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「防災気象情報に関する検討会」の最終とりまとめに思うこと

 2024年6月18日、気象庁が開催してきた「防災気象情報に関する検討会」の最終報告がまとまり、公表されました。筆者は同検討会に委員(第5回からは副座長、サブワーキンググループでは座長)として参加の機会をいただきました。以下ではこの最終報告の主な内容について、筆者の個人的な考えを記しておきます。あくまでも個人的な記述であり、同検討会あるいは副座長としての公式の見解といったものではありません。


なぜ今このような検討が行われたのか

 一言で言えば、災害時の避難情報に関する様々な議論が安定し、避難情報の現状を踏まえた防災気象情報との関わりについて議論ができる段階に至ったから、というのが、今このような議論が行われた背景である、と筆者は捉えています。
 内閣府の「避難情報に関するガイドライン」(およびその前身のガイドライン)はここ十数年、改訂に次ぐ改定が行われました。近年では、2019年3月の改定で5段階の「警戒レベル」という概念が導入され、防災気象情報などの警戒レベル相当情報と避難情報の関係が5段階の数字のレベルという「横串を通して」(筆者固有の言い回しです)整理されました。
 続く2021年3月の改定では、警戒レベル5「緊急安全確保」(災害発生情報の改称)、警戒レベル4「避難指示」(避難勧告と避難指示の「一本化」)、警戒レベル3「高齢者等避難」(避難準備・高齢者等避難開始の改称)などとする改定が行われ、これが「現行版」ガイドラインとなっています。
 こうした改定の連続には批判もありました。現行版ガイドラインの内容に関して議論した「令和元年台風第19号等を踏まえた避難情報及び広域避難等に関するサブワーキンググループ」の最終とりまとめには次のような記述があります。

なお、近年、大規模な水害・土砂災害が発生する度に頻繁に情報名称の見直しを行っているが、本見直し以降は当面の間、情報名称等の定着に向けた取組とその検証に注力し、大規模な災害が発生したとしても情報名称の見直しを目的とした議論をするべきではない。

「令和元年台風第19号等を踏まえた避難情報及び広域避難等に関するサブワーキンググループ」最終とりまとめ https://www.bousai.go.jp/fusuigai/subtyphoonworking/index.html 

 こうした問題意識もあってか、また2021年以降、社会的に大きな注目を集めるような大規模風水害があまり起こっていないためもあってか、避難情報ガイドラインを改定するという動きは生じていません。
 避難情報と防災気象情報はかなり密接に関係するものになってきましたが、これまで避難情報の方が改定続きで防災気象情報の整理の議論が進めにくい(手が回らない)状況だった、と筆者は捉えています。避難情報の方が安定し、ようやく現行の避難情報の体系を踏まえた防災気象情報の整理の議論が始められるようになったのが2021年後半頃からだった、と思っています。

「防災気象情報に関する検討会」の流れ

 2022年1月24日に第1回「防災気象情報に関する検討会」が開催されました。年内に4回開催、同9月9日に「中間とりまとめ」が公表されました。
 同年11月28日からは、特に技術的な内容について検討を行うための「防災気象情報に関する検討会 サブワーキンググループ」が開催され、2023年9月29日まで5回の開催がありました。
 サブワーキンググループでの議論を踏まえ、2023年12月6日に第5回の検討会が行われ、2024年5月14日の第8回で終了となりました。
 実は、「最終回」の第8回の席上では、同検討会の最終とりまとめの骨格とも言える、新たな警報等の呼称などについて、委員間および事務局の間で意見の一致を得ることができませんでした。最終とりまとめについては座長一任とするということで第8回は閉会となり、その後、座長、副座長(筆者)、事務局の間で意見交換が行われ、全委員にも確認を経た上で、6月18日の最終とりまとめ公表に至った、という次第です。関連の資料は以下にまとめられています。

そもそも防災気象情報とは

 「防災気象情報」という言葉はあまり厳格な定義はないものの、「業界」ではよく使われている言葉です。本検討会の「最終とりまとめ」では以下のように定義されました。

気象庁、水管理・国土保全局や都道府県等(以下「国等」という。)は、自治体等の防災機関が行う防災対応や、住民自らの防災行動に資するよう、注意報、警報、特別警報、土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報など、図1に示す気象、土砂崩れ、高潮、波浪及び洪水に関する様々な情報(本検討会において「防災気象情報」と総称する)を段階的に発表し、災害への警戒を呼びかけている。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 5ページ
防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 図1

