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観客を上演する #1 - バストリオ「1匹のモンタージュ」の観客をする

ハラスメントのない創作環境を模索する劇団、じおらまです。旗揚げ公演「たいない」へのご来場、ならびに応援、ありがとうございました。公演を終え、さまざまな会議を経て、じおらまの新作は、”つくらない演劇”になりました。

こうした作品のスタイルとなった背景には、次回作の上演への準備をすぐに始められるほど劇団としての体力が回復していなかったことや、なにより、「たいない」で考えたさまざまなハラスメントへの抵抗の試みの数々について、まだしっかり反芻できていないと感じているところが大きかったと思います。

そこで、劇団の成長期間として、たくさん演劇作品を見て、ことばを交わしてみることにしてみました。ゆくゆくは、稽古場見学やいろいろな座組との対話企画などへ発展させることを考えています。

最初に上演したのは、こまばアゴラ劇場にて、バストリオ「1匹のモンタージュ リクリエーション」の観客です。観劇後、感想会を開き、話した内容をテキストにしました。

以上、じおらま主宰 神保治暉

一匹のモンタージュ リクリエーション

作・演出:今野裕一郎
作:黒木麻衣 坂藤加菜 佐藤桃子
SKANK/スカンク 鈴木健太 高橋由佳
中條玲 橋本和加子 本藤美咲 他

一匹は一匹、
十でも百でも千でもないです
じっと見つめたらこちらを見たり見なかったりして生きてるということがわかります

わかりようがないんを肝に銘じた
目を瞑ることさえも自由な
四方八方からやってくる
一匹の野性、モンタージュの嵐

バストリオ公式サイト(http://busstrio.com/one-montage)より

感想会日時:2023/11/4(土)
観てない人:神保治暉(じおらま)
観た人:小松弘季(じおらま)、西垣内園佳(じおらま)、本多瑛美子(じおらま)、渡邉結衣(みちばたカナブン)
場所:江古田「Mell」

テキスト:本多瑛美子

渡邉 マチソワやったら死ぬ芝居だなと思いました。物量がやばい。水とか砂とか散らかすから、これ掃除大変そう…って。

神保 毎回同じことやってるの?

本多 段取りはあるんじゃないですか? 

西垣内 アフタートークでは、「必ずしも一緒ではない」って言ってました。再演らしくて、初演とも同じようで同じじゃないって。

神保 初演SCOOLでやってたはず。

渡邉 SCOOLとアゴラだと空間もかなり違いますよね。

本多 神保さんがこの作品を観ていないから、説明しなきゃと思ったけど、何もわからなかったから説明できない。観終わったあとグループラインに「本当に何もわかりませんでした」って投稿したのが素直な気持ち(笑)。ストーリーも別になくないですか?

渡邉 作が出演者の名前でクレジットされてたから、それぞれがテキストを持ち寄ってやってるんだろうなって。

神保 「モンタージュ」だもんね。

渡邉 モンタージュって何ですか?

小松 写真を集めて一つの顔を作るみたいな。

西垣内 わたし、わからなくなると思ったから、メモしながら見てたんですよ。

本多 偉すぎる。

西垣内 ドアを全部開けたまま始まって。これ(音量の)デシベルとか測らなくていいんだっけ?と思いました(笑)。

渡邉 1階から2階に向かって大声で叫んでましたよね。

西垣内 プロジェクターで「知覚」みたいな文字が投影されて、そこから始まった。

本多 あったあった、目つぶってこう(手をかざす)やつ。

渡邉 どこに相手の手があるかを目をつぶって知覚するみたいな。

神保 俺らがやろうとしてた「わたし・あなたゲーム」みたいな感じか。渡邉ちゃん、そういうワークショップから作品が立ち上がるみたいなの好きじゃん。

渡邉 そうなんです。観ていて結構わたしがやりたいことやってるなと思って。でもワクワクしそうなことやってるのに、絶妙にワクワクしないというか…。

神保 ワクワクしなかったんだ。

渡邉 一番思った感想としては、観客に踏み込むことをしてるな。びっくりさせようとしてるというか、観客の身体に踏み込んで当事者にしようとしてるのかなって。客席の通路の後ろに美術があって、そこを行き来したり、水がかかって最前列のお客さんが濡れたり。

