【DIR EN GREY 楽曲感想】『MACABRE』『ain't afraid to die』
今回は2ndアルバム『MACABRE』について書いていきたいと思います。
『MACABRE』期の活動状況
2000年
前作『GAUZE』はバンド史上最大のセールス(21.6万枚)を叩き出し、リリース後には横浜アリーナや大阪城ホールなどの大きな会場でのライブを成功させました。過激な部分を保ちながらも、「売れているバンド」の仲間入りを果たし、勢いに乗って躍進したのが『GAUZE』の時期だったと思います。
2000年に入り、2月に『脈』をリリース。その後、「TOUR 2000 The type of Deity」が開催されました。このツアーでは当時リリース前だった「【KR】cube」が先行披露されています。
そして6月に『【KR】cube』、7月に『太陽の碧』と、『脈』から通算して計3枚のシングルをリリース。いずれも10万枚超えのセールスを記録しており、『GAUZE』からの勢いはまだ続きます。
8月には富士急ハイランドにて、「Fujikyu Presents SOUND CONIFER 229 『SHAKE the BLACK 2000』」に出演。SADS、PENICILLINといった先輩バンドたちと共演を果たします。しかし、富士急でV系のライブイベントが開催されるなんて凄い時代ですね…
9月には2ndアルバム『MACABRE』をリリース。後に詳述しますが、この作品はいわゆる王道路線の『GAUZE』とは異なり、世界観が非常に濃い作品となっております。また、この作品以降、セルフプロデュースとなり、メンバー独自のカラーが作品に反映される部分が増えてきます。
ですが、リリース直前、京さんが突発性難聴を発症し、当時始まったばかりのツアー「TOUR 00>>01 MACABRE brain gain(er) brain drain(er)」が延期となりました。ここまで勢いに乗ってきたDIR EN GREYですが、ここにきて活動がストップします。わずか3か月ではあるものの、この活動停止はバンド史においても非常に重要な出来事だったとメンバーも語っており、特に京さんは、これをきっかけにいろんなことが吹っ切れたようで、以降はメイクも濃くなり、パフォーマンスもどんどん過激になっていきます。
一時的に活動が止まったDIRですが、12月の始まりから年末にかけてのツアー「TOUR 00>>01 MACABRE Deep [-], Deep [-], Deep [-], Deep [er]」で復帰を果たします。このツアーは、Zeppなどの各地のライブハウスで実施されました。
2001年
2001年になると、1月から3月にかけて早速、前年に延期した「TOUR 00>>01 MACABRE brain gain(er) brain drain(er)」を再開します。このツアーは、全国のホールを回るツアーとなりました。
4月にはシングル『ain't afraid to die』をリリース。同月に2度目の日本武道館公演を行います。インディーズ時代の武道館公演はメンバーには黒歴史扱いされていますが、この公演については比較的納得いくものになったそうです。映像作品が残っていないのが残念ですね…今からでも出してほしいところです笑
ちなみに、8月22日には、初のリミックスアルバムである『改-KAI-』をリリースします。リミックスは当時メンバーの中でブームだったのか、この作品では『MACABRE』収録曲の大半のリミックス版が収録されています。このアルバムについては、いつか個別記事を作成する予定です。
脈(2000.2.16)
6thシングル。プロデューサーは元COLORのTATSUYA氏とのこと。表題曲の「脈」は『GAUZE』の大阪城ホール公演で先行演奏され、c/wにはインディーズ時代の曲である「Ash」のリメイク及び表題曲「脈」のリミックス版が収録されています。
1 脈
一つ一つのフレーズはまだ『GAUZE』の延長という感じもしますが、曲の構成が近年のDIRにも通ずるような凝ったものになっています。元々別々の曲だった2曲を合体させたようで、シャウトのパートからメロディアスなサビにいきなり切り替わるのが斬新です。
この曲以降、シャウトのパートからのメロディアスなサビ、という組み合わせは、一種の「DIRらしさ」と言われるようになっていきます。そういう意味で、この曲は非常に重要な転機となったのではないでしょうか。 曲としては、変拍子が多用されていて、かなり複雑なリズムになっています。シャウトのパートはイヤホンで聴くとあちらこちらから声が聞こえてきて、変拍子も相まってなにやら不思議なギミックに満ち溢れた迷路に誘い込まれたような感覚になります。(まさに歌詩の「got for gimmick」の通りというか。)
