【DIR EN GREY 楽曲感想】『VESTIGE OF SCRATCHES』
今回はベストアルバム『VESTIGE OF SCRATCHES』と、その周辺の時期にリリースされた楽曲について、感想を書いていきたいと思います。
『VESTIGE OF SCRATCHES』期の活動状況
2016年
色彩豊かな楽曲と、透明感溢れるサウンドプロダクションで、バンドのキャリアを詰め込んだアルバム『ARCHE』。その一連のツアーは2016年2月5,6日の日本武道館公演「ARCHE」にて、一旦の終わりを迎えました。
しかし、『ARCHE』の世界はここで終わりませんでした。6月より約1年半かけて行われる「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________」という名のツアーでは、過去のアルバム1枚1枚と『ARCHE』の楽曲を混ぜ合わせてセットリストが構成されるという、結成20周年ならでは取り組みが行われました。
まず、6~7月にかけて開催されたのが、「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of VULGAR]」。2003年にリリースされた4thアルバム『VULGAR』は、DIRが独自の音楽性を確立させた作品であり、日本的情緒のあるメロディや歌詩と、ニューメタル的なヘヴィサウンドの融合は、当時のV系界に衝撃を与えました。このツアーにおいては、曲の軽快さに釣られてか、2016年当時のDIRとしては、若々しく、スピード感のあるライブが繰り広げられていました。また、当時リリース前だった「詩踏み」もこのツアーで披露されました。
ツアーを終えて7月27日、満を持して28thシングル『詩踏み』がリリースされます。『ARCHE』ではやや引っ込んでいた勢いと攻撃性にあふれた楽曲で、以降のライブの定番曲となり、「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________」でも全ての公演で演奏されることとなります。
9月から10月頭にかけては、台湾公演を皮切りに、「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO]」が開催されました。2011年にリリースされた8thアルバム『DUM SPIRO SPERO』は、歴代アルバムで最も複雑で難解なアルバムですが、一度ハマると、どこまでも引きずり込まれるような底知れなさがあります。今回ツアーでは、その当時にはなかった軽やかさを纏って、深遠な世界観が表現されていました。『DUM SPIRO SPERO』収録曲の他に、「蜜と唾(2011 Ver.)」と2ndミニアルバム『THE UNRAVELING』収録曲「Unraveling」も演奏されました。2013年にリリースされた『THE UNRAVELING』は、原曲のメロディを残しつつ、緻密に作り込まれたリメイク曲集で、このツアーでは「Unraveling」のみしか演奏されていませんが、その絶妙な軽やかさが、セトリに良い風を持ち込んでいたように思います。また、このツアーでは、後に『The Insulated World』に収録される「軽蔑と始まり」が披露されました。
10月末から12月頭にかけては、香港公演を皮切りに、「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of 鬼葬]」が開催されました。2002年にリリースされた3rdアルバム『鬼葬』は、方向性を模索していた頃の作品で、インダストリアル的な要素と和風ホラーの組み合わせはこの作品ならではだと思います。私はこのツアーには行けませんでしたが、映像を見る限り、長年の貫禄が作品のB級感を良い意味で打ち消していたのではないかと思います。このツアーでは、他に1stミニアルバム『six Ugly』の楽曲も演奏されています。同じく2002年にリリースされた同作は、激しさに特化したミニアルバムですが、難しいことを考えずに暴れられる作品です。このツアーにおいては、当時のような勢いだけじゃない、重みのある演奏だったことは想像に難くないです。また、このツアーでは、後に『The Insulated World』に収録される「Ranunculus」が披露されました。久しぶりに男性限定・女性限定のライブも開催されたようです。
12月25日には、京都・京都パルスプラザで開催されたROTTENGRAFFTY主催イベント『ポルノ超特急2016』に2年ぶりに出演し、2016年の活動を終えます。過去アルバムのツアー真っ只中ですが、このライブでは『ARCHE』収録曲を中心として、セットリストが組まれました。
2017年
早速1月から、「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of UROBOROS]」が開催されています。2008年にリリースされた7thアルバム『UROBOROS』は、オリエンタルな陰鬱感のあるサウンドと複雑な曲展開、キャッチーなメロディが絶妙に絡み合った名盤で、国内外からの評価が非常に高い作品でした。このツアーにおいては、複雑なのにノれて聴けるというアルバム本来の魅力に加え、『ARCHE』以降に醸成された、憑き物が取れたかのような余裕を感じました。
