【DIR EN GREY 楽曲感想】『ARCHE』

今回は9thアルバム『ARCHE』期の楽曲について、感想を書いていきたいと思います。


『ARCHE』期の活動状況

2014年

『輪郭』『THE UNRAVELING』をフィーチャーしたツアーも終わり、『DUM SPIRO SPERO』から始まった一連の流れが終わりを迎えようとする中、1月22日、シングル『SUSTAIN THE UNTRUTH』をリリース。この作品は久々に5人で向き合ってセッションをしながら構築され、原点回帰と同時に、新たなフェイズを予感させるような作品となっています。

その後、ツアー「FINEM LAUDA」やオーストラリアへの初上陸を経て、3月8,9日の日本武道館公演「DUM SPIRO SPERO」にて、長かった『DUM SPIRO SPERO』の世界観が完結を迎えました。その4か月後、映像作品『DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN』がリリースされ、武道館公演の映像とともに、『DUM SPIRO SPERO』各曲の別アレンジが収録された豪華なボーナスCDが付属されています。

8月にはなんと、メジャーデビュー15周年ということで、1stアルバム『GAUZE』をフィーチャーした「TOUR14 PSYCHONNECT -mode of “GAUZE”?-」が開催され、多くの話題を呼びました。位置づけ的には、1999年に開催された同ツアーの続きということで、当時の公演に追加される形で、各公演、連番が振られています(例 mode:25)。ただ、当時のメンバー(特に京さん)はこのツアーに対してあまり乗り気ではなかったようで、楽曲の世界観に入り込むような雰囲気ではなく、淡々と演奏されている印象でしたね。あくまでファンサービスの域を超えないようなツアーだったと思います。それでも、演奏技術や歌唱力は格段に向上しているので、単純にクオリティの高いライブでした。ちなみに本ツアーで「Un deux」「Chain repulsion」の2曲が先行公開され、次のアルバムへの布石を感じられるツアーとなっていました。

11月から翌年明けにかけて「TOUR14-15 BY THE GRACE OF GOD」を開催。アルバム発売に先駆けてのツアー開催は『Withering to death.』以来だったようですね。このツアーでは、『ARCHE』の中から半数以上の曲が演奏され、ツアー前半は多くの曲が先行公開という形で披露されました。

12月10日、アルバム『ARCHE』をリリース。フルアルバムとしては、前作の『DUM SPIRO SPERO』から3年4か月という月日が流れており、待望の新作だったと言えるでしょう。詳細は後述しますが、前作とは全く異なり、「聴きやすさ」が重視された楽曲群になり、バンドとしても新たなフェイズを迎えたと言えます。

なお、「TOUR14-15 BY THE GRACE OF GOD」の最中ではありますが、12月23日にはROTTENGRAFFTYの15周年イベント「ポルノ超特急2014」、同29日には「COUNTDOWN JAPAN 14/15」に出演し、2014年を締めくくっています。「COUNTDOWN JAPAN」については、2度目の出演となりました。

2015年

1月は「TOUR14-15 BY THE GRACE OF GOD」の大阪・東京公演にて、同ツアーを終結しました。

4月1日、ミュージッククリップ集『Average Sorrow』をリリース。「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」から『ARCHE』収録曲までのMVが収録されています。「鱗」については完全新作のMVとして収録されました。

4月2日には「TOUR15 THE UNSTOPPABLE LIFE」を開催。「空谷の跫音」「and Zero」「てふてふ」を除く『ARCHE』収録曲すべてがセットリストに含まれ、『ARCHE』のカラーの濃いツアーとなりました。5月からはヨーロッパでも同名のツアーが開催され、中でもベラルーシは初上陸となりました。ツアー終了後、ドイツにて「Rock im Revier」「ROCKAVARIA」という2つのツアーに参加し、帰国します。

6月27日、V系のレジェンドLUNA SEAが主催する「LUNATIC FEST.」に出演。「空谷の跫音」では、LUNA SEAのギタリストであるSUGIZOさんがヴァイオリンで参加するという、レアな光景も見られました。

9月2日にはふたたびミュージック・クリップ集の『AVERAGE PSYCHO 2』がリリースされます。この作品は「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」以降の規制MVの無修正版が収録された他、「蜜と唾(2011)」「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」のライブで使用されている映像も収録されています。世の中の「表現の自由」を問うようなコンセプトの作品となっています。

9月10日より、「TOUR15 NEVER FREE FROM THE AWAKENING」を開催。「てふてふ」が初演奏された他、「朔 -saku-」「VINUSHKA」「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」「THE FINAL」「THE ⅢD EMPIRE」「C」「CHILD PREY」といった人気曲たちと『ARCHE』収録曲が融合したセットリストが話題になりました。ツアー終了1週間後10月18日、台湾にて「ROCK BANDOH FESTIVAL 2015」に出演しました。

11月からは北米にて、「TOUR15 NEVER FREE FROM THE AWAKENING」を開催。途中、メキシコの「JAPAN LIVE 2015」というイベントにも出演しました。12月には「CHINA TOUR 2015」を開催し、北京・広州・上海の3都市を回りました。

2016年

1月、オフィシャルファンクラブ「a knot」&携帯会員限定ツアー「TOUR16 FINEM LAUDA」を開催。全6公演のショートツアーで、「TOUR15 NEVER FREE FROM THE AWAKENING」では演奏されなかった『ARCHE』収録曲を中心にセットリストが組み立てられました。

2月5、6日、『ARCHE』のツアーの締めくくりとなる日本武道館公演「ARCHE」が行われました。初日はアルバムの曲順を再現するかのようなセットリストで、2日目はツアーの集大成となるセットリストで、両日とも『ARCHE』収録曲がすべて演奏されました。2月12日には武道館二日間来場者限定で、LIQUIDROOMにて「ARCHE -「a knot」LIMITED EXTRA-」が開催され、ここでも『ARCHE』全曲が演奏されています。これらの公演をもって、『ARCHE』のツアーは一旦の終わりを迎えます。

しかし、『ARCHE』の世界観はまだまだ続きます。ここから先、結成20周年アニバーサリーの一環として過去のアルバムの再現ツアーが始まりますが、どちらかと言えば、「過去のアルバム×ARCHE」というコンセプトのツアーとも言えるような内容になっています。

こうして、全く新たなフェイズに進み始めたDIR EN GREY。そこで生み出された楽曲たちの感想を以下に書いていきます。


輪郭(2012.12.19)

→記事『輪郭』『THE UNRAVELING』を参照。


SUSTAIN THE UNTRUTH(2014.1.22)

27thシングル。c/w曲は『DUM SPIRO SPERO』収録「流転の塔」のアコースティックバージョンと、『UROBOROS』収録「凱歌、沈黙が眠る頃」のライブ音源(「TOUR2013 GHOUL」、2013年9月18日、横浜BLITZ)です。ミキシングは、表題曲の「SUSTAIN THE UNTRUTH」はベン・グロッセが、残りの2曲に関してはチュー・マッドセンが担当。全てのマスタリングはテッド・ジェンセンによって行われ、ミックス/マスタリングにおいて、新たな試みがなされています。
ちなみに、リリースが公表された当時は「Sustain the UNtruth」という表記でしたが、ジャケット公開とともに変更されました。