その後はメロとシャウトが重なるパートに入り、この部分もどこか不穏なサウンドが聞こえてきます。
一方、サビのパートは「-I'll-」にも似た疾走感、美メロ感があり、やや遅れて聴こえるアコギのアルペジオが良い味を出しています。
演奏面では、変拍子ということもあり、全体的にドラムが面白い動きをしていますが、特に1サビの後のエフェクトのかかったドラムソロがカッコいいと思います。(その後の早口セリフは全く聴き取れませんが笑)
歌詩とMVはカニバリズムをテーマにしてるとのこと。曲の構成も相俟って、全体的に不気味な錯乱感があります。
ライブでは2017年の『MACABRE』ツアーで聴きましたが、リズムが複雑だからか、いまいちノリ方が分からなかったですね…京さんも「ノリ方忘れたんちゃう?笑」って言ってたので、多分会場の人皆そんな感じでした笑 ただ、サビの歌がめちゃくちゃ綺麗に聴こえたのを覚えています。歌に余裕を感じました。
2 Ash
インディーズ曲のリメイク。いろいろ違う点はあるのですが、まず音の分離がかなり良くなっています。特にボーカルのエフェクトがなくなり、京さんの技術の向上も相俟って、キレのあるシャウトがストレートに耳に入ってきます。
他にもサビの後半の歌詩とメロディが変わっていたり、ギターソロの後半もややテクニカルになっています。また2サビ前のCメロの歌詩とメロディも変わっています(というかこれはもはやDメロですね)。あと、おそらく「回る」のコーラスはDieさんになったんですかね?
いずれの変更も、曲にタイト感・スピード感を与えていて、やや冗長気味だった原曲よりもスマートになった印象です。イントロの打ち込みも短くなりましたしね。
個人的な印象としては1997年の段階では未完成だったのが、2000年で完成形になったという感覚です。しかし、2018年にまさかの再リメイクが行われ、凄まじい完成度で蘇ります。そっちを聴くと、2000年版もまだちょっと冗長な印象ですが、一曲の中で初期DIRのいろんな魅力を味わえる、良曲だと思います。
3 脈 [8½ convert]
薫さんによる表題曲のリミックス。原曲のフレーズを利用したビートの上で、「キャッチセールスマンが女性に声を掛けているところを女性の彼氏がやってきて、そのまま口論となる」という小芝居が行われるという、シュールな構成になっています。芝居のクオリティはともかく、所々に入ってくる原曲のノイジーな音はカッコいいですね。彼氏の携帯電話の着メロが「脈」のサビなのも面白いです。まさかのCOUNT DOWN TVエンディングテーマで、リミックス音源では唯一、タイアップが付いています。MVも制作され、『鬼門』の隠しトラックに入っているとのことです。
【KR】cube(2000.6.7)
7thシングル。プロデューサーはホッピー神山氏。c/wはインディーズ曲「JEALOUS」のアンプラグド版である「JEALOUS -reverse-」と、表題曲【KR】cube」のリミックス版です。
1 【KR】cube
不気味なエフェクトがかかった子供のセリフから始まるリズミカルな歌謡ロック。歌詩とメロディが和の雰囲気に包まれています。ただ、音作りはギターのエフェクトのデジタル感や、さまざまな打ち込みが用いられており、歌は古風なのにどこか近未来的な感じもします。
リズム的には「MASK」に近いような感じです。自分は特に、1サビ後のLRギターの掛け合い→英語のセリフ→ギターソロの流れがめっちゃ好きでここだけのために再生することもあります笑 サビの歌詩が全部擬音語という挑戦ぶり。(ちなみに曲タイトルも「くるり」の3乗という意味らしいです)キーも全体的に低くて歌いやすいのでカラオケでもよく歌います。歌謡曲調のメロディということもあり、京さんの低音ボイスが良い味を出しています。
歌詩は親子間の禁断の恋からの殺害、といったところですかね。(これ、英語セリフのところの主語をどっちと取るかで解釈が変わると思いますが、母親が息子を殺したのかな、と私は解釈しています。)後年の「かすみ」にも通ずるような日本的情緒、京都の風景を想起させるような情景描写もあります。
個人的にはこの曲、詩の世界とか音の作り方に『MACABRE』よりももう少し先のアルバム(『鬼葬』とか『VULGAR』とか)の空気を感じていて、未来を先取りしている印象があります。 未だにベストアルバムに入ったことがない不遇なシングル曲ですが、結構良い曲だと思うんですけどね…
