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アイスランドから見る風景:vol.21-2 レイキャネス半島での噴火 2022年8月編

さて、今回も引き続きレイキャネス半島での火山の噴火について書いていこう。後編のこのコラムでは、2022年8月3日に始まり同月21日に終わった短い噴火にも言及する。昨年の噴火とほぼ同じ場所で起こったことから、同エリア内での地殻変動から生じた火山活動であることは間違いない。昨年の噴火の写真を見て気が付いたのだが、わたしはきっかり1年の日数をあけて両火山の噴火を撮影していたようだった。その感想も交えてお話していこうと思う。

まず、前年2021年の噴火は、その年の12月18日に終息した。3月からの長丁場だったために、専門家以外にも多くのアイスランド人たちが噴火開始当時から幾たびも現場に足を運んだ。自然現象なので、訪れる度に風景は変わっていく。数回見学した人たちは、行く度に溶岩が流れ出たエリアが広がっていくのを実感したに違いない。事実、以前は歩くことができたルートも、溶岩流に呑み込まれてしまってしまった。

左端にミミズのように見えるのが、噴火が始まった当初は歩くことができたトレッキングルート。
その後噴火が続き、溶岩流が谷間を伝って低地を目指すうちに、途中から呑み込まれてしまった。

わたしが友人と2021年の噴火の見学に出向いたのは好天の8月13日、3月の噴火開始からすでに5か月が過ぎ、噴き出るマグマ量もかなり減っていた時期だった。実はもっと前に出向く予定だったのが、マグマが出ていないことで、日程を延ばした経緯があった。険しい山道を片道1時間近く歩いても、噴火そのものを目にすることができなければつまらない。毎日現場から生中継される画像を見ながら、その状況に応じて車を出すかどうか話し合い、ようやく実行に移せたのが8月13日だったのだ。

トレッキングルートCを歩く人々。8月でもアイスランドでは気温が20℃越すことはない。
特に山岳部での長袖、上着の服装は必須だ。

天気は上々、人出もそれほどでもなく、幸先は良さそうだった。アイスランドの野生植物を必要以上に踏み荒らさないように、歩道には杭が打たれており、救助隊の車もところどころに配置されている。事故を予防する最低限の整備は整っているように見受けられた。そんな様子も、歩き始めて30分経たないうちに変わっていった。勾配がきつくなり、足元も岩と滑りやすい砂ばかりで途端に歩きにくくなった。アイスランドの山間部の典型的な荒地の風景が目に入る。赤味がかった地表が、SF映画に出ているような火星のイメージを思い起させるのだ。

見晴らしの良い高台に辿り着いたときに、遠方から立ち上る煙が見えた。目指す火口がある場所だ。まだまだ先が長いと分かっていても、ゴールが目視できるとその後の頑張りが違ってくる。迷うような場所でなくても、殺伐とした荒野は人を不安にする。二酸化硫黄を含んだ有害ガスが地表に放たれるためか、野鳥の姿もここでは見られない。時間が静止した中で動いているのは、風に運ばれた煙と噴き上げるマグマ、そして黙々と歩いているわたしたちだけだ。

アイスランドは島全体が火山活動で形成された上に、島誕生後の氷河期を経て今日に至るまで、途切れることのない水や風の浸食に、山の斜面は大変風化しやすい。岩が砕かれ、砂になっている。

その後、ようやく火口を正面に望むことができた。それが下の写真である。距離としては立っている場所から火口まで、およそ1.5kmから2km弱くらいはあるだろうか。溶岩流を左手に見ながら、あたかも川の上流を目指すように歩いてきたわけだが、その噴出口そのものと冷えた黒い溶岩台地の下を流れる灼熱のマグマを目の前にしたとき、それまでの疲れは吹っ飛んだ。こんな光景を自分の目で見ることができるとは、何たる僥倖!夜間に撮影できたらどんなに素晴らしいだろうとは思ったが、歩いてきた距離と足場を考えると、マグマが大量に噴き上げて辺りを昼のように明るく照らさない限り、一般人には厳しいだろう。

