0.はじめに
「真実」という言葉がこれほど軽々しく使われ、穢されているのを見たことがないと思える昨今のコミュニティですが、誰もがこの言葉を使うことに全く躊躇がないために、言葉が本来の意味を失い、むしろ真逆のものに冠された偽りの商標に成り下がってしまった感があります。つまり、「真実」と付された情報の方が虚偽の嘘っぱちであるということが非常に多いのです。どうやらこれは今に始まったことではないようです。たいていはその「真実」の元になった本当の話が存在しており、それが人から人へと語り継がれるうちに、通過してきた個人の様々なフィルター(読解力・理解力・思い込み・信念体系・宗教・願望・希望的観測・妄想)によって、どんどんと変質していくということが、長い人類の歴史の中で繰り返されてきたようです。それは「ネサラの物語」の例からもよくわかることですが、時には後で改変されたバージョンの方がより広く世の中に浸透し、オリジナルの本当の話の方が否定され、葬り去られてしまうということも多々あるようです。
「ホワイトハット」や「アライアンス」という言葉にも同じことが起きています。実態とは乖離した妄想や、別の信念に箔をつけるため、信憑性を持たせるためにこの言葉を借用し始めた人々が、この言葉を実際の存在とは何の関係もない、呪文の言葉に変えてしまいました。そして、その呪文によって召喚されたエグレゴールやマニフェステーションが、理想化されたおとぎ話のキャラクターとして人々の空想や夢の中で活躍しています。
実際に、コーリーがアライアンスの実態を伝えたところで、ほとんどの人が耳を貸さなくなりました。「それは私たちの思うアライアンスとは違う。アライアンスというのは、もっと、こう・・・全てをコントロールしていて、もうすぐEBSで緊急放送をして、私たちを救ってくれる偉大な存在なんだ」と言って実際のアライアンスを否認するようになったのです。この一連の流れはとても滑稽でもあり、人間のやっていることのおかしさ、不合理、ばかばかしさの典型と言えます。
そんな議論にすらもう飽きてしまいました。コミュニティには「私は20年待っている」「私は30年だ」というツワモノがゴロゴロいるのですから、何を言っても無駄です。
「ホワイトハット」の実体、実態に目を向けることがこの記事の目的です。
ここのところパラディンのポッドキャストの更新は停止しており、Discordのチャットにも姿を現していません。その間に、彼が具体的に言及していたGIDIFAという組織について調べを進めていきたいと思います:
1.GIDIFAとアンヘル・フェルディナンド・マルコス
まずは外堀から攻めてみましょう。GIDIFAの中心人物、アンヘル・フェルナンド・マルコスについて報じたメディアの記事があります。
まず、この逮捕が行われた別荘の所在地は、クラーク経済特区という場所にあります。
デル・カルメン、またの名を「アンヘル・フェルディナンド・マルコス・マルコス」は、20年に渡る長期政権を握っていたフィリピンの大統領の隠し子であると主張しているようです。
デル・カルメンは自分が「一人息子」だと主張していましたが、公式にはボンボン・マルコスというボンボン息子がおり、現在のフィリピンの大統領になっています。
この逮捕劇について、もう一つ別の記事を見て情報を補完しておきます。
GIDIFAにはYouTubeチャンネルがありますが、この逮捕劇以降、更新がストップしたままです。
今のところ、怪しさ満点であり、世界経済フォーラムに対抗できるどころか、存続しているのかすら怪しいグループといった印象です。確かにWEFの対極と言えるかもしれませんが・・・違う意味で。
GIDIFAの「アンヘル・フェルディナンド・マルコス・マルコス」が逮捕されたのは2017年が初めてではありません:
逮捕から1年半近く経ってから、アメリカのメディアでは唯一NYポストが報じたようです。2001年の逮捕当時のフィリピン・メディアの記事も見ておきます:
2.フィリピンの政情に関する基礎知識
この記事を書いたマックス・ソリベンという人は、フィリピンの有名ジャーナリストで、フィリピン第2位の発行部数まで上り詰めたフィリピン・スター紙の設立者です。
興味深いことに、フェルディナンド・マルコス大統領との因縁もありました:
その後、ベニグノ・"ニノイ"・アキノはアメリカに追放されることになり、帰国後に暗殺されています。
これがマルコス失脚の一因となったと言われています。
しかし、ベニグノの未亡人であるコラソン・"コリー"・アキノ次期大統領のバックにはCIAがついていたのではないかと思わせる情報もあります。
フェルディナンド・マルコスの妻、イメルダ・マルコスは、後に亡命先のハワイで受けたインタビューで、アメリカに裏切られたのだと語っています。
ピープルパワー運動で「選ばれた」コラソン・アキノ政権も、結局国民にとっては期待外れだったようです。しかしその何代か後に、その息子も大統領になっています。
そして今はマルコスの「ボンボン」息子が大統領となり、マルコス家は不死鳥のように蘇ったようです。
3.イメルダ夫人とフィリピンの金塊伝説