 このように防災気象情報はかなり多岐にわたるものですが、本検討会では、防災気象情報のうち、避難情報と関わりが深い「警戒レベル相当情報」を中心に検討が行われました。

警戒レベル相当情報の望ましい名称案

 同検討会では様々な議論が行われました。お伝えしておきたいことはいくつかあるのですが、ここではおそらく最も関心が集まるであろう「警戒レベル相当情報の望ましい名称案」に絞って思うところを書いておきます。

これまでの情報に対する変化

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ概要版 より

 これまで、洪水予報河川や水位周知河川の氾濫(川から水があふれること)の危険性を対象に出されていた、氾濫発生情報、氾濫危険情報などは、洪水予報河川・水位周知河川のいずれについても、河川ごとに関係機関(おそらく河川管理者(国や県など)と気象台)が協力して発表する「洪水に関する情報」としてとりまとめられ、その呼称は、氾濫特別警報-氾濫危険警報-氾濫警報-氾濫注意報、となりました。なお指定河川洪水予報(氾濫発生情報、氾濫危険情報)の運用が廃止されるわけではありません。おそらく、広く社会に伝えられる情報としては「洪水に関する情報」が主体になっていくのではないかと思います。
 これまで、基本的に市町村を単位として、低い土地への浸水などの内水氾濫などを対象として、気象台から発表されていた大雨特別警報(浸水害)、大雨警報(浸水害)などは、対象とする現象として洪水予報河川・水位周知河川以外の小規模な河川(その他河川)の氾濫の危険性も対象として加えた上で、基本的に市町村を単位として気象台が発表する「大雨浸水に関する情報」としてとりまとめられ、その呼称は、大雨特別警報-大雨危険警報-大雨警報-大雨注意報、となりました。
 なおこれらにともない、これまで基本的に市町村を単位として気象台から発表されていた洪水警報はなくなることになりました。よく誤解がありますが、「大雨洪水警報」という防災気象情報は存在しません。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ概要版 より

 これまで、基本的に市町村を単位として、土砂災害の危険性を対象として、気象台から発表されていた大雨特別警報(土砂災害)、大雨警報(土砂災害)などと、都道府県と気象台が共同して発表していた土砂災害警戒情報は、基本的に市町村を単位として、関係機関(おそらく都道府県と気象台)が協力して発表する「土砂災害に関する情報」としてとりまとめられ、その呼称は、土砂災害特別警報-土砂災害危険警報-土砂災害警報-土砂災害注意報、となりました。土砂災害警戒情報は土砂災害危険警報に改称される形になります。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ概要版 より

 これまで、沿岸を都道府県などの範囲で区切り、高潮による氾濫を対象として都道府県から発表されていた高潮氾濫発生情報、基本的に市町村を単位として、高潮による氾濫の危険性を対象として、気象台から発表されていた高潮特別警報(警戒レベル4相当情報)、高潮警報(警戒レベル4相当情報)などは、区切られた沿岸や市町村を単位として、関係機関(おそらく都道府県と気象台)が協力して発表する「高潮に関する情報」としてとりまとめられ、その呼称は、高潮特別警報-高潮危険警報-土砂災害警報-土砂災害注意報、となりました。高潮特別警報が警戒レベル5相当情報となりました。

名称案をまとめた表

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 表10

 これらの変化全体をとりまとめた表が、最終とりまとめの「表10 警戒レベル相当情報の望ましい名称案」になります。4つの対象とする現象ごとに、特別警報-危険警報-警報-注意報、という呼称で横串が揃えられました。
 洪水警報が指定河川洪水予報などとやや統合される形で「氾濫警報」などの情報の列になったこと、これまであまり認知されていたとはいいがたい「大雨警報(土砂災害)」が、土砂災害警戒情報と統合される形で「土砂災害警報」という情報の列になったことも目新しいところですが、警戒レベル4相当情報として「危険警報」という全く新たな呼称が生まれたことが目を引くのではないでしょうか。