ストゥリ・フルートル(山)からゲルディンガダールルの火口を望む。

わたしたちが幸いだったのは、この数日後から目に見えてマグマの噴出が減少し、9月18日を境にほぼ止まってしまったことだった。そして12月18日アイスランド気象庁は公式にゲルディンガダールルでの噴火終息を発表した。溶岩は一見すると冷えて固まっているようにみえるが、内部はまだ高温で流動性が高いので安易に溶岩の上に乗ったりしないこと、地下からの有毒ガスは引き続き放出されているので、風のないときには低地の吹き溜まりには入らないようにすることなどが注意事項として伝えられた。コロナ禍の中、それでも国民と観光客合わせて約40万人がこの噴火を見学したそうだった。見学者はアイスランドの総人口より多かったわけだ。

さて、それからおよそ4カ月後、再び同じ地域に火山性微動が観測されるようになる。5月に入ると4.3の震度を含めた7300ほどの群発地震が観測され、同時にスヴァルツセンギ地熱発電所と隣接するブルーラグーンのエリア一帯で地殻変動と地下でのマグマ上昇が計測された。今度の噴火は地熱発電所の近郊で起こるのかと国民一同が息をひそめて状況を見守る中、6月に入ると地震が減り、災害対策本部は一旦噴火警戒注意報を解除する。それが7月30日に再度大きな地震が起こり、8月3日の真夜中に昨年の噴火エリアの苔が燃え始め、その日の午後13時35分に再び噴火が始まった。

下記の地図をご覧いただきたい。2021年の噴火時にわたしが歩いたコースはハイキングコースCである。紫の部分がそのときの噴火で溶岩に覆われたエリアだ。このコースCはストゥリ・フルートル山に続くルートで、この山からわたしは2021年の火口を写真撮影している。2022年8月の噴火は、そこからさらに北で起こった。青緑のペンで囲ったVOLCANOがまさにその場所だ。メーラダーラ フニュークル(山)の麓で割れ目が生じて、そこからマグマが吹き出し、溶岩流となって谷間に広がっていった。

ハイキングコースAの入り口にあった地図。
どのくらいの距離を歩く必要があるか、一目瞭然で分かりやすい。

8月3日にアイスランドにいた観光客は、災害対策本部の決定を待たずに噴火の場所に押し寄せた。この時点ではどのように歩けば火口がよく見えるか分からなかったはずなので、荒野の中かなりの距離を無駄に歩いに違いない。その後、先回と同様の流れで災害対策本部、地元の救助隊、そしてアイスランド政府と火山の専門家たちが一緒になって、国民や観光客が安全に火山見学ができるための体制を整えていく。一時は17kmと言われたルートだったが、上記の地図にて赤線で示したコースAが即座に整備され、片道約6kmで火口に辿り着けるようになった。

わたしがこの火山の見学に赴いたのは、噴火が始まって1週間が少し過ぎた、お天気にも恵まれた8月12日だった。アイスランドにいらしていた弊社のお客さんが噴火を見たいと希望したので、急遽同伴することになったのだ。ニュースで人出がすごいことは聞いていたので、早めにレイキャヴィークから出発したが、到着した10時ごろにはすでにハイキングコースに一番近い駐車場が満車、少し離れたところに車を停めて歩き始めることになった。

今回のコースは正直きつかった。先回のコースCもそれなりの勾配があり、足場が滑りやすかったので、友人が持っていたストックが下り道で大変役にたった。実際、昨年も下り道で滑って転倒し、足首を捻挫、もしくは骨折した見学者が多かったのだ。そんなことから今回は自分のストックを持っていったが、コースAの難関は勾配以上に、岩場と岩のゴロゴロした荒野だった。噴火が始まって間もないので、歩道の整備はとても追いつかない。地面があまりにごつごつしていて歩きづらい上、どこを足の踏み場にしてもバランスが悪く足首を捻りそうで難儀した。

昨年の火口を北側から展望。上の地図で言うと、”2021 Lava Field”と英語で書かれた左、赤矢印がちょうど切れた辺りから撮影した。2022年のメーラダールル(谷)の火口からの白煙が、左手奥に見える。このエリア一帯が遠い昔の噴火で黒い溶岩で覆われていたのだろうか、長年の風化で色がこのように黄赤に変わってしまっている。このような荒野が辺り一面に広がっていた。