アンヘル・フェルナンド・マルコスことエディルベルト・デル・カルメンに話を戻すと、報道内容を見る限りでは、九分九厘、詐欺師で間違いないという印象を受けました。しかし、GIDIFAのYouTubeチャンネルには「秘匿した金塊らしきもの」を 写した思わせぶりな動画がアップされています。
また、彼の協力者として逮捕されたデイヴィッド・カストロはPCGG(善政に関する大統領諮問委員会)の元委員長であった点も見逃せません。そしてこのPCGGは、もともとフェルディナンド・マルコスの隠し財産を見つけるために組織された機関だったようです。
PCGGが何を目的とした機関なのかがなんとなくわかりました。しかし、その設立のタイミングと、エドゥサ革命の背後にCIAの影があったことを考えると、どことなくいかがわしさも感じます。
PCGGのトップにいたディヴィッド・カストロは金塊探し(ゴールドハンティング)活動に積極的に関わっていたという情報もありました。また、タイの首相だったタクシン・チナワットも「金塊発見」の現場に飛んで駆けつけたことがあったそうです。政府のハイレベルな地位にある人々が、マルコスの隠し財産や、隠された金塊の存在をどこか信じているふしがあります。
それはイメルダ夫人の証言も関係しているのかもしれません。
情報を補足しておきます。ここでイメルダ・マルコスが黙秘権を行使して語ろうとしなかったルシオ・タンという人物は、フィリピンの有力な財閥です。フェルディナンド・マルコス政権ではクローニー(取り巻き)の一人として、タバコ産業などを任されていました:
この上院公聴会が行われた当時の記事をもう一つ見ておきます。
上院公聴会で質問され、イメルダ夫人が「受けていない」と否定したインタビューとは、フィリピン・デイリー・インクワイアラー紙のインタビューのことです。まずここでイメルダ夫人は一つ見え透いた嘘をついているわけです。そして、ここまでの状況を整理すると、フェルディナンドの独裁政権時に仲間(クルーニー)たちに分け与えていたフィリピンの資産を取り戻したいイメルダ夫人、PCGGを通じてそれを回収したい政府、もらったものは返したくない元クルーニー(ルシオ・タンに代表される中国・マレー系財閥)という三つ巴の構造が見えてきます。つまり、イメルダ夫人の「マルコス人道基金」という言葉は、穿った見方をすれば、自らの資産の正当性を主張するための方便に過ぎないようにも見えるということです。
ちなみにイメルダ夫人が言及していたサンディガンバヤンでの裁判は、この公聴会の20年後に有罪判決が出ています:
スイスのマルコス預金の動向については2015年にスイスメディアが以下のように報じています:
イメルダ夫人は実際にフィリピン・デイリー・インクワイアラー紙のインタビューでどのようなことを語っていたのでしょうか。当時の記事を参考にします:
山下財宝の金塊伝説にもイメルダ夫人が一役買っていたことがわかります。これがまた話をややこしくしているのです。
2011年にイメルダ夫人はBBCのインタビューを受け、ハウスツアーをしています。
このドキュメンタリーの3年後に、イメルダ夫人の絵画の押収されたというニュースが報じられています。
2019年に制作されたこちらのドキュメンタリーでは、ミケランジェロの「マドンナと子供」がまだ部屋の壁に飾られているのが確認できます。結局、PCGGはこの絵を回収できなかったようです。これもおもしろそうなので、後日購入して視聴するつもりです。
もう一つ見ておきたいのが、2013年に放映されたフィリピンのニュース番組のインタビューです。タガログ語の部分は全くわからないので、英語で話しているシーンだけ抜粋します。
こんなことを言われたら、フィリピン国民だけでなく、世界中で期待する人たちが出てくるでしょう。
そしてトランプ政権が始まった2017年にはこんな記事が出ます。
なんと当時現役のドゥテルテ大統領と、元マニラ市長の国会議員がマルコスの金塊伝説に一定の信憑性を与え、期待感を煽っていたのでした。また別の記事でも・・・
ドゥテルテ大統領の父親はどうやらフェルディナンド・マルコスのクルーニーの一人だったようです。そして関係のこじれた他のクルーニーたちと違い、マルコス家との関係も良好だったそうです。
そしてこの「フィリピンのトランプ」とも言われるドゥテルテが、保守的で愛国的なムードをまとい、多くの国民から支持を得ていたのでした。
実際にオバマを罵り、トランプとは友好的な関係だったことから、フィリピン内外から、「きっと反DS、反エリート、反グローバリストなのだろう」と期待の眼差しを向けられていたはずです。
ドゥテルテは2022年の大統領選には出馬せず、故フェルディナンド・マルコスの息子ボンボンにそのバトンを渡す形となりました。ついにマルコス家は復活を果たしたのです。そして、ここでもトランプ人気やQムーブメントとの相関性が見られます。
では、ボンボンが大統領になり、マルコスが復権したことによって、実際にフィリピン国民にマルコスの隠し財産は分配されたのでしょうか?そしてイメルダの言っていたように世界の人々を救うために使われるのでしょうか?