「危険警報」に対する賛否

 「危険警報」という言葉は、最後の第8回検討会で初めて提案されたもので(それ以前には「危険情報」などの案はありました)、検討会の場でもかなり賛否が分かれたところでした。「否」の声は最終とりまとめの中に

「危険警報」という新たなワードを用いることにより、特別警報と危険警報はどちらがより危険なのか、また、「危険警報」が日本語として適切なのか(「馬から落馬する」のような使い方になっていないか)、などの指摘が想定される

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 33ページ

としても記録されていいます。「危険」と「特別」のどちらが危険なのかわからない、といった声は、今後必ず出てくるのではないかと筆者も予想しています。また、危険警報という「目新しい情報」に関心が寄せられ、特別警報など他の重要な情報が軽視されてしまうのでは、といった懸念も持ちます。
 第8回検討会で、というかそれまでの検討会でも示された案には、警戒レベル3相当情報と警戒レベル4相当情報ともに呼称は警報とし、たとえば「レベル4氾濫警報」「レベル3氾濫警報」のように、はじめにレベルと数字をつけて区別する、というものもありました。この案に賛成する声も少なくありませんでしたが、一方で

警戒レベル4相当及び3相当情報の名称のワードがいずれも「警報」となり、ワードで区別がつかない

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 33ページ

という意見も少なからずありました。最終的には警戒レベル4相当と3相当を言葉で区別する、という形でのとりまとめとなりました。「座長一任」の過程でなぜ「危険警報」の表現が選ばれたのか、と問われても、これはもう「様々なご意見を踏まえて」「現段階における判断としては」と言うしかなかろうかと思います。最終とりまとめの中では、以下のような説明がなされています。ちょっと長いですが。

 名称に相当する警戒レベルの数字を含めることで、警戒レベル4相当及び3相当情報の区別は付けられること、また、新しい名称は極力作るべきではないとの見方がある一方で、現時点で「警戒レベル」そのものが社会に十分浸透していない状況にあり、相当する警戒レベルの数字だけでは具体の避難行動に結びつかないおそれがあること、また、警戒レベル4相当情報は全員に避難行動を促す重要な情報であることを踏まえ、警戒レベルが浸透するまでの過渡期においては、名称中のワードについても区別できるようにすることが必要と考えられる。
 この「ワードの区別」については、現行の洪水に関する情報の警戒レベル4相当情報に「危険」のワードが用いられていることを踏まえ、警戒レベル4相当情報の名称の「警報」の前に「危険」を置く形、すなわち警戒レベル4相当情報の名称に「危険警報」のワードを置き、警戒レベル3相当情報の名称は「警報」のままとして区別する。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 33ページ

「大雨警報」か「大雨浸水警報」か

 低い土地への浸水などの内水氾濫と、洪水予報河川・水位周知河川以外の小規模な河川(その他河川)の外水氾濫などを対象とした「大雨浸水に関する情報」の呼称については、「大雨警報」と「大雨浸水警報」の両形態のいずれがよいか、という議論がありました。
 結果的には「大雨」となった訳ですが、この背景としてはまず「大雨警報」というシンプルかつ長い歴史を持って定着した呼称があることが挙げられます。
 また、大雨で警戒すべき事は(内水氾濫的な)「浸水」だけではないこともあります。あふれていなくても川の増水は危険です。当方の調査では、水関連犠牲者の4割は洪水・浸水している場所ではなく増水した川に転落するなどして(よくイメージされる田んぼの様子を見に行って用水路に転落はむしろ少数で、多くは日常の行動の中で川に接近して被災)亡くなっています。他にも、車がスリップするとか、見通しがきかないとか、「大雨」に伴い注意すべき事はいろいろあります。
 それに、「大雨浸水警報」とすると、「氾濫警報」との違いがわからない、という声が確実に上がると思われたことも挙げられます。
 「危険警報」の話もそうですが、風水害の危険性を「言葉」で伝えようとすると、こうした「あちら立てればこちら立たず」みたいなことが随所に出て来るということ、これは議論の過程であらためて痛感しました。
 このあたり、最終とりまとめでは下記のように記述されています。