神保 4DXだ。

西垣内 水の中に石をめっちゃ投げ込んで、びしゃびしゃになってましたよね。あとバナナの皮がずっと落ちてたり。五感に訴えようとしてるのかなと思いました。おにぎりも食べてた。

本多 サイダーも飲んでましたよね。すごい振ってたのに全然噴き出さなかったけど。

渡邉 わたしの観た回は結構噴き出してました。

神保 ハラハラさせたいのかな。

本多 あと料理もしてました。スープ?おかゆ?みたいなのをあっためて飲んでた。

西垣内 考える以外の人間の営み、綺麗じゃない部分を見せられたような気持ちでした。食べる、触る、見るとか。

神保 赤ちゃんみたい。

渡邉 原初的な表現欲求というか。

小松 俺は海外の村とか街を見てるみたいな気持ちだった。内容は理解できないんだけど、生活っていうものが見えて、人がいいリズムで流れていて、そういう心地よさ。

神保 ベトナムのホーチミンって原付がめっちゃ多いらしいんだけど、あの人流ずっと見れちゃうみたいな。

本多 個人的には、赤ん坊っていうよりも動物っぽい印象でした。途中で「ハイイロオオカミ!」とか言ってて、後ろに(映像で)動物の写真が出まくる時間があったからかも。

渡邉 唐突にホームビデオみたいなハムスターの動画が流れて癒されました。

神保 潜在意識に入り込んでくるハムスター。

渡邉 仕掛けがすごく多かった。

神保 どうやって作っていったんだろう。「それいいじゃん!」の積み重ねなのかな。

渡邉 ちゃんと調べてないんですけど、俳優専業じゃない出演者が多かった印象で。知り合いの音響さんとか、ダンサーっぽい動きしてた人もいた。

本多 ギター弾いて歌ったり、完全にミュージシャンの人がいましたね。

神保 「一匹のモンタージュ」っていうタイトルに納得感はあったんですか?

西垣内 「モンタージュ」って言葉は理解というか、そういうことかって感じなんですけど、「一匹」はわかんなかったかも。

(店員が注文を運んでくる)

小松 (店員に)あの、これ…。

西垣内 あ、それ多分スープだと思います。

小松 これスープか!紅茶かと思った。(店員に)大丈夫です、すいません!

一同 (笑)

小松 ミルクティー来ちゃったかと思った。

渡邉 申し訳ないけどめっちゃ面白い(笑)

神保 14歳以下無料なんですね。

渡邉 わたしの行った回も3組くらい親子が来てました。1人の子がずっと喋ってて、「もう帰りたいかも!」って言ってた(笑)。中身が子供向けってわけじゃないから難しいのかな。

本多 逆に言うとストーリーがないからいいのかもと思ったんですけどね、難解なストーリーがあるよりは飽きなそう。
何もわかんなかったけど、何もわかんなかったことに対するフラストレーションはあんまりなくて、「こういうのなんやな」って思ってる。でもその理由の結構な割合って、音楽があったからな気がしてて…ライブ観たような気持ちに寄ってるから、理解できなくてもある程度何か受け取ったような感覚でいるけど、音楽がまったくなかったらどうだろう?とは思う。

渡邉 テキストを聞くみたいな姿勢が全然とれなかった。

西垣内 わたしはひとつすごく安心したシーンがあって。差し歯について、観客と会話してるみたいな感じで、どのような治療をもってして歯を差し替えたのかをすっごい細かく説明してくれるシーンがあったんですけど、そこだけ一呼吸つけた。

神保 (作品情報を見て)「ライブパフォーマンス作品」って言ってるんですね。(作品解説を音読)渋革まろんが劇評を書いてます。

本多 ドアがあったじゃないですか。ずっと吊られてて、最後降りてきてドアから出るくだりがあって、でもそれだけでまた上がっていく。あれが本当にわかんなかった。「なんでこれやろうと思ったんだろ?」って思った。

渡邉 あんまりわかんなかった。最後観客があのドアから出ていくのかなと思ったら、また上がってっちゃったから。

本多 「戻んのかい!」って思った。

渡邉 でもあれすごくよかった。

小松 最前列めっちゃスレスレだったよね。

神保 ドアが?そんな上から降りてくるみたいなことできるんだ。

渡邉 調光卓のところから吊ってて。美術すごくよかった。

神保 ドアが?