4月中は「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO [mode of THE MARROW OF A BONE]」が開催されました。2007年にリリースされた6thアルバム『THE MARROW OF A BONE』は、歴代アルバムの中でも最も感情表現が際立った作品だと思います。一見、洋楽にかぶれたようにも見えるため、賛否両論な印象ですが、このツアーはかなり盛り上がり、メンバー自身も手ごたえを感じたようで、作品自体も再評価されました。ちょうど20年前の4月は、結成して間もない時期でありさまざまなイベントに参加していたということもあり、このツアーにおいてもインディーズ時代の曲である「蒼い月」「秒「」深」「業」が、いずれも原曲で演奏されました。1997年に始まるインディーズ時代の曲は、音楽的には90年代V系の枠に収まっている印象はあるものの、過激さを追求する姿勢は健在でしたね。このツアーにおいては当時よりも色気と迫力が増し、楽曲の魅力が更新された印象でした。
ツアー中、結成20周年を迎えた氣志團が盟友VAMPS、10-FEETとともに千葉・幕張メッセで開催したフェスの交流戦『THE GREAT ROCK’N’ROLL SEKIGAHARA 2017』に出演。DIRは「氣志團万博 vs VAMPARK FEST」と題した4月15日の公演に参加し、「VAMPARK FEST軍」として、SADS、VAMPSと同じチームでパフォーマンスを行いました。
7月に入ると、『ANDROGYNOS』と題したPIERROTとのスペシャルライブを7日・8日の2日間にわたり横浜アリーナで実施。DIRは7日公演「a view of the Megiddo」で先攻、8日公演「a view of the Acro」で後攻を務めました。活動初期、PIERROTとはライバル関係のように周囲からは扱われていましたが、長い時を経ての両バンドの共演に、本公演は大きな注目を浴びました。なお、セットリストは『ARCHE』曲を中心にオールタイムの曲で構成されており、特に2日目の「アクロの丘」~「VINUSHKA」など、普段のライブでは観られないような組み合わせが話題を呼びました。珍しく京さんが長めに喋っていたようで、それについても各所で盛り上がりを見せていましたね。
続いて7月半ばから8月頭にかけては、「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of MACABRE]」が開催されました。2000年にリリースされた2ndアルバム『MACABRE』は、初期特有の繊細なサウンドと作り込まれた世界観が特徴的な作品でした。当時としては少し背伸びしている印象もありますが、このツアーでは、成熟したメンバーが持て余すほどの表現力で、楽曲の世界観を再現していました。
長きに渡る過去アルバムツアーも、9月から10月にかけて開催された「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of Withering to death.]」で幕を閉じました。2005年にリリースされた5thアルバム『Withering to death.』は、聴きやすいメロディと激しいサウンドが、バンドのコンセプトである「痛み」をダイレクトに伝えてくる作品で、ファンからの人気が非常に高い作品です。このツアーでは、まるで当時のような、京さんの痛みに荒れ狂ったパフォーマンスが見られ、一部の公演では久々に自傷を行っていたようですね。
ツアーの途中である9月13日には、再結成10周年を迎えたD’ERLANGERが初となるトリビュートアルバム『D’ERLANGER TRIBUTE ALBUM ~Stairway to Heaven~』がリリースされ、DIRは当作品に「EASY MAKE,EASY MARK」のカバーを提供しました。大きなリスペクトを感じるアレンジとして、高い評価を得ています。
2018年
1月2日、ベストアルバム『VESTIGE OF SCRATCHES』をリリース。結成20周年の締めくくりとして、DIR EN GREYというバンドが辿ってきた軌跡を十全に感じられる作品となっております。
以上のように、2016年~2017年にかけては、過去を振り返る流れとなっていましたが、その過程でリリースされた作品もあります。以下では、その作品群への感想を書いていきます。
詩踏み(2016.7.27)
28thシングル。c/w曲はLUNA SEAのSUGIZOさんとのコラボ曲「空谷の跫音 feat. SUGIZO」と『ARCHE』収録曲「Revelation of mankind」のリミックス版です。表題曲は、『TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of VULGAR]』にて先行披露されました。ミックスは『ARCHE』と同様、Tue Madsenが担当しています。売上自体は前作から落ちていないものの、オリコン週間チャートは最高12位という結果となり、シングル『JEALOUS』以来にTOP10を逃すこととなりました。
1 詩踏み
低音サウンドがうねりつつもパンキッシュに疾走するファストナンバー。分類にとらわれない多彩なシャウトと、『VULGAR』期を彷彿させるような美しいサビのメロディに魅了されつつ、とにかく速さと勢いでゴリゴリ攻めてくるサウンドがツボですね。
ほとんどのパートが速いんですが、序盤でいきなりブレイクが入ったり、ラスサビ前で歌とギターのみのパートになったりと、変則的な要素もあります。メタル的な速さというよりは、パンク的なスピード感がありますね。終盤の「さあ」からの疾走は、全てを吐き出すような解放感があって気持ち良いです。
ドラムは一見シンプルな2ビートを叩いているように聴こえますが、よく聴くと細かいタム回しが入っていたり、意外と複雑なプレイをしています。終盤の裏拍で暴れ倒している部分がテンション上がりますね。ベースは速いので聴き取りにくいですが、サビは結構メロディアスなフレーズでうねっています。
ギターは基本的に低音のユニゾンですが、序盤では薫さんがワウを駆使したフレーズを弾き、ブレイクではしっかり焦らしてきます。途中のギターと歌のみのパートでは、反響音的な音作りが奥行きを感じさせますね。ラストの疾走部分ではスライドを多用しており、曲のスピード感がえげつないです。