一般において「氾濫」と「浸水」を区別して理解するのが難しいと考えられること、雨が弱まったとき、洪水については警戒レベル5相当情報が発表されていても大雨浸水はレベルが下がる場合があり、浸水のリスクが減ったと受け取られるおそれがあること、また、「大雨特別警報」「大雨警報」の名称が社会に定着・浸透していることも留意する必要がある。以上を踏まえ、シンプルで理解しやすい名称とすることを優先し、「大雨」を用いることが望ましい。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 30ページ

「**危険度」とレベルの組み合わせ

 「警戒レベル相当情報の望ましい名称案」は、4つの現象で縦串を、特別警報-危険警報-警報-注意報という形で横串を揃え、確かに整理はされたと思います。しかし、危険と特別の区別がつきにくそうだという問題だけでなく、たとえばあえて読みで表記しますと「れべるよんどしゃさいがいきけんけいほう」が正式な呼称となるわけですが、これが当初目指したはずの「シンプルな情報」と言えるのか、いささか忸怩たる所もあります。
 最終とりまとめの表10の1つのポイントとしては、4つの現象の列見出しに「(現象名)危険度」という呼称を入れ、これを「(現象名)に関する情報」という「正式名称」よりも大きなフォントで強調した、という点があります。これについては最終とりまとめの中にも以下の記述があります。

総称である「洪水に関する情報」を「洪水に関する情報(洪水危険度)」のように工夫し、情報伝達の際には「洪水危険度レベル5」と現象を補いながら伝えていく方法や、この「洪水危険度」などを、警戒レベル相当情報を端的に言い換えた呼称として活用する方法が考えられる。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 33ページ

 つまり、「レベル4土砂災害危険警報」といった漢字での呼称にこだわらず、「土砂危険度レベル4」(と対応するカラー)など、数字や色を活用して警戒を呼びかけていくのも手ではないか、というものです。
 最終とりまとめの中でも、「警戒レベル相当情報の望ましい名称案」には改善の余地があり将来的に検討する一案として、次のような表も示されています。関連記述と併せて示します。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 表11

 なお、表10 に示す名称案は、「シンプルにわかりやすく」するという観点からは改善の余地がある。今後、よりシンプルな名称を検討する場合には、情報の発信者や受信者等の立場によって多様な意見があるものと想定される。このことを踏まえ、表10 のポイントについて、現象を2文字で統一して表現するなど本検討会として最大限シンプルな形で表現したものを表11 に示す。
 現状では、「警戒レベル」が社会に十分に浸透していない状況であり、名称案では、一般向けアンケート調査の結果を重視し、相当する警戒レベルの数字に加えて、相当する警戒レベルごとに危機感が伝わる警報等のワードを含めることとしているが、将来的に「警戒レベル」が社会に十分に浸透した際には、表11に示すようなシンプルな形の名称を検討することも一案である。

防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ 35ページ

「言葉」で現象の危険度を伝えるのはもう限界では

 避難情報に関する議論に加わっていたときにも感じましたが、情報の階級が増えてきた中で、言葉の差異によってその危険性の強弱を示そうとしても、情報を作る側の誰もが納得し、情報の受け手の誰もが誤解なく受け止められるような表現を編み出すことは、極めて困難だという思いを改めて強くしました。
 「こういう表現がよい」という議論はまさに議論百出・十人十色でいろいろなものが生まれ得ます。「アンケートで決めればよい」という考え方もあります。今回の検討では実際にアンケートは行い、その結果も踏まえた議論が行われました。