ライブでは『ARCHE』の武道館以降、『MACABRE』ツアーや25周年ツアーでも披露されていますが、「振り」もあってノリやすい曲です。この曲あたりから、音楽性の変化の兆しが見られますね。
2 JEALOUS -reverse-
インディーズ曲「JEALOUS」のアンプラグド版。ピアノとボーカルのみで構成されていて、メロディが一部変更されています。メタル色強めの激しい原曲ですが、ほぼそのままピアノ版にしただけで非常に感動的なアレンジになっています。
原曲の時点からメロディは美しかったので、むしろこっちの方がしっくりくる、という人もいるかもしれません。 何と言っても京さんの感情のこもった歌声が切なさを醸し出しています。こういうむせび泣くような歌い方をしているのはこの曲が初めてで、表現の幅の広がりを感じます。
表題曲ですらベストアルバムに入っていないのに、この曲は『DECADE』に収録されています。その後2007年、2013年に原曲を差し置いてライブで披露されており、密かに今でも大事にされているのかもしれません。(というかメンバー的にはこっちのバージョンの方が気に入ってそうです。) 自分は『DECADE』で初めて聴いて、しばらく病みつきになっていたのを覚えています。隠れた名曲。
3 【KR】cube -K.K. Vomit Mix-
京さんによる表題曲のリミックス。京さんらしいテンポ早めのトランス系のリミックスで、所々で使用されている原曲のフレーズと、リズム感が非常に癖になります。後に制作される詩集に収録されている曲のような雰囲気がありますね。終盤はボーカルの逆再生のフレーズも混ざってくるようになり、カオスな感じで終わります。
太陽の碧(2000.7.26)
8thシングル。この曲からセルフプロデュースになります。c/w曲は完全新曲の「children」と、表題曲「太陽の碧」のリミックス版です。表題曲の「太陽の碧」は某情報番組の天気予報のコーナーで使用されたとか。
1 太陽の碧
いわゆる夏うたポップというのでしょうか。全体的に南国っぽさがあり、所々沖縄民謡っぽさも感じます。DIRの曲の中では「予感」と並んでポップな曲…というか京さんのボーカル以外、V系っぽさもほとんど感じられない、極めて異質な曲。でも結構好きです笑
全体的に爽やかではあるものの、歌詩が別れた元恋人への未練をリアルに描いているのもあり、どこか鬱々しさも感じます。字面だけ見れば最後で前向きになっていますが、実は自殺のことを表現しているという、後味の悪さが意地悪ですね笑 一説では京さんの実体験とか。
演奏面で特徴的なのは、意外とテクニカルで激しいドラムロールですかね。特に2017年の『MACABRE』ツアーの映像が分かりやすいですが、結構ドコドコ叩いてます笑 ベースラインも結構目立ってて、沖縄民謡っぽさはここから出てるかも。この曲で特に好きなのはギターソロ直後のBメロで急にボサノバ調になるところで、他の曲にはない季節感があってちょっとシュールなんですが、メロディが良いんですよね。
あとこの曲あたりから京さんの高音の出し方が変わってきてるような気がします。ミックスボイスって言うのか、最高音は「ゆらめき」と同じB4ですが、「ゆらめき」よりも厚みが出ているように思います。 2017年のライブで聴きましたが、まるで他のアーティストの曲を聴いてるような、不思議な気分でした。
2 children
とにかく展開が忙しい曲で、この頃の曲としてはやや実験的な感じもします。ボーカルが歌とシャウトを交互に行う背後でドラムパターンも速くなったり遅くなったりと、一曲の中で緩急を繰り返しているのが面白いです。
個人的に好きなところは、サビに入った瞬間にアコギの美麗なアルペジオとともに2ビートで疾走し、雰囲気がガラッと変わるところですね。あとはシャウトが曲にピッタリハマっていて癖になります。 『MACABRE』には収録されませんが、『MACABRE』のメロディアスな部分、激しい部分、複雑な部分、情緒的な部分などを一曲に凝縮したような曲のようにも思います。
歌詩はよく分かりませんが、なんとなく、大人のふりをして綺麗事まみれの世の中に順応することに耐えきれなくなり破壊衝動が生まれたときの心境を表現しているのかな…と思います。(後年の『VULGAR』などにも通ずるテーマですね。)「何も残らナイフと僕」とか「何も聞こえないものねだり」とか変な言葉の繋げ方してるのも面白いですね。