ボンボン・マルコスは当選する前からこう言っています:
この記事についた読者の反応が以下です。
4.マハルリカとタラーノ
しかし「マハルリカのタラーノ一族」というまた別の伝説が出てきてしまい、頭が痛くなります。これも全然根拠のないところに湧いた期待感というわけではなく、前大統領のドゥテルテの発言も期待感を煽る一因になっていたようです。
そしてボンボン・マルコスも政府系ファンドにマハルリカの名前を冠しています。
では、マハルリカのタラーノ伝説とは何なのでしょうか?山下財宝とタラーノの金塊についてのいくつかの記事を見ていきみましょう。
マルコス・ジュニアはキルサン・バゴン・リプナン(KBL)党とは一定の距離を保っているようです。
現在は削除されていますが、キルサン・バゴン・リプナン党がブログで発信した「タラーノ金塊」の記事のスクショがこれです:
なんだか「ネサラの物語」と同じ匂いがします。虚実織り交ぜられ、実際に事実確認しようとすると、非常に労力を要するため、あまりにも面倒なので「無条件に信じる」か「却下する」の2択を迫られるような・・・記事が終わらなくなってしまうので、今回はなるべく概要に触れるだけにしたいと思います。この話に真実味が感じられる方は、ぜひご自身でも検証してみて下さい:
パサイ地裁ではタラーノの主張の有効性を認める判決が3度出ているそうです。その後、控訴裁判所で差し止められたようですが。
また、確かにマハルリカは地名や王国名を指す言葉ではありませんが・・・
・・・フィリピンの国名を「マハルリカ」にしようと言ったのはドゥテルテ大統領や、マルコス・シニアでしたし、それを政府系ファンドの名前にしたのは現大統領です。その意図は???なんだか変な感じです。結局、彼らはそういう思わせぶりなことをして、タラーノ金塊伝説やマルコス基金の噂をそれとなく永続させ、国民の漠然とした期待感を自分たちエリートの人気取りに利用しているのではないかという気さえしてきます。
ラジャ・ソリマンとラプラプの後継者であり、タゲアン/タラーノ王族の子孫だと主張しているジュリアン・モーデン・タラーノという人がこちらです:
タガログ語なので何を話しているのかさっぱりわかりませんが、概要欄の説明によると・・・
コメント欄には彼の主張を信じている多くの人たちの書き込みがあります。
OCT-01-4というのがこちらです。
このような記述がズラーッと連なっていて、それが1500年代にまで遡ります。
ミゲル・ロペス・デ・レガスピというのはスペイン国王フェリペ2世の命令でフィリピンを制服した実在の人物です。
だからといってこのような覚書の内容が事実だということにはなりません。歴史の資料を見ながら、そこに実在しない「タラーノ王族」の作り話を挿入していくことだってできそうです。しかし、この謎の覚書の表紙には、これがフィリピンの司法長官室によって作成されたものだと書かれています。
ちなみにこの「オーストリア王女」の名前を検索してみても、(トランプの曾祖母の先祖だと主張する怪情報はあるものの)この書類のコピー以外には全くヒットしません。その他は実在する機関、人物、用語が使われていて、時代的な整合性は一応取れているように見えます。
書類の最後にはこうあります。
何を言っているのかさっぱりわかりませんが、理解するためには気が遠くなるほどの量のストーリーを読まなくてはならないようなので、内容の理解は一旦諦めて、ここではパサイ市近くのパシグ市の登記官が1960年代にOCT No.T-01-4(所有権証証明書原本 No.T-01-4)は信頼できると言って署名していること、1991年にパサイ市の地方裁の書記官が2つの民事事件が一つにまとめられたことを証明して署名し、パサイ地方裁(RTC Ⅲ PSAY)の「CERTIFIED TRUE COPY(原本の認証付きのコピー)」というスタンプがあるという点だけ押さえておきます。つまり、それぞれが証明している内容が異なるということです。
ちなみに登記官も裁判所の書記官も実在しており、内容の真偽は別として、この書類自体は本物の公文書である可能性が高いです。それはメディア報道でもあったように、タラーノの主張を有効とする3つのパサイ裁判所判決(1997年7月7日、2001年7月11日、2001年10月8日のパサイ市エルネスト・レイエス判事による判決)の内容に、これらの文書が紐づいていることから言えることです。しかし、この判決の具体的な内容は公式の報道や資料では一切確認することができません。意図的に隠されている印象も受けました。確認できるのは、怪しげなサイトや機関紙を通じてのみですが、ここで言われている文書の存在は実際に確認できます。
