芸術史(日本1)のレポート
はじめに
このレポートは京都芸術大学通信課程の在学中に書いたものです。最初、どのようにレポートを書けばいいのか悩んだ経験から、誰かがレポートを書く際の参考になればと思って投稿しています。
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レポート本文
シルクロードを経て
天平時代は、シルクロードを経てインドから中国へ伝えられた新しい仏教や仏教美術が遣唐使や留学僧を経由して日本に伝えられ、写実的表現が完成した時代である。
中国から伝わり天平時代前半に隆盛した技法である脱活乾漆造で造られた興福寺の阿修羅像。中国では古代の脱活乾漆像は残っていない。この技法は塑土でだいたいの形をつくり、その上に糊漆を塗布した麻布を貼り重ねる。乾いた後、底部や背面を切り開いて塑土を抜き取り、内部を木枠で補強して閉口部をふさぐ。その後、木屎漆で細部を成形して彩色や金箔を施して仕上げる。生きた人間のような微妙な表情や細部にわたる身体表現が容易なのが特徴だ。この技法では大量の漆を必要とし、原料の漆の購入だけでも膨大な費用がかかった。そのため、脱活乾漆造で作成される仏像はこの時代のみで終わっている。
阿修羅は、ペルシアなどでは大地に恵みを与える生気生命の善神(asu ra)として信仰されてきたが、インド神話では帝釈天(インドラ)と戦う非天(a sura)として伝えられている。仏教では八部衆として仏法を守護する神である。そのため阿修羅の姿は、通常、戦う神として激しい怒り顔、三つの顔と四本か六本の腕を持ち、手には弓矢を取り、肌は赤く描写される。
興福寺西金堂の群像32体のうちの一体である阿修羅像は、三つの顔、六本の腕、赤い肌だが、戦う神としての激しい怒りの表情はどこにもなく、また、鎌倉彫刻のような躍動する身体の力強さは表現されていない。武器を持たぬ伸びやかな手、少年のような、そして憂いに満ちた怒りのない静かな表情で仏に対する敬虔さが強調されている。同じ興福寺の他の八部衆である乾闥婆や沙羯羅、五部浄も同様に静かな表情である。
阿修羅像が置かれていた興福寺西金堂は天平五年(733)に光明皇后によって建立された。この光明皇后によって天平勝宝八年(756)に東大寺大仏に献納された聖武天皇の遺愛の名器が螺鈿紫壇五弦琵琶である。
琵琶の形式にはペルシア式の四弦曲頸とインド式の五弦直頸の2種がある。螺鈿紫壇五弦琵琶は『国家珍宝帳』に記載がある世界唯一のインド式五弦琵琶の現存品であり貴重なものである。螺鈿紫壇五弦琵琶は木地螺鈿という技法で装飾されているのが特徴だ。これは、貝を模様の形に薄く切り出し、紫壇の木地を貝の厚さに合わせて掘り、切り出した貝をはめ込む象嵌の技法である。五弦琵琶には漆は使われていないが、その後の漆地螺鈿(螺鈿の上から漆を塗って研ぐ)の元となる作品といわれている。琵琶の槽は仏具などに用いられる紫壇の木から刳り出し、螺鈿と瑇瑁による唐風の大宝相華文で装飾されている。撥の当たる感撥と呼ばれる部分は、瑇瑁を貼り、熱帯樹や駱駝の背で四弦琵琶を弾く胡人の姿を細部に毛彫を施した螺鈿をインドやアラビア半島で産出する天然樹脂の乳香を用いて接着している。唐三彩の「三彩駱駝載楽俑」も同様に駱駝に乗る人々が琵琶などの楽器を演奏している。これらの作品はシルクロードでの文化交流の縮図をも表しているのである。
(本文総文字数 1296字)
註・参考文献
辻 惟雄 監修『日本美術史』、株式会社美術出版社、2005年
多川俊映・金子啓明 監修『興福寺のすべて』、株式会社小学館、2018年
金子啓明 著『興福寺の仏たち』、株式会社東京美術、2009年
河野元昭 監修『日本美術史入門』 、株式会社平凡社、2014年
守屋正彦・田中義恭・伊藤嘉章・加藤 寛・宮元健次 監修『日本美術図解事典』、株式会社東京美術、2004年
浅井和春 責任編集『日本美術全集 第三巻』、株式会社小学館、2013年
復元技術(2)文化財の復元~甦る脱活乾漆技法~ https://www.youtube.com/watch?v=WbZr6XXcjQc (2022年5月19日閲覧)
北村 昭斎『正倉院宝物の螺鈿技法に関する知見について』 https://shosoin.kunaicho.go.jp/api/bulletins/30/pdf/0000000075 (2022年5月12日閲覧)
横山 円音「正倉院宝物『螺鈿紫壇五弦琵琶』模造品作製事前調査(楽器本体)調査所見」 https://shosoin.kunaicho.go.jp/api/bulletins/35/pdf/0356141172 (2022年5月12日閲覧)
村越 貴代美「なぜ正倉院宝物『螺鈿紫壇五弦琵琶』に描かれている駱駝に乗った胡人は四弦琵琶を弾いているのか」 https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AN10065043-20200630-0301.pdf?file_id=148664 (2022年5月18日閲覧)
興福寺ホームページ https://www.kohfukuji.com/property/b-0009/ (2022年5月16日閲覧)
蛇足などなど
2022年春期に書いた、最初の芸術史のレポート。76点。
調べた内容に対してまとめたという状態で、まだまだ問いを立て、仮説を立てて検証するというところができていないというのが反省点。