私は2002年のリメイク版から先に聴いていたので、逆にこっちのバージョンの方が新鮮な感じがしています。Aメロがちゃんと歌になってたり、シャウトが初期のシャウトの仕方だったり、初めて聴いたときは、むしろ『Six Ugly』の曲が『MACABRE』風になるとこうなるのかと、興味深い気持ちでした。
ただ、リメイクがあまりにも早かったので、原曲はライブ映像すら残っていない不遇っぷりです。また、アルバム未収録なので、『Six Ugly』版しか知らない人もいて、多分DIRの曲の中でも1,2を争うくらい存在感が薄い曲なのではないか…と思います。自分もちゃんと聴いたのは結構最近だった記憶があります笑
3 太陽の碧 Mix
Toshiyaさんによる表題曲のリミックス。波音とウクレレの南国感漂うアレンジの上で、「常夏のビーチに来た若い女性達が偶然メンバーに出くわして夜遊びに行く」という内容の小芝居が繰り広げられます。途中打ち込み音が入って激しくなりますが、この場面で女性の喘ぎ声や合いの手が入ってきたりと、今のDIRでは絶対やらなさそうなアレンジになっています笑 正直、原曲の儚いイメージが崩壊するような内容なので、思い切ったことしたなあという感想です。
MACABRE(2000.9.20)
2ndアルバム。『GAUZE』から1年2か月程度でリリースされたアルバムにも関わらず、1曲1曲が非常に濃くなっており、重厚なアルバムです。
0 アルバム総評
前作は比較的「王道」な90年代V系のアルバムでしたが、本作はあくまでV系の枠は出ないまでもマニアックなところを突いており、特にオリエンタルで宗教的な要素と、日本的情緒を感じさせる歌詩とメロディが混ざり合っている印象です。1曲1曲は全く異なったジャンルの曲で構成されているのに、なぜかアルバム全体では不思議な統一感があります。CDジャケットもオリエンタルな感じで、初回盤には数珠が入っていたりと、世界観の作り込みが徹底しています。
『GAUZE』はオリジナリティが不足している印象がありましたが、本作はDIRのオリジナリティが存分に発揮されており、後年の作品にも本作の影を感じる作品も少なくありません。(現時点の最新作である『PHALARIS』もどこか『MACABRE』みを感じます。)その意味では、「DIR EN GREYらしさ」の原点を感じられる作品とも言えるでしょう。90年代V系の濃厚な作品を聴きたい人に、ぜひおすすめしたい1作です。
1 Deity
前半部分は民族音楽のような呪術的なSE、後半部分はバンドサウンドで構成されています。『MACABRE』はアルバム全体として世界観が濃いですが、この曲からして既に重厚で、掴みとしては完璧な曲です。
前半のSE部分はおぞましい儀式でも繰り広げられているかのような雰囲気で、後半のバンドパートもそのおどろおどろしさを引き継いでいます。ギターの刻みとドラムのツーバスの重みが、ジワジワと迫ってくるような感じで、随所に配置されてる金属音のSEも何かが「迫って来る」ような予感を醸し出しています。
ボーカルは曲の終盤になってようやく出てきますが、ハンガリー舞曲第5番のメロディを基調に、語りやファルセット、シャウトなどが徐々に重なり、ボーカルもまるで楽器の一部のように使われています。歌詩もロシア語という徹底ぶり。でも京さんの声と歌い方が原因か、なぜか和風な感じもします。
私は2013年のGHOULツアーで初めて生で聴いたのですが、1曲目がこの曲だとめちゃくちゃ気持ちが高ぶりますね。迫力ある演奏で一気に引き込まれ、京さんの歌が入った瞬間、鳥肌が立ったのを覚えています。 古い曲ですが、今のDIRにも通ずるような、リスナーを引き込むパワーのある曲だと思います。
2 脈
6thシングル。収録時間の都合で、イントロのマーチとアウトロの電子音の部分が削られています。アウトロの方はともかく、イントロのマーチは個人的には気に入っていたので、残念です。2曲目にこの曲が位置付けられていることによって、初っ端から入り組んだ世界に閉じ込められたような感覚になるのが良いですね。ただ、この曲は『GAUZE』以前の空気をかなり引きずっているところもあるので、初っ端でいきなり入れるよりはもう少し後の曲順の方が、良いアクセントになったのではないかとも思ったりもします。むしろこの位置に「MACABRE」が入ってても面白かったかもしれません。
3 理由
Dieさん原曲のミドルナンバー。おそらく『MACABRE』のアルバム曲では一番人気の曲ではないでしょうか。歌詩は主人公が飛び降り自殺をしている時の心境を描いており、やや重いですが、曲はキャッチーでシングルカットされてもおかしくないような曲です。
