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スキズ楽曲語り:Stray Kids

トップ画像出典:https://straykids.jype.com/

スキズの半生にして原点回帰

 ATEのMashup Videoの公開とともに、Stray Kidsが予告されたときのショックはいまだ鮮明に覚えている。グループ名そのままのタイトル、自らの半生を振り返るような歌詞に、BLACKPINKのShut Downが脳裏をよぎった。よもやここで活動を終えるのではないか—―これが杞憂に終わって胸を撫でおろしたステイはすくなくなかったはずだ。

 さて、彼らの「第2部」序曲となったStray Kidsだが、楽曲を通して使われているコードはたったの4つである。それも複雑ではなく、非常に明快なワンパターンのコード進行が繰り返されている。この動きに、どこか聞き覚えはないだろうか。
 ほかでもないHellevatorである。
4つのコードのうち、3つめまでの動きは完全に同じで、楽譜に起こして五線上を垂直移動させればぴたりと重なる(4つめは異なるが、響きとしてはよく似ている)。テンポさえ調整すれば、HellevatorをInstrumental Ver.にし、Stray Kidsのメロディを乗せてもなんらおかしくはない。逆も然りだ。いくら単純でよくあるコード進行だからといって、これが偶然だとは信じがたい。歌詞や映像のそれはより分かりやすいが、楽曲の土台となるコードというものについても、Hellevatorをオマージュしていると考えてよいだろう。

 ほかの音楽的なポイントも見ていきたい。Stray Kidsは歌詞のメッセージこそ力強いが、曲調は全体的に落ち着いていて、程よい脱力感がある。プリコーラス1のハンの"나왔던 갈등"、コーラスの"this is who we are"でふっと高音に上がるところや、ヴァース2の"forever, ever"で(よい意味で)尻すぼみになるところでは、「抜き」のテクニックがとくによく光る。疾走感があるだけに、ずっと声を張りっぱなしではさすがに疲れてしまう。ところどころ、こうして息抜きするのがよい。
 ワールドカップのアンセムを思わせる、ポストコーラスの"Woah, woah…"は、風を切って走るような爽快感がある。コーラスに入る"Stray Kids"の合いの手も相まって、さながらスタジアムに響き渡る応援歌のようだ。
 また、この楽曲ではフィリックスの洞窟ボイスが封印されている。ヴァース1から一瞬だれかと思うような声色を披露しており、ヴァース2、プリコーラス2では若干音域が下がるものの、いつものような深さはやはりない。楽曲の雰囲気に合わせて声のトーンを変えるくらいのことは、プロの歌い手であれば当然(絶えざる努力の結果によって)体得している技術なのだろうが、ここまでの別物にしてしまうのは、だれもができることではないだろう。

 他のアーティストのフィーチャリングではなく、100%スキズ資本の楽曲としては、それまでになくライトな一曲といえよう。彼ら自身でそういうスタイルを採るようになったというのも感慨深いし、これまでにない姿を見せてくれるのも嬉しい。このタイプの新曲をこれからも聴かせてもらえたら、というのが筆者のひそかな願いである。


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