど、苦いしまずい。
泡にも、イラついてくる。
「いや、一口少な!!!!
まじで遠慮しないで呑みなよ笑笑」
唆されて、ゴクゴクと二口目を呑んでしまう。
あぁ、まずい。苦虫を噛んだような顔と苦ビールを飲んだ顔はさして変わらないだろう。
『うぅ…、貴方はそこまで話したことがないから、
知らないだろうけれど、僕はそんな呑む方じゃないから…。』
「本当だ、めっちゃ顔赤くない?笑笑」
口直しに唐揚げを食べようと、箸を持った瞬間、
隣の席の彼女が僕の手を掴んだ。
何事かと思い、彼女を見ると、
小さく手招きして顔を伺ってくる彼女。
『なんですか?』
答えずに、手招きし続ける彼女。
周りを見渡しても、みんな赤い顔で酒をぐびぐび呑んでいて、僕らのことは気にしていなさそうだから、僕は少し彼女に顔を寄せて話を聞こうとした。
忘れもしない、アルコール臭漂う口から小さな音として発された言葉はこれだった。
「ねえ、私さ、ずっとしたいことがあって、、仲睦まじい同期としてさ、、付き合ってくんない?」
ラッキー。
この場から逃げられるということか。
第一にそう思った僕は、既にアルコールに脳みそがやられているのかもしれない。
『いま、?こっから抜けるってことだよね、?』
同じく小声で返す。
「そそ、君アルコール、苦手なんでしょ?
だからちょうどいいなって思って、、どう?」
もっと最初から分かっていてほしかったけれど、それに気づいてもらえたのはとてもありがたい。
『まぁ、少しなら…』
この場から抜け出せるならよかった。
「じゃ、お金置いて、抜けよ。
すみません!!私とこいつちょっと用事思い出したんで、抜けますね!お金置いとくんであとお願いします!あ、課長呑みすぎないでくださいね〜!!!笑笑」
彼女のせいで一段とうるさくなった座敷に
背を向けて歩き出す僕ら。
十一月、冬はもう始まっている。
「あ〜、さむ。なんでもうこんな寒いわけ?
腹立ってくるなまじで笑笑」
『確かに…。
というか、ありがとう…気、遣ってくれたの?』
煙草に火をつけながら、路上喫煙&歩きタバコをし始めてる彼女を見つめる。これでも世渡り上手だから、上手くやっていけるんだなと思う。
「あ〜、いやいいよ〜。けど、やりたいこと本当にやってくれるの?明日休みだっけ?」
『何かによるけど。まぁ、明日は土曜日だし、みんな一応休みなはずだよ。』
「そうだわ、忘れてた笑笑笑笑
てか、コンビニ寄っていい〜?」
一応頷いたけど、僕の方なんて見てない彼女。
タバコを消して、コンビニの前にあるアレにポイと捨てる。
道端に吸い殻を平気で捨てていそうなのに。
いらっしゃいませ〜
馴染みの音とともに、
アルバイトのやる気のなさそうな声が響く。
「カゴ持ってきて!〜、あ!!焼酎あるじゃん〜、ラッキー!もっと欲しいかな〜、。。って、重た、!!あ、これも良さそう、!!これも飲みやすい方かな〜…よいっしょ……よしっ、こんなんでいいかな!!」
僕には信じられないくらいの量のお酒だ。
焼酎の瓶なんて買ったことがないし、
長い缶も何本あるんだこのお酒達は。
『こんな、呑めるの?というか、おも…たい。。』
「さぁね、どう思う?笑笑
じゃあ、レジいこ。
…すみません〜、お願いします〜!」
やる気のなさげな店員が面倒臭そうに
読み上げていく。
7382円になります〜。
へ、酒だけで、?
「そこそこいくね〜笑
まぁ、私の夢代だと思えば安いもんか。
あ、つまみないけど大丈夫、?」
そんなもの僕に聞かれても、
僕は呑まないから、無関係だ。
『貴方がいいならいいんじゃないんですか。』
「…そっか、了解。
じゃ、行こ。持って!」
重たすぎると思いながら、大量の酒を運ぶ。
『っ……こんなもの持って歩けないですよ、そんなに。』
最近は、全然身体を動かしていないから、余計に重たく感じる。
「あと、何分かで私の家着くから、そこまで運んで〜。」
家か、と思いながら、渋々運ぶ。
「よぉーし!ここ!ここ!
1782、1782っと!
場所覚えておきな〜笑笑」
オートロックで、エントランスも立派なお家に住んでいる彼女。貯金ばかりしている僕とは真逆の生活をしていそうだ。
「さ〜!エレベーターでいくよ、持ってきて〜!!!」
『ほんとに…重たいんだから……
でも、良いところ住んでるね…』
「まぁね〜!人生一度きりだし!!