特にイントロや間奏、サビの音数が多く、歪んだバンドサウンドの裏で鳴っている高音のギターのロングトーンとシンセが音に彩りを与えています。哀愁は感じるもののキャッチーなフレーズで構成されており、どこを切り取っても聴きやすいです。京さんのやや低音強調気味の歌も聴いていて心地良い。
歌詩は日付が書かれていたりとやけにリアルです。傷つき、傷つけたくないのに人を愛してしまう苦しみにもがく主人公の姿が描写されています。印象に残っているライブ映像はBLITZ5DAYSで、身体を掻きむしりながらすすり泣くような声で歌う京さんの姿はまさに狂気そのものです。
この曲は2018年にリメイクされましたが、それまでにも度々ライブで披露されており、メンバーからも大事にされていそうですね。キャッチーでありなが、どこか救いようのない暗さも感じるあたり、今のDIRにも通ずる部分があるような気がします。
4 egnirys cimredopyh
+) an injection
Toshiyaさん原曲のミクスチャーロック。一言で言うと、めっちゃ変な曲です笑 グルービーなリズムの上でベースがうねりまくり、ギターは全編に渡ってエフェクトがかけられており効果音的な役割を果たしています。
何と言っても面白いのは曲構成とボーカルのアレンジですね。前半は怪しいメロディラインに、時折遠吠えやセリフや笑い声が入っていたり、何気にサビではB4という高音域を出してたりします。後半はラップパートがあり、最後はポップで明るいメロディになったかと思いきや最後に沈んで終わるという構成。
個人的に最後のポップなパート(というかそれ以外のパートの随所も)は、PIERROTみを感じます。そういえばToshiyaさんはPIERROTのローディ経験がありましたね。 歌詩はヤク中のことが書かれています。エログロ満載で、規制対策のためか、いろいろ言葉遊びが盛り込まれています。サビなんて完全に当て字ですね笑
この曲、ライブで演奏された回数も少ないですし、地味なポジションですが、めちゃくちゃ好きな曲なので、もっと聴きたいですね。2017年の『MACABRE』ツアーでは京さんノリノリで踊っていて、結構楽しんでるように見えました。 sukekiyoの「the daemon's cutlery」がこの曲にちょっと似てるので、初めて聞いたときはどハマりしました笑
5 Hydra
インダストリアル系の曲。効果音的なギターの音をバックに一定のリズムで同じ歌詩をひたすら呟き続け、かと思いきや、サビで一気にシャウトが炸裂。後半ではオリエンタルな儀式のような讃美歌のパートが始まり、最後にまた爆発。この頃としては非常に前衛的な構成の曲です。
個人的にはイントロの打ち込み音とShinyaさんの機械的なドラム、京さんのキレッキレのシャウトが好みです。特にシャウトはこの頃のとしてはかなりのロングトーンで、迫力満点です。歌詩が5行しかないというのも特徴的。延々と繰り返される「I wanna be an anarchist, too」という詩は、シド・ヴィシャスへのリスペクトなのか、それとも皮肉なのか…よくわからないところも魅力的です。
2007年にリメイクされますが、完璧に別曲になっています。2017年の『MACABRE』ツアーでは原曲が聴けるのではと期待していましたが、演奏されたのはリメイク版でしたね。この曲に関しては原曲の方がいろいろと挑戦的で好きなので、また原曲で聴けるといいなと思っています。というかセトリの変遷を調べると『VULGAR』の時期あたりまではセトリの常連だったんですね。ある意味『MACABRE』らしさが色濃く出ている曲だと思います。
6 蛍火
Shinyaさん原曲のバラード曲。バイオリンがフィーチャーされていたり、要所に打ち込み音が入ったりと、バンドサウンド意外の音も効果的に使用されています。バンドの音は他曲よりもやや軽めに録られており、ギターもクリーントーンが多用されています。
歌詩が戦争による別れをテーマにしており、残された者の悲しみが美しくも感傷的に表現されています。音のイメージは洋というよりは和、というか中国っぽさもちょっとあります。途中に入るバイオリンソロが、優雅でありつつも、どこか孤独感や閉塞感に引き込んでくるような感じがしますね。
個人的にはDieさんのクリーンギターが良い仕事してるなと思っていて、曲全体にいい意味での古めかしさと浮遊感を与えています。 京さんもこの曲では歌に徹しているというか、丁寧に歌っているような印象的です。シャウトに走らず、取り乱したりもせず、でも感情がこもっているという、絶妙な歌い方です。