ボーカルは、サビはクリーン、それ以外はシャウトですが、「グロウル」とか「ホイッスル」とか声の分類が明確だった以前とは異なり、本作からはその境界が曖昧になっていて、がなりとグロウルの間を行ったり来たりしています。クリーンも歌い方が荒めで、全体的に野性味があるボーカルワークですね。
タイトルは「絵踏み」から取っており、一時は愛されてもすぐ裏切られるという、自虐的な意味があります。歌詩自体は「自己否定」や「世界からの隔絶」をテーマにしており、既に次作の片鱗を感じますね。でもなぜか、そこまでネガティブさを感じないんですよね。むしろ開き直りすら感じるというか…
ここ数年、ライブの定番曲なので、私も幾度となく聴いていますが、この曲で暴れると、毎回スカッとしますね。速いだけでなく、コーラスも多いので、没入感もあります。最初のブレイクからしてライブ向けに作られた曲って感じがしますよね。いつも最後の疾走で首がもげるくらい頭振ってます笑
2 空谷の跫音 feat. SUGIZO
『ARCHE』収録の「空谷の跫音」に、LUNA SEAのSUGIZOさんによるヴァイオリンの演奏を加えたスタジオ音源になります。2015年のLUNATIC FEST.にて、生演奏でコラボしたことをきっかけに、音源化に至りました。
基本的には、原曲にSUGIZOさんのヴァイオリンの音が足されたような形となっています。ヴァイオリンについては、サビ以外は効果音的なフレーズが多く、アンビエントな雰囲気や音の立体感をより際立たせております。一方サビでは、メロディアスなフレーズを奏でており、歌メロと絡み合いながら優美な雰囲気を演出しています。
また、原曲ではシンセのようなエフェクトがかけられたギターソロの部分が、本作では歪んだ音になりました。原曲からしてライブではこの音でギターソロを弾いていたので、むしろしっくりきますね。ヴァイオリンにしてもギターにしても、曲の余白を損なわない程度に主張してるのが良いです。
当時会場に私はいませんでしたが、メンバー以外の人物がDIRのライブで演奏していること自体がレアですし、ましてあのSUGIZOさんなので、その場にいた人にとっては衝撃的だったのではないかと思います。でも驚くほど自然に溶け込んでいるのは、SUGIZOさんのDIRへの理解が深い証左なのではないかと思います。
3 Revelation of mankind (Remixed by Yusuke Suga)
カオスな構築感のあるメタル曲だった原曲とは異なり、軽快なEDM風のアレンジとなっています。変則的なリズムに、クリーンボイスが切り貼りされており、どちらかといえばBGMのような雰囲気があります。ギターの入れ方が面白いですね。
ミックスを担当したのは、元12012のギタリストである須賀勇介さんです。所属バンドのRHEDORICではエレクトロな楽曲を演奏しているということもあり、納得のアレンジですね。
D'ERLANGER TRIBUTE ALBUM 〜Stairway to Heaven〜 (2017.9.13)
V系の始祖となるバンドの1つに数えられるD'ERLANGERのトリビュートアルバム。D’ERLANGERは1990年に一度解散していますが、2007 年に活動を再開し、2017年に再結成10 周年を迎えました。本作は、そのアニバーサリーイヤーの中でリリースされたトリビュートアルバムで、HYDEさんや清春さん、yukihiroさん、LUNA SEAのINORANさん、GLAYのTERUさん・HISASHIさんといったビッグネームの他、JUSTY-NASTYやTUSK率いるTHE SLUT BANKSといったD’ERLANGERと縁のあるバンドに加え、Psycho le Cému、MUCC、MERRY、Angelo、lynch.、DEZERTといった、まるでV系史をなぞるかのようなラインナップとなっており、D'ERLANGERの存在がいかにV系と呼ばれるジャンルの中で重要な存在かが分かります。そんな中で、DIR EN GREYは初期の未発表曲だった「EASY MAKE, EASY MARK」をカバーし、本作のトリを飾っています。
15 EASY MAKE, EASY MARK
原曲は解散前には音源化されていなかったにもかかわらず、ライブ映像を頼りにDIRのメンバーもカバーしていた曲であり、選曲からして重度のD'ERLANGERファンぶりを感じますね笑
原曲はスピード感のあるハードコア曲で、本作はそのイメージを損なわないままに、DIRらしいアレンジが加えられています。原曲以上に攻撃的ですが、原曲にはない展開の起伏もあり、DIR特有の構成美を感じますね。次作の『The Insulated World』に入っていてもおかしくないような音像です。
基本的には原曲の構成に忠実ですが、イントロと曲中で、ライブの入場SEである「UNDER THE PRETENSE」のフレーズが使用されています。また、アウトロで一瞬だけ「SADISTIC EMOTION」のイントロが始まります。これはかつてのD'ERLANGERの解散ライブの流れをオマージュしているらしく、リスペクトを感じるアレンジですね。
ドラムはサビとギターソロの部分に関しては、DIRらしい捲り上げるようなタム回しを披露していますが、それ以外は原曲を意識したフレーズになっています。解散ライブを意識しているためか、テンポがめちゃくちゃ速いです笑 ベースは密かにスラップを混ぜ込みながら、うねるようなフレーズを多用しています。
ギターは原曲のリフが主体ですが、ツインギターな分、音圧が増しています。原曲にはないギターソロが追加されており、ここにオリジナリティを感じますね。ギターソロが「UNDER THE PRETENSE」と混ざり合ってるのも面白いです。ラスサビでは音を重ねまくっていてカオスですが、勢いでゴリ押してます笑