1 SUSTAIN THE UNTRUTH

バンドのグルーヴ感とキャッチーなサビが印象的なミドル曲。『UROBOROS』以降、複雑な曲が多かった中で、この曲は「引き算」を意識して制作され、新たな方向性を打ち出した楽曲で、今でもメンバーから非常に大事にされています。
メロのパートとサビを交互に繰り返して、2サビ後にギターソロ、メロのパート、大サビという王道JPOPのような構成になっています。サビは非常に耳に残るキャッチーなフレーズですが、それ以外のパートはダンサブルな跳ねるリズムが主体となった、グルーヴ感溢れるアレンジになっています。
この曲は特にギターの音が特徴的です。ヘヴィなユニゾンリフを中心に、薫さんのワウを活かしたリズミカルなフレーズと、Dieさんの機械的な高音フレーズの掛け合いが癖になります。一応ギターソロもありますが、こちらはやや地味な感じで、どちらかと言えばその直後のワウのフレーズの方が印象的です。
ベースはスラップを活かして、楽曲に躍動感を与えつつ、2回目のメロのパートなど、要所要所で存在感を出してきます。ドラムは以前のような手数の多いフレーズではなくなり、あくまで曲のリズムを生み出すのに徹しています。構築性よりも、バンドの一体感を優先したアレンジと言えるでしょう。
ボーカルは、メロのパートでは囁き声やシャウト、ファルセットなど様々な声質を使っていますが、サビでは惜しみなく高音メロディを歌い上げています。クリーンボイスについては、少しだけ昔の癖が戻っているような気がしますね。個人的には「まだ塗り潰せる」の部分のグロウルの唐突感が癖になります笑
歌詩はタイトル通り「嘘」をテーマとしています。「嘘」の裏には醜い人格があるはずなのに、誰もそれを出そうとしない。そういう歪な世界の中で、自分の心が閉ざされていくことの苦しみを表現しているように思います。「アタシキレイ」は内側の醜い自分を愛してほしいという心の声なのかもしれません。
この曲はリリースされた2014年以降、おそらくライブで最も演奏された曲なのではないかと思っています。アンコールの定番曲として、私はほぼ毎回ライブで聴いてきました。印象的だったのは武道館公演「DUM SPIRO SPERO」の2日目で、直前の京さんのMCや、涙を流しながら歌っている姿を見て、非常に感動した記憶があります。
ただこの曲、個人的にはアンコールで聴くよりはライブの序盤とかで聴いてみたい気持ちもありますね。アンコールで盛り上がる曲って速い曲が多いんですが、散々煽られた後にこの曲が始まるとややテンポダウンしてしまう感覚もあり、もう少し暴れられる曲だったらなあ…と思うことは度々ありますね。

2 流転の塔 (Acoustic Ver.)

原曲の構成に忠実に、音だけアコースティックにしたようなアレンジで、音の混ざりが剥き出しになっています。多くの音で壮大な世界観を演出していた原曲と比べると、どこか流麗で軽やかな哀愁を感じます。
ギターがアコギに、ドラムがジャンベに変わりましたが、可能な限り原曲のフレーズが再現されており、音がすっきりした分、フレーズが分かりやすくなっています。特に「赤い靴」のフレーズはこの曲を聴いて初めて気付きました。速いパートでのパーカッシブなカッティングが癖になりますね。
ボーカルは3回のサビで1回毎に1オクターブずつ上がっていき、ラスサビは原曲と同じキーですがファルセットに変わっています。元々シャウトだった部分は囁き声に変わりました。高らかに歌い上げていた原曲とは異なり、静かに呟くような歌い方になり、ある意味原曲以上に「孤独」を感じるアレンジです。
歌詩はほとんど変わっていないものの、「現実を見つめる使徒(死と)」の「見つめる」が「彩る」に変わっています。これにより、原曲では現実の醜さを遠目に見ていたような感じですが、本作では自分自身もその醜い現実の一部を構成してしまっているという嘆きを感じますね。他には「Gods of Rapture」など、削られたフレーズもあります。
この曲は「DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN」のDisc4にも収録されています。未だライブで聴いたことはありませんが、こういう曲をアコースティックアレンジするという取り組み自体が面白いですし、他にもいろんな曲で聴いてみたいです。アコースティックライブとか、開催しても普通に面白いと思いますけどね…

3 凱歌、沈黙が眠る頃 [LIVE]

まあ正直なところ、この時期のシングルとしてはやや選曲が古い感じもしますね。「TOUR2013 GHOUL」の音源なので、どうせなら『DUM SPIRO SPERO』や『THE UNRAVELING』の収録曲のライブ音源を聴きたかったという気持ちがあります。演奏自体は決して悪くはありませんが、ややミックスのバランスが良くなく、少し音が軽い感じがしますね。京さんのボーカルもシャウトや中音域のクリーンボイスは良い感じですが、高音がやや苦しそうな感じがしますし、アウトロ部分のスキャットも控えめな感じがします。今になって振り返ってみると、この時期は復帰直後ということもあり、近年と比較すると喉を庇っていたような気もしなくもないです。


DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN Disc4(2014.7.16)

個別記事を参照


ARCHE(2014.12.10)

9thアルバム。タイトルは「根源」の意を持つギリシャ語で、タイトルからして過去の自分たちと向き合った作品となっております。アルバムのリリースは『THE UNRAVELING』以来1年8か月ぶり、オリジナル・アルバムとしてのリリースは、前作『DUM SPIRO SPERO』以来、3年4か月ぶりとなります。完全生産限定盤(Blu-spec CD2+特典CD+特典DVDまたは特典Blu-rayのいずれか)、初回生産限定盤(CD+特典DVD)、通常盤の3タイプ、4パターンでのリリースとなり、完全生産限定版には新曲である「and Zero」「てふてふ」の他、リミックスバージョンやアコースティックバージョンが収録されています。ちなみにBlu-spec CDとして発売されたのは、本作が初となります。オリコンチャートでは週間4位、デイリー3位を記録しました。