この3つの判決が凍結されたというメディア報道が、逆説的にこの判決の内容を裏付けています:
やはりこれらの判決や書類自体は本物であり、実際にジュリアン・タラーノの主張がパサイ地方レベルでは1960年代から登記官や裁判官たちによって認められてきたということになります。
それをバカバカしいと否定する訟務長官室による178ページの判決取り消しの嘆願書というのは、容易に入手することも、読むこともできないわけですが、レイエス判事が「もはや判例法になった」という当該判決を下した72年4月2日付の「和解合意付き判決」(報道にあったエンリケ・アガナ判事による)でさえも、全部で140ページ近くあり、この記事内で検証するのはとても無理な分量となっています:
しかし、金塊とマルコスに関する記述だけピックアップしておきましょう:
なんだかイメルダ・マルコスがBBCに語っていた「夫は金鉱の弁護士だった」「金塊がすでに彼に家にあったのを見ていた」「金の投資で驚異的な成功を収め、何十億ドルもの富を築いた」という話と重なる部分があるようです。ただし、タラーノ家としては、マルコスと管財人の神父が陰謀して金塊を盗んだと言っており、1974年当時のマルコス政権は、それは弁護士として受け取るべき正当な補償であり、中央銀行に返すつもりはないと主張した、というふうに読めます。
さらにページを進めると、神父の法廷での証言記録があります。
ん?10万トン分計算が合っていませんね・・・61万7500-3万5000=58万2500です。
神父の証言が本当なら、タラーノ家がフェルディナンド・マルコスに支払うつもりだった報酬は3トンの金塊であったところ、マルコスが勝手に3万5000トン引き出し、その後も不正に8万2500トンも引き出したということになります。マルコスならやりかねない、と思えてくる話であり、妙なリアリティを感じさせます。タラーノの金塊を信じている人たちが、ボンボン・マルコスの「金はない」発言の記事に怒っていた理由がこれでわかりました。タイミングは1年ずれていますが、確かに神父が言っていたように、この時期にフィリピン・ペソは暴落しています。
ちなみにこれまでに人類が採掘してきた金の総量は約18万~20万トンと言われています。
ですから、この法廷でのフィリピンの中央銀行の金庫に「40万トンしか残っていなかった」という議論自体、かなり世間の常識とはかけ離れた議論をしていることになります。また、「バチカンで1898年に178歳で亡くなった故ラカン・アクナ・タゲアン・タラーノ王子」など、色々と信じがたい情報が満載されている雰囲気でした。
5.中間まとめ
パラディンが「世界には公表されているよりずっと多くの金が存在する」と言っていたのも、このタラーノの金塊にまつわる話が根拠となっている可能性があります。それにしても、GIDIFAと自称「マルコスの息子(デル・カルメン)」は、そこからさらに遠いところにいるような印象です。万に一つの可能性があるとすれば、「フェルディナンド・マルコスが勝手に引き出したタラーノの金塊の一部を預かっていた隠し子がいる」というストーリーでしょうか。それでも2017年に逮捕されて以降、活動している様子もありませんでしたから、世界経済フォーラムに対抗なんて、できるわけがありません。パラディンのいう「ホワイトハットがGIDIFAと協力して新たな金融システムを・・・」という話は、かなり頼りない話であることがわかりました。さらに根拠がない「量子金融システム(QFS)」についてはなおのことです。
パラディンは好感のもてる人物ですが、彼が「My Guys(私の仲間たち)」と呼ぶ「ホワイトハット」は、かなり信用できない連中であり、デル・カルメンと一緒に逮捕されたイタリア系アメリカ人と同じような詐欺師である疑惑が深まりました。実際、GIDIFAの動画にはなんだかよくわからない謎の欧米人が出てきます。
今後、調査を続けるうちに、それを覆すような情報が明らかになる可能性もありますが、「中間まとめ」としては以上のような感想です。次回の更新では、タラーノの金塊のストーリーをバックアップしている人たちが誰なのかについてかるく触れた後、山下財宝のストーリーについて簡単に紹介し、これらマルコスの金塊の話に尾ひれがついて変容し、ネサラや宇宙人の話にまで繋げられてきた過程について調べていきたいと思います。つまり、より信ぴょう性の薄い話になっていくということです。とても残念な展開ですが、真実を知る覚悟を持たずにいつまでも夢を見ているだけでは、投資詐欺やスピリチュアル詐欺に引っかかるのが関の山だということを歴史が教えてくれています。