京さんはまくし立てるように叫んでいます。近年よく出している地声を高めにがならせたようなシャウトが多用されており、少しD’ERLANGERのkyoさん味を感じるような叫び方をしています。ラスサビにファルセットを選んでいるのが狂気的。ちなみに、自分の曲ではそんなことないのに、レコーディングで声が枯れたそうです。リスペクトの表れですね笑
歌詞は当然、原曲の通りですが、オナニーをテーマにしているようですね。でもこの歌詞、言葉選びはともかく、京さんの詩世界と通ずるものはあるように思います。のうのうと快楽に溺れて生きていられるような人たちを突き放している感じとか…京さんならここに自虐も加えそうですが笑
このバージョンがライブで披露されたことはありませんが、かつてのファンクラブライブで、京さんとDieさんのバンドがカバーしていたそうです。京さんはkyoさんから、DieさんはCIPHERさんから強い影響を受けており、D'ERLANGERというバンドがいかにDIRにとって重要な存在かが分かります。
VESTIGE OF SCRATCHES(2018.1.2)
結成20周年を記念してはリリースされたベストアルバム。事前に公式サイトで行われたファン投票を参考に、各アルバムから楽曲がセレクトされた3枚組44曲収録の作品です。
0 アルバム総評
2007年にリリースされたベストアルバム『DECADE』は、完全に事務所の意向によるリリースでしたが、本作はメンバーも監修に携わっており、その意味では、初めてメンバーの意思が反映された上でリリースされたベストアルバムとなります。
全44曲というボリューム満点の本作ですが、各アルバムから満遍なく選曲されており、これを聴けば一通りDIRが辿ってきた歴史を追うことができます。ファン投票の結果が参考にされているため、各アルバムで人気の曲や、ポイントとなるような曲が凝縮されており、その意味では、DIR EN GREYがどんなバンドなのかを手っ取り早く知りたいのであれば、この作品を最初に聴けば間違いないと思います。
全曲リマスターされたことにより、音圧が向上し、原曲と比べると音の細部が若干聴き取りやすくなったと思います。「-I'll-」と『VULGAR』『Withering to death.』収録曲に至ってはミックスもし直され、原曲よりも分離が良くなり、音の響き方も大きく変わっています。ミックスし直された楽曲に関しては、音が厚くなり、奥行きのある音像になっておりますが、原曲とどちらが好きかは好みの問題だと思います。私個人としては総じて原曲の音の方がその時代を感じられて好きなのですが、どうせリミックスまでするなら全曲やってくれたほうがアルバムとしての付加価値を感じられていたかもしれないとも思います。
「腐海」「THE ⅢD EMPIRE」「Beautiful Dirt」の3曲については、新録のリメイクとなります。いずれも原曲を大きくは崩さず、今の音でアップデートされたような感じですが、こちらは非常に迫力のある音で聴くことができ、今のDIRを存分に感じられます。今までの作品を全て追っている人にとっても、この3曲を聴けるだけでも十分な価値のある作品だと思いますね。(欲を言えば、他にもどんどんリメイクして欲しかった、というのが本音ですが…)
以下では、既発曲の雑感と、新録曲の感想を書いていきます。
Disc 1
インディーズ時代〜3rdアルバム『鬼葬』の一部と、「腐海」のリメイクが収録されています。シングル曲が大半を占めており、90年代V系の売れっ子バンドとして名を馳せていた頃のキャッチーな楽曲たちを存分に聴くことができます。激しい曲もありますが、この頃はメロディアスな曲に人気が集中していますね。これ一枚で、初期DIRのヒット曲を網羅できます。Disc 1らしく、ラストの「腐海」もメロディアスです。
1 -I'll-
インディーズ2ndシングル。今なお最も人気のある8ビートの王道V系ソング。当時基準で考えても、DIRらしさを全く感じませんが、非常に聴きやすい曲で、サウンドもメロディも耳に残る良曲だと思います。トラウマと失恋を描いた寂しげな歌詩は、いかにも当時の京さんって感じがしますね… ちなみに、ファン投票で1位だったそうです。
2 アクロの丘
1stシングル。シングル的なポップ感を保ったまま長尺になっているのがミソですね。各メンバーに見せ場がある曲構成はもちろん、温かくも悲哀を感じるサウンドや、簡単な言葉で死別の物語を美しく表現した歌詩も魅力的。『GAUZE』の真骨頂はこの曲にあると思います。
3 ゆらめき
3rdシングル。今聴くと、若さ故の青臭さを感じますね。LUNA SEAリスペクトのサウンドが、いかにも当時という感じですが、やはりクリーンギターとややクドい情熱的なサビのメロディがノスタルジックですね。感情が漏れ出すような激しいアウトロが好みです。
4 Cage
4thシングル。京さんの低めの声が存分に活かされた90年代V系臭全開のメロディが良いですね。トラウマに苦悩しつつも内面化してしまっている歌詩は現在の京さんの詩も通ずるものがあります。ベースソロはもちろん、少し変則的なドラミングや、キレのあるギターなど、聴きどころ満載です。
5 予感
5thシングル。ポップだけど大好きな曲です。明るめのメロディと躍動感のあるリズムが全くDIRらしくありませんが、歌も演奏も耳に残りやすく、非常に高いポップセンスを感じます。歌詩を女性側に着目して読んでみると、案外今にも通ずるような内容なのが面白いですね。
6 脈
6thシングル。本作ではシングル版が収録されています。シャウトまみれの激しい曲なのにサビはメロディアス、というDIRお馴染みの構成の第一弾となった曲。変拍子の複雑なリズムと、あちこちから聴こえてくるキレのあるシャウトが癖になります。カニバリズムを描いた歌詩は恐ろしくもどこか官能的です。