正直この曲、個人的にはそこまで印象に残っていなかったのですが、2017年の『MACABRE』ツアーで聴いたときは、京さんの声がめっちゃ太く響いていて、歌に圧倒された記憶があります。今のDIRだからこそ映える部分もありますが、音源のどこか古臭い音が良い味を出している部分もあるとも思います。
7 【KR】cube
7thシングル。「蛍火」でしんみりした空気を打ち破るかのようなダンサブルな曲調が、爽快感があっていいですね。シングル版とは異なり、冒頭のセリフがカットされ、アウトロが最後まで演奏されていますが、個人的にこの改変は良いと思います。シングルの方の感想でも述べましたが、この曲はもう少し先のアルバムに入っていても違和感がない曲なので、逆にこのアルバムにしか入れられなさそうな次の「Berry」とは対照的です。そんな2曲が並んでいるのも面白いです。
8 Berry
ポップで爽やかに駆け抜ける疾走曲。でも歌詩は幼児虐待とその逆襲という激重なテーマで、曲の明るさがむしろ不気味ですね。どことなく洋画的な雰囲気を感じます。子どものセリフに始まり、インドっぽいリフに始まりそこから一気に2ビートでツタツタと疾走。
DIRの速い曲って大概途中で遅くなったりすることがありますが、この曲は途中の寸劇のパート以外ずっと速いです。ギターもカチャカチャしていて、いかにもV系って感じではありつつもずっとメジャーコードなのが新鮮。ボーカルについてもメロの部分はシャウトも混ざってますが、サビはかなりキャッチー。
所々にリップロールが使われており、表現の幅がまた広がっています。 歌詩ではジャムがキーワードになってますが、おそらく血の比喩ですね。虐待された幼児が最後に親の頭を撃ち抜くという何とも救いのない内容です。寸劇のパートが入っていたり、歌詩の物語性が強調されているような感じもします。
2017年の『MACABRE』ツアーで聴きましたが、ノるというよりは普通に京さんの歌に聴き惚れていました。シャウトも昔っぽさを意識していたように思います。あと寸劇パートでどうしたら良いのかがよく分かりませんでした笑 2000年当時のライブ映像が残ってないのが残念です…今からでも出してほしい笑
上でも書きましたが、なんとなく、このアルバムにしか入れられなさそうな曲だなと思います。王道V系と底抜けの明るさの組み合わせができるのはこのアルバムだけのような気が笑
9 MACABRE -揚羽ノ羽ノ夢ハ蛹-
アルバム表題曲。当時としては最長となる約11分のプログレ曲です。まだ粗さはあるものの、当時のメンバーがかなり背伸びして作った力作といったところで、こだわりを感じられる作品です。不気味でありながらもどこか儚さを感じます。
蛹から出て今にも飛び立ちそうな蝶が無惨にも喰い殺されてしまう様子を、食べる側の視点から描いていますが、最後の最後で食べられる側の視点が出てきます。この虫たちは何かの比喩なんでしょうか?いずれにせよ、夢が叶うまさにその瞬間に全てが崩壊するという、リアリティのある絶望が描かれています。
曲の構成も何やら物語的で、途中にディストーションギターとクリーンギターの掛け合いがありますが、なんとなく、このあたりは捕食とそれに対する抵抗のシーンな気がします。そこからギターソロで一気に開けていきますが、食べた側が食べられた側が一体になって飛び回ってる姿を私は想像しました。
こんな感じで曲にもストーリー性を感じますが、冒頭のドラムソロや終盤のベースソロなど、各メンバーの見せ場が用意されています。京さんも、初めてファルセットで歌ったり、声を効果音のように入れていたり、いろんな試みをしています。個人的にはラスサビの京さんの歌い方がグッときますね。
この曲2013年にリメイクされましたが、正直、あのリメイクを聴いた後に原曲を聴くと、音や構成の粗さが目立ちます。でも原曲は原曲で、当時のメンバーの極限を感じられて聴きごたえがあります。 2017年の『MACABRE』ツアーでは原曲が演奏されましたが、今のDIRだとややパワーを持て余してる感じだったのでリメイクのほうが聴きたかったかも笑
あと地味に2007年の『MARROW』ツアー時ライブ映像の歌詩ほぼ全替えバージョンも好きで、原曲「MACABRE」のライブ映像では最も狂気を感じる演奏なので、個人的にはお気に入りです。
10 audrey
Dieさん原曲の歌謡ロック。軽快なリズムの上に乗る、哀愁漂うカッティングギターが特徴的な曲。黒夢の「MARIA」に似てるとたまに聞くけど、個人的にはそこまでそうは感じないですね。もうちょっと、良い意味で古臭い感じがします。