0 アルバム総評

フルアルバムとしての前作となる『DUM SPIRO SPERO』、及びその後にリリースされたミニアルバム『THE UNRAVELING』は、一曲一曲が作り込まれており、曲展開の複雑さ、詰め込まれた音の数などは歴代アルバムの中でもトップクラスの作品群でした。また、『DUM SPIRO SPERO』では歌詩やメロディも難解で、その取っ付きにくさがむしろ奥深い世界観を生み出していましたが、『THE UNRAVELING』のリメイク曲においては原曲のメロディが活かされた作りになっており、複雑ながらも絶妙なキャッチーさがありました。
そのような流れを経て生み出された『ARCHE』という作品ですが、結論から言えば、前2作の流れを断ち切り、聴きやすさと分かりやすさに特化したアルバムとなっています。実際にシングルとしてリリースされた「輪郭」「Sustain the untruth」以外にも、シングルカットできそうなキャッチーな曲も多数ありますし、音を詰め込んで隙間のない音像となっていた前2作と比較して、だいぶスッキリした音像となり、あえて余白を残すような作りになっています。
また、全体的に過去のいろんな時代の曲を彷彿させ、どこか懐かしい雰囲気の曲も少なくありません。これについて、時々、「集大成」と言う言葉が使われたりもしますが、個人的には、過去の要素を取り入れて、今の音で表現した結果、過去のDIRに似た部分はありつつもどの時代とも似ていない、新しい作風の曲たちが揃っているように思いますね。単なる過去の焼き直しに留まっておらず、今のDIRだからこそ出せる重厚感や色気を感じられる作品になっています。
アルバムの構成としては、各曲が集まって一つの世界観を作り上げていた『UROBOROS』や『DUM SPIRO SPERO』とは異なり、一曲一曲全く異なった雰囲気の曲が並べられており、色彩豊かな作品となっております。この多彩さは、DIRが昔から持っていた柔軟性が戻ってきたことの証でもあり、その意味では、本作は今後の方向性を決める上でも重要な役割を果たしていると言えるでしょう。でも決して散漫なわけでもなく、通しで聴くと妙な統一感もあり、不思議な感覚ですね。全体的にメロディ重視である点、ヘヴィなサウンドなのにどこか透明感を感じる点が共通しているからかもしれません。
また、本編だけでも16曲(+ボーナスディスクに新曲2曲)と、歴代最多の曲数が収録されており、いかにこの頃のメンバーが制作意欲に燃えていたかを実感できます。ただ、総じてミドルテンポの曲が多いので、特に後半(「Midwife」以降)から中だるみを感じる人は少なくない印象がありますね。個人的には、耳が慣れてくるとむしろ後半こそ変態感のある曲が多くて面白いんですが、確かに、通しで聴くにはやや体力のいるアルバムだなという実感があります。終盤で思い出したかのように「The inferno」「Revelation of mankind」と速い曲が出てくるものの、そこに辿り着くまでにダレてしまう人がいるのも分かる気がしますね。このミドル曲の多さはメンバーにとっても反省点だったようで、次作の『The Insulated World』はその真逆を行くことになります。
各パートについてですが、まずドラムの変化がかなり大きいです。『THE UNRAVELING』では手数の多さを極めており、そこかしこから音が聴こえてきましたが、本作では手数をグッと減らして、リズム楽器としての役割を意識したプレイになっています。『DUM SPIRO SPERO』以降はクリック音を聴きながら演奏しており、ドラムはリズムを多少犠牲にしてでもメロディ楽器のごとく主張していましたが、メンバーの中でライブ感を取り戻したいという想いもあったようですね。ここ数年はPCの画面を通じて曲作りを行っていたようですが、本作の曲の多くは、実際に音を合わせながら制作されたようです。個人的には『THE UNRAVELING』のやたら手数の多いドラムプレイはかなり気に入っていたのですが、やはりライブになると本作のスタイルの方がノリやすいですね。
ベースについては、『DUM SPIRO SPERO』『THE UNRAVELING』ではスラップを多用して存在感を出していましたが、本作ではギターのリフをなぞるようなプレイになり、比較的大人しくなっています。ドラムと同様、リズム隊として曲の土台作りに徹しているような印象ですね。ただ、絶妙なタイミングで主張してくるのがToshiyaさんらしいなと思います。
ギターはだいぶ音数が減り、『DUM SPIRO SPERO』や『THE UNRAVELING』と比べるとかなりスッキリしました。リフも全体的に聴きやすく、シンプルに耳に残るフレーズになりましたね。ただ、音の重さについては磨きがかかっており、むしろこの極太のサウンドが、過去の曲との違いを生んでるように思います。また、薫さんとDieさんのユニゾンやハモリが多かった前作とは異なり、本作は2人の役割が分かれている曲も少なくないですね。特に、Dieさんが原曲を作った「濤声」「懐春」「てふてふ」においては、Dieさんは6弦ギターでプレイしており、自分の持ち味をしっかり出しています。
ボーカルについては、クリーンボイスとファルセットの割合が増え、逆にシャウトの割合がかなり減っています。特にファルセットの使用率がかなり上がっており、sukekiyoでのボーカリゼーションと併せて考えても、当時の京さんのブームだったことが推察されます。また、このボーカリゼーションが、曲の透明感に拍車をかけているように思います。メロディも全体的にキャッチーになっていて、純粋に、京さんの美麗なクリーンボイスが活かされたアルバムだと言えるでしょう。
歌詩については、難解さが薄れており、オノマトペが使用されていたり、昔のような美しくて物語性のある表現が戻ってきた印象です。ただ、伝えたい内容は以前と本質的には変わっていない印象で、物語調の歌詩であっても、その裏にメッセージ性を感じますね。ある意味、一見分かりやすいからこそ、裏を読む難しさもあるような気もします。また、以前と比べるとポジティブに聴こえるような表現が増えており、「Un deux」などは顕著ですね。いつ死ぬかも分からないのに、自分を抑えて生きている暇なんてないという、京さんからの切実なメッセージを感じます。
以上のように、濃密な『DUM SPIRO SPERO』からは、制作スタイル、サウンド、歌詩の書き方など、何もかもが一新され、「聴きやすさ」「分かりやすさ」が重視された作品となっております。ただ、だからといって薄っぺらくなったわけでは決してなく、むしろ『DUM SPIRO SPERO』に至るまでの過程で培ってきたバンドの貫禄を、多角的に表現している点で言えば、『DUM SPIRO SPERO』とは違った意味で濃密な作品であると言えます。この「色鮮やかな深み」が『ARCHE』の真髄ではないかと思いますし、DIR EN GREYというバンドの引き出しの多さに酔いしれたい人にオススメの作品です。

Disc1

1 Un deux

歌詩もメロディもストレートでキャッチーなミドル曲。DIRの曲全体で見ても異質なほど聴きやすく、彼らなりの前向きさと生命力を感じる曲です。ある意味、シンプルさを重視した『ARCHE』というアルバムを象徴する曲で、DIR初心者にもオススメの曲です。
曲構成は意外と入り組んでいますが、どのパートもキャッチーで流れが綺麗なので、複雑さは感じません。切なくも穏やかなAメロを2回繰り返した後、躍動感のあるBメロ、高らかな歌声響くサビ、ギターソロからの疾走、Bメロからの大サビと、ヘヴィかつ優美な演奏に乗って進んでいきます。
『DUM SPIRO SPERO』や『THE UNRAVELING』とは異なり、ドラムのフレーズがシンプルになった分、リズム感重視になったように思います。ただその中でも、緩急の付け方は絶妙で、曲のスピード感や躍動感を巧みにコントロールしています。ベースは以前ほどのバキバキ感はなくなり、この曲では流麗な波を作るのに徹していますね。
ギターについては、パートによってクリーンとディストーションを使い分けていますが、特にクリーンは90年代的な耽美さを感じます。その上でヘヴィなフレーズも存在感があり、ギターソロの後の疾走部分が印象的です。BメロのDieさんのオクターブ奏法はどこか「ゆらめき」を彷彿させますね。
ボーカルについては、完全にクリーンボイス一本ですね。低音から高音まで幅広い音域ですが、特に高音の部分は、昔のような喉を締めて絞り出すような出し方が少し蘇っています。どの部分もメロディがキャッチーで、少し90年代感がありつつも、ヒット曲顔負けの聴きやすさがありますね。
歌詩も驚くほどストレートで、未来に向かって進んでいく意志を率直に突き付けています。「大地を蹴り進め」なんて歌詩を京さんが書くことに当時驚いた記憶がありますね。「わずかな命この瞬間に散らす」など、他人を気にしてモタモタしている時間はないと、京さんからのメッセージを強く感じます。
この曲は「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________」以降、セトリから姿を消していましたが、昨年の「TOUR23 PHALARIS -Vol.II-」で久々に演奏されました。個人的に印象的だったのは「TOUR15 NEVER FREE FROM THE AWAKENING」ツアーのアンコラストで、メロディのほとんどを客に歌わせていたことですかね。一体感があって楽しかったです。

2 咀嚼

ヘヴィなギターのリフとサビのメロディが印象的なミドル曲。『VULGAR』期を彷彿させるような日本的情緒とヘヴィなサウンドの融合が見られますが、当時よりも奥行きを感じる音像になっています。透明感とドロドロ感の両方を感じる不思議な曲ですね。
導入のシンセからして、曲全体に透明感がありますが、バンドサウンドが意外と激しく、透明なのに絶妙なドロドロ感があるのが特徴です。ただ、サビに関しては歌声が伸びやかに響いており非常に美麗ですね。曲構成は変則的ですが、Aメロ、Bメロ、サビの3パターンのみなので、そこまで複雑さは感じません。
ドラムのリズムパターンの多さが特徴的な曲で、テンポ自体は一定ではあるものの、数小節単位でパターンが変わり、聴いていて飽きませんね。個人的に時折入る高速タム回しがツボです。ベースは埋もれ気味ではあるものの、Bメロでスラップを活かして存在感を出しており、ドラムと合わさってグルーヴ感を生み出しています。
ギターについては、曲の大半で奏でられているリフが特徴的で、曲の透明感に切り込むような極悪なフレーズなのが面白いです。個人的には、何気にイントロやAメロでDieさんが弾いているコードの音も気に入っています。ギターソロは不思議なフレーズですが、哀しげな日本的情緒を感じますね。
ボーカルは大半がクリーンボイスですが、Bメロではシャウトやグロウルも顔を出しており、出番が少ないからこそ存在感がありますね。やはりサビが特徴的で、「咀嚼」という通常サビであまり聴くことがないフレーズを伸びやかに歌っていますが、曲とのハマり具合が聴いていて非常に気持ちが良いです。
歌詩は久々に物語調になっており、個人的には、母親を亡くしてから父親にいろいろと求められてきた娘が、成長して自分の生き方を疑う(=咀嚼する)ようになり、解放を求めて自殺する話なのではないかと解釈しています。一見救いのない話ですが、自我を持つことが解放に繋がるというメッセージなのかもしれません。
この曲は昨年の「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」で久々に聴きましたが、いつもどういうスタンスで聴くべきか迷うんですよね。ノれると言えばノれますし、聴き込める曲でもあるので、結果的に中途半端なノリ方になっていることが多いです。『ARCHE』のツアーでは1曲目に演奏されることも多かったようです。