7 理由
2ndアルバム『MACABRE』収録曲。シングル顔負けのメロディアスなミドル曲。失恋からの飛び降り自殺をテーマにした歌詩ですが、具体的な日付が書かれているのがリアルです。演奏は意外と激しく、死に近づく焦燥感を掻き立てますね。何より初期の京さんのシブい歌声がこの上なくハマっています。
8 太陽の碧
8thシングル。本作ではシングル版が収録されています。DIRどころかV系らしくもないポップな夏うた。南国感溢れる爽やかな演奏ですが、失恋を描いた歌詩と粘り気のある歌声が絶妙な憂鬱感を醸し出しています。意外と激しいドラムロールや、沖縄感のあるベースラインなど、サウンド面でも聴きどころ満載です。
9 ain't afraid to die
9thシングル。メロディもサウンドも美しい壮大な冬のバラードで初期DIR屈指の名曲。死に別れた2人の感情を、季節の移ろいとともに表現した歌詩も秀逸。絶妙なタイミングで入ってくるギターソロと、子どものコーラスとともに盛り上がる終盤の展開は必聴です。
10 FILTH
10thシングル。サビだけはめちゃくちゃキャッチーな曲。歌詩がエログロ全開で、とてもシングルとは思えません笑 いろんな加工がなされたバンドサウンドと、この頃なりの多彩なボーカルワークは聴き応えがあります。汚いのにどこか綺麗な感じもするのがDIRだなって思います。
11 蟲 -mushi-
3rdアルバム『鬼葬』収録曲。「痛み」がダイレクトに伝わってくるアコースティックバラード。京さんの悲痛な歌声と自虐的な歌詩が精神を抉ってくる反面、アコギを中心としたサウンドは、悲しくもどこか優しい感じもします。個人的にはサビのメロディがめちゃくちゃお気に入りです。
12 腐海
15thシングル『かすみ』収録曲のリメイク。原曲を大きく崩してはいませんが、音圧が格段に上がっており、歌メロと歌詩が全く別のものに変わっています。この歌メロは、2004年当時の『VULGAR』のツアーで歌われていたメロディをベースにしており、満を持しての音源化となりました。
曲の構成は原曲のままですが、細かい部分でアレンジが変わっています。また、原曲の鋭利なサウンドと比較して、全体的に厚みのある音になり、重厚感が増しました。さらに、音がクリアになったのと、電子音の使用箇所が増えたことにより、原曲にあったドロドロ感は減退し、どこかスッキリしたように思います。
ドラムについては、原曲と比べて音がクリアになった他、イントロなどで原曲にはなかったフレーズが入り、より起伏のあるアレンジになりました。ベースについては、原曲に忠実で4弦ベースを使用しておりますが、少し音が聴き取りやすくなっていますね。原曲同様、2回目のBメロのフレーズが好みです。
ギターも原曲に忠実で、イントロのリフが主体で曲が進んでいますが、7弦ギターに変わったためか、音が分厚くなりました。ただ、Dieさんに関しては、6弦でも弾けるフレージングになっています。「死の海を探す」の後の間奏のクリーンギターが、セリフがなくなった分、絶妙な「間」を生み出していますね。
ボーカルは歌詩もメロディも総入替えになり、原曲よりも高く、伸びやかになりました。心なしか「がなり」を混ぜたような歌い方になり、以前の荒さを戻しつつも、クリアな歌声で綺麗に仕上げています。Bメロと、1サビ後の「心から祈ってる〜」のシャウトの部分が個人的にお気に入りです。
歌詩は、原曲は別れに苦しむ女性の心情を表現していましたが、本作は近年の京さんがテーマにしている「本当の愛」について書かれているように思います。どれだけ「愛している」と言われてもその真意は分からないし、疑い続けることは苦しいが、でも期待も捨てきれていない、みたいな苦悩というか。
この曲はリメイク以降、定期的にツアーのセトリに入るようになり、一気に出世しました。2024年の「MY BLOODY VAMPIRE」でも演奏されています。イントロが変わったことによりノリやすくなったように思いますね。サビの「愛しています」が、ライブだとCDよりもかなり太い声になっているのがポイントです。
本作以降、DIRのリメイク曲は以前のような原曲を崩すスタイルではなく、あくまで原曲を今の音でアップデートしたようなスタイルになります。この曲に関して言えば、音も声もメロディも、原曲よりも格段に良くなったように思いますが、原曲のあのドロドロ感も悪くはないな…といった感覚です。
Disc 2
3rdアルバム『鬼葬』の一部〜7thアルバム『UROBOROS』収録曲と、「THE ⅢD EMPIRE」のリメイクが収録されています。脱V系化・メタル化を志向し始めてから国内外において確固たる地位を身につけるまでの楽曲が並べられており、変化と成長のスピード感が凄まじい時期ですね。Disc 1と比べると短い尺で攻める曲が多いですが、終盤で濃厚な世界観を見せつけてきます。爽やかな「JESSICA」で始まって、世界観の濃い「VINUSHKA」で終わるという構成も面白いですね。とても同じバンドとは思えないです笑 本当のラストの「THE ⅢD EMPIRE」が全てを掻っ攫っていくのも良い構成です。
1 JESSICA
11thシングル。底抜けに明るい演奏と、女々しくもどこか共感を誘うような歌詩が魅力的。DIRらしい陰鬱さはほとんど感じませんが、聴いていて気持ち良い曲ですね。意外と変な曲構成だったり、ラップやシャウトを混ぜ込んでくるあたりはやっぱりDIRだなと思います。
2 umbrella
1stミニアルバム『six Ugly』収録曲。ポップでノリの良いミクスチャーロック。サビの合唱が非常に楽しい曲で、ある意味、若い頃だからこそ作れた曲なんじゃないかと思います。メロディだけでなく、ヘヴィなギターのリフも耳に残りやすくて良いです。軽やかでヘヴィという不思議な曲ですね笑
3 audience KILLER LOOP
