【DIR EN GREY 楽曲感想】『DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN』Disc4

今回は、ライブDVD&Blu-ray Disc『DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN』の初回生産限定版に付属されているCD(Disc4)について、感想を書いていきたいと思います。

※本作がリリースされた前後の時期の流れは、『THE UNRAVELING』及び『ARCHE』の記事に掲載いたします。


DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN Disc4(2014.7.16)

ライブDVD/Blu-ray『DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN』のボーナス・ディスク。とはいえ、単なる付属品ではなく、「狂骨の鳴り」以外の『DUM SPIRO SPERO』収録曲全ての別バージョンが収録されているという、非常に豪華な作りになっています。

0 アルバム総評

アルバム『DUM SPIRO SPERO』はどの曲も作り込みが深く、非常に難解な作品でした。一曲一曲、強い個性を持っているというよりは、それぞれがアルバムの構成要素として、アルバム全体の世界観を作り上げているようなイメージでした。
本作はというと、一曲一曲の個性に合わせて別のアレンジを施した、いわばもう一つの『DUM SPIRO SPERO』と言うことができると思います。中には大きく変わった曲もありますが、そもそもどこが各曲のポイントとなる部分なのか、本作を聴いて改めて気付くことができた人も少なくないのではないかと思います。
アレンジのパターンとしては、大きく分けて①シンフォニック版、②アコースティック版、③クロスオーバー版、④リミックス版の4種類となります。
①は「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」「LOTUS」「DIABOLOS」「暁」「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」の5曲です。本来は既発の「AMON」やライブのみで披露された他のシンフォニック版の曲も存在していますが、本作ではこの5曲が選ばれています。単に音が足されただけでなく、ミックスも調整されており、全体的に音圧が上がっています。
②は「DIFFERENT SENSE」「獣慾」「流転の塔」の3曲です。こちらは原曲のフレーズや構成を極力再現しながら、音だけアコースティックにしたようなアレンジになっています。いずれも構成が目まぐるしく変わる曲ですが、アコースティックアレンジになったことにより、一音一音がハッキリ聴こえるようになったことで、音が少し優しくなり、原曲とは一味違った構築性を感じられるようになっています。
③は「AMON」「「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨」「VANITAS」の3曲です。原曲のメロディを使って、雰囲気の違った演奏をかけ合わせたアレンジになっています。いずれもDIRらしからぬアレンジになっているものの、意外とメロディと合っていて、まさに「別解釈」という感じがしますね。ただ、いずれも原曲のような深遠さはなくなっていて、カジュアルな雰囲気になったと思います。
④は「滴る朦朧」「DECAYED CROW」の2曲です。それぞれ違った意味で狂気を感じる2曲ですが、その狂気を極端にしたようなリミックスになっています。特に「DECAYED CROW」は良くも悪くもぶっ飛んでいて、「メンバーもよくこれにOK出したな」という感じですね笑
このようにバラエティ豊かなリアレンジバージョンが揃っていて、『DUM SPIRO SPERO』の世界観が拡張されたと同時に、本作を聴くことで同アルバムが少し身近に感じられるような感覚も得られるように思います。
ただ、個人的にはどうせなら全曲シンフォニック版かアコースティック版のどちらかで聴きたかったかな、というのが本音ですね。やはりメンバーの演奏が活かされたアレンジであることが、自分にとっては大事なので…
とはいえ、一枚のアルバムとしても十分聴き応えがありますので、『DUM SPIRO SPERO』をより深く理解したい、という方は聴いておいて間違いないと思います。

1 THE BLOSSOMING BEELZEBUB (Symphonic Ver.)

原曲は『DUM SPIRO SPERO』の核となる前衛的でスローなヘヴィナンバーでしたが、本作ではストリングスがフィーチャーされたシンフォニック版となっています。
本作ではストリングスが入ってくることで、原曲よりも優雅さが強調されています。「だから心に決めたんだ」の後に妙にキラキラした音が鳴り出すのですが、それが逆に不気味ですね。後半のうめき声のパートでは、悲しげな雰囲気を漂わせています。
私は原曲の無機質さの方が好きですが、本作の美麗なアレンジも、原曲とは違った意味でアートを感じます。
ライブでは原曲と本作が半々くらいの割合で演奏されているイメージです。正直、生で見ているとそこまで大きく印象は変わりませんね。

