大型2WAYバスレフと5次楕円関数フィルタを作る【中編】
10年ぶりにスピーカーを作る経緯を示した【前編】に続き、こちらは箱設計とフィルタの予測を報告する【中編】です。
箱の設計
箱寸法を考えるにあたって指針としたのは以下の6点です。
ドライバにとって最適にバスレフ動作できる容積であること
ネットワーク部品は箱内ではなく箱外背面に取りつけること
正面幅はドライバ横幅+α程度のスリム型であること
バスレフポートは背面とすること
奥行は30~40cm程度とすること
サブロク板から無駄なく取れること
購入したミッドバスドライバ(SB Acoustics MW19P-8)をARTAやSpeakerWorkshopで測定したところ、Vasは48L、Fsは38.8Hzと算出されたため、箱容積を37L、ポート周波数Fbを42Hzと設定しました(Qts=0.37)。ポート両端をフレア状にするため、ポート長を定法どおり補正してΦ75mm×142mmとしています。
上記3.から、外寸幅226mm、奥行き外寸346mmと設定しました。高さ外寸はサブロク板の短辺をそのまま使い915mmです。
18mm厚 MDF(1820×915mm)2枚使ってペア分の板を用意しました。板の購入とカットは京都の『木工素材の材木屋ざいいち』に依頼しました。ウッドショック前でしたので計20,000円弱でした。
測定とフィルタ設計
今回選定したトゥイーター(SB Acoustics TW29RN-B-8)は、Sdが9.6cm2、ボイスコイル径が29mmと大型であるためか、低周波数側に余裕があり公称Fs 650Hzです(実測Fs 639Hz)。ここではクロス周波数 800~1,200Hzを狙うことにしました。理由は、クロス周波数2kHz以上では楕円関数フィルタのインダクタとキャパシタの調達が難しかったためです(市販されているキリのいい数字に収まりにくい)。
私の環境におけるミッドバスとトゥイーターの振幅f特に以下に示します(測定箱は12mm厚MDFで作製した約70L密閉箱、青線:ミッドバス、赤線:トゥイーター)。
楕円関数フィルタは、森栄二著『LCフィルタの設計&製作』(CQ出版)を参考に、以下の手順で設計しました。ここではエクセルで試行錯誤しましたが、もう少しスマートな最適化方法があると思います。
「帯域内リプル」0.01dB~1.0dBの正規化LPFをもとに、
「阻止周波数」の倍数2~5倍を適宜選び、
「遮断周波数」600~2,000Hzを適宜選び、
全てのインダクタとキャパシタが入手しやすい数字になったら、SpeakerWorkshopで振幅f特をシミュレートする
以下で一例をお示しします。
5次楕円関数フィルタは模式図のように7個の部品で構成されます。LPFであればインダクタ5個、キャパシタ2個です。
前掲書には特定の帯域内リプルと阻止周波数(の倍数)ごとに正規化された表が掲載されています。帯域内リプル0.1dB、阻止周波数5倍の正規化表を選定しました。X1の素子の正規化定数は1.12178となっています。
係数Mを算出します。計数Mは遮断周波数を1/2πで割った数字ですので、遮断周波数が840Hzのとき、約5,278です。
正規化定数を係数Mで割った数字に、インダクタであれば定数Kをかけ、キャパシタであれば定数Kで割ります。定数Kの扱いは私も曖昧にしか理解できていませんが、遮断周波数におけるインピーダンス(ここでは8.0Ω)を選んでいます。
適切にmH(さらに1,000をかける)やµF(さらに1,000,000をかける)に変換します。
HPFを作製したい場合は、上図のH1~H7においてインダクタ位置とキャパシタ位置を入れ替え、1.~4.と同じ計算をします。
これを繰り返して妥当なところを探し、最終的に以下のような非対称な構成で決定しました。1kHz弱でクロスさせる想定です。
●ミッドバス:
帯域内リプル0.1dB、遮断周波数840Hz、阻止周波数5倍
●トゥイーター:
帯域内リプル0.01dB、遮断周波数1,400Hz、阻止周波数3.5倍
それぞれのフィルタ後の振幅f特予測を示します(青線:ミッドバス、赤線:トゥイーター、紫線:それぞれのフィルタ後)。まったく平坦ではない特性に心が乱れそうになりますが、このまま作ってみることにします。
これらの様子はVituixCADで予測しても同様でした。
この振幅f特になるフィルタは以下のとおりです。
設計を中心にお届けした中編は以上です。
こんなガタガタの予測値のまま作ってしまって本当に大丈夫なのか…!
本当に塗装と仕上げまで完遂できるのか…!
さまざまな期待と不安に満ちた製作と振幅f特実測、全ての顛末は【後編】で紹介します。お楽しみに。