はい、上ボタンを〜、、ぽちっ!!!!」
テンションが高いな。
まぁ、飲み会のうるささに比べればマシか。
「……よし、きたきた、先乗りな〜。」
『うん…』
扉が閉まる瞬間、彼女に肩を組まれる。
『え、なに…!!』
「あのさ、ノコノコついてきて良かったの?」
『いや、部屋まで、お酒運ぶだけでしょ…、それにめっちゃ重いし…。』
「そっか、確かに、お酒運ぶだけ、かもね笑笑」
気まずい沈黙が続く。
「……お、よし、良いよ先おりな。奥の部屋ね〜。」
『はいはい…』
「ん〜、これで開けて良いよ〜。」
『手、塞がってるから無理だよ。』
「あ、そうだった笑笑
じゃあ、開けるわ〜、はい、ピー!
うい、入って良いよ〜」
『…おお』
ドアを開けた瞬間、眺めの良い夜の街が広がる。
「はやく入って。」
背中を小突かれた。
『あ…うん…ごめん…』
重たいビニール袋をピカピカのフローリングに置く。重かった。明日は筋肉痛になりそうだ。
ガチャ、ガチャという音が響く。
後ろを振り向くと厳重に鍵を閉める彼女。
『すごい…防犯対策してるね…』
「あ〜、まぁね笑
こう見えて心配症だから…
…よし。これ内側からもパスワード付きの鍵かけてんの。すごいでしょ笑笑」
まぁ、女の子なら心配かと思ったりする。
『たしかに、すごいね…けどもう、僕すぐ帰るよ…。』
「え、今の状況、状況分かってる?
私のやりたいこと付き合うって言ったの君でしょ?」
『言った、けど、何するかなんて聞いて…
「言ったんでしょ?」
『うん…まぁ…。』
「じゃあ付き合って。
その正面の窓のすぐ右にある部屋入って。
パスワード0202ね笑笑」
部屋に入るのにも、パスワード?
『パス、ワード…?部屋に入るだけでしょ…?』
「このマンション、結構防犯意識高いんだよね〜、まあ良いところだから笑笑」
そういうものかと思いながら、
綺麗な夜景を横目に
ドアの横にある数字の列に数字を打ち込む。
ピピッ カチャッ
「先入っといて〜、後から行く〜!
電気のスイッチは部屋の右奥の方にあるから!暗いから気をつけて〜!」
よく見えない中、
壁を触りながら右奥の電気のスイッチを探す。
お。
カチッ。
部屋が明るくなる。
何。この部屋。
真ん中に筋トレ用具のようなものがある。
ジム的な部屋なのか。
…ピピピピ、カチャッ、バタン
…ガチャッ。
「よ〜し!じゃあ、やろっか!
まずはそこに寝て〜!」
『いや…待って、何をするの?筋トレ…?』
「まぁそんな感じ!ほらはやく!!!!寝て!!」
『ええ…』
どうしてこうも強引なんだろうと思いながら、
恐る恐る、I字型の筋トレ用具の上に寝てみる。
『寝たけど…起き上がれば良いの…?』
「おっけー、ここからが私のしたいことなんだけど、ちょっとそのままじっとしてて!!!」
『そんな、こと…?意味がわからな…』
「うるさい。黙って、ジッとしてて。」
怖い。ピシャリとした彼女の声を初めて聞いたような気がする。
『ジッとしてれば、良いの…?』
「うん。ちょっと、筋トレの関係で身体触るね。
ベルト苦しかったら言って。」
ギュッ、ギュッと手足や胴体、腰を固定しているであろう彼女。
「手も。貸して。」
差し出すと、横に気をつけをされた状態で、
ベルトの様な物で固定されていく。
『え…ちょっと、こんな、動けないもの…?』
「試しに精一杯、動いてごらん。」
びくともしない。こんなことがあるのか。
そんなに力が強い方ではないけど、男な分、力はあると思うんだけど、びくともしない。
『え、全然、動かないよ。
ちょっと、もうやめない…?』
「ビビり過ぎだよ〜、まだあるから。
ちょっと口でもできる奴あるからやってみてよ。」
『口ってなに、何トレなの…』
「口の筋トレ的な〜笑笑
はい、咥えて!苦しかったら言ってね〜」
言う通りにしてみると、
ゴムのような素材の漏斗みたいなものを咥えさせられる。
『なにぃこえ…もぉ、やへようよ。』
舌の動きが制御されていて、うまく喋れない。
苦しくはないけど、喋りにくい。
「よ〜し出来た!!!!!!うまくいった〜!!」
『なひぃがぁ…こえ…もう…いいおぉ…やへよう』
「うるさいな、さっきから。喋んなくて良いって言ってるよね。何をそんなに喋りたいわけ?お前が、お前の意思で私にノコノコついて来たんでしょ?じゃあ言うこと聞きなよ。分かった?」
『…え…ぅん…。』
「良い子〜!じゃあ、用意します〜!!!!