渡邉 それも含めて全部。

神保 バストリオ、まだ写真でしか観れてないけど、空間の美意識がすごい好きで。気持ちよさそうだなと思う。

渡邉 気持ちよくなりすぎないようにしてるのかなと思いました。もっとエンタメっぽくというか、お客さんがハラハラせずに楽しく観れるような塩梅にもできるはずだけど、それはあえてしてない。
あと俳優さんが開演前に劇場内にいて、劇団ぽかった。でっかいトラックで皆で移動してそう。

本多 これを観てどう感じてほしいのかが全然わからなかった。パフォーマンスって、あえて観客を不快にさせたいやつもあるじゃないですか。そういうことでもないし、でもじゃあ美しく作ろうとしてるかといったらそうでもない。どう思わせたいんだろう、どう思わせたいか自体がないってことなのかな。

神保 美術品の保管倉庫でバイトしてたことがあるんですけど、絵ってホスピタリティゼロなんですよ。バーンって絵があるだけ、どうとでもとらえやがれ、みたいな態度があって。これを見てどう思わせたいんだろうとは思わない。フーンって思うか、いいねって思うかの二択。それに比べて、演劇だと「これ観てどうさせたいんだよ?」みたいな怒りとか、その作品に対して他のお客が盛り上がってると孤独を感じたりする。それって特殊なのかなって。

本多 立ち位置の違いなのかなって思います。エンタメはお客さんのことを考えないといけない。アートは考えなくていい。演劇はどこに位置づけられるかが作品によって違うから。今回はアートだってことなのかな。

西垣内 アフタートークで主宰の方が、ちょっと記憶があいまいなので言い方違うかもしれないんですけど、「この作品をわからなくてもいい、そういう観方じゃなくて、まず感じてほしい」みたいなことを言ってて。「ほしい」って言ってたかわかんないんですけど。

本多 わかるって何?そもそも「わかる」とは?っていう。

小松 「わかる」を作ってない可能性がある。

本多 ストーリーがないものに対して、「わかる/わからない」ってないんじゃない?と思った。

渡邉 各々の個人的な何かが集まってできてるなって印象だったから、マンションを見て一部屋一部屋に誰が住んでるかがわからなくていいのと同じように、ただそこに人がいるっていうだけでいいのかも。あと、エンタメじゃないというか、結構実験的なことをしてますよという態度は感じたので、それを目当てに観に来るお客さんもいるのかな。

神保 演劇作ってて「これ伝わるかな?」って瞬間は度々あるなと思ってて。それが一回起こっちゃうと、結構どうにも解消のしようがない。閉じた集団だから、その中で投票するしかなくなっちゃう。「わかると思います」っていう人と、「ちょっとわかりづらいかも」っていう人の数を見て「もうちょっとわかりやすくするか」みたいな作業をせざるをえない。それか、逆に演出家が「別にわかんなくていいよ」ってなるか。「わかる/わからない」がクリエイションの土俵に上がると、一気に本質が2つになっちゃう。そういうときの処方箋として、「きれいか」「かっこいいか」「笑えるか」みたいな基準がもうひとつ作り手側にあればいいのかもしれないなって思うんですよね。「たいない」のときは音や絵や照明のきれいさを大事にしてた。バストリオは「わかる/わからない」以外の何を軸にしてたんだと思いますか?

渡邉 個人的には、意味とかじゃない各々の「やりたさ」とか…あと「不安定さ」。あえて決まり切ったことをやらないようにしている。俳優各々の意識もあると思うんですけど、それ以上に、毎回違う公演になるように設計されているのかなと思いました。あと結構見た目のインパクトは何だかんだで大事にしてるのかなと。

神保 強烈な印象を持つモチーフってこと?