3 鱗

ゴシックなオーラ漂う、ファストなメタル曲。初期にありそうでなかった、往年のジャパメタ色の強い楽曲ですが、デスボイスや低音のリフで暴れ回っているのは今のDIRならではという感じですね。『ARCHE』の中でも非常に人気が高い曲で、後にMVも制作されています。
導入はギターのリフと共にスローな始まり方ですが、一気に疾走して最後まで駆け抜けていきます。デスボイスのパートとファルセットのパートを繰り返しながら、間にクサさ全開のギターソロを挟んでひたすら疾走します。全体的に90年代V系色が強く、情熱的でもありドラマチックな曲展開になっています。
ドラムはツーバスは踏んでいないものの、ザ・メタルみたいなフレーズが多いですね。導入だけはスローな四つ打ちですが、以降は縦揺れと疾走を繰り返しています。ギターソロ直後のタム回しが良いですね。ベースは、暴れ回っているギターとは対照的に、安定的にベースラインをなぞった動きをしています。
ギターはイントロのリフを主軸に、曲のスピードに対抗するかのように荒ぶっています。中盤ではギターソロも顔を出しますが、初期のX JAPANを彷彿させるようなクサさを感じるフレーズで、これがまた癖になりますね。バンドサウンド以外にもオルガンが要所で使用され、ゴシック感が演出されています。
ボーカルはグロウルやクリーンなど多彩ですが、本作では久々に速い演奏の上でしっかりメロディが歌われています。個人的には、サビの「シャンデリア」の軽やかな歌い方と、「ゆらゆら〜」のメロディがツボですね。全体的にファルセットが多用されており、神聖なオーラを漂わせています。
歌詩は、猫に食べられそうになっている魚の情景描写で、曲の高貴な雰囲気と相俟って、官能美を感じます。個人的には、「他者に生殺与奪を握られること」が裏のテーマなのかなと思っていて、そこに社会的な意味も見出せそうですし、個人的な愛憎の物語も想像できそうな解釈の幅があると思います。
この曲もしばらくセトリから消えていたんですが、昨年の「TOUR23 PHALARIS -Vol.II-」で久々に演奏されました。頭が振りやすく、非常に盛り上がる曲で、私も昨年聴いたときは首がもげるくらい頭を振った覚えがあります笑 個人的にはもっとライブの定番曲になっても良かったのではないかと思いますね。

4 Phenomenon

インダストリアル系のダウナーなミドル曲。薫さんのルーツであるNINの影響が強く出ている楽曲で、機械的な質感をバンドサウンドで良い塩梅で表現しています。『鬼葬』の歌モノのような陰鬱感が終始漂っていますが、終盤のクリーントーンで浄化されますね。
終始一定のリズムで、暗く、静かに曲が進んでいきます。どの楽器も、打込音のように機械的な音を出していて、無機質さを演出しつつも、時折バンドサウンドならではの一体感を見せつけてきます。終盤は風流なクリーンギターとファルセットのサビが非常に美しく、それまでの溜めが一気に効いてきます。
ドラムは一定のリズムを保っており機械的で、Shinyaさんならではの無機質さが活きていると思います。一方で、バンドが揃う部分では力強く叩き込まれており、この使い分けは流石だなと思います。ベースは歪んだ音を出していますが、この低音がどこか曲に閉塞感を生んでいるような感じがしますね。
ギターは全体的に中〜高音域の単音でズラしながらハモっており、機械感がありますが、曲の後半では低音も顔を覗かせるようになります。終盤では薫さんがディストーションの効いた低音、Dieさんが透明感溢れるクリーンという構図となり、一気にヘヴィかつ耽美な盛り上がりを見せます。
ボーカルは低音域の気だるげなクリーンボイスとファルセットを巧みに使い分け、曲のダルさに一役買っています。全体的にメロディが奇妙というか、聴いていて不安になります。特に「溢れた愛〜」のあたりは絶妙な外し方をしてきますね。グロウルも一節だけ出てきますが、違和感なく溶け込んでいます。
歌詩は、官能的な空気を匂わせつつも、日本的情緒を感じる詩的な表現になっています。快楽に狂っていく人間の姿が美しく表現されていますが、この美しさがかえって退廃的な空気を強化しているようにも思います。「過去が手招き」とあるように、過去への執着の中毒性が本来のテーマなのかもしれません。
この曲は『ARCHE』のツアー終了後も度々演奏されている印象がありますね。浮遊感のある映像とともに、ライブの薄暗い空気を形成するのに最適な曲だと思います。ライブでは「溢れた愛〜」の歌い方が狂気的になりますね。直近では「TOUR22 PHALARIS -Vol.I-」で聴きましたが、『PHALARIS』とも親和性があると思います。

5 Cause of fickleness

Shinyaさん原曲の軽快なパンク曲。海外進出以降にはなかった懐かしいノリの曲で、『six Ugly』辺りの勢いと、『MACABRE』の東洋チックな妖しさを合わせてヘヴィにした感じですね。遊び心が多く、以前とのスタンスの違いを顕著に感じられる曲です。
ノリ自体は軽快ですが、全体的にアダルティな雰囲気が漂っています。曲構成も意外と複雑で、次から次へと展開が変わっていきます。一部分だけメロディのパートがありますが、それ以外は声質を使い分けつつテンポ自体はずっと速いです。サビが掛け合いのようになっているのが、DIRにしては珍しいです。
ドラムは基本的に速いですが、メタル的な秩序のある速さではなく、パンク的なガチャガチャした速さですね。リズムパターンは多彩で、リフの部分では初期のような懐かしいハイハットの叩き方をしています。ベースは曲が速くなると引っ込みますが、イントロなど遅い部分では妖しくうねっています。
ギターはサビではユニゾンしていますが、それ以外では重低音でうねる薫さん、クリーンやカッティングでアクセントをつけるDieという昔ながらの分担で曲を彩っています。随所で見られるインド風のリフフレーズがどこか癖になる一方、サビはニューメタル風のヤンチャなリフなのも面白いです。
ボーカルは遊び心満載です。笑い声を入れてみたり、裏声で「ランランラン」とか「斜 斜 斜 斜に構えた」とか言ったりしてます。一方、いろんな声を忙しなく混ぜ込んでいて、次から次へと違う声が聞こえるのが楽しいですね。サビの「wake me up」の地声の叫びは新鮮で、特に終盤のG#5の叫びは圧巻です。
歌詩はおそらく、浮気されている女性の心情を描いていますが、男に愛想をつかしつつも執着していそうな感じですね。京さんはよく「本物の愛が分からない/辿り着けない」ことをテーマにしていますが、この詩もそういう「愛」の分からなさが真のテーマな気がします。サビはヤケクソ感がありますが笑
この曲は「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of MACABRE]」を最後に演奏されておらず、私自身もかなり長い間ライブで聴いていない気がします。サビで「wake me up」と叫んだり、普通に盛り上がる曲なので、もっと演奏されても良い曲なんですが、次作の『The Insulated World』で似たような立ち位置の曲が多いからか、残念ながら影が薄くなっている気がします。

