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スキズ楽曲語り:Lose My Breath

トップ画像出典:https://straykids.jype.com/

チャーリー・プース先生、万歳

 誤解を恐れず言う。Lose My Breathを初めて聴いたときの第一印象は、
「味がしない……」
であった。スキズのプロトタイプから大きく外れる作風が、耳になかなか馴染まなかった。
 しかし、どうしたことか。一回、また一回と聴くたび、もう一回が欲しくなるのである。何度リピートしても胃もたれしない。それどころか、だんだんと楽曲の旨味が濃く感じ取れるようになってくる。まさに、噛めば噛むほど味がする、を地で行く一曲である。チャーリー・プースはやはりすごかった。

 ただ、ここで彼に謝らねばならない。筆者はもっぱら、Stray Kids Ver.しか聴かない。腐ってもステイなのである。チャーリー・プース・フアンの皆々様、何卒大目に見ていただきますよう。

 アコースティックギターで奏でられるイントロの、明るいとも暗いともつかない、胸の奥をきゅっと掴まれるような音運びに、初っ端からすっかり囚われる。

推しポイント(1)苦しそうなのがいい

 Lose My Breathというだけあって、あえてフレーズを細かく刻み、息苦しそうに歌う箇所が随所に見受けられる。そう、彼らは陸に上がってしまった人魚たちなのである。
 ヴァース1、バンチャンの"It only took me a moment"は、跳ねるというより止めるに近い"It"と"took"の発音が特徴的である。しゃくりあげる、というとすこしオーバーであろうか。
 コーラスはきれいに"I lose my breath"と入らずに、"Ah,"が付加されることで、息苦しさが演出されている。スンミンの"Ah, I lose my breath when you're walkin' in"はあまりにも甘く切なく、聴いているそばから耳がとろけそうになる。続く"'Cause when our eyes lock, it's like my heart stops"の"it's"でエッジを利かせ、眉間に皺を寄せて歌う様は、もはやちょっとした危険物である。
 リノのポストコーラス、"Now, all I think about is how"も、かなり途切れ途切れな歌いぶりとなっている。音と音との間に隙間のほぼ無い"My world turned upside down"と比較すれば、その差は歴然である。余談だが、文字どおり音が下がっていく"down"、これがライブパフォーマンスではやや走り気味になるのが個人的に気に入っている。
 リノの後にまた"Ah, I lose my breath…"と繰り返されるわけだが、こちらの"when"は溜息のごとく落とされるのが堪らない。

推しポイント(2)みんな、声、甘すぎ

 スンミンの"Ah, I lose my breath…"が恐ろしく甘いことは、すでに触れた。バンチャン、スンミン、アイエンは普段からスイートな声色を披露することが割合多いので、この楽曲については適材適所だ、で済む。普段とのギャップで人々を苦しめているのは、残りの5名ということになる。
 リノは少年っぽい素朴で真っすぐな声が魅力だが、ひとたび高音を出せばその糖度の高さに驚かされる。前述の、
Now all I think about is how my world turned upside down
というフレーズは、若干の戸惑いが浮かぶリノの声と歌詞がよく合っており、彼が歌うべくして歌った、と言っていい。
 いつものハンの歌声のイメージといえば、スタイリッシュ、さわやか、といった言葉が浮かぶ。だが、彼もこと恋愛を歌うとなれば豹変する。甘い、というより甘えるような優しい声で撫でられたら、こちらの心臓が持たない。
 Lose My Breathではドスの利いた洞窟ボイスを封印し、彼にしては比較的高いキーのパートを担当しているフィリックス。"Girl, I need you right by my side"など相当高い部類に入るが、これにより囁きボイスという新たなる扉がわたしたちの前に開かれる。
 ヒョンジンのリラックスした声が珍しい。ヴァース2の脱力感は、ふと弱いところを見せられたようで、いまにも落ちてしまいそうだが、好きになってはいけない匂いがぷんぷんする。ブリッジはブリッジで、すこし酔ったような緩急のつけ方が色っぽい。なおざりな"keep me alive"がよい味を出している。
 さて、この楽曲で最も大きな罪を犯したのは、ソ・チャンビンその人である。わたしたちは思い出した。チャンビンがとんでもない隠し玉を持っているということを。ただゴリゴリのラップをする両唇破裂音愛好家と侮っては痛い目を見るのだ。その"when you're walkin' in"はいくらなんでもずるすぎないか。とくに"in"の濃さ。ブリッジではいつものテンションに戻ったかと思えば、その"sheesh"はなんだ、けしからん。いったいこれで何人のステイが恋に落ちたとお思いか。

推しポイント(3)ラストコーラスで無事昇天

 スンミンがまたやってくれた。ラストコーラス裏メロの"I lose my breath…"、これはちょっと、本気でこちらの命を狙っているとしか考えられない。ハンの"it's like I'm in shock"の後ろで彼の声が上がっていくのを聴くためにこの楽曲が存在していると言っても過言ではない。すくなくとも筆者にとってはそうである。
 スンミン裏メロ→リノ"Now all I…"→スンミン"Ah, I lose my breath…"という、フォアグラでキャビアを挟んだようなサンドイッチも罪の味がする。幸せのオーバードーズで天国を見るのだが、もう一度これが聴きたくて、筆者はきょうもまた懲りずに再生ボタンを押すのである。


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