叔父を頼むぞ
クレジットカード会社から半ギレの電話が来て泣きながら金を払いに雨をくぐり抜けコンビニへ向かう。
すると俺の目に飛び込んできた「ファミチキ100円」の文字に俺は足をVの字にして飛び跳ねながら喜び、小銭で「アリガト」と文字を作り思いの丈を店員に伝えた。
当然それは嘘だがあぜ道を走り回ったあの頃のような元気な声でファミチキを一つ!とレジで叫び手に入れた肉を車に戻るやいなやむしゃぶりついて俺は窓から夜空を見上げる。
恥の多い人生を送ってきた。
それでも周りに助けられながら生きてきた。
その結果俺は100円でファミチキを食うことが出来たのだ。
こんな緊迫した世の中にも光は射す。
ファミチキの姿を借りた蜘蛛の糸は存在する。
ああ、じいちゃん、ばあちゃん。
そこから見ててくれよ、これからの俺を。
ボンネットに弾む雨音は少しリズムを緩めて優しく俺の生きてきた証(ファミチキ)を祝福しているように響いていた。
上機嫌で「カッチ!カッチ!」とウインカーの音マネをしながらアパートに帰ると母からメールが届いた。
「生まれた。男の子」
そして絵文字の男の子が二人。
兄夫婦に双子の男の子が生まれたのだ。
これまで何年も不妊治療を重ね、失敗を繰り返して最後のチャンスと聞いていた今回、ついに無事出産したとの報告を受けた。
おめでとうございます、と返信して色々と考える。
これまでの兄夫婦の苦労や不安を思うと心からしみじみと良かったなぁ、と感じる。
そしてファミチキ食って世界を手に入れた心地だった俺の件、と襲い来るリアルに俺は立ち向かう。
いいか、よく聞くんだよこの世に生を受けた甥たちよ。
はじめまして、君たち。
俺が君たちの叔父さんだよ。
君たちの叔父さんはね、病気持ちなんだよ。
もう体内のランゲルハンス島でインスリンを作ることができないんだ。
泣かないで、怖くないよ。
さらに貯金もしないし君たちへのお年玉も高校生になっても5000円を超えないだろうしワンチャン態度次第では3000まであり得るタイプのへび年B型。
ここまで聞いてどうだい、うーわ叔父ガチャ外れだわとか思ってるかもしれないけど、そうじゃないんだよ。
お父さんになる俺の兄からは「強さ」を、お母さんになるお義姉さんからは「優しさ」を。
そして叔父さんになる俺からは「支え合い」を学んでいこう。
俺はこれから君たちへのインプリンティング(刷り込み)を行う。
君たちが大人になるまで優しく、楽しく、明るい頼りになる叔父さんになるよ。全力で。
その姿を絶対忘れないでほしい絶対。
三つ子の魂百までって聞いてるよこっちは。
年月を経て君たちが立派な大人になったとき、叔父さんはきっともう何かズタボロになっているだろう。
そんな哀れな叔父さんを「今度は僕たちが!」って、そう思える心が、「支え合い」だ。
未来の叔父さんを君たちに託そう。
もしおばあちゃんやお母さんが俺を君たちから遠ざけようとする時は、君たち側から意思表示しっかり頼む。
最期にもう一度だけ。
俺が 君たちの 叔父さんだよ
ハッピーバースデーディア君たち。
これから何回も歌ってあげよう。
ハッピーバースデーディア君たち。
ハッピーバースデーディア君たち。