6 濤声

Dieさん原曲の透明感溢れるミドルバラード。力強いバンドサウンドに乗せて、泣きのメロディが展開する名曲です。これぞDIRのバラード曲という感じで、各メンバーの持ち味と、バンドとしての「らしさ」が凝縮されています。個人的には『Withering to death.』の空気を感じますね。
出だしは穏やかなシンセの音とDieさんのアルペジオで静かに始まりますが、ドラムロールが始まってからは一気に激しくなります。途中ギターソロを挟んでまた静かになり、さらにベースソロを挟んでラスサビ、そしてまたドラムロールで幕を閉じるという、メンバーそれぞれに見せ場がある構成です。
ドラムについては16分のリズムでスネアを叩き続けるロールが特に印象的ですが、ギターソロやベースソロのときの激しいドラミングも聴き応えがあります。ベースは他の楽器が激しい分、ゆったりとバンドを下支えしていますが、ベースソロではやや高めの音で、ラスサビに向けて曲を盛り上げています。
ギターは薫さんとDieさんで全く違った音を出していて面白いですね。薫さんは低音のブリッジやシンセのような単音フレーズを奏でている一方で、Dieさんはクリーンのアルペジオやワウの効いた激しいフレーズを鳴らしています。ギターソロはワウと単音を駆使した、Dieさんらしい荒々しさがありますね。
ボーカルはクリーンボイスとファルセットのみで構成されていますが、使用されている音域が広いです。サビでは「でも生暖かい深紅が〜」で一気に高くなるのがグッと来ますね。ラストはF#5にも及ぶ高音域を振り絞るように出しています。でも個人的には「聞こえる昨日の叫びが」の低音ボイスがツボです笑
歌詩は抽象的ですが、愛する人と別れを告げた女性の心情が描かれています。「生暖かい深紅」はおそらく手首を切ったのかなと思いますが、「心の奥底に忍ばせた感情に 穏やかな笑みと脈を打つ」という終わり方を見るに、痛みに浸ることで「明日」に繋がる何かが見つかったのかもしれませんね。
この曲も「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of MACABRE]」を最後に演奏されていませんが、非常にライブ映えする曲ですね。久々に京さんがメロディを崩して泣き叫ぶように歌っていた曲で、生で聴くと本当に圧巻でした。ライブではベースソロ直前の溜めの部分にシャウトが入り、そこからラストに向かっていくカタルシスが癖になります。

7 輪郭

26thシングル。ミックスし直されていますが、シングルと同じくTue Madsenが担当しているため、全体的な印象は大きくは変わっていません。シングル版よりも低音や反響音が強調され、重く、奥行きのあるサウンドになり、透明感が増しています。
シングル版は楽器の重奏感がありましたが、本作は前に出ている音と後ろに引っ込んだ音の差が顕著に出ており、その意味では良くも悪くもスッキリしたという印象がありますね。曲の壮大さは増していますが、ベースのバキバキ感やギターの細かな和音が聴こえにくくなったのはやや残念です。
『DUM SPIRO SPERO』〜『THE UNRAVELING』期の、音を詰め込んで緻密に構成するという作り方をしているということもあり、アルバムではちょっと浮いているような印象です。一つ前の「濤声」とは対照的な曲なので、この並び自体は面白いですが、アルバム未収録だった方がかえってキャラが立っていたのではないかとも思いますね。

8 Chain repulsion

痛烈な歌詩と忙しないボーカリゼーションが特徴的な疾走曲。久々の8ビートロックであり、3分以内という短い尺の中で、耳に残るリフと様々な声質で攻めてきます。『VULGAR』期を彷彿させるような、軽快な曲調で世界の偽善的側面を皮肉った曲です。
最初から最後まで、イントロのリフとその派生のフレーズが繰り返されており、耳に残りやすい音作りになっています。曲の中でテンポが上がったり下がったりすることはありますが、基本的には8ビートのリズムを軸としており、軽快な疾走感があります。ただ、その割に意外と音は分厚い印象ですね。
ドラムは前述の通り久々の8ビートを基調としていますが、『DUM SPIRO SPERO』期の手癖か、意外と叩き方が丁寧で、昔のような遊びは感じられないですね。次作の『The Insulated World』ではもう少し遊びがあるんですけどね…笑 ベースは一見聴こえづらいですが、ギターの1オク下でリフをなぞることで、実は曲の重心を低くしています。
ギターは大半ユニゾンしていますが、ほとんど同じリフかそこから派生したフレーズを繰り返しています。このリフが古き良きハードロック感があって、なかなか耳に残りますね。終盤は京さんのファルセットと絡み合うように、薫さんが単音のフレーズを弾くパートとあるのですが、これが聴いていて気持ち良いです。
ボーカルは非常に忙しなく、シャウトやファルセット、クリーンなどを目まぐるしく切り替えています。クリーンボイスにも荒々しい声やクリアな声などバリエーションがあり、「誰もが幸福な世界」の高音は非常に綺麗ですね。最後はファルセットで「I miss」を繰り返しますが、これがまた癖になります。
歌詩はストレートな表現で、表面的な人間関係を痛烈に皮肉っています。人間の裏側の醜い部分についてはよくテーマにされていますが、醜さを隠さず繋がり合える関係に、京さんは希望を感じていたりするのかなと思います。最後の「I miss you so bad」はその僅かな期待を表しているのかもしれません。
この曲は昨年の「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」で久々にセトリ入りしましたが、残念ながら私は聴けませんでした。印象に残っているのは「TOUR14 PSYCHONNECT -mode of “GAUZE”?-ー」での先行披露で、『DUM SPIRO SPERO』には絶対ない曲調だったので、次のアルバムへの期待が高まったのを覚えています。ライブだと最後の「I miss」連呼が楽しいです笑

9 Midwife

Toshiyaさん原曲のヘヴィなハードコア曲。元々はもう少しパンク寄りだったのが、度重なるアレンジで複雑怪奇な楽曲になったそうです。音作りは『THE UNRAVELING』に近いものを感じますが、曲の雰囲気はどことなく『MISSA』の頃の怪しい感じを彷彿させますね。
前半はミドルテンポのメロディパートですが、後半はハイスピードなサウンドの上でひたすらホイッスルシャウトが暴れ回っています。加えて途中に3回、スローなリフのパートを挟みますので、全体としては度々テンポが変わる複雑な構成になっています。全編通して、ホラーな雰囲気が漂っていますね。
ドラムは『DUM SPIRO SPERO』〜『THE UNRAVELING』期ほどの複雑さはないものの、本作の中では比較的手数が多いように思います。後半の疾走パートは圧巻で、力強くスネアを連打しています。ベースはミックスで埋もれ気味ではあるものの、『DUM SPIRO SPERO』〜『THE UNRAVELING』期のようにスラップを多用しており、特に前半はグルーヴィに跳ねていますね。
ギターは音が何重にも重ねられており、音圧が凄まじいですね。どのパートも低音の刻みが耳を圧迫していますが、イントロの薫さんの高音ブリッジや、Dieさんのアルペジオなど、怪しげなフレーズもたくさんありますね。スローパートの3連符のブリッジが印象的ですが、ライブでは同期で流されています。
ボーカルは前半は90年代V系感のある怪しげなメロディを、脱力した低音で聞かせてきます。後半のホイッスルシャウトはまさに阿鼻叫喚で、凄まじい狂気を感じます。終盤の「重なって」と呟き続けるパートは、徐々に狂っていく感じが不気味ですね。個人的には「UNLIMITED」の野太いグロウルがお気に入りです。
歌詩は「Midwife=助産師」というタイトル通り、「産む」ことにまつわる言葉が並べられています。同調圧力が当たり前の世の中で、裏側の見えないよく似た人たちが次々に再生産されていく。愛から生まれた人たちが、最終的にそういう無意識の加害者になっていく様子を憂いているのかなと解釈しました。
ライブでは直近では「TOUR22 PHALARIS -Vol.I-」でセトリ入りしてますが、私が最後に聴いたのは「TOUR18 真世界」ですね。変態度の高い曲ですが、ライブだと後半の疾走パートがめちゃくちゃ楽しいです。「重なって」の部分もライブだとコール&レスポンスになるので、盛り上がります。意外とライブ映えする曲だと思います。