地図の左上、2,1kmと書かれている場所から撮ったのが下記の写真だ。ここは高台だったので、遠くまで見渡すことができた。手前一面に広がった溶岩エリアは昨年のゲルディンガダールルでの噴火時に流れ出たもので、火口の北側に当たる。写真奥が今回の噴火の現場だ。この人の群れをご覧いただきたい。わたしには単なる観光客というよりも、火山を拝みに行く巡礼者たちのように思えた。行きの人数も大したものだったが、帰りに反対側からやって来た火口へ急ぐ人たちの数は、これとは比較にならないほど多かった。

地面を広く覆った2021年の噴火時の溶岩。
高温度で粘性が低かったのだろう、火口からかなりの距離まで溶岩は流れて行った。
2022年8月の噴火の火口はすぐそばだ。

人間がどんなに知恵を絞っても、刻々と変化する自然のアトラクションにはかなわない。噴火もその種類や場所によっては大きな天災に繋がることがあるものの、アイスランドのレイキャネス半島の場合は、低粘性の玄武岩が割れ目から流れ出るハワイ式噴火タイプだった。しかも火山活動が活発な高地熱地帯の多くは無人の山間部にある。とはいえ、このライン上をずっと南西に下がるとブルーラグーンやスヴァルツセンギ地熱発電所があるグリンダヴィークの村になるから、そこからの噴火ではなくて幸いだったというべきかもしれない。実際にその可能性も専門家に指摘されたのだから尚更である。

そして到着して目にしたものが、タイトルと下記の写真の風景だ。今回は噴火してから間もない時期で火山活動が活発だった上、溶岩がそれほど広範囲に拡がっていなかったため、かなり火口の近くまで寄って撮影することができた。火口から程よい距離だったからだろう、熱気よりも心地よい暖かさを肌に感じた。何か巨大な生き物の体温が、直接体に伝わってきたように思えた。自然の驚異の目撃者ということで、国籍、人種、年齢に関わらず、その場にいたすべての人たちの間に不思議な連帯感が生じていたことも付け加えておこう。

溶岩噴泉の様子。ヘリを使って上空から火口を見下ろしたら、
マグマが溶岩の壁に溜まった溶岩湖を見ることが出来たに違いない。

観光業界が再度のツーリスト噴火到来に嬉々としたのも束の間、今回の噴火は3週間足らずで終わってしまった。わたし自身、こんなに早い時期に出向こうとは思っていなかったので、この機を逃していたら噴火撮影はできなかったに違いない。重い機材をしょって12km歩くというのは、結構覚悟が要るものなのだ。冒険心に満ちた言い出しっぺのお客さまご夫婦には、改めてこの場で感謝の意を表したい。とにかく、素晴らしい体験であった。

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地質学・火山学の専門家たちによる2021年の噴火の研究結果をまとめた記事が、今年9月14日アイスランド気象庁のウエブに掲載された。専門誌Natureで発表された詳しい研究報告のダイジェスト版だ。それによると、今回のレイキャネス半島での噴火は2つの点で特異らしい。

①群発地震の減少と噴火開始の時期
兆候がすでに2019年12月に遡るこの噴火では、マグマが火道8kmまで上昇してきた時点で、群発地震が大幅に減少したそうだ。多発した地震のために、地表に至る地殻が十分に開ききったことがその原因だと考えられている。このことは防災の観点から噴火予知に貢献できるのではないかと期待されている。つまり、急激に地震が減ったら噴火が近い可能性があると考えられることだ。

②マグマ溜まりの深さ
今回のマグマは、アイスランドの専門家が予想したよりもずっと深い場所、地表から約15kmの地下から上昇してきたらしい。また溶岩の構成成分を比較していくうちに、約20日の間隔で新しいマグマが新しく地下に吹き溜まり、地表まで昇ってくるということが分かったそうだ。

①に関して追記しておきたい。『火山噴火』(鎌田浩毅著/岩波新書)によると、2000年北海道の有珠山も、レイキャネス半島での2回の噴火と同じような経緯で噴火をしているようだ。ただし、火山性の地震が多発と減少、その後の噴火という流れが3日間という短い期間内で起こった。有珠山は以前にも同じ過程を経て噴火した歴史があるということなので、それぞれの火山にはある程度予想がつく噴火形式があるのかもしれない。

コラムの最後に、さらに詳しい内容に興味のある方たちのために、上記の記事のNatureの記事のリンクを貼っておくので、ぜひお読みになっていただきたい。

また、今年の8月の写真撮影時に短い録画もした。弊社のTwitterに載せたものをこちらでもリンクしておこう。




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