2 DIFFERENT SENSE (Unplugged Ver.)

原曲はいろんな曲がごちゃ混ぜになったようなカオスな疾走曲で、多彩な展開、暴力的なサウンド、悲哀に満ちたサビや美麗なギターソロなどが特徴的でしたが、本作ではアコースティックアレンジが施されています。
新録のボーカルとアコギを中心に、リズムは打込みになり、メロディが強調されたアレンジになりました。構成が若干変わっていて、「掻きむしる胸 残せない傷跡」のパートが冒頭に来ています。
ギターソロはフレーズがかなり変わっていますが、ラテン調の情熱的なフレーズで、これはこれでクるものがありますね。終盤はストリングスも入ってきて、物悲しさに拍車がかかります。
ボーカルが主旋律一本なので、混じり気のない京さんの歌声に浸れます。シャウトについては、序盤は抑えめですが、後半ではがっつり叫んでいますね。

3 AMON (Crossover Ver.)

原曲は三拍子系のリズムとスラップが生み出す独特の躍動感とギターのリフの機械感が共存する、神秘的なメタル曲でしたが、本作はジャズに寄せたアレンジとなっています。
ギターがなくなり、ピアノとベース、ドラムで構成されたサウンドに原曲から抽出されたボーカルが乗っています。ヘヴィさは排除され、オシャレで少し明るく、軽やかな雰囲気になりました。ベースが良い動きをしていたり、ラスサビのアコーディオンが良い感じに哀愁を出していますね。原曲とはリズムが変わっているので、メロディの譜割りが慣れるまでは少し違和感があるかもしれません。ラストはいきなりどん底に落ちるようなピアノの不協和音で終わります。

4 「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨 (Crossover Ver.)

原曲はギターの刻みと妖しげなメロディでねちっこく攻めてくる曲…と見せかけて途中でいきなり疾走したりするカオスな曲でしたが、本作は本格的なジャズ風アレンジが施されています。
原曲よりもかなりオシャレになっていますが、元々メロディが妖艶なイメージなので意外と合っていますね。ウッドベースと艶やかなピアノのフレーズがアダルティで良いです。
「AMON」と同様、原曲のボーカルを抽出しているので、これまたメロディの譜割りが独特です。メロディ部分はボリューム大きめですが、シャウトは抑えめのボリュームで収録されています。疾走パートでは演奏も激しくなり、終盤はリズムが狂っていますがこれはこれで格好良いですね。

5 獣慾 (Unplugged Ver.)

原曲は展開が複雑なスピードナンバーでしたが、本作ではアコースティックアレンジが施されています。
原曲の展開とスピードはそのままに、ボーカルが録り直され、アコギとジャンベをフィーチャーしたアレンジになりました。シャウトは囁き声やラップに近いマイルドな声になりましたが、アコギは極力原曲が再現され、音が繊細な分、フレーズの解像度が上がりました。原曲と比較すると、カッティングが多用されてる分、パーカッシブな感じがしますね。ギターソロは原曲ほど細かくはないものの、Dieさんが密かに動きのあるフレーズを弾いています。
こういう展開のある速い曲をアコースティックにするのもなかなか面白いと思います。まさに誰もやっていないような感じですね。

6 滴る朦朧 (Experimental Remix by Yutaka Aoki [downy])

原曲は変拍子が特徴的なミドル曲で、機械的な印象もありつつ、V系的な艷やかさを少なからず感じる曲でした。本作はその機械性をさらに強調したリミックスにやっています。
ギターの高音ブリッジミュートが延々鳴り続ける中で、時計のように規則的なノイズ音をバックにボーカルのメロディが展開していきます。全体的に不気味で閉塞感のあるアレンジで、大きな抑揚もなく曲が終わっていきますが、終盤一瞬だけドラム音が現れ、盛り上がりかける瞬間があります。
正直、リミックス入れるならシンフォニック版聴きたかったな…という気持ちもあります。

7 LOTUS (Symphonic Ver.)

原曲はヘヴィかつ耽美でキャッチーなミドル曲でしたが、本作はストリングスやピアノをフィーチャーしたシンフォニック版になっています。
ライブではこっちの方が頻繁に演奏されており、メンバーの中でもこのバージョンを完成形として考えている節がありそうです。静かなピアノの音に始まり、壮大なストリングスが曲を盛り上げます。激しさと美しさの融合がポイントとなる曲ということもあり、ストリングスとバンドの相性が非常に良いです。
イントロがかなり足されていますが、この静かで優美な始まり方が良いんですよね。バンドサウンドが入った瞬間ゴリゴリになるギャップも良いです。

8 DIABOLOS (Symphonic Ver.)

美しくもダークな長尺曲で、本作ではクラシカルなアレンジが施されたシンフォニック版に変貌を遂げています。
シンフォニック版の中では最も手が加えられており、一部バンドサウンドが省かれてこの曲オリジナルのシンフォニーサウンドに切り替わっています。美麗なストリングスと激しいバンドサウンドの融合が曲の展開を大いに盛り上げ、クラッシック音楽のようにドラマチックな仕上がりになっています。
他のシンフォニック版もそうですが、音質も調整し直されていて、本作はバンドサウンドの音圧も原曲以上になっています。また、さり気なくボーカルもコーラスが抜かれていて主旋律一本になっているのも聴きどころですね。
ライブでは一度も披露されたことがありませんが、個人的にかなり好きなアレンジなので、ライブで聴いてみたいです。

9 暁 (Symphonic Ver.)