10 禍夜想

怪しげな和の雰囲気漂うミドル曲。不気味綺麗系の歌モノ曲かと思いきや途中に狂気的な呻き声のパートが入ってきたり、一筋縄ではいかない曲です。個人的には「Spilled Milk」を『THE UNRAVELING』風にリメイクしたらこんな感じになるのでは…という印象です。
リズミカルなタム回しに乗せてゆったりとメロディを聴かせてくるパート、ドロドロしたリフとともに伸びやかな多重ファルセットが響くパート、切なくキャッチーなサビで構成され、後半に狂気の呻き声を撒き散らすパートが挿入されます。全体的に和風な情緒が漂いつつも、どこか不気味さを感じます。
ドラムはAメロの迫りくるようなタム回しが特に印象的ですね。また、呻き声のパートで溜めてジワジワと激しくなっていく感じも面白いです。ベースはこのアルバムのハイライトと言っても過言ではないくらい良い仕事をしていて、スラップでグルーヴ感を出しながら不協和音的なフレーズを多用しています。
薫さんはオクターブ奏法、Dieさんはクリーンのアルペジオを多用しており、低音のパワーコードはパートによって交代で担当しています。激しい部分はドロドロしていますが、静かな部分はアルペジオが奇妙な美しさを放っています。呻き声のパートの息の合ったブリッジミュートのユニゾンも格好良いですね。
ボーカルはクリーンボイスを基軸に不気味なファルセットが多用され、そこにグロウルを挟み込んでくるなど掴みどころがない感じですね。呻き声のパートはグルーヴ感のある演奏と上手く絡み合っていて圧巻です。しかし、これだけ変態感がありながら、サビのメロディがめちゃくちゃ美しいのが憎いですね笑 あと、いつも聴くたびに、2回目の「笑っておくれ」の声ってどうやって出してるんだろうと思います笑 吸いながらホイッスルボイス出してるような感じなんですかね。その後のウガウガしたシャウトからの冷静な「FRAME OUT」の流れが個人的に好きな部分です。
歌詩は「つらつら」「たらたら」「びちゃびちゃ」などのオノマトペを多用しつつ、生に縛られ続ける苦しみを表現しています。「止まらない生き方」「目覚めはいつも離してはくれない」の2つのフレーズはツアータイトルにもなり、本作で表現されている「痛み」の根幹を示しているのかもしれません。
ライブは「TOUR18 真世界」を最後に長らく演奏されていません。ライブだと、Shinyaさんの魅せるドラミングと、呻き声パートの京さんのアドリブが見どころですね。色とりどりの花がだんだんとぐちゃぐちゃに混ざっていく映像も印象的で、綺麗なのにカオスな曲調に合っていると思います。

11 懐春

Dieさん原曲の日本的情緒溢れる美麗なミドル曲。全体的に軽やかで女性目線の歌詩がどこかロマンチックな世界観ですが、時折入ってくる変態度の高いアンサンブルが絶妙に撹乱してきます。初期のような懐かしさもありつつ、以前にはない新しさを感じる名曲です。
全体的に古めかしく優雅な雰囲気が漂っていますが、サビはマーチのリズムで跳ねていたり、間奏はヘヴィな音でゴリゴリ攻めてきたりと、カオティックな要素がふんだんに盛り込まれています。個人的なお気に入りはアウトロで、アコギで綺麗に締めくくり、絶妙な余韻を残して終わります。
ドラムはサビのマーチが珍しさ故に耳を惹きますが、他のパートも面白いですね。メロのパートでの四つ打ちとタム回しの組み合わせや、間奏のスローでヘヴィなドラミングも聴き応えがあります。ベースはかなり目立っており、歌謡曲のような懐かしさのあるフレーズを流麗に奏でており、曲のうねりを作っています。
ギターはクリーンギターが目立つものの、意外と歪んだフレーズも多用されています。サビでは、高音の16分のフレーズでハモりまくっていたり、ギターソロでDieさんが昭和感溢れるエモいフレーズを弾いていたりと、結構やりたい放題やってます。また、間奏で急にゴリゴリになるの、なんか面白いんですよね笑
ボーカルはクリーンとファルセットだけで構成されていますが、特にファルセットの割合が高く、サビは全部ファルセットです。メロディが全体的に儚く、京さんの枯れた声が非常にマッチしてますね。間奏では伸びやかなロングトーンを披露しており、ヘヴィな演奏も相俟って妙な恍惚感があります。
歌詩はうら若き女性が、愛する人の帰りを苦痛に飲み込まれそうになりながら待っている様子が描かれています。おそらく回想的な物語で、主人公は感傷的に過去を振り返り、今もじんわりと痛みが残っているように思います。季節感や情景描写が非常に美しい歌詩で、過去の痛みへの陶酔に誘い込まれますね。
ライブでは「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of Withering to death.]」を最後に演奏されておらず、本作の中でも非常に演奏頻度が低い楽曲です。私もライブでは一回しか聴いたことがないのですが、耽美でノスタルジックな世界観に引き込まれた記憶があります。DIRの中でもやや異色な曲ということもあり、セトリに組み込みにくそうですが、また聴いてみたいですね。

12 Behind a vacant image

壮大でドラマチックな展開が美しいミドル曲。5分程度の曲ですが、まるで長尺曲のような聴後感があり、コンパクトかつ充実の曲展開になっています。『DUM SPIRO SPERO』期のような構築感と『MACABRE』期のような儚い哀愁を兼ね備えた良曲です。
長尺感がある割には、Aメロ、サビ、疾走パート、大サビと、意外と構成要素は少ないです。ただ、リズムの変化であったり、メロディやフレーズが非常にドラマチックであるため、ストーリー性が濃い曲展開になっています。序盤はダウナーな感じですが、曲が進むほど壮大で力強くなっていきます。
ドラムは「OBSCURE」等でおなじみのあのフレーズを主軸に、様々なリズムパターンを叩いていますが、全体的にバスドラを連打するフレーズが多く、特に大サビの後半が顕著ですね。ベースはギターとの棲み分けができており、ギターの音数が多い割には埋もれてません。特にAメロではしっかり曲をリードしています。
ギターはもはやどこを聴けば良いのか分からないレベルで重ねられていますが、高音のハモリが多用されていますね。シンセのような加工がなされた音が曲の至る所で流れてくる一方、サビではディストーションが迫力満点ですね。個人的にはアウトロの激しさと儚さが入り混じった音塊がお気に入りです。
ボーカルは全体的に低音寄りで、特にAメロは歴代楽曲の中でも屈指の低さを誇っています。とはいえ、終盤の大サビは美麗な高音を連発しており、やはり音域は広いです。疾走パートでは、低音がなり系シャウト→オペラのような歌唱法→ファルセットと、珍しい組み合わせで流れを作っています。
歌詩からは、平等に訪れる死を前に、空虚な外面の裏側にある自分自身を解放しよう、という京さんからの切実なメッセージを感じますね。私の解釈ですが、「花束」はおそらく死のメタファーだと思います。「誰もが見ようとしない その花束が 見詰めた未来」はメロディと合わせて好きなフレーズですね。
ライブでは昨年の「TOUR22 PHALARIS -Vol.I-」で演奏されていますが、この曲の着想自体は次作以降の長尺曲でも引き継がれているので、セトリに上手く溶け込んでいましたね。ライブでは、アウトロで京さんやToshiyaさんがめちゃくちゃ頭振ってるのが印象的です。終盤に進むほど京さんの神々しさが増していく曲です。