第7回検討会
参考資料1 一般向けアンケート調査概要
参考資料2 市町村向けアンケート調査概要

 しかし、全くゼロベースから情報の名称などを「アンケート」で聞く訳にもいかないので、「アンケートにかけるための案」をまず作らねばなりませんが、その段階に至るまでに既に議論は百出します。また、結果をどう読むかも、これまた人それぞれの考え方があり得ます。
 一方、河川や気象に関する情報は、長年それぞれの現場で運用されてきた歴史的・技術的な積み重ねがあることも事実です。そうした積み重ねを無視して「表現としてのわかりやすさ」だけで議論しても、肝心の現場が対応に苦慮する、といったことも大いにあり得ます。
 情報が高度化・複雑化する中で、防災気象情報を(漢字表記の単語としての)「わかりやすい言葉」で表現することは、もはや限界があるように筆者は思います。長年親しまれてきた「警報」といった言葉を今すぐ捨て去るのは無理があると思いますが、中期的には、「警報」などの「言葉」は副次的な存在としてゆき、「[現象名]危険度[数字]」のように、主に数字の大小で伝えていく方向を目指していくのがよいのではないか、と考えています。洪水キキクル(これは浸水キキクルと統合したらよいと思いますが)や土砂キキクルなど、面的・段階的に風水害の危険度を表示する情報が一般化しつつあり、数字や色で伝えることができる素地は整いつつあるように思います。
 最終とりまとめの表10と11を、筆者なりに折衷させた「表10を少し簡単にした表」を下記に示します。警戒レベル相当情報の防災気象情報について「要するに」と説明するときには、このような表現でもよいのではないか、と思ったりしています。

筆者が考える、(現象名)危険度とレベルの数字を強調した表

運用開始には十分な時間をかけて

 最終とりまとめで示された情報名称の決定は、今後「法制度や実際の情報の運用、伝え方なども踏まえ、気象庁・国土交通省が行う」(防災気象情報に関する検討会 最終とりまとめ概要版より)とされています。運用開始時期は最終とりまとめでは明示されていませんが、関係する報道では2026年以降などと報じられています。
 第8回検討会の後にいくつか報道がありましたが、そのなかでこの運用開始時期に関して「議論を始めて2年が経過している」「早期導入に努めるべき」といった表現が見られました。

 筆者はこの見方には強い違和感を覚えます。まず、防災気象情報は避難情報とも密接に絡み合い、構造を変えるならば避難情報とどのように関連付けていくかなどの慎重な検討が必要になります。ガイドライン改定、法改正なども一朝一夕にできるものではありません。
 制度的な話だけではありません。こうした情報は、行政機関は言うに及ばず、報道機関やネットワーク事業者、様々なサイト、アプリの運営者などの伝え手の側で膨大なシステム改修を行っていく必要があります。市町村では、地域防災計画の改定(あるいはその準備),ハザードマップや普及資料の改訂なども必要になってくるでしょう。情報の伝え手や、情報を元に判断する人達に改定内容やそれに関わる考え方などを伝える研修等も必須でしょうし、そうした研修にもまた準備が必要です。
 現代の防災気象情報は複雑かつ高度化されたシステムの上に成り立っているものであり、「こう変えるぞ」という「お触れの札」でも立てれば良いというものではありません。避難情報でもそうでしたが、仕組みを変えたら「スピード感を持って」すぐに運用する、という姿勢が、ここ十数年の避難情報・防災気象情報を巡る混乱や「わかりにくさ」を作る一因となっていたのではないか、とこれはまあ筆者の感想ですが。
 今回の防災気象情報の改定に関わる運用開始までには、必要十分な準備時間を取って欲しいと思います。2026年というのは決して遅すぎるタイミングではないでしょう。システム改修には手間がかかるということも、また広く伝えていく必要があるのではないかとも思います。

今回の議論は「ステップ」の段階

 検討会「最終とりまとめ」についての気象庁会見の中で、矢守座長が、今回のとりまとめの議論は、「ホップ、ステップ、ジャンプ」でいうと「ステップ」の段階だろう、という趣旨の発言をされていました。筆者も同感です。
 「まだ言葉いじりをしようと企んでいるのか!」と言われるかもしれません。いじりたいと思っているわけでは無いのですが、おそらく今回のとりまとめ内容は、いろいろな意味で過渡期の中にあるものではないかと思っています。すぐにでも変えていくというのは当然望ましくありません。状況を見守りつつ、ということです。あるいは、今回用いられた表現が使われている中で、利用実態としてよりシンプルなものに収斂していく、という形で「ジャンプ」の段階に移行していくようなこともあるかもしれません。
 新たな情報についての説明は、筆者自身も積極的に推進していきたいと思っています。また、これらの情報の使われ方や、情報の確からしさ(情報と被害の関係など)についてもいろいろな形で見守っていきたいと考えているところです。


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