本多 全体を通して共通のモチーフは別にないと思ったんですよ。移り変わってくみたいな感じで。個人的には、これで初めて演劇を観る人がいるとしたら、じゃがいもむいたり、水使ったり料理したり、舞台でこんなことしていいんだ!って驚きがあるかもと思ったんですけど、普段から演劇を観てる人だとその驚きはないから、受ける印象が違いそうと思って。既存ルールの破壊…破壊ではないんですけど、破壊に見えるものにどのくらいのインパクトを感じるんだろうというのは気になりました。

渡邉 舞台でこういうこともできるぜ!というシーンは結構あって。心臓に見立てた水風船を割るとか、スプレー缶でシャッターを塗るとか。

西垣内 あとなんか燃やしてましたよね。

渡邉 お香の匂いがしました。

西垣内 でもわたしあれ結構厳しかったです。劇場だと匂いがこもるので…換気はしてくれてましたけど。

本多 換気の時間ありましたよね。

西垣内 結構なんでもありでしたよね。

小松 俺は、舞台でここまでやってやろうぜっていうよりは、生活の中でやっていることをどこまでそのまま舞台でできるかっていう方に見えた。水とか砂とかばらまくのも、普段街中で起こり得ることをそのまま舞台上でやってる。

西垣内 元々は劇場じゃないところでやってた作品ですよね。それをどう劇場に持ってきたのか。

神保 確かに、いつも野外とか半野外みたいなところで作品作ってる印象がある。その違和感が最初にあったのかも。「なんで外でできることが劇場でできないんだろう」みたいな。

小松 劇場って思わせたくないのかなって。だからドアも開いてたんじゃないか。

渡邉 ドア開いてる瞬間がすごくよかった。あと始まりも、「あ、始まったのか」みたいな感じで。

本多 わたしの行った回は完売だったので、主宰の方が「(席から)出れない構造になっちゃってるんですけど、出れるので出たいときは出てください、僕もこういう状況で舞台観るのすごい嫌なんで…」みたいなことを結構丁寧に説明していて、こういう案内をしておくとやっぱり途中で出やすいよなというのはすごく思いましたね。作品とは別の話として。

神保 観たことを日常生活で思い出したりしますか?小松が言ってた「日常でやってることをどれだけ劇場でやるか」をやろうとしてるんだとしたら、日常の中でその感覚がよみがえるのを狙ってる可能性あるなって。

小松 駅前で人眺めてるときに似たものはすごい感じた。なんか、理解が追いつくとかそういう話ではないから、景色として感じ取ろうとしてるみたいな。自分とは距離の遠いことをしてるのを見てる。

西垣内 雨とか、湿度が高い日に思い出します。水をいっぱい使ってて湿度が高かったから。そういう身体の感覚がある作品だった。嗅覚も使いましたし。

本多 自分は日常では特にない…というか、作品の中でやってることも日常ではないと思ってて。日常のモチーフだけど、一個の台の上に二人で立つとか、一人が桶に頭を突っ込んで、びしょびしょに濡れた髪でもう一人を湿らす、みたいなことをずっとやってて。モノは日常にあるものなんだけど、そんなことはしないよな?っていうアプローチだったので、自分の生活との地続きさは感じなかった。位相が違う感じがした。あ、じゃがいも見たときだけちょっと思い出します。

渡邉 遠い国の話感が強かった。

小松 中東の民謡歌ってたよね。

西垣内 マップも表示されてたし。

神保 でも作品解説には「東京」って言葉がすごい使われてるけど。

渡邉 でもめっちゃ関西弁だった(笑)。

西垣内 わたし全然関西弁だった覚えがない…気にしてなかっただけかな…広島の人間だからスッと聞けてたのかも。

小松 あえて使ってる感じはかなりあった。

渡邉 みんながみんな別々のことをしながら、狭い劇場の中にいるというのが東京といえば東京。

本多 関西出身で東京にいる人もたくさんいるから、関西弁の人がいてもそれで東京じゃないとは思わなかったかも。

小松 東京という街を表現するのは幅が広すぎて難しい問題だ、前にも話したことあるけど。

渡邉 でも東京と言ってしまえば東京か~ってなる。

本多 どうやって稽古したんだろうと思いました。どこまで決まってるんだろうというか…この稽古って何?という。

小松 タイミングとかはだいぶかっちり決まってそう。入り捌けとか。あれはランダムじゃできない。

渡邉 テンポがいいというか、スピーディーでしたよね。

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