4thアルバム『VULGAR』収録曲。本作ではリード曲的な扱いで、リリース時にめちゃくちゃ推されていた曲です。思わずゾクッとするようなイントロと、悲壮感漂うメロディ、京さんが考える人間の痛みを総括するような歌詩が精神を抉ってきます。個人的にライブの1曲目で聴くとテンションが上がる曲です。
4 CHILD PREY
13thシングル。本作では4thアルバム『VULGAR』のバージョンが収録されています。ノリと勢い全開の曲で、コーラスがたくさん入っていて、ライブで聴くとめちゃくちゃ楽しいです。ギターのリフとドラムの音が迫力あって良いですね。暗めの曲が多いからか、DIRのこういう曲を聴くと、妙な解放感があってなんか泣けてくるんですよね笑
5 DRAIN AWAY
14thシングル。本作では4thアルバム『VULGAR』のバージョンが収録されています。『VULGAR』にしかない空気感の曲で、激しくて頭が振れるのに、メロディや歌詩の切なさにもじっくり浸れて二度美味しいです。曲の展開が個人的にかなり気に入っていて、「The show booth」からラスサビに至るまでの流れが好きです。
6 dead tree
5thアルバム『Withering to death.』収録曲。アルバムの核ですが、聴いていてまるで希望を感じられないような鬱々しい曲です。爆発寸前の囁き声から、狂い果てたかのようなシャウトまで、振れ幅の大きいボーカリゼーションは必聴です。歌詩とサウンドのスケール感が壮大かつ荘厳で、大きな会場でこそ映える曲だと思います。
7 朔 -saku-
17thシングル。短い尺の中にDIRらしさが詰め込まれた曲。シャウトとメロディの対比はもはや語るまでもないですが、ラスサビのファルセットは本当に綺麗ですね。残酷な景色と終わらない毎日という、京さんらしい詩世界が、鋭利なサウンドと共に切り込んできます。
8 C
5thアルバム『Withering to death.』収録曲。歌詩がストレートで良いですね。絶望の中でも泥臭く叫び生きるという覚悟がアツいです。キャッチーなメロディと疾走感溢れるサウンドはDIR初心者にもオススメできます。激しいリフも良いですが、Bメロで入ってくる繊細なクリーンギターが良い仕事をしています。
9 鼓動
5thアルバム『Withering to death.』収録曲。バンドサウンドと打込みの融合がクールな一曲。ポジティブともネガティブとも取れるような絶妙なバランス感覚のある曲で、そこはかとない虚無感が癖になります。間奏のワウの音がめちゃくちゃ格好良い。眠れなくて憂鬱な朝に聴きたくなる曲です。
10 DOZING GREEN
21stシングル。本作ではシングル版が収録されています。気だるいサウンドと抽象度の高い歌詩、京さんの艷やかなハイトーンボイスが、微睡むような陶酔感を与えてくれます。朦朧と抑うつ感に溶け込んでいくかと思いきや、最後のホイッスルボイス4連発で叩き起こされるような激情をぶつけてきます。しかし、なぜこの曲順なんですかね…?
11 AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
20thシングル。本作では6thアルバム『THE MARROW OF A BONE』のバージョンが収録されています。まさに『THE MARROW OF A BONE』を象徴する発狂系疾走曲で、えげつない歌詩と泣き叫ぶようなスクリームが特徴的です。洋楽感があるのに、リフが日本音階なのも面白い。でもこの曲の真価は音源ではなくライブで発揮されると思います。
12 艶めかしき安息、躊躇いに微笑み
6thアルバム『THE MARROW OF A BONE』収録曲。悲しみに浸るような静かなバラードですが、最後でぶちまけるように激しくなるのが心を揺さぶってきます。繊細なギターのハモリが非常に美しい。京さんの声に少し『Withering to death.』の頃の雰囲気もあり、変化の過程にある歌声を聴けるのがレアです。
13 CLEVER SLEAZOID
18thシングル。本作ではシングル版が収録されています。ヒステリックで自暴自棄に叫びまくるハードな曲ですが、メロディにエモさがあり、聴いていると泣けてきますね…シングル版の京さんのシャウトは本当にヤバい人の叫びって感じがして、もはや作品という枠を越えたメッセージ性を感じます。
14 我、闇とて…
7thアルバム『UROBOROS』収録曲。アコースティックなサウンドと、京さんの悲痛なハイトーンボイスが泣ける曲。激情的なメロディもさることながら、静かに揺さぶってくるドラムも魅力的。ファンに向けて書かれた歌詩からは、分かり合えない辛さと、それでも歌い続ける覚悟を感じます。
15 VINUSHKA
7thアルバム『UROBOROS』収録曲。静かに狂気を匂わせながら、途中で爆発し、美しくも力強いサビを歌い上げた後に狂い果てて終わるという、完璧な構成の長尺曲。人間社会の醜悪さと自身の害悪さの全てに苦しむような歌詩が、陰鬱なサウンドとともに「痛み」の真髄をぶつけてきます。
16 THE ⅢD EMPIRE
4thアルバム『VULGAR』収録曲のリメイク。微細な変化はあれども、あくまで原曲に忠実なリメイク曲です。原曲には鋭利なアグレッシブさがありましたが、本作はテンポと音圧が上がった一方で、原曲よりも削ぎ落とされた音作りになっており、しなやかなグルーヴ感を纏って攻めてきます。
全体的にノイジーな音だった原曲と比べると、音の加工は少なめで、純粋にバンドの音で戦っている感じがしますね。適度な「間」を大事にしつつ、攻めるところと引っ込むところのバランスを調整することで、グルーヴを生み出しています。なんというか、原曲より生モノ感があるように思います。