歌詩は、傷ついた心の闇を愛のないセックスで晴らそうとする男の歌みたいな感じなんですかね。気だるげなメロディも相まってどこかヤケになっているような主人公の姿が想像できます。「花になれ 蝶になれ」はBUCK-TICKのスピードから借りてきているのかそれとも…?京さんの声も幾分渋めに聞こえます。
演奏部分で耳を惹くのはやはりDieさんのギターですね。カッティングのリフが印象的で、1サビ後の間奏のピキピキ鳴らしているところも、プレイが細かくて好きです。あとは軽快なリズムに乗せてベースがグイグイ引っぱっているのも良いですね。気づきにくいですが、1サビ後の間奏ではスラップしてます。
この曲も当時のライブ映像があまり残っていないので残念。2017年の『MACABRE』ツアーでは、元々歌メロが強い曲ということもあり、歌声の太さと艶っぽさがかなり目立っていました。今の京さんだと、この曲くらいのやや低めの中音域のキーが一番色気を放っているように思います。sukekiyo効果もあるんかな笑
11 羅刹国
ヘドバン必至のデスメタル曲。『MACABRE』発売から現在にかけて、ずっとライブの定番となっている曲です。ギターが4種類のパワーコードのみで構成されており、とにかく勢いに特化しています。この曲を聴くと、とにかく頭を振りたくなります笑
今となっては2011年のリメイク版ばかり聴くようになり、こっちのバージョンはあまり聴かなくなりましたが、原曲ではしっかり歌ってるのが逆に新鮮な感じがします。何気に平均のキーが高くて結構歌うの難しいし、良いメロディなので、リメイクでこの辺りが全部グロウルに変わったのを残念に思ってる人もいそうですね。
やはり印象的なのはサビのシャウトで、「邪鬼」はつい叫びたくなります。(「乖離」が「気合だー!」にしか聴こえないのも面白いです笑)演奏面で言うと、とにかく速いリズムの上でギターのパワーコードが暴れていて、よく聴くとスライド音というか、弦が擦れる音も聴こえていてスピード感が際立っています。
この曲はリリース以降、いつの時代もライブのラスト曲として度々セットリストに上がってきましたが、時を追うごとにどんどんキーが下がっています。そのため、原曲キーのライブ映像はほとんど残っていません。ライブでこの曲が始まると、とにかく頭を振るのみですね。極端な話、もはやそれ以上の説明はいらないような気もします笑
12 ザクロ
約8分半の長尺バラード。アルバムにおいては「MACABRE」と並んで「双璧」として存在感を放っている曲ですが、個人的にはこっちの方がアルバムの核という印象です。音数は少なめで静かですが、歌とメロディが悲壮感全開で、じわじわと絶望に突き落としてくるような曲です。
歌詩は、愛する人と別れた主人公が、悲しみに暮れて夢にうなされ、手首を切り、最後には発狂するという救いのない内容です。死別…なのかどうか分かりませんが、相当苦しい別れだったのだと思います。京さんの歌も悲壮感が漂っていて、「意識が千切れて…」のあたりはグッとくるものがあります。
終盤のリフレインの部分では途中からシャウトも混ざってきて、少しずつ壊れていく姿が想像できます。最後の「私は壊れる」はまるで死にかけのようなか細い裏声で歌われていますが、死の演出かもしれませんね。
「MACABRE」は演奏で魅せる曲でしたが、この曲は歌をフィーチャーしているように思います。
演奏面では、全体的に音数が少ないので、1音1音の音がハッキリ聴き取れます。個人的にはギターソロがめちゃくちゃ好きで、日本的なメロディが美しくも苦しみを際立たせているように思います。後は随所に入ってくるアコギの音が地味に良い味出しています。ドラムのタム回しの響きも臨場感がありますね。
個人的にはこの曲、初期のDIRの真髄的なものを感じていて、かなり好きな曲です。初期のDIRって別れの悲しみを歌った曲が多いと思いますが、それを象徴する曲と言えるのではないでしょうか。 2017年の『MACABRE』ツアーで聴きましたが、終盤の発狂パートのメロディが少しずつ変わっていってました。
それはそれで良かったんですが、やや綺麗に纏まりすぎてしまってる印象もあって、個人的にはBLITZ5DAYSの映像の方が、本当に壊れていってる感じがして好きです。若い時の、やや大げさなくらいの表現がちょうど良いのかもしれませんね。この曲はやはり、セトリの本編ラストが一番しっくりきます。ミラーボールが似合う曲です。
13 太陽の碧
8thシングル。「Deity」から始まる重厚な世界観、そしてドロドロとした絶望に覆いつくされるような「ザクロ」を経てのこの曲です。まあこの曲も、歌詩自体はバッドエンドなので決して前向きではないのですが、何にしても曲の爽やかさには救われるものがあります。最後にこの曲があることで『MACABRE』が単に重苦しいだけのアルバムにはなっていないような効果があると思います。シングル版との違いはアウトロの長さらしいですが、個人的にはあまり大きな違いは感じないです。