13 Sustain the untruth

27thシングル。Tue Madsenによってミックスし直されたことにより、より低音が強調され、音の分離が綺麗になっています。シングル版は良くも悪くも機械的な印象がありましたが、本作は生々しさがあり、力強く生まれ変わりました。ちなみに、アルバム収録にあたってタイトルの表記が変更されています。
グルーヴ感重視だったシングル版と比べ、全体的にヘヴィさが増しています。ドラムについては、シングル版より格段に重くなり、耳への圧迫感が増しました。ベースも全体的に音量が上がり、特にスラップ音がバキバキと聴こえるようになったことで、音の骨格をストレートに感じやすくなっています。
ギターについては、ワウやクリーンなどが引っ込んだ代わりにディストーションが強調され、音像が太くなりました。ボーカルは音量が上がったことにより、サビがかなり聴きやすくなっています。シングル版で埋もれていた終盤の「乱れし時淡く」のコーラスも聴きやすくなりましたね。
シングル版とどちらが良いかと言われると、好みのような気がしますね…私もその日の気分によって変わります。ただ、アルバム内においては、後半のミドルテンポが続く曲順において、いまいち爆発力を発揮しきれていない感じもあり、少し勿体ないですね…ミックスが悪くないだけに余計にそう思います。

14 空谷の跫音

静謐な雰囲気漂う、スローで重厚なバラード曲。「引き算」的な曲作りが意識された『ARCHE』ですが、この曲はその最たる例で、少ない音数で壮大な世界観を作り上げています。『ARCHE』の核であり、DIRのバラード屈指の名曲だと、個人的には思います。
曲構成はシンプルで、間奏を挟みながらメロ→サビの流れを2回繰り返して終わります。音数が少ないからか、曲全体に独特の浮遊感があり、「隙間」を感じるアレンジになっています。にもかかわらず、重厚感があるのは、バンドとしての貫禄かもしれませんね。音を入れていない部分にこそ、味を感じるというか。
ドラムはゆったりとしたテンポで、一音一音しっかりと聴かせてきますね。特に1サビ後の間奏のスネアが放つ余韻は、非常に雰囲気があります。ベースは半分近く弾いておらず、フレーズもシンプルですが、この音の少なさが良い味を出しているように思います。音の有無で空間を作っている感じというか。
ギターは薫さんがエフェクトで環境音のような音を出している横でDieさんがアコギでアルペジオを弾いています。サビはディストーションで攻めてきますが、それ以外の部分はアンビエントな、雰囲気重視の音作りになっています。終盤で2回パワーコードが出てきますが、シンプルながら妙に印象に残ります。
ボーカルはクリーンとファルセットのみで、全体的に低めの音域で歌っています。京さんの落ち着いた声質が曲と絶妙にマッチしており、透明感の醸成に一役買っていると思います。終盤はファルセットのコーラスが非常に綺麗で、曲の世界観に吸い寄せられていくような感覚になります。
歌詩は孤独の中に一筋の希望を感じる内容になっています。「愛が止む頃 狭い空でも いつか輝かせる」という最後のフレーズが京さんの歌詩の中で最も気に入っていて、狭くて閉じた人間であることを肯定してくれている気がするんですよね。私にとっての「空谷の跫音」がDIRの音楽なんだと思います。
ライブでは先日の「TOUR24 PSYCHONNECT」で聴きましたが、この曲の放つ空気感はやはり凄まじいですね。灯籠が美しく輝く映像もさることながら、身体の奥底までずっしりと響いてくるバンドサウンドに圧倒されます。1サビ後の間奏のドラムの音が静けさの中強く響いているのを聴くのが好きですね。

15 The inferno

全編シャウトのデスメタル系疾走曲。『ARCHE』では最後に完成した曲で、不足していた激しい曲を補完するために作られたそうです。作り込みの粗さから、リリース当初は不評気味でしたが、ライブで真価を発揮してからは一定の評価を得た曲だと思います。
全体的に勢い重視の曲で、高速のリズムの上でシャウトと低音リフがガンガン攻めてきます。ただ、意外と展開に富んでいて、途中でテンポダウンを挟んだり、リズムパターンがやたら多かったりします。アウトロは珍しくフェードアウトで、不穏な空気感を残したまま次曲に続きます。
ドラムは裏拍スネア連打の2ビートを主軸に、前述の通り様々なリズムパターンを使い分けています。個人的には、4カウント入れた後にアウトロのヘドバン系のリズムになる部分が好きです。ベースは終始ギターのリフを1オク下でなぞっていて埋もれ気味ではあるものの、かなり忙しない動きをしています。
ギターは珍しく多重録音されておらず、薫さんとDieさんそれぞれ一本ずつで構成されています。数種類のリフをパートによって使い分けており、小技無しでガンガン引き倒しています。1サビ後の間奏で、一瞬薫さんのギターの音だけになる部分がありますが、ここから一気に疾走する感じが好きですね。
ボーカルは『ARCHE』で唯一、全編グロウルかホイッスルシャウトで構成されています。デスコーラスが多く、ライブ映えが意識されていますね。個人的には、グロウルからホイッスルに変わるロングトーンをかました後に「さあ行こうか〜」のパートに流れ込んでいくあたりがお気に入りです。
歌詩はひたすらに怒りをぶちまけているような感じですね。「Beautiful Dirt」にも通ずるような、偽善や綺麗事に甘えている人々に反発して、汚れているものへの美意識を掲げているような印象です。「さあ行こうか 金色の世界」と、皮肉を交えながら道連れにしようとしているのが面白いですね。
ライブでは「TOUR18 WEARING HUMAN SKIN」を最後に演奏されていません。前述の通り、ライブでの爆発力が凄まじい曲で、特に本編ラストで映えますね。ライブではアウトロにオルガンのような音が追加され、少しずつスローダウンしていきますが、まさに地獄感のある終わり方になっています。

16 Revelation of mankind

『ARCHE』のラストを飾る、カオスな疾走曲。速いパートで暴れて、サビはキャッチーというDIRらしさ全開の曲です。『DUM SPIRO SPERO』制作時から存在した曲のためか、複雑な作りの曲ですが、前向きなメッセージ性もあり、アルバムを力強く締めくくっています。
リズムや構成は「AMON」に通ずるものがありますが、全体的にキャッチーな印象ですね。テンポアップとダウンを繰り返しながら様々な声が代わる代わる飛び出します。サビは落ち着いていますが、大サビはラストに相応しく、伸びやかに疾走していきます。アウトロはなく、叩きつけるように幕を閉じます。
ドラムは三拍子のリズムでワルツ的なフレーズと高速2ビートを交互に繰り返します。特に疾走パートは、凄まじいスピード感で迫力満点ですね。ベースはリフをなぞるようなフレーズが多いためか、似たリズムでもスラップを多用する「AMON」と比較して、滑らかなスピード感がありますね。
ギターは低音のユニゾンリフを中心にいろんなフレーズが出てきますが、特に薫さんの高音リフが印象的な他、導入部分の低音リフもテクニカルで格好良いですね。サビはベースにしてもそうですが、儚げなコード進行にエンディング感をおぼえます。Dieさんの弾くクリーンギターも良い味を出していますね。
ボーカルは目まぐるしく声質を変えており、特に「壊れかけの過去の栄光と〜」のあたりは声が重なりすぎてよく分からないことになっています笑 サビはこの手の曲としては珍しく低めの音域ですが、あえてそうしているみたいですね。個人的には「蒼い空〜」の怪しげなファルセットが癖になります。
歌詩は、厳しい現実の中でも自分自身を生きろという力強いメッセージを感じますね。「茨の道無き道を歩めば色褪せない死を」はメロディ含め名フレーズだと思います。「ありのまま」に生きるって実際は茨の道だと思いますが、その上で「ありのまま」を肯定してくれるのが京さんなんだと思います。
ライブでは昨年の「TOUR23 PHALARIS -Vol.II-」で演奏されていました。この曲、リズムが複雑なので、意外とライブではノリにくいんですが、大サビを皆で歌っていると、妙なカタルシスがありますね。ある意味、バンドのテーマである「痛み」への一つのアンサーを出した曲であり、聴いていると解放感があります。
なお、MVも制作され、アルバムにおいてはリード曲的な扱いになっています。ちなみにこのMVは「朔 -saku-」「鼓動」と物語が繋がっています。