ドラムはテンポが速くなり、原曲よりも手数が増えた分、フレーズがダイナミックになっています。ベースは全体的に原曲と比べて動きが柔軟になり、曲のしなやかさに大きな影響を与えています。また、2回目のAメロで中東チックなフレーズが追加され、ここが本作で最も印象が変わった部分だと思います。
ギターについては、音の分離が良くなった分、原曲よりもフレーズが聴き取りやすくなったように思います。他の楽器と同様、音が分厚く鳴っており、耳障りが良くなりました。僅かな変化ではありますが、ラスサビの「笑い叫ぶ」の部分に追加された薫さんの高音フレーズが妙に癖になりますね。
ボーカルは原曲のニュアンスを残しつつ、がなった声でシャウトしています。原曲でも野太く叫んでましたが、本作の方が自然体で自在に声をコントロールしている感じがして好きですね。ラスサビの畳み掛けるようなグロウル、そこからのホイッスルでの「SPARK AND SPARK」が格好良いです。
歌詩は原曲のままですね。ライブでは「25th Anniversary TOUR22 FROM DEPRESSION TO ________」以来演奏されていませんし、リメイクされてからも演奏頻度は昔ほど高くはないように思います。音源では変化を感じられますが、実際ライブで聴くと、感覚的には原曲とそこまで変わらない気がします。必ず盛り上がる曲なので、また聴きたいです。
この曲はボーカルがパワーダウンしたのことで、賛否両論だったイメージですが、個人的には本作の方が気に入っています。原曲のボーカルは無理に低い声を出そうとしてる感じもありますが、本作は軽やかにえげつない声を出していて、曲のスピード感もあって、落ち着く暇を与えない感じが好きです。
Disc 3
8thアルバム『DUM SPIRO SPERO』及びその周辺の時期にリリースされたリメイク曲以降の楽曲と、「Beautiful Dirt」のリメイクが収録されています。国内外で確固たる地位を身につけたDIRが、さらなる深みに到達し、そこから新たな道に進み始めるまでの歩みを感じ取ることができます。前半はリメイク曲が原曲のリリース順で並べられており、後半は『DUM SPIRO SPERO』以降『詩踏み』に至るまでの楽曲が並べられています。前半はヘヴィで濃厚な世界観に満ち溢れていますが、後半に進めば進むほど解放感が出てくるのが良いですね。ラストの「Beautiful Dirt」が良い味を出しています。
1 霧と繭
インディーズミニアルバム『MISSA』収録曲のリメイクで、26thシングル『輪郭』のc/w曲。グロウルまみれのブルータルなデスメタル。ギターのリフ以外は、ツタツタV系ソングだった原曲の面影が全くありません。でも、サビでいきなり原曲のメロディが出てくるのが粋ですね。手数の多いドラムをはじめ、サウンドが非常に格好良い曲です。
2 残
2ndシングル『残 -ZAN-』表題曲のリメイクで、23rdシングル『激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇』のc/w曲。原曲のB級ホラー感がなくなったのはやや残念ですが、迫力のある音圧と疾走感は純粋に格好良いと思います。原曲のサイコキラー的な狂気とは異なり、社会から抑圧を受けて増幅してきた狂気を轟音のメタルサウンドとグロウルでぶつけてくるのが爽快ですね。
3 罪と規制
1stアルバム『GAUZE』収録「蜜と唾」のリメイクで、25thシングル『DIFFERENT SENSE』のc/w曲。遅い・重い・暗いという、聴きやすさ0の曲ですが、不思議と癖になります。怨念のようなグロウルと、ドゥーミーなバンドサウンドに加え、所々に散りばめられている原曲のフレーズが良い味を出しています。欲を言えば、無規制版を収録して欲しかったですね…
4 羅刹国
2ndアルバム『MACABRE』収録曲のリメイクで、8thアルバム『DUM SPIRO SPERO』Disc2収録曲。長きに渡ってライブの定番となっているデスメタル曲。2011年版はヘヴィなリフとグロウルが猛威を振るい、原曲の何倍もパワーアップしたと同時に、世界観もよりおどろおどろしくなりました。この曲が始まったら、とにかく頭を振るのみだと思います笑
5 かすみ
15thシングル『かすみ』表題曲のリメイクで、2ndミニアルバム『THE UNRAVELING』収録曲。浮遊感のあるメロディと、底に引き込んでくるようなヘヴィサウンドのギャップが魅力的。2013年版は京さんの声が美しく、原曲よりも全体的に透明感が増しているように思います。夏の夜に聴くと、よりホラーな雰囲気を感じられて良いですね。
6 OBSCURE
4thアルバム『VULGAR』収録曲のリメイクで、24thシングル『LOTUS』のc/w曲。正直この曲に関しては原曲の方が好きなのですが、2011年版も十分格好良いと思います。音数が少ない分、ヘヴィなサウンドとグロウルが生々しく耳に入ってくるのが心地良いです。原曲の淫らな暑苦しさが薄れて、良くも悪くも落ち着いた感じがしますね。
7 THE FINAL
16thシングル『THE FINAL」表題曲のリメイクで、2ndミニアルバム『THE UNRAVELING』収録曲。「終わり」は次の「始まり」でもある、というメッセージ性は2013年版でより強くなったのではないでしょうか。力強い演奏とともに聴かせる美しいメロディに生きる力をもらった虜も少なくないはず。紛れもなく、DIRの代表曲だと思います。
8 DIFFERENT SENSE
25thシングル。本作ではシングル版が収録されています。音や展開の詰め込み具合もさることながら、曲全体に漂う悲壮感が何とも心に来ます。サビのメロディとギターソロがとにかく良いですね。それでいて、曲のスピード感と多彩な声にも圧倒される。一曲でDIRの様々な要素を堪能できる名曲です。
9 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