原曲は和風ミクスチャーロックでベースのスラップが曲をリードする躍動感のある曲ですが、本作はシンフォニックアレンジが施されています。
イントロのSEがカットされた他、曲中にもストリングスやピアノ、鉄琴、フルートなどの音が混ぜ込まれ、よく聴くとそこかしこにいろんな音が聴こえます。歪な陽気さがあった原曲と比べると、シリアスな雰囲気が強調されているように思います。個人的には原曲の隙間のあるアレンジで十分完成されていると思いますが、これはこれで悪くないですね。
ちなみにライブではTOKYO DOME CITY HALLで開催された『DUM SPIRO SPERO』購入者限定ライブで演奏されており、原曲を差し置いて先にこちらの方が映像化されました。

10 DECAYED CROW (Remix by NARASAKI)

原曲はアルバム屈指のファストなナンバーで、ブルータルでありつつも緻密な構成美を感じる曲でしたが、本作は大胆なアレンジが加えられたリミックス音源です。
6:50あたりまで、超絶スローモーションで、ひたすらノイズのような音が流れていますが、よく聴くと原曲のフレーズが散りばめられています。あまりにも長いので、プレイヤーが壊れたのかと勘違いする人もいたようですね。その後ようやく原曲のアレンジが始まりますが、こちらもノイジーな改変が加えられており、原曲以上にスピード感(というよりハチャメチャ感)がありますね。壊れたラジオのように時々同じフレーズを繰り返したりしていますが、さり気なく入ってくるデジタルなノイズが格好良いです。
ただ、ノイズのパートがあまりにも長いので、なかなか通しで聴く気にはなれませんね…後半のパートだけなら割と嫌いではないですが。正直この曲もシンフォニック版を入れて欲しかったなと思います。

11 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇 (Symphonic Ver.)

原曲はメロディアスなサビとそれ以外の部分のハードさの対比が美しい「ザ DIR EN GREY」な楽曲でしたが、本作ではストリングスがフィーチャーされたアレンジになっています。
怪しげなイントロが追加され、曲全体的に切なさが増しています。1サビ後のギターのリフにストリングス重なる部分がありますが、ラスボス感があって格好良いです。アレンジも良いんですが、不評だったアルバム版のミックスも改善されており、7弦ギターで強めの音圧でこの曲が聴けるのも良いですね。
ライブではTOKYO DOME CITY HALLで開催された『DUM SPIRO SPERO』購入者限定ライブのみで演奏されたことがあります。原曲はライブのラストの定番曲ですが、こちらはラストにやるにはややシリアスな雰囲気があるため、特別な機会でないとなかなか聴けそうにないですね。

12 VANITAS (LOS AWKIS Folklore Ver.)

原曲は安らかで儚げな鎮魂曲で、「死別」と向き合った歌詩が悲しくも心に沁みる一曲でしたが、本作は原曲のボーカルを残しつつ、Folklore風にアレンジされています。
使用されている楽器は中南米の笛や弦楽器のようですが、「和」を感じさせる風流なアレンジになっていて、原曲とは違った意味で、聴いていると気持ちが安らいできますね。ギターソロだった部分が笛の音になっていますが、これもなかなか面白いですね。
この曲も京さんの歌声が主旋律のみなので、純粋な歌声が堪能できるのも魅力の一つです。元々メロディが綺麗な曲なので、このアレンジだとさらに聴こえやすくなっています。

13 流転の塔 (Acoustic Ver.)

原曲は静けさも激しさも全て詰め込んだ曲展開と、耳に残りやすいサビのメロディが秀逸で、聴きやすくも深遠な余韻を残してアルバムを締め括っていた曲ですが、本作はアコースティックアレンジが施されています。
シングル『SUSTAIN THE UNTRUTH』のc/w曲として収録されているものと同じです。詳しくは『ARCHE』の記事の方で解説しますが、壮大な原曲とは異なり、流麗で軽やかなアレンジになっています。
本音を言えば、シングルと同じ曲を入れるくらいならシンフォニック版を入れてほしかった気も…笑


最後に

本作は、なんとなく次の『ARCHE』にも見られるような、バンドとしての柔軟性に結びついてくるものなのかなと思います。その意味では、やはり次を感じさせる作品だと思います。

次作はいよいよ、DIRが新たなフェイズに踏み出した作品『ARCHE』です。ここからまたバンドのあり方がガラッと変わっていく非常に重要な作品なので、お楽しみに。


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