1曲1曲、非常に感想の書きごたえがある作品でした。上でも書いたように、わずか1年ちょっとで『GAUZE』からよくここまで変わったなと思います。しかし、『MACABRE』の世界はまだ終わりません。
ain't afraid to die (2001.4.18)
9thシングル。『MACABRE』の世界観を締めくくる曲としてリリースされたシングルです。そのため、ベストアルバム以外のアルバムには収録されていません。c/w曲として、表題曲「ain't afraid to die」のリミックス版が2種類収録されています。
1 ain't afraid to die
美麗な冬のバラード曲。個人的には、悲しい曲ではありつつも、壮大で優しい音に包まれるような感覚になり、どこか救いを感じる名バラードだと思います。
この曲も死に別れた2人の両者の視点が描かれていますが、残された側の視点がメインのように思います。音からも詩からも冬の情景が思い浮かびますが、2人で見た雪景色に浸っていても、季節が過ぎれば消えていくという、虚しくも流れていく時間の残酷さを表現しているように感じました。
この曲、好きなところがたくさんありますが、まず歌メロのどこをとっても隙がないです。サビらしいサビがないのですが、全てがサビとも思えるくらい、しっとりと聴かせてきます。特に終盤の「明かりは 静かに」からの歌の畳み掛けは感涙もので、子どもたちのコーラスとの相性も抜群です。
また、曲の構成も完璧で、特にギターソロは、フレーズの良さもさることながら、一瞬の無音を挟んでソロを入れるタイミングが本当に絶妙だと思います。また、終盤の子どものコーラスとともに盛り上がっていく部分も、全くDIRらしくないのですが、何故か絶妙にマッチしていてめちゃくちゃ好きです。
この曲は2022年にリメイクされますが、その前にも節目ごとにライブで演奏されている印象があり、切り札的な扱いを受けているように思います。2017年の『MACABRE』ツアーで聴いたときは、照明と映像で雪の演出がなされていて綺麗でした。京さんの透明感溢れる歌声が力強く響いていて、その日のセトリでは一番印象に残っています。
ちなみに私はリメイクよりも原曲の方が、歌と音が生々しくて臨場感があるので好きです。個人的には、この曲までが「初期DIR」という括りになっていて、以降から楽曲のアプローチがガラッと変わっていくように思います。その意味では「90年代V系バンド」のDIR EN GREYとしても、締めくくりとなる曲だと思います。
2 ain't afraid to die 〜with frosted ambience〜
Dieさんによる表題曲のリミックス。原曲の終盤の壮大なパートから始まり、そこからはボサノバ風のアレンジに切り替わります。ジャンベやアコギを活かしたオシャレな雰囲気になっており、悲壮感漂う原曲と比べると、安らぎを感じますね。途中で子どもコーラスがフィーチャーされたパートに入り、そこで終わりかと思いきやまた始まり、ボサノバに加えてストリングスも入ってくるという、面白いアレンジになっています。ハモリなしの京さんの声がじっくり聴けるのが良いですね。
3 ain't afraid to die Irrésistible MIX
Shinyaさんによる表題曲のリミックス。前半はグロッケンのような音がフィーチャーされた、少しクリスマス感のあるメルヘンチックなアレンジになっています。後半はピアノとボーカルで、ややしんみり感のあるアレンジになり、原曲の寂しさを引き継いでいます。かと思いきや、終盤でシンフォニック風になり、壮大で美しいアレンジになります。女性のコーラスを入れていたり、綺麗でドラマチックに仕上げているあたりがShinyaさんらしいなと思います。
改 -KAI- (2001.8.22)
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最後に
京さんの突発性難聴という転機を迎え、以降、バンドは急激に変化していきます。ここからしばらくは試行錯誤の時期に入っていきますが、いずれにしても、この時期に培ったものは近年のDIR EN GREYにおいて再び活きてくるため、『MACABRE』及び『ain't afraid to die』は、DIRにとっての一つの到達点と言えるのではないでしょうか。