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洪水・土砂災害は主に「起こりうることが・起こりうるところで」

 以下は,日本災害情報学会News Letter No.80 (2020年1月) に寄稿した文に加筆したものです.2019年台風19号(令和元年東日本台風)による人的被害について概説し,筆者が日頃からよく言う「洪水・土砂災害は,主に,起こりうることが・起こりうるところで発生する」という話に言及したものです.

起こりうることが,起こりうるところで

 災害に見舞われた当事者が「まさかここでこんなことが」という思いを持つのは自然なことだが,客観的に見れば洪水・土砂災害は「起こりうるところで,起こりうることが発生する」のが基本である.

 2019年台風19号及び10月25日の大雨の犠牲者について筆者が調査したところでは,洪水に見舞われたり河川付近を通行するなど,水に関連した死者・行方不明者で,発生場所が概ね推定されたのは68人で,うち46人は浸水想定区域の「範囲内」で発生した.残る22人も「洪水など起こり得ないところ」で発生した訳ではない.地形分類図という情報を用いれば,ほぼ全員が洪水の可能性がある「低地」で発生したことが読み取れた.

 浸水想定区域は大きな河川を中心に策定が進んでおり,中小河川では地形的に洪水が起きうる場所にもかかわらず洪水ハザードマップ上は浸水の可能性を読み取れないケースが少なくない.地形分類図は情報としての専門性が高く,誰でもすぐに使いこなせるものではないが,山間部の中小河川も含めて洪水の危険性を示す機能は十分にあり,全国的な整備も進んでいる.浸水想定区域を補完する情報として活用を図ることが重要ではないか.

 なお土砂災害については,概ね発生位置が推定できた犠牲者22人のうち,土砂災害危険箇所等の付近での発生は10人で,12人は「範囲外」だった.しかし,1999~2018年の土砂災害犠牲者497人についての筆者の調査結果では,土砂災害危険箇所等の付近での発生が87%に達している.大局的には土砂災害犠牲者のほとんどは土砂災害危険箇所等の付近で発生していると言っていいだろう.今回「範囲外」となった犠牲者のうち11人は緩斜面や不明瞭な谷といった,土砂災害の危険性を予見しにくい場所だった.こうした例外的なケースはこれまでもごく少数(上記497人中16人)だが存在している.ハザードマップ的な情報が完全なものではないということへの注意喚起も重要かと思われる.

[note版追記1]写真解説

 News Letterでは写真は載せていませんので,この記事の初めにある写真はnote版の追記となります.この写真は2019年台風19号による洪水で,通行中の車が流されて1人が死亡したと推定される現場(埼玉県東松山市)付近です.2019/11/14撮影.台地上から緩い下り坂で低地に向かう道路で,写真中央付近で車は発見された模様.浸水痕跡はやや不明瞭でしたが,水田面から3~4m程度の浸水が見られたと推定しました.ここは,浸水想定区域(計画規模),および浸水想定区域(想定最大)のいずれにおいても範囲内です.[重ねるハザードマップ] なんとも痛ましいことですが,「起こりうることが,起こりうるところで」の一例かと思います.

[note版追記2]ハザードマップの注意事項

 上記記事中で触れた「(洪水・土砂災害における)ハザードマップ的な情報が完全なものではないということ」について,動画で解説したものを作成してみたので掲示しておきます.こちらもツイッターでは公開済みのものです.


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牛山素行
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