Disc 2 (完全生産限定版)

1 and Zero

全編ボーカルレスのミドル曲。「TOUR2013 GHOUL」で使用されていたSE曲をバンドでアレンジしたもので、ボーカルのないインスト曲としてはバンド史上初となります。ボーナス曲ではあるものの、『ARCHE』の透明感と浮遊感を端的に表現した曲だと思います。
前半はギターと打込音、ストリングスのみで、静かな雰囲気ですが、ベースとドラムが入った瞬間に一気に激しくなります。この溜めて溜めて一気に噴き出すような感じがカタルシスがありますね。後半の展開はどこか懐かしい感じというか、激しいのになぜか穏やかな感じがするんですよね。
ドラムは後半から登場しますが、最初のタム2発から4ビートのフレーズに入る瞬間が好きですね。珍しく規則的なリズムで、スネア音が気持ち良く入ってきます。ベースは後半の中核を占めていて、緩やかなベースラインがバスドラと上手く絡みながら、曲の重量感を演出しているように思います。
ギターは前半は薫さんがメロディを弾き、Dieさんがアルペジオで絡んでいますが、この混ざり合いが美しいハーモニーを奏でています。後半はディストーションの効いたコードストロークが中心ですが、その上でストリングスと高音ギターが絡み合っていて、安らぎと懐かしさのある音像を生んでいます。
ライブでは『ARCHE』のツアーが終わると同時に演奏されなくなりました。薫さん→Dieさん→Shinyaさん・Toshiyaさんと、音が順々に増え、場合によっては京さんが即興でメロディを歌うこともありました。OPで披露されるとメンバーの音が少しずつ増えていくのがワクワクしましたね。
ちなみに、個人的には元のSE曲もかなり気に入っていましたね。ピアノを主体としたより神秘的な雰囲気の曲で、この曲で登場するメンバーはどこか神々しさがありました。バンドアレンジになって音は尖りましたが、雰囲気は元のSEよりも少し優しくなったように思います。元のSEも、今からでも音源化して欲しいですね。

2 てふてふ

Dieさん原曲の、キャッチーなミドル曲。曲もメロディもポップな印象すらあるものの音は『ARCHE』屈指のゴリゴリなヘヴィサウンドなのが面白いですね。サウンドは『Withering to death.』、歌詩はsukekiyo感がありますが、全体的な重厚感は今のDIRならではだと思います。
全体的に軽やかで聴きやすいですが、音の重さと歪みがエグく、そのギャップが良いですね。Aメロは少しUKロック的な浮遊感があり、サビになると一気に轟音のディストーションギターが飛び跳ねます。アドリブ感強めのノイジーなギターソロを経てメロやサビに戻る構成で、シンプルな歌モノ曲という感じです。
ドラムは8ビートのリズムを基軸に、全体的に浮遊感のあるフレーズを叩いています。パターンは少なくシンプルですが、どっしりと曲の屋台骨に徹している印象です。ベースは音数の少ないAメロでは、和音のフレーズの交えつつサウンドの中核を担っていますが、激しいパートではやや引っ込み気味です。
薫さんは低音の歪みを担っていますが、随所にチョーキングを混ぜて音をうねらせています。原曲者であるDieさんは、カッティングを多用している他、ディレイをかけたアルペジオや、壊れ感全開のギターソロなど、持ち味を全面に出しています。イントロは2人でノイジーなハーモニーを醸し出しています。
ボーカルは時々ファルセットが入ってくる以外はほぼ低〜中音域のクリーンボイスで、近年の曲としては非常に歌いやすいです。曲の雰囲気がどこか懐かしい感じなので、ボーカルスタイルも昔に寄せたのかもしれませんね。sukekiyoのmamaを彷彿させるようなポップなメロディが個人的に好みです。
歌詩は愛に飢えた女性の心情が描かれています。都合よく扱われたり、嘘の愛だと知りながらも、「今だけでも」と執着してしまうのがリアルですね。「貴方の妹より愛して欲しい」というのは、肉親以上の特別な愛を向けてほしいという意味なのか、せめて恋愛対象としては見てほしいくらいの意味なのか…
ライブでの演奏頻度は低いものの、『ARCHE』ツアー終了後も、「TOUR21 DESPERATE」まではたまに演奏されていました。サウンド的にはノれる曲ではあるものの、全体的にメロディアスということもあり、基本的には聴きに回ってしまいますね。やはりDieさんのギターソロが弾き姿含めて格好良い曲です。

3 Sustain the untruth [REMIX]

原曲の妖しい雰囲気は残しつつ、機械感の強いアレンジになりました。原曲のリフやメロディと打込みサウンドの絡みが非常に格好良く、原曲の魅力が惜しみなく詰め込まれたアレンジだと思います。やや長いことだけが玉に瑕ですかね。
ミックスを担当したのは『サイレントヒル』シリーズの音楽を手掛ける山岡晃さん。「輪郭」のリミックスに引き続いての抜擢ですが、DIRとの親和性は抜群だと思います。

4 Unraveling [REMIX]

ミドルテンポの原曲とは違い、スクリームをフィーチャーした疾走感溢れるアレンジになりました…が、最後は南国感溢れる穏やかな雰囲気になり、なんともシュールな仕上がりになっています笑 良くも悪くも原曲の陰鬱さは消え、爽快感があります。
ミックスを担当したのはT$UYO$HI(The BONEZ / Pay money To my pain)さんです。V系とは異なる感性のアグレッシブさが面白いですね。

5 咀嚼(Acoustic Ver.)

ピアノとボーカルのみで構成されたアレンジです。「貴方居ない」の数が増えていたり、微妙に変化している部分があります。原曲以上に淡白な不気味さがあり、湿った雰囲気が癖になりますね。ボーカルの主旋律がじっくり聴けるのがポイントです。
なお、この曲のピアノ部分は武道館公演「ARCHE」の入場SEとして使用されていました。何かが出てきそうな気配を演出するのにうってつけだと思います。

6 鱗(Crossover Ver.)

ピアノとオルガンがフィーチャーされた、クラシカルなアレンジになっています。原曲よりもメロディアスで、優雅な雰囲気が漂っており、中世ヨーロッパ的なゴシックの香りがしますね。絶望に酔いしれるような気だるい雰囲気がお気に入りです。
「TOUR16 FINEM LAUDA」ではこの曲のアレンジ版が開演SEとして使用されたそうです。会場で聴いたことはないですが、不気味なコーラスから一気に開けていく感じは、ライブの幕開けに合いそうだなと思いました。

7 Behind a vacant image(Acoustic Ver.)

ピアノとボーカルのみで構成されたバラード風アレンジ。メロディの哀愁が原曲以上にダイレクトに伝わってきて、聴いているとどこか感傷的な気分になりますね。個人的には、アウトロの優しいピアノのフレーズが好きです。
ちなみに、原曲ではやや聴き取りにくい、サビの主旋律をハッキリ聴くことができます。そのため、この曲を聴いて初めて、「Behind a vacant image」という曲の真の姿が見えてくるように個人的には思います。


最後に

自由な発想で楽曲制作が進められ、完成した『ARCHE』。それは『UROBOROS』以降、世界中から期待された「DIR EN GREY」像からの解放であり、バンドが本来持っていた柔軟性を呼び戻した作品とも言えるでしょう。

次回は、結成20周年を記念して制作されたベストアルバム『VESTIGE OF SCRATCHES』リリースまでの過程を振り返りたいと思っています。お楽しみに。

いいなと思ったら応援しよう!