23thシングル。本作ではシングル版が収録されています。DIRらしい構成の曲ですが、不思議とどの曲にも似てない唯一無二感もあります。サビのメロディとギターのリフがキャッチーで覚えやすく、初心者にもオススメです。クールなサウンドの中に揺るぎない熱さを感じる曲です。
10 LOTUS
24thシングル。本作ではシングル版が収録されています。『DUM SPIRO SPERO』の中では珍しくストレートな曲。メロディアスで綺麗な曲ですが、サウンドが極太なのが良いギャップですね。後戻りしない覚悟を表現した歌詩も魅力的で、切ない中に力強さを感じます。シンフォニック版も好きですが、原曲の荒さもバンド感があって良いです。
11 輪郭
26thシングル。本作ではシングル版が収録されています。サウンドも歌声も詩も構成も全てが美しいですね。京さんの綺麗なファルセットやクリーンボイス、ドラマチックなギターソロなど聴きどころはたくさんありますが、個人的にはドラムがDIRの曲の中で一番好きです。作り込みも緻密で、非常に完成度が高い曲です。
12 Revelation of mankind
9thアルバム『ARCHE』収録曲。ボーカルも構成もカオスな曲ですが、前向きなメッセージ性が感じられる力強い曲です。めちゃくちゃ激しいサウンドの中で、生命力溢れるサビのメロディが輝いています。「茨の道無き道を 歩めば色褪せない死を」という歌詩が良いですね。
13 Sustain the untruth
27thシングル。本作ではシングル版が収録されています。サビのインパクトが大きい曲ですね。ワウを活かした機械的なギターとグルーヴ感のあるリズム隊が生み出すサウンドはノリやすくて心地良いです。DIRにしてはやや単調な感じもしますが、近年の制作スタイルの礎となった重要な曲だと思います。
14 Un deux
9thアルバム『ARCHE』収録曲。とにかくキャッチーで前向き。90年代を思わせる耽美で躍動感のあるサウンドと、「大地を蹴り進め」というストレートな歌詩が解放的です。京さんの歌声も力強くて魅力的。DIRのようなダークなバンドがやるからこそ説得力を持つ曲だと思います。
15 詩踏み
28thシングル。当時の最新曲ですね。歌も演奏もゴリゴリで、この攻撃性とスピード感がたまりません。歌詩がネガティブ全開な内容なのに、なぜか清々しさを感じます。ファンへの不信感がテーマなのに、ライブではファンの声援や歌声ありきで曲が成り立つような構成なのが面白いです。
16 Beautiful Dirt
5thアルバム『Withering to death.』収録曲のリメイク。原曲をかなり踏襲していますが、歌詩と終盤のアレンジが変わり、原曲とは少し違ったニュアンスで攻撃性のある曲になりました。本作では最後に聴くことになる曲ですが、次作『The Insulated World』に近い雰囲気の曲でもあり、次への布石という感じもしますね。
基本的な曲構成は原曲と同じですが、終盤は一瞬演奏が止まってから、カウントで一気に疾走する構成になっています。原曲は音も歌詩も刺々しかったですが、本作は音圧とテンポが上がったことにより、刺々しさというよりは迫力が増したような感じですね。原曲の弱点だった音質も向上しました。
ドラムはテンポが上がった以外は基本的に原曲を踏襲していますが、終盤の一瞬止まってから疾走する部分はかなり速く、爽快感がありますね。ベースはリフをなぞっているため、かなり他の楽器に埋もれていますね…終盤の疾走部分の出だしで出てくるスライドが相変わらず印象に残ります。
ギターについては音圧が上がったことにより、かなりパワフルになりましたね。原曲と同様、ひたすらユニゾンリフで攻めていますが、サビでは両ギター別々の音域で単音が暴れ回ってるのがヤンチャな感じで良いですね。これくらい迫力のある音で他の『Withering to death』収録曲も聴いてみたいところです笑
ボーカルは原曲では喉を壊す勢いでハチャメチャに叫んでいましたが、本作はもう少しテクニカルにがなっています。「そそり起つ〜」の部分は地声になり、力強く歌っていますが、それ以外のメロディは原曲にかなり寄せた声ですね。「お前も何処かで感じているだろ?」連呼の部分が個人的にアガります笑
歌詩は、原曲では他人も自分も勢いのままに攻撃していましたが、本作では「どうせ愛してくれないんだろ?だったらいっそ醜く生きてやる」という開き直りのようなメッセージを感じます。「腐った未来でも愛するしかない」というフレーズが印象的で、なぜかポジティブさを感じるんですよね。
ライブでは今年のヨーロッパでのウィザツアーで演奏された他、昨年の「TOUR23 PHALARIS Vol. Ⅱ」でも演奏されています。歌詩の変更などもあり、リメイクの方がよりノリやすくなった気がしますね。終盤の疾走部分はめちゃくちゃ頭を振れて楽しいです。海外ではモッシュも起こっていて、かなり盛り上がります。
この曲、当初は原曲のあの刺々しい感じが好きだったんですが、先日「残響の血脈」を見てからすっかり本作にハマってしまいました笑 本作のうっすらポジティブな感じと、海外ファンの楽しそうな姿を観たときに、何とも言い難い感動があり、ここにきて本作の魅力を感じたといったところです。
最後に
一時期は過去を否定しているとも思えるようなスタンスをとっていたDIRですが、ここにきて全力で過去と向き合う活動をしています。20年という長いキャリアの中で、吹っ切れた部分があるのかもしれませんね。ですが、過去の楽曲を演奏しているからといって、懐古しているような様子はまるでなく、むしろ次に繋がる何かを模索しているようにも見えました。
その先にあったのは何なのか。答えは次作の『The Insulated World』にあると思います。お楽しみに。
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