最初は何が良いかな〜!!焼酎で良いか!良いよね!」
勝手に飲んでくれれば良いと思う。
「よし、もっと口開けな〜。今から焼酎入れてくからね〜。舌とかで塞ごうとしたら、鼻から入れちゃうかもね〜笑笑笑笑」
この人が、何を言っているのか分からない。
焼酎?勝手に飲んでくれ。
『まあって…!!!むぃ!!!!むぃ!!!!む…』
「あ〜…笑笑 美味しい?笑笑笑笑」
ゴボゴボと音を立てて、
受け入れたくもないアルコールが入ってくる。
『う゛…ゅ゛…!!!!!ゴボッ…ッ゛ッ゛』
無理無理無理無理。止めて止めて。暴れたいのに。動かなくて、何もできない。あああああ。
「ほら〜早く呑みな〜笑笑
めちゃくちゃいっぱいあるから笑笑笑笑」
まだ流れてくるあああああ。あああああ…
呑みたくない。不味い、苦い苦い。辛い熱い熱い。ああああ。うえええ…。無理無理…。
「ねえ、どうだった?笑笑
あ〜やばい、顔真っ赤だね笑笑笑笑
苦しかった?笑笑」
『…エ゛ェ…う゛う…、やへて…』
「お、喋れるじゃーん笑笑
はい、君の良いとこ、見てみたい〜!!」
ゴボゴボゴボゴボと部屋にその音だけが響き渡る。
ああ。。視界がグラグラしてきた。。。
ほんとに、良くないよ。。。。無理無理無理無理…。『ウ゛ウ゛…ゲホゲホッ゛ッ゛』
吹き出してしまった。
顔に伝う液体が気持ち悪くて臭くて、最悪だ。
「おい、何してんの?勿体……で…しょ。…酒。何…溢した?言っ……らん。」
分からない分からない分からない。
もうなんか聞こえないし、分かんないよ、
『お゛…めん…なあい゛。』
謝って逃げたいはやく逃げたい
「ごめんな……じゃなくて!!!80ミリ………か…。可哀……笑笑笑笑」
あああああああああ。痛いたいたいたいたいたい。
鼻が苦しいああいああ。苦しい。臭い。いたいたいたいたいたあついあつい。やだやだやだ。死ぬ逃げないとやだ。。。。
『ゆ゛る゛じで…!!!』
「あ〜、えろい。最高。ひっどい顔して、かわいいね。苦しいよね。知ってるよ。けど、私に付き合ってくれるって言ったのも君だし、お酒が弱いのも君、お酒を不味く感じて、吐き出したのも君だからね笑笑 ああ、辛いよね。良いよ精一杯、息吸いなさい?笑笑」
『…う゛…やへ…て゛。やへ 』
あああああああああ。もうつらいつらいいたいの。いやだいやだいやだ
「お前が招いた結果だって言ってるでしょ。
やめてとかじゃないんだよ。喋るなって言ってんの。お前は、私に貰ったものを、身体に、全部ちゃんと入れて、息吸うだけだよ。」
分かった分かりました分かりましたからやめてやめてやめて
『…ン゛ン……ぅ…あ…あああ゛゛』
あああもうヤバい目が、見えない、白いもやもやが、あああ、。
バチンバチン!!!!
うあ、いたいあああ
「お、やるじゃん笑笑笑笑
ビンタで起きれるならいっぱい楽しめるね笑笑
鼻からと、口からどっちが美味しかった?
良いよ、喋って。」
ああえええ、、鼻は嫌いやいやいやいやいや。
『……ゔ……ぢ…ゅるじ…で。。。』
「口の方が美味しかった?良かったねえ。お酒美味しく感じられるようになって。こんなになって可哀想にね。もっといっぱい美味しいお酒教えてあげるからね。」
ぼくは
おさけが
すきになりました
最後まで読んでいただきありがとうございます。
アルコールハラスメントは、決して行ってはいけませんし、決してお酒を呑みたくない人に無理やり呑ませるという行為を推奨しているわけではありません。この作品はフィクション100%であり、一切の責任を取ることはできません。お酒は20歳になってから。お気をつけて、良き飲酒生活を。
追記
本作品では、初めて